物語は竜王の婚約者をめぐり様々な思惑の渦巻く世界で、主人公セナは否応なく渦中に飲み込まれていきます。世界が大きく変化する時代の潮目。登場人物に降りかかる困難や怒涛の展開にハラハラドキドキ、夢中になって読み進めてしまいます。そして、それぞれの過酷な運命と相手への深い愛に涙が出ます。
ネームドキャラが多いのは佐伊先生の作品の特徴かもしれません。主人公やその周辺だけの箱庭のような世界ではなく、そこに息づく人々や連綿と続いてきた歴史が感じられます。まるで地球ではないどこかに実在する国の、ほんの一部分を垣間見た心地です。
もちろんBL小説ではあるのですが、映画化もされている世界的に有名なファンタジー文学作品に近い壮大さと完成度です。
個人的に愛の描写もとても好きです。雄弁に語るわけでもRシーンを多用するのでもなく、キャラの表情の描写や行動、短いセリフなどからどれだけ相手を大切に想っているかが伝わってきます。
とてもとても大好きな作品です。この物語の結末をぜひ多くの方に読んでいただきたいです。
時期未定ですが電子で上下の合冊版も発売されるそうです。楽しみにしています。
主人公のオルガは物語の当初14歳と年相応もしくはそれ以上に幼いのですが、キリアスという半神に出会い、自身の出生の秘密を知り、様々な経験を通して国を守る神獣師へと成長していく様が見事です。
また、佐伊先生の作品はストーリーと恋愛の絡め方が素晴らしいと思います。最初は小さな想いだったものも、あの経験があったからこそ今、このキャラはこの境地に至っているのだと納得感があります。互いにぶつかり合い、困難を乗り越え、他者との関わりにより深い愛に変わっていきます。長編ですし登場人物もとても多いですが、全てが繋がっています。そして、登場人物それぞれに色んな愛の形があることも素敵です。
吉茶先生のイラストは巻頭の登場人物紹介のほか、挿絵もありとても豪華です。シーン選定もすごく良いです。web版で読んでいた頃よりも解像度が上がりキャラや作品への愛が更に深まりました。このイラストだけでも購入する価値があります!
お話のベースとしてはシリアスですが、同著の「竜王の婚姻」と比較すると今作では思わず笑ってしまうコミカルなシーンもあり幾分明るいです。いずれにしても感動的なエンドなので、ぜひ最後まで読んでいただきたい素晴らしい作品です。