フリーターでその日暮らしをしていた唯(ゆい)はある雪の夜、道端で一人蹲っていた男、十識(としき)を家まで送り届ける。
帰ろうとする唯だが、十識に強引に引き止められ、気付けば朝まで酔い潰れてしまう羽目に。
今度こそはと唯は家を出ようとするが、外へ出るための扉には固く鍵がかけられ、背後には嬉しそうに笑う十識。
「俺、監禁が趣味なの」
それは他人をこの家に閉じ込めようとしてきた、十識のおかしな趣味。
家から出られない代わりにここでは好きなように過ごしていい。
食事も寝床も確保された魅力的な生活に唯は一も二もなく承諾し、二人の奇妙な共同生活の幕が上がった。
真っ白な装丁の表と裏に空いた鍵穴のような丸い円。
そのなかに浮かぶ二人の人物が今回の主人公、十識(表)と唯(裏)です。
小説家だという十識はどこか掴みどころのない人物で、出会ったばかりの唯にも遠慮なく抱きついたり触れてきたり。けれど時折垣間見える、彼のなかの心の傷痕。
初めて出会った時のような、一人静かに閉じこもっていく危ういその姿に、唯は心の内で十識を放っておいてはいけないと感じます。
唯の方はずっとあてのない生活を送っており、色んなことにいい加減。こだわりや執着もあまりない希薄な人物です。
そんな唯にはかつて、ふとしたことで親しくなった友人(同級生)を喪った経験がありました。
最後に話した時、普段は強がっていた友人が漏らした心の叫び。
あの時、友人の言葉をもっとちゃんと拾ってやれていたら、あんな結末ではなく、何かが違っていたのでは……。
友人が空けてくれた両耳のピアスの穴。塞がらないようにそれ埋めてくれるピアスは死んだ友人と唯を繋ぐ大事なものでした。
しかし十識から突然、それを捨てられないなら出て行ってくれと言い渡されてしまいます。
どちらも選択できずに戸惑う唯を置いて、十識は黙って家を出て行きます。
外へと続く扉の鍵は開けたまま。
誰もいない家で一人きりなった唯は、自分が十識との生活を大切に思っていたことに改めて気が付きます。
自分たちの出会いを、この頼りない繋がりを、いつか「会えて良かった」と思えるようなものにしたい。
何事にも希薄であった唯は、今まで望むことのなかった未来を思い描くようになります。
別々の孤独を歩んできた唯と十識ですが、物語の軸となるのは十識の抱え続ける憂いです。
小さな頃からずっとずっと一人きりでいた十識。ひどく臆病で不器用な子どもだった十識は、友だちや家族との触れあい方も知らず、誰からも温もりも得られず、自分が居る意味なんてないのだと本気で思っていた。
そうして孤独のまま大人になった十識は、自分の存在を受け止めてくれる誰かがやって来ることを望んできました。
それは身勝手で、我が儘で、絵空事のような願い。
やろうと思えば、自分自身で孤独の世界から飛び出すことだってできたかもしれない。
その鍵(可能性)はいつだって十識の手のなかにあった。
しかし十識は自らの世界に閉じこもることしかできませんでした。
鍵の束を握りしめ、誰かの訪れによって扉が開かれることだけを頼りに生きてきた。
十識自身、自分がどうしようもない人間だとわかっている。
それでも、こんな自分の姿を知っても尚、それでもいいと、手を差し伸べてくれる誰かが現れるのを待ち続けていました。
幼いころから空いては広がり続ける深い孤独。穴だらけの心を、傷だらけの過去を、まるごと満たして掬いあげてくれるような、そんな誰かを。
そして、唯との出会いにより、十識の願いは叶うことになります。
けれども、自分を受け入れてくれることばかりを必死に望んできた十識には、扉の先の世界(未来)を思い描くことができません。
自分が本当に欲しかったものは、ずっと望んできたものは果たして何だったのか。
途方に暮れる十識の傍で、唯はある言葉をかけます。
それは閉じた世界から出て、新たな生き方へ進むための鍵。
二人が「ともに暮らす」ための小さな一歩でした。
今作は少し短めのお話ではありますが、唯、十識の人物像が物語にとてもよく染み込んでおり、物語の終幕には二人の言葉が優しく胸を伝ってきました。
人のもつ様々な心情を細やかに掬いあげるymzさんの今作もまた、素敵な仕上がりとなっております。
ただ同じ場所に居るだけではともに「暮らす」とはいえないでしょう。
