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私はオヤジ好きだ。 初恋は幼稚園時代。 二人の男のあいだで心揺れる浮気者の園児だった。 一人は阪神の掛布、もう一人は暴れん坊将軍の松平健。(注:ハゲ萌えというわけではない。掛布は野球帽を、暴れん坊将軍はチョンマゲのヅラを被ってたから、彼らの頭頂部には気づいてなかったの) 大きくなったらどっちと結婚しようかしらと悩み、ペタンコの胸を痛めていた。 かように歴史ある筋金入りのオヤジ好きな私だから、BLにハマってからも、ことあるごとにオヤジ好きの血がメラメラと燃え騒いでいた。 そんな私が、乱読を重ねるなかで西田東さんに巡りあったとき、「コレダ!」と思って作家買いに走ってしまったのは、あまりにも当然の既決だったといえる。 そう、あまりにも有名だが、西田東といえばオヤジ、オヤジといえば西田東。西田東を読まずしてオヤジ好き腐女子を名乗る資格なし!(と、誰かがネットで言ってた)。 恥をしのんで告白すると、私には不倫の経験がある。オヤジの大半は結婚しているのだ。しかもいいオヤジほど。 ただ、これは後味の悪い幕切れナンバーワンの恋愛経験となった。もう二度と不倫しないぜコンチクショーと懺悔とともに心底から思った、そんな別れ方だった。 話が長くなるので細かい話は省くけど、最後に奥さんから電話がきて(汗)、 「あの男は夫としては0点やけど、父親としては100点やねん。パパを返してね」 と穏やかな声で言われたのを、今もたまにイヤな汗をかきながら思い出す。 BLでも、不倫シチュエーションはよくある。 西田東さんの『見つめていたい』に登場するのは、不倫カップルだ。 ディープでリアルで滑稽な心理描写とストーリー展開に、思わず自分の不倫経験を重ねてしまい、切なくなったり冷や汗をかいたりしながら読んだ。 援助交際じみた関係から始まるこの話の攻めは、人生に疲れてる妻子持ちのオヤジで、受けは今時の一見パープリンの若者だ。 お互いに、長くは続かない恋愛だと思っている。相手は本気じゃないと思っているのだ。 受けは攻めが「いつか家庭に帰るだろう、アバンチュールを楽しんでるだけだろう」と思ってるし、攻めは受けが「俺みたいなオヤジに本気なわけがない、食事目当てで遊んでるだけだろう」と思ってるし。 未来を諦めつつ薄氷を踏む思いで繋いでいく関係は、あまりにも悲しい。 けどもっと悲しいのは、心を確かめあって、お互いに相手が「本気」だと分かっても、それですぐさまハッピーエンドとはならないところだ。高校生同士ならここでハッピーエンドなんだけど。 作中こんな会話がある。 受け「じゃあ俺と娘のどっちが大事だと言ったら!?」 攻め「……………娘」 私はこのシーンでボロボロに泣いた。 攻めの正直さ誠実さに。そして、訊いてはいけないことを訊いてしまった受けの哀れさに。 けどもし本心であろうがなかろうが「娘よりお前のほうが好きだ」と返事したなら、この攻めの魅力はなくなるだろう。沈黙なら、魅力は半減するだろう。 オヤジは、その年輪のぶんだけ、背負うものも多い。仮にそのオヤジが背負うものを恋のために簡単に投げ出すようなら、勝手なようだがそのオヤジには魅力がなくなるのだ。 もう恋だけに生きられなくなっているオヤジが、どうしようもない恋に捕らわれてしまっている、そういうがんじがらめな状況だからこそ悲喜こもごもなドラマが生まれる。そこに萌える。そこに泣ける。 BL界でオヤジがメジャーになったからか、たまに、年齢設定だけが30代40代で、高校生同士と変わらない恋愛をしている『オヤジもの』も中にはある。声を大にしていいたい。こういうのはオヤジものの邪道だ。年齢設定だけ上げても意味がないのだ。 オヤジには若者の恋とは違う、オヤジなりの恋のやり方があるのだ。 衰えた容姿のぶん臆病になってしまうことや、家庭や仕事など守るべきものが増えたことによるずるさや、それらを捨てるときの重みや痛みや、特有の包容力や、或いはイヤラシイ言葉攻めを平気でできるようになってるオヤジなセックスや。こういうオヤジ萌えツボをしっかり押さえていないオヤジものは、オヤジものとは言い難い。 そして、西田東さんは、ちゃんとした「オヤジもの」が描ける、稀有な漫画家さんだと思う。 『見つめていたい』は今現在、ちるちるで、私含めて五人のレビュアーさんがレビューしている。その全員が神評価だ。 未読なら是非一度読んでみてください。オヤジのカッコ悪さとカッコ良さの両方を持ってるザ・オヤジ、山口課長の魅力を存分に味わえる傑作なので。 オヤジの悲哀に愛を! オヤジに光あれ!(ハゲろという意味ではない。繰り返すが断じて私はハゲ萌えではない)
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