思わず納得のシリーズタイトル
『nez』というちょっと変わったタイトル。「nez」とは意味はフランス語で「鼻」という意味だそう。という事で、このお話は「鼻」、つまり「匂い」を題材にしたお話です。
主人公はCAS(人間関係の相性診断を行う会社)に勤務する千里と、CASに入社してきた元公安の鷹目。
少し変わったやや複雑な設定ながらも、伏線を上手に回収しながら進む榎田さんならではの文章力でしょっぱなからストーリーに引き込まれます。
「nez」→「『nez』 Sweet Smell」→「『nez』 Smell and Memory」→「『nez』 Your Lovely Smell」の全4巻。サブタイトルがこれまた秀逸。湖水さんの描かれた表紙も二人の関係を端的に描いていて、読み終えた後で見返すと、思わず納得のタイトルと表紙になっています。
どんな匂いでもかぎ分けることができる能力を持つ千里。
そして、千里をサポートするためにコンビを組むことになった鷹目。
この二人が主人公。そんな二人が働く、「匂い」を武器に相性診断を行うというCASという会社が舞台です。
元公安の鷹目が、CASに中途採用されるシーンからスタートします。
「匂い」で仕事をこなす、という意味が序盤分からず鷹目とともに謎に包まれる感じになりますが、そこから少しずつ千里の能力と、CASの仕事が見えてくる。
女の子が大好きで細かいことを気にしない千里と、神経質で物事をきっちりこなさないと気が済まない鷹目。
そして、「鷹目がくさい」と感じてしまう千里。
という事で、この二人がかみ合う事はない。ないのだけれど、コンビを組み、ともに行動するうちに少しずつ寄り添っていく。
そして何より、千里が鷹目を「くさい」という理由が、めっちゃ萌えます。
鷹目×千里の二人もナイスなのですが、彼らを取り巻く脇キャラがこれまたいい味を出していて非常に面白い作品です。
1巻の終わりで、勢いで身体の関係を持ってしまった二人。
という事で、相変わらずケンカップルではあるものの少しずつ距離が近づいている。
何しろ鷹目の匂いを嗅ぐだけで発情してしまう千里ちゃんなので、身体の関係はそれなりに進展しています。むしろ、鷹目以外の人の匂いは受付なくなりつつあって、BL度が上がってます。
CASとしての仕事も、「匂い」という動物的な判断で行動する千里と、冷静で理知的な鷹目のコンビはなかなかいい感じ。お互いをサポートし合っている。
ギャグテイストも盛り込まれテンポよくストーリーは展開していくのですが、合間合間に不穏な文章が。これが、めっちゃ怖いです。
一体、誰が、何の目的で?
エロあり、笑いあり、切なさもあり、そして謎もあり。そのさじ加減が絶妙なのです。
3巻に入り、千里たちが勤めるCASのボス・阿莉と千里の関係が明らかに。
少しずつ見え始める千里の過去の記憶や家庭環境。
それにオーバーラップするように、2巻でも書かれていた不穏な文章が謎を深めていきます。
鷹目と千里の関係は少しずつラブ度が上がっていくのですが、でも、そんな中、千里の身体に異変が起きて…。
鷹目と千里。二人とも、自分の感情に気付いているのか、あるいは無視しているのか。
BLとして読んでも、推理モノとして読んでも面白く、ページを捲る手が止められませんでした。
4巻目にして完結編。
3巻で起きた事件を解決するのと同時に、千里が、自分の過去にケリを付ける。
「匂い」を感じなくなった千里が、それでもなお求めたのは…?
単身敵地に乗り込む千里を救うために、彼を取り巻く周囲の人たちが立ち上がる。
彼らが追う事件。
千里の過去。
そして、千里と鷹目の関係の行方は。
怒涛の展開で、ストーリーに引き込まれました。
身体の相性は抜群で、ゆえに濡れ場はかなり多い作品でしたが、想いが通じた後のセックスシーンは優しく、そして温かかった。
千里と鷹目というナイスコンビがこれで完結というのが非常に残念。またどこかで彼らに会えるといいな、と思ってしまう、非常に素敵なストーリーでした。