少しずつでもいい、お互いの孤独が交わるように、悲しみも、喜びも、傷痕も、時間も、同じ屋根の下で、同じ食事をして、分かち合えたら、支え合えたら、笑い合えたら、それはありふれた、けれどかけがえのない「暮らし」となるのではないでしょうか。
二人分の孤独がひとつに溶けあうとき、描き下ろしの二人の部屋は柔らかな風が吹き込み、優しい温もりを感じました。
ymzさん、三冊目の本です。
会社員の朔人(さくと)、バーの店長の恒助(こうすけ)、ショップ店員の悠太郎(ゆうたろう)。性格も歩んできた人生も違う三人がそれぞれの恋や友情を絡ませながら、
人との「出会い」、
自分らしい「生き方」、
そして見えない未来を「信じる」ことについて、優しく染み入るようなタッチで描かれています。
大学時代からの友人である三人組、朔人、恒助、悠太郎。
学校を卒業してからも時間が合えば食事をしたり、恒助の店へ飲みに行ったり。たまに喧嘩もするけれど、それでもまた三人揃って笑い合う。
幸せの水準が低い朔人にとってはこの穏やかな日々で充分に満たされていた。
気のおけない友人がいて、職場でも優しく仲の良い上司に恵まれて、彼らと過ごす以上の価値を恋愛に見出せずにいます。
朔人の上司である士朗(しろう)は職場には伏せていますが本当は同性愛者であり、内心朔人に気があるのですが、朔人を気にする"ゲイ"である自分と、仲の良い"上司"である自分をはっきり区別して接してきました。それは彼の処世術であり、自分の気持ちを押し通すことで相手が傷付くこと、傷ついた相手を自分は支えられないだろうという恐れから来るもので、士朗は朔人にとっていい上司であることを頑なに選び続けます。
朔人のことを最初から「思い出になる予定の人」として見てきた士朗の視点にはぐっとくるものがありました。
そんな士朗と恒助、実は以前よりゲイの仲間として交流のある友人同士です。恒助は朔人と悠太郎には己が同性愛者であることを明かしていますが、彼にはまだ一人で隠し抱えている部分がありました。
立ち回りが非常に上手く、多くの人に好かれている恒助ですが恋人だとか浮いた話は一つもない。
そんな恒助に熱烈な恋情を寄せる高校生、基輝(もとき)が現れます。気持ちには応えられないと何度も断る恒助と、どうしても諦めきれないという基輝。
悠太郎は基輝に恒助が気持ちに応えない理由を教えます。それは悠太郎が偶然知ってしまった恒助の脆い部分。誰にも明かさないつもりでいたそこに無闇に触れられ、恒助と悠太郎は仲違いという状況に。
かつて、己の「 正しさ」を信じられなくなっていた悠太郎は、朔人、恒助との出会いによってありのままの自分でいられることのやさしさや、己を信じて胸を張って生きていけることの大切さを身を持って知りました。
『この世に正しさなんてものはない。あるのは自分がなにを「良し」とするか』
教師に教えられたその言葉は、悠太郎の生き方(信念)そのものでもあり、だからこそ、過去に抱いた傷を引きずったまま自分を見失っている恒助の溢したあの笑みに、大切な友人のその有り様に、悠太郎は苛立ち、また、その隔たりに淋しさを感じてしまったのかもしれません。
朔人はそんな二人の間にあった揉め事に気付けずにいたことや、こうして大切な人の気持ちを実は日々見落としているのだという事実にどうしようもない淋しさを覚えます。
人との繋がりは複雑です。踏み込んでほしくないと思うこと。受け入れたいと願うこと。言葉にできない様々なことが日々、心のなかを通りすぎて行く。
落ち込む朔人の様子に士朗や基輝たちもそれぞれが目の前の気持ちと向き合い、それに背中を押され恒助と悠太郎も仲直りします。
朔人と士朗も仲の良い上司と部下のままでは終わらないようです。個人的にはこの二人に萌えました。
基輝は純情で眩しいですね。彼は物語のキーパーソンなのかもしれません。
そして悠太郎の前にも意外なあの人が現れます。
今回、面白いと思ったのはひとつの出来事が波紋のように影響し合い、幾人にも広がっていく様です。それがよくわかる構成でした。ymzさんの世界観を失わず、人の心の機微を柔らかく日常に取り込んで、分かりやすく描かれているように感じました。
そして悠太郎や基輝のように自分の信念をしっかりと持ち、自身の本当の正しさをもって他者と接し、歩んでいこうとする者。
恒助や士朗のような過去に囚われたまま現在の自分を見失ったり、己の弱さを憂うあまりに自分や他人信じることが難しくなってしまう者。
