小説家の卵・橋本駿と、高校生・知花実央(みお)の出会いから数年後までを追った、ハートフルストーリー。受けの駿は自分がゲイであることや、ノンケである実央の好意を受け入れて付き合うことに対して長らく葛藤があり、その部分が丁寧に描かれています。
この他、親との死別や、血の繋がらない家族の関係性、マイノリティの人間が地方都市で生活することなど、比較的重めのテーマも扱っていますが、真っすぐでシンプルな言葉の数々と、画面全体の密度が濃く可愛らしい画力でさらっと読むことができます。風景描写や美味しそうな食べ物、愛想の良い猫や犬にも癒されること間違いなしです。
書店で平積みされていた「心が、洗われるようなボーイズラブ。」の帯文句に惹かれて購入。BL読者として汚(けが)れきった私は、シリーズ4冊を読破しても完全にきれいにはなっていませんが(笑)、「洗われる」ではなく「洗われるような」なので正しい表現だと思います。
この巻の舞台は沖縄の島で、百合カップルが出てきて賑やかに過ごしたり、元婚約者の可愛くて勝気な女の子が島に乗り込んできたりと、どことなく夏休みの非日常感があります。
初めのうちは「ほんのりBL」な雰囲気で、二人が可愛過ぎて、本当にエロシーンまで行けるのかと思っていたものの、きちんと無理なく展開されています。受が初夜直前に真っ赤にのぼせている辺りが、初見ではあまり考えずに読んでいたのですが、事の最中の攻の言葉から、そういうことか!ときゅんとなりました。可愛らしいイラストでこんなに色気が出せるのはすごいですね。
沖縄から駿の故郷である北海道までの移動と、実家に帰ってからの混乱が少し落ち着くまでのお話でした。重要な登場人物の一人として子どもが登場してきたこともあると思いますが、前巻(海辺のエトランゼ)よりも、ギャグ絵が増えたというか、ふっと笑えるコマが時折出てきます。
そして、終始実央の豊かな感情表現と元気さに駿が救われている感じがします。日本語が少しおかしい気もするのですが、駿の基本姿勢が「亭主関白な受」と言えば良いのか、変に女々しくなくて好感が持てます。また、実央が程よいタイミングで男気を出しています。「ここまで来たんだからがんばれ!」とか、汎用性の高い励ましの言葉は、私の心にも響きました。
エロシーンは、ちょっとドタバタ展開付きですが、複数あります。
二人の恋人関係は、子どもの襲撃に遭うこともありつつ穏やかに進んでいき、この巻から駿の小説家の仕事ぶりについてもフォーカスされていきます。仕事が進まないときの辛さや不安がリアルで、全然違う職種なのですが、思わず自分と主人公の姿を重ねてしまいました。他の方の「主人公の童顔設定に困惑」とのコメントも、言われてみれば…ですが、小説家の卵のような、思考の世界へ入り込んでいる人って、どこか年齢不詳なところがありますよね。
一方、実央が出てくるシーンでは、前巻に引き続く、直接的なぶっ飛び発言で元気を貰えます。ただし能天気というわけでもなく、実央は実央なりに色々思ったり人生について考えたりしていることも伝わってきて、キャラクターに奥行きを感じます。
そしてエロシーンの悩みがリアルだと思いました。この悩みは次巻で完結するので、読まれるときはぜひ次巻までお手元に。
余談ですが、元婚約者の女の子が、当て馬枠からの素晴らしい活躍を見せてくれます。
義理の弟・ふみの父兄参観に行った駿と実央が、駿の過去に想いを寄せていた同級生に会うところから展開していきます。
二人の関係性については、心身ともに確かなものになったと思います。コミックスの半分くらいまで、子どもたちの話や過去エピソードがまったり続くので、あれ、この巻とうとうエロシーンなし…?と疑い始めたくらいでしたが、今回もしっかり。
そして、途中駿が何か発症しているのではと思えるくらい仕事で追い詰められていたものの、この巻の最後の方で、駿が実央へとある宣言をしていて、「本当に良かった…二人とも」と感慨深かったです。
それから、個人的には数ページに1回は吹き出してしまうようなコマがありました。笑いどころは登場人物の表情であったり、台詞が突拍子もなかったり、こういう人いるなぁ…と思ったりと色々な面白さを味わうことができ、元気を貰えます。
地の利を生かしたシチュエーションも良かったです。コミックス最後の短編では、観光名所てんこ盛りで、かるーく旅行気分になれます。
この巻で第一部は完結ですが、ラストは気になるページになっていて、今後の展開も楽しみです。