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「涙なくして読めないBL」「とにかく涙目、必定の作品」と聞いて、私が真っ先に思い浮かべたのがこの作品でした。 BLレーベルではない少女マンガ誌「花とゆめ」で連載されたこの作品を、ここで語ってもいいものか随分迷いましたが。 少年同士の時を超えた友情と愛の成就を描き切ったこの物語は、ボーイズラブの「ラブ」の部分を充分過ぎるほど堪能できます。 そして最近は「匂い系」なるジャンルもありますので、あえて取り上げようと思いました。 高尾滋著『ゴールデン・デイズ』全8巻を。 祖父・慶光が悔やみ続けた運命を変える為に、時を超えた光也。 彼が辿り着いた先は、祖父が若かりし大正時代。そこで自分を「慶光」と祖父の名で呼ぶ少年・春日仁に出逢う。 慶光と光也は瓜二つなので、慶光として大正時代を生きることになった光也。 彼がタイムスリップをしてまで変えなければならない運命とは何か?そして光也と入れ替わりに姿を消した慶光の行方は? そんな諸々の謎に大きく関わりがあるらしい春日仁。 彼は消えた慶光に恋をしてました。 仁の同性(慶光)への恋心ははっきりと、作品中でも明言されています。 つらい幼少時代を支え、自分の存在理由を与えてくれた慶光へ心を寄せていく過程に不自然はなく、むしろ恋に落ちるのは当然だろうと読者も納得できます。 しかしそんな切ない仁の恋心を『恋人だけにはなりたくない』と受け入れなかった慶光。 その理由は『縁の切れるような関係ではなく、仁と不変でいたい』から。 仁と永遠に終らない絆を求めた慶光。これもある意味、熱烈な愛の告白に聞こえたのは私だけでしょうか? そして仁と慶光の関係に、突如として未来から現れた光也が乱入。 彼もまた、消えた慶光と同じように仁の心を癒し、支えて行きます。 当初は「慶光」として見ていた光也を個人として認識し、「光也」に惹かれ始める仁。 これは慶光・仁・光也の三角関係と言えなくもありません。 仁と光也がぶつかり、時には罵り合って心の内をさらけ出し、お互いがなくてはならない無二の存在になっていく最中、光也がタイムスリップした真相、彼が変えるべき「運命」が明らかになります。 それは優しい人たちを悲しませる「真実」の発覚で、仁も光也も傷つきます。 このくだりで多くの読者の泣きのツボが押されることでしょう。 そして真実発覚からラストまでは、涙、涙の嵐となりました。 この作品はタイムスリップ物で、現代人の光也と大正時代の仁との間には、70年以上の時の壁が存在します。 別れの予感を感じ、お互いしがみつくように抱き合い、泣きながら『別れたくない』と唇をそっと重ねた仁と光也の姿は、萌えを遥かに凌駕して美しく、神々しくさえあり感動します。 そしてたくさんの優しさを自分にくれた光也の為に何かしたい。自分に出来ることなら何でもするから言って欲しいと訴える仁に、光也はこう言うのです。 『幸せになれ…オレを悲しませない生き方を心がけろ 死ぬまで 幸福になる努力を怠るな いいな?オレを 喜ばせて 仁』 光也が一番嬉しいこと。それは仁が幸せになること。 私は相手のことをここまで思いやった、優しく美しい言葉に、激しく心を打たれました。 そして人はこんなに美しい言葉を贈ってくれた相手を、愛さずにはいられないでしょう。 仁はまさにこの瞬間、本当に光也を深く愛したのではないかと思います。 時は大正。これから先、日本をはじめ世界は動乱の時を迎えます。 しかし仁は光也の『幸せになれ』という言葉と、彼と過ごした輝かしい日々の記憶が有る限り、どんなに辛い状況下においても、彼は「幸せ」を感じることができます。 それは仁が光也によって、世界一の幸せ者となったから。 ひとりの人間をこれだけ幸せに出来た光也も、幸せになれた仁も凄いと思います。 二人の深い絆は「愛」と呼んでも良いのではないでしょうか? そして仁の愛は時を超えて、光也にちゃんと届くのです。 仁の愛を伝えたメッセンジャーは……これまた萌える・心憎い設定で。 時の壁という障害に阻まれようと、仁は常に光也の傍らにいた。これは見事な愛の成就だと、私は思います。 幸せが時を超えて届くラストに、ただ号泣。 仁と慶光、そして仁と光也の関係は、私に木原敏江の傑作「摩利と新吾」を彷彿させました。 高尾滋の作品には、24年組の香りを感じます。24年組がいなければ今日のBLというジャンルはなかったかもしれません。 そんなBLと密接に関係している24年組の作風に近い高尾滋は、この場に集う多くの人々の萌えツボを確実に押してくれるはずです。 『ゴールデン・デイズ』は少年達が深く愛し愛された軌跡を、登場人物たちの人間ドラマとともにたっぷり楽しめる「匂い系」の傑作です。 泣けるけれども、読後感は不思議な爽快感があります。それは光也や仁をはじめ登場人物たちが皆、幸せだったからでしょう。 この作品は泣けるけれども、悲しい作品ではないのです。決してバッドエンドではありません。むしろバッドエンドと呼ぶのは失礼だと思います。 幸せだから、切なくて泣ける。 光也や仁が過ごした輝かしい日々は、読者の胸を熱くし、涙目になること必定です。
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