朔人のように柔軟であり、変わらない自己を持っている者と、グラデーションのように多様で深い人物像が見られ、読んでいて楽しかったです。
長い日常の中で、人は他者と出会い、影響し合うことで生まれてくるものがある。
それは自分の生き方であったり、何かを信じる力であったり、他者を想う優しさでもある。
彼らの中で生まれたそれらを祝って、どうかこれからも末永く大切に。
思わずタイトルの言葉を呟きたくなるような、素敵な一冊でした。
以前より紗久楽さわさんの漫画がとても好きで、こちらも本になるのをずっと楽しみにしておりました。
月代(さかやき)好きさん、お江戸好きさん、お待ちかねの一冊です。
主人公は元陰間(男娼)の百樹と篠笛吹きの卍。
百樹は体は大きいけれど甘えたで無邪気な子犬のような子。そしてもっちもっちなお尻がたいへん可愛らしい。
卍は背中に立派な彫り物を背負い、切れ長で涼やかな目元のいなせな江戸男子。女が放っておかない見た目ですが百にベタ惚れです。
年季明けで見世(みせ)を出た百樹ですが、どこに行くあてもなく一人お堂で眠っているところを卍に拾われる。一目で百に惚れた卍は百を連れ帰り、狭い長屋での二人暮らしがはじまった。
百は卍を「兄ィ」と呼び慕い、卍は百が居ないと生きてはいけぬと言う。
睦み合い、笑い合い、愛し恋する二人。
物語は甘い幸せに満ちた二人の暮らしとともに、互いの語られぬ過去も垣間見えます。
中盤には百が卍に出会うまでの陰間時代のお話もあります。
ちるちるさんのインタビューにもありましたが、作者さまは江戸の春画風俗をエロシーンにふんだんに盛り込んだり、陰間の実態についてなどを調べ史実に忠実に描いたとおっしゃっています。
確かに『陰間』って江戸時代の男娼という、うすらぼんやりとした知識はあるけれど、実際どのようにして陰間になるのか。その作法や出で立ちなど調べた事もありませんでした。
百樹の過去編では少年が陰間になるための仕込みから、使われる道具、陰間を仕込み世話する男、『まわし』の存在、陰間を抱く客層(のプレイ)などわかりやすく描かれておりとても興味深いものでした。
それらを上手く取り入れながら陰間というひとつの地獄のなかを懸命に生きる百樹の姿もしっかり描かれております。唯一の拠り所であったはずの『兄』を最後まで想い続ける様は健気でもあり不憫でもありました。
そして舞台は『江戸時代』の江戸の町です(浅草、上野、湯島辺りを描いていおります)。
台詞はもちろん町人たちの暮らしぶりや火事、花火、見世物小屋などなどリアルな江戸の空気を感じられます。サブの登場人物も多種多様です(わたしのお気に入りは四三婆さん)。
端々に描いた草木や花などで季節の移ろいを巧みに表現し、二人の過ごす時間は夏から秋、冬へと移り変わります。まるで浮世絵のような情緒溢れる素敵なシーンも。
どこもかしこも本当に細やかに丁寧に描かれておりますが、二人のまぐあいも色気たっぷりです。卍の手で甘くふやける百、艶かしく濡れる卍の表情。大好きな卍の優しい愛情に包み込まれる百は幸せそうです。
喘ぎにも少しばかり春画のような表現が入っていて面白いです。
この本は漫画としても楽しめるし、江戸時代の風俗、文化などをわかりやすく且つ忠実に描くことを心がけた作者さまの真心が込められた一冊のように思います。
私自身、紗久楽さわさんの影響で江戸や日本の古い文化、芸術に興味を持ちました。別段詳しいわけではありませんが、好きなもの(興味を持てるもの)が増えるというのは良いものです。
物語を純粋に楽しむも良し、何かしらに興味を持つきっかけになるのも良し。読み手それぞれの楽しみ方で『百と卍』の世界を堪能できればと思います。
「すみませんパンツください」
深夜のコンビニで働く佐藤愛史(さとういとし)。そんな彼に突然声を掛けてきたのは常連客のある男。いつも小綺麗で店員への愛想も良く、バイト仲間からは「イケメン」と密かに呼ばれていたのだが、どうやらこのイケメン、漏らしたらしい。
【イケメン(仮)と恋愛してみました!】(表題作)
普段はヘタレ。でもお酒を飲むと途端にプレイボーイになる男(イケメン(仮))と、そんな彼に振り回されていく青年の恋模様です。
さて、イケメンの名前は杉浦光太郎(すぎうらこうたろう)。30歳彼女なし。
先日の件(お漏らし)のお礼がしたいと杉浦に頼みこまれ、押し切られるように食事の約束をしてしまった佐藤。
