受け攻めのキャラクター性に重きを置かず、愛のない凌辱プレイの多様さを楽しめる人にはお勧めです。はじめは主人公ファウジが意に添わぬセックスをさせられていても、彼の色々と突き抜けた性格ゆえ同情心も湧きません。私がおかしいのかもしれませんがエロというかプロレス観てる感覚に似てます。あっ技決まった、って感じです。
そして、主人となった男ラージン側はたいへん中途半端で、奴隷相手に身体のケア、食住の待遇などにおいて所々につまらない優しさ(施し?)を見せます。ラージンにとって、ファウジは憎むべき相手なのに最後は放棄し責任を他人に投げる始末。どっちつかずな男だと思わざるをえません。自分勝手なのはファウジだけでなくラージンも同じ。親の罪は子が償わなければならないなどとよくわからない彼の中の一般常識を語り散々ファウジにそれを強行した後に、自身の憎しみの重さに疲れて自分だけ戦線離脱なんて虫が良すぎる。加えて、ラージン自身は宗教上男を抱くのを禁忌としているのに、大切にしていると鼻高々に仰る使用人のハッサンとアントンにファウジを抱かせる神経が信じられません。
攻めのハッサンに対しては、最後の章まで何の愛着もないまま終わってしまいました。「ファウジが本当に自分のことを愛していたのか確かめる」行為は理解できなくもない。だけど、その後のハッサンの心情にどうしても同調できなかった。BLに夢を見ているのかもしれないですが、受けがもし攻めの事を好きでなかったとしても、きみが好きならそれでいいじゃない…。ここまで追いかけてきた癖に自分のことを好きじゃないファウジは愛せないの?って思ってしまいました。
ファウジはとても生意気で馬鹿なお子ちゃまですが、作品の中で誰より一貫していました。最後までハッサンに会うために他人に身体を売って稼ぎ、生きようとしたところ。胸が痛みます。
中立にしたのは、この作品は良くも悪くも爪痕を残したからです。
こんなにモヤモヤして、色々考えてしまう作品も珍しい。これだけ読者に強い印象を与えるのだからすごい。
痛い、苦しい、辛いと思ってもページをめくりたくなってしまう魅力があります。さすが、木原さん作品です。
もしエロやプレイ内容に地雷がない未読の方は是非ご一読してほしいなあと思います。きっとBLの好みがどうというだけでなくて道徳心云々様々なことを考えざるを得なくなりますよ。
レビューなど書いたことなかったのに、何か吐き出さないと…!という気持ちにさせられました(笑)