待ち合わせに遅れてきた杉浦はなんだかヘタレ気味でいつもと雰囲気が違う。
聞けば酒を飲んで酔うと性格が変わるそうだが、記憶も朧気になるらしい。そしてビールを飲みながらあれよあれよと言う間に佐藤を口説きはじめる杉浦。優しく触れられ、かわいいと言われ、名前を囁かれ……酔っているとわかっているのに、そんな杉浦に佐藤は瞬く間に惹かれてしまう。
普段の杉浦は気弱でどんくさく、誰かに告白することもできないのですが、顔が良いのと酔った時のプレイボーイ状態で気になる子を口説き落として素面(ヘタレ状態)でフラレるを繰り返していました。
佐藤自身、最初は酔った杉浦へ好意を寄せていましたが、普段の彼も悪くないと思えてきた矢先、酔った杉浦にキスをされ、更に迫ってきたかと思えば……このイケメン、なんとまた漏らした。
前半ではプレイボーイ状態の杉浦が佐藤を押してくるのですが、この後の展開ではヘタレ杉浦を佐藤が押します。もう彼が押さないと進まないです(笑)
お漏らし描写はほとんど言葉のみなので薄いです。
お話のなかでは杉浦が攻めで佐藤が受けという形ですが、描き下ろしではちょっと立場を逆転させる二人がおり、こういうのも面白くて好きです。
【チェリーネイル】
ネイリストとしての夢を叶えるために、ネイルサロンで働く傍ら、ある金持ち男性(パトロン)の愛人もしている充(みつる)。パトロンの要望で会う時は女装をしているが、決して己の趣味ではない。
ある時サロンにやって来た男性、高尾の接客をしていると、女装していたことを見破られてしまう。外商である高尾の得意先と、充のパトロンが同じだったのだ。
女装していた充を見たことがあった高尾は、その時の綺麗な手に惹かれ、一目惚れしたという。
己がパトロンと肉体関係があることを明かした上で、ふざけ半分に自分を買うかと聞いてみれば、「払います」という高尾の答えにより、二人のささやかな関係がはじまった。
真面目であまりにも純朴な男と強かに生きながらも恋を忘れた若者のお話です。
仕事一筋で恋愛経験ゼロの高尾。
そんな彼が提案するデート(?)プランはどこも子供じみた所ばかり。けれど高尾は大真面目。
大人のくせに、どこまでも純情で、愛くるしい。
今までなんでもそつなくこなしてきた充ですが、高尾といると肝心な所で自分を強く出せず、嫌われたくないなんて思ってしまう。二人で過ごす時間を待ち遠しく思ってしまう。
恋ってなんだっけ……と考えてしまうほどに、高尾の向けてくる気持ちは充の心を満たしていました。
高尾の朴訥さと実直な態度が良いですね。充が度々突っ込んでいて、面白かったです。
車でのキスシーン萌えました。
高尾がちらりと大人な表情を見せた瞬間です。別れて顔を真っ赤にする充もかわいいです。
「イケメン(仮)と~」と「チェリーネイル」はテイストは違いますがどちらのお話も攻め役が年上だけれどなんだか憎めないかわいらしさがあって、受け側がしっかりしてますね。
最後に収録されています【春と海】は、想い人に告白できずに失恋し、号泣していたところに想い人の弟に出会うというお話です。アンソロ用に描いたお話だそうで短めです。
眞さんのお話初めて読みましたが、線がきれいですね。ソフトなタッチで個人的に読みやすい印象を受けました。登場人物のリアクションやお話の設定も面白いです。
次回作があればぜひ読んでみたいです。
雁皮郎さんの初コミックスです。
美しい髷と衆道に惹かれて買いました。
男色を題材に書かれた井原西鶴の短編小説集「男色大鑑(なんしょくおおかがみ)」。これを原作に描かれたお話と、作者さまオリジナルのお話が三話ずつ、計六話が収録されています。
【形見は弐尺三寸】
『男色大鑑』が原作のお話です。
両親を失くし、小姓として殿に仕えていた中井勝弥(なかいかつや)。
最初は殿からの寵愛を一身に受けるも、数年もすると殿の心は別の者へと移ってしまう。いっそ命を絶とうとしたその矢先、母の遺書を見つけた勝弥は己が父を殺めた男の存在を知り、敵討ちの旅へ出る。
その道中、かつて勝弥へ想いを寄せていた男、片岡源介(かたおかげんすけ)と再会。互いに昔を懐かしみながらも夜は明け、旅立つ勝弥に源介は己の刀を渡し、勝弥は自分の刀を渡して互いの形見とする。
この時源介が勝弥へ渡した刀の長さが題名の「弐尺三寸」。
物語は勝弥の敵討ちが中心となっておりますが、勝弥と源介の迎える結末が気持ちの良い終わり方で好きです。
【ふきよせ長屋】
とある長屋に住む医者、寿心(じゅしん)の元には様々な人がやって来る。同心の信さんもその一人。
今日もふらりとやって来ては部屋でゴロゴロ。
「俺は先生を口説きに来てるんだ」「勝手になさい」
実はこの二人、以前褥を共にした仲だが、信さんの正直な気持ちになかなか素直になれない寿心。
そんな二人をよそにやって来る近所の人々。話題は新しく長屋に住みはじめた鳶職の男から巷を騒がせている女泥棒の話となり……。
こちらはオリジナルのお話。
小気味良いテンポと市井の人々の姿や話し方など読んでいて楽しかったです。
男前な信さんとちょっと謎めいた寿心。
剃髪(というか坊主頭)が好きな私としてはこの二人にとても萌えました。
髷も坊主も良いものです。
その他、身投げした謎の男を助けた蕎麦屋、やんごとなきお方に気に入られた歌舞伎役者など、様々な男の生き様、恋模様が描かれています。
特に【色に見籠は山吹の盛り】などは、浪人がひたすら一途にある小姓を想い続けるお話ですが、読みながら、どうしてそこまでするの?なんて思ってしまうかもしれません。
しかし、電話もメールなく、身分の差で想い合うこと、共にいることすら許されない時代。人の生き死にが今よりもずっと不安定な世の中です。
だからこそ愛した人への情も強く、時には恋にだって命をかけられる。
明日は我が身と知れぬからこそ、夢でも恋でもなんだっていい。出会えたからには叶えたい。
そんな風に感じられました。
また、髪型や衣装、台詞なども丁寧に描かれており、江戸の世界にとっぷり浸れました。時代物は数あれど、こうした本格的な作品にはなかなかお目にかかれないように思います。
人情味に溢れた江戸の物語は心に染み入りました。
次回作があればぜひとも読んでみたいです。
【今はかわいいバンビーノ】
大学生の茅(かや)はバイト先のイタリアンレストランで高校生の新人、外口(とぐち)の教育を任される。
無口で表情の読めない外口に気後れする茅だが、不慣れな彼の面倒をいるうちに懐かれ、ついには告白までされてしまう。
思いも寄らない好意に戸惑う茅に外口は「好きだと思ってもらえるように頑張る」と言う。
どうしていいかわからずに外口を避け気味になる茅だが、ひょんなことから二人で出かけることになってしまい……。
中陸なかさんの短編集です。
愛も恋もやさしさも、あなたのために。
時に一途で、時に頑ななこの「好き」をあなたのもとへ。
そんな心温まる四つのお話。
告白の日から茅に熱視線を送り続ける外口。
茅自身、外口のことはバイトの仲間だとしか思っておらず、まして恋愛で好きとか嫌いとかなんて考えたこともない。考えたことはないのだけれど、例えば、一緒にご飯を食べたとき、仕事中に目が合ったとき、ちょっと距離が近いとき。端々に見せる外口の言動や表情から溢れてくる気持ち。
自分の前で舞い上がったり、懸命に格好つけたり、ふいに照れたりするのだって、好きな人を前にしたらそうなってしまうもので。
こんなに思われたら、逃げらんないじゃん、なんて。
外口の一途な想いに参る茅。
初々しくひた向きな外口(バンビーノ)と、恋する気持ちが年上として色々とわかってしまう茅。
読んでいてときめきました~。
告白のときとはなんだか立場の逆転しているラストにも注目です。
【君に逢いに】
高校生になって初めての夏休み。旬(しゅん)の前に現れたのは事故で死んでしまった中学の同級生、邑久(おく)の幽霊であった。夏休みを目前に死んだ邑久は、未練なく成仏するためには夏休みを楽しむことだと、一緒に過ごしてくれるよう旬に協力を求める。海や水族館、花火に祭り。何をしても楽しそうな邑久とともに、最初は渋々であった旬も明るい夏のひと時を過ごしていくが、ある時、邑久に連れられやって来た学校、その帰り道で、旬は邑久の本当の未練を知る。
死んでしまった邑久を通して、大切なものを受け取った旬。
ラスト数ページの夏の木陰のなかでのシーンが印象的です。
【そうは彼がおろさない】
大学受験に失敗し、浪人生活を送る長ヶ部基樹(おさかべもとき)。大学生活を謳歌する連中を内心妬みつつ、一年かけて勉強はしているが実際のところあまり捗らない。そんな時、偶然再会したのが高校の頃付き合っていた加茂歩(かもあゆむ)。
真面目に勉強し、無事大学に合格した加茂に対し、勉強不足が祟り浪人した長ヶ部は一方的に加茂を振っていた。それから今まで一年、会うこともなかった二人だが、加茂の提案で加茂が長ヶ部の勉強を見ることに。
昔はにこにこしてかわいかった加茂。しかし今自分の前にいる加茂は冷ややかだし勉強はスパルタだし。でもこうしてまた二人でいるとなんだか昔に戻ったみたいで。
なんとか受験を終えた長ヶ部は加茂に再び告白しようとするが、加茂から返ってきたのは予想外の答えだった。
駄目男な長ヶ部とそんな彼を叱りつつもそっと支える加茂。
再会を果たし、互いに立場を変えながらも、もう一度「好き」の気持ちを重ねていく二人のお話。
加茂のちょっとした意趣返しもお楽しみです。
【ユキ君はままならない】
大学生のユキにはサークルの先輩であり、同棲中の恋人である縞さんがいる。
周りを気にせず自由人な縞は、その言動も生活も何かとゆるい人。
一方、生真面目で、言いたいことを言えずに少々卑屈気味なユキ。
流されるような形で付き合いはじめたものの、正反対な縞との生活に耐え切れず、思い余って家を出てきてしまう。
言いたいことは言って、人に期待しない、様々なことに捉われない自由な縞。
言えないまま我慢して、勝手に人に期待しては、裏切られた気分になって失望してしまう。そんな己が嫌になるユキ。
縞はどうしてこんな面倒くさい自分と一緒にいるのだろう。
もう別れたいと俯くユキ。
縞がユキと一緒にいる理由、ユキが正反対の縞と今まで一緒に居続けた理由。
その気持ちさえがあれば大丈夫だったはずなのに、互いに見落とし見失ったそれを、掬い、拾い上げるお話。少ししんみりとしていますが、最後はハッピーエンドです。
自分のありのままの「好き」を伝えたい、届いてほしいと願うこと。
簡単に思えて、案外難しくもあり、正しいやり方なんてひとつもない。
とめどなく溢れる気持ちに背中を押されていく彼らの物語、楽しませていただきました。
お話もさることながら、作中に描かれる彼らの優しい表情も素敵でした。
小さな体躯が長年のコンプレックスだった豪。そんな豪が大学生になって出会ったのは自分の理想をぜんぶ詰め込んだような男、豊だった。
背も高く、顔も整っていて、格好良くて、優しい豊。けれど実はちょっと抜けていて、なんだかほおっておけない所もあって。友だちとして一緒にいるうちに、豪はそんな豊を「好き」になった。
ずっと悩み続けて、腹を決めた豪は豊へ「好きなんだ」と一世一代の告白をするも、当の豊はさして表情も変えずただ「うん」と一言。
その後も豊からは大した反応もなく、玉砕したと嘆く豪だが、友人に励まされ再度豊に好きを猛アピールすることに。しかしそんな折、実は豊には付き合っている彼女がいると聞かされてしまう。
明るく能天気でちょっと甘えたな豪と、見た目は男前だけど、中身はとことんマイペースでぼんやりさんな豊。ただのカップルよりも仲の良すぎた二人が手探りで掴む初めての恋のお話。
豪視点と豊視点でお話が別れ、すれ違いながらも気持ちが通じ合えた二人。
しかし恋人として付き合いはじめたことで、豪は今まで知らなかった豊の一面に戸惑い、豊を拒絶してしまいます。
ーー自分の理想だった豊とは違う。
出会ってからずっと一緒にいた二人。こうして距離を置いてみて、一人きりの豊を遠くから眺めて、豪は自分の気持ちを見つめ直します。
相手と深く関われば関わるほどに、知りたくなかったこと、傷付くことも増えていく。
それでも、豊を想うことをやめられない。そして、豊を好きになったのは自分の理想だったからではないと、豪は忘れかけていた自分の気持ちに気付きます。
一方、豊もその容姿も相まってか他者から色んな期待をされてはつまらない奴と失望され続け、人とまともに関わることを諦めてきました。
そんななかで、豪だけは自分といて「楽しい」と心から笑ってくれて、自分もまた豪といるのが本当に楽しくて。それが突然、一人になって………小さな豪にしがみつくように、「俺を諦めないで」と呟く豊の懸命な想いと言葉。
ほどけかけた気持ちがぎゅっ、と強く結ばれるかのようなこのシーン、とても素敵でした。
「好き」という気持ちに覆われ、見失いがちな、相手に対する自分の気持ちや、相手の本当の姿。
「好き」だけじゃ繋がれないかもしれない。けれど「好き」だから、何度でも結びあおうとする。
豪と豊、二人の拙くも互いに寄り添いあおうする姿が胸に染み入りました。
こちらは登場人物の服装もなにかと凝っていてお洒落です。
カバー裏にはちょっとした小話などもあります。
そして同時収録されている「パラボラ」。
高校生の高橋が転校先の田舎で見つけたのは美しい面立ちの同級生、瀬川。見た目とは裏腹に少々荒っぽくて気分屋な彼の見た目と中身、どちらも気に入りたちまち仲良くなるが、恋愛感情で瀬川から好かれたいとは思っていなかった。
そんな時、瀬川が大事にしているという指輪の存在を知ったことで、二人の関係にも変化が起きる。
顔は天使だけど中身は一匹狼で言動も荒い瀬川に、飄々としながらもMっ気な高橋のいい組み合わせです。周りからは少々浮いている瀬川ですが、高橋を前にすると瀬川が猫みたいに感じます。
短いお話ながらも、作中の美しいシーンや二人の表情など、色々と楽しめました。ラストもまた良いですね。
「愛しのストレンジマン」と比べるとこちらは全体的に線が細く、風になびく髪や風景が繊細でとても美しいです。
物語としては二話のみですが、どちらも終わり方が上手くて、言うことなしです。作中、様々な構図が出てくるので、楽しくもあり、心惹かれるシーンも多くて、読みごたえがありました。
初めての恋に絡まり、もつれながらも、気持ちが通じ合うことの嬉しさ、温かさが心地よく滲む素敵なお話でした。
待っていました、秋山くん。
「秋山くん」(一巻)のコミックが発売されたのが2011年ということで、五年越しの続編ですね。
なんだか懐かしいです。もう五年も前のことですが読んでいて本当に楽しかった。
柴と秋山くんのみならず、ともみちゃんに心打たれてしまった方も多いと思います。
夏休みも終わりに近づき、大好きな秋山くんの誕生日にと指輪を贈った柴。こうして一緒に過ごして、少しずつ見えてきた秋山くんのこと。
家にいないお父さん、未だ距離を置く友だち。彼自身どうでもいいように振る舞っているものの、自分といることで秋山くんを「こどく」にしたと感じている柴。
以前ならそんなのどうでもよくて、秋山くんがいるならそれだけで良かった。
けれど今は違う。今度は自分が秋山くんを幸せにしたい、秋山くんを、守りたい。
秋山くんが困っていたら、それを助けられるような人に。
二巻では大好きな秋山くんの幸せを願って柴が奮闘します。
元々学校にあまり来ない秋山くん。彼を「ひとり」にしたくない柴は懸命に学校へ誘います。秋山くんが久方ぶりに登校する姿を見た柴はそれだけでもう嬉しくて嬉しくておめでたいこと。
同じクラスだった梶原くんともまた話すようになったのもつかの間、校則違反として大事な指輪を取り上げられた秋山くんは、引き換えに二週間の居残りを受けることに。
やっぱり学校に通う意味なんてないと呟く秋山くん。けれど柴は秋山くんが同じ学校に居てくれたこと、また友だちと話していることが本当にうれしくて、秋山くんが学校を辞めて「ひとり」になるのは俺が嫌だ、と胸の内を明かします。
ずっといっしょにいると、出会って間もない頃にした二人の約束。
けれど一緒にいても、秋山くんの背中はひとりきりのように時折どこか寂しげで。
自分には家族以外に大事に思えるような人はいなかった。だからどうしたらいいのかわからないし、うまくできないかもしれない。けれど、本当は寂しがりの秋山くんを、大好きな人を、もうひとりにはしない。
不器用だけど、一途で素直で秋山くんにはただただひた向きな柴の強い決意にぐっときました。
秋山くんも柴のくれる温かな愛に応えようと毎日居残り、とある事情で柴に約束を反故にされても言及せずに耐えて頑張ってます(身体は堪えられずチーかまを犠牲に)。
そして色々一段落したと思えば「生反省会」と称したお待ちかねのアレです。
居残りでご無沙汰&柴に少々放っておかれた秋山くんは触りたがる柴を制して「じれじれ気分」を味あわせようと柴をいじめます。秋山くん、以前よりえっちになってますね。
最後には「ともみちゃん2」もあります。身体のある部分が痛いともみちゃんはまたもやおかしな白昼夢のなかに。
前回ともみちゃんを可愛がったモブ二名が再び登場し、3Pに雪崩れ込みます。エロさは前回より増し増しかと。花嫁姿のともみちゃんも見れて楽しかったです。
本編も気になるところで終わってしまい、次回が待ち遠しいです。
カバー裏には作者さまが一話一話のちょっとした紹介をしています。
柴の秋山くんへの揺るぎない愛情とともに、柴に対してちょっと欲張りになってきた秋山くん。二人の距離がまた近くなった二巻でした。
高校二年生の葉純夏芽(はずみなつめ)は、生物教師の木庭(こば)先生に密かな好意を寄せている。
生物の試験で毎回わざと赤点をとっては先生と二人だけの補習の時間を楽しみにしていた。
ただ先生を見ていられたらそれで満足だったのに。
ある時自主的に補習を受けにやってきた生徒、根井(ねい)が加わることで葉純の穏やかな時間は一変する。
顔を見れば相手が今何を思っているかわかると言う根井は葉純が先生へ抱く好意をあっさりと見抜いてしまう。そして自分も木庭が気になるとも。
屈託のない彼の明るさと奔放さに振りまわされつつも、根井とともに補習を受けるなかで、葉純は自分が知ることのなかった先生のこと、何が好きで、どんな風に笑って、どういう人なのか。
木庭先生という人間に初めて触れていく。
中陸なかさんのデビューコミック。
真面目でちょっと不器用な葉純と、とにかく明るくマイペースな根井。そんな二人が気にする木庭先生。
人との交わりとはなんだろうか。
揺めきたゆたう三人の想いを温かに細やかに描いています。
最後の補習授業で校内の片隅にある花壇にチューリップの球根を植えた葉純と根井はクラスも科も違うけれどその後も一緒に花の世話を続けている。
自分の秘密(先生への好意)を知っている根井は葉純にとって気負うことのない存在で、根井もまた寄りかかるような気安さで葉純に接していた。一緒に帰ったり、ラーメンを食べたり。お互いの好きなものを分かり合うとしたり。
葉純自身も気付かぬうちに根井の存在は自然と近くにあって、それは根井も同じはずなのに二人は自分の気持ちを自覚できずにいます。
一体先生とどうなりたいのか。
根井に問われた葉純は先生への好意が恋愛感情とは違うということ。それは自分のなかの想像上の先生を好きでいたというひどく曖昧なもので、木庭先生自身の人となりを見ていなかったことに気付きます。
一方根井は以前、学校の外で自分の知らない木庭の一面を見かけたことで木庭を気にしていました。その気になるを知るためにわざわざ補習を受けていたのですが、木庭が葉純を見る時の顔が好きな人を見る時のそれだとわかってしまう。
それは木庭の昔の話に繋がり、かつて自分が好きでいた人への想いに決着をつけられず、漂うように日々を過ごしていた木庭の姿がそこにはありました。
最後の方で葉純と根井は自分の本当の気持ちを知るようになるので、二人の関係が進むのはとてもゆっくりです。作者さまは人物を表情豊かに描かれるので、そこも楽しんでいました。
人は生きていくうえで数多の感情を抱えていくものです。けれど全てを自覚しコントロールできるわけではないと思います。ふんわりと綿毛のようにたゆたい、それが一体何なのかわからないまま、向き合えないままの感情や想い。時にはその存在にすら気付かず見失ってしまうことも。
しかし人と人が出会うことでたゆたう種は根を張り、芽を出し、その存在に気付くこともある。
別たれたあとで、花が散ったと思い知らされることもある。
人との交わりは良くも悪くも己に実りをもたらすものだと私は思っています。
こんな風に考えさせてくれる作者さまの瑞々しさに溢れた感性はとても素敵だと思います。
葉純、根井、木庭もそれぞれの種が根をおろす地面を見つけ、芽吹きはじめたようです。春の季節に終わるラストは読み終えたあと、穏やかな風が吹き抜けていくようでした。
丸顔めめさんのデビューコミックスです。
表題作『よなよなもしもし』をはじめ、時に優しく、時に可笑しな六つの幸せで終わる短編集。
【よなよなもしもし】
飲食店で働く青年、コユキこと田中幸雄(たなかこゆき)。仕事は真面目にこなすも地味で冴えない風貌から絶食系男子とまで言われる始末。店長の独断でその日の仕事をオフにされていまい、自分は世の中に必要とされない人間なのではと落ち込むも、マイペースな性分のおかげでくさくさすることもない。
そんなコユキにかかって来た一本の電話。無防備に出れば聞こえるのは荒い男の息遣いに卑猥な言葉。突然の痴漢まがいの電話に固まるコユキ。するとコユキの声を聞いた向こうの男が「ハスキーでいい声だね、好きかも」なんて言うもんで、気付けば男の自慰を手伝い、その後のピロートーク(?)みたいな会話まで。
電話を終えても男の「好きかも」という言葉がコユキの頭を離れない。冴えないこんな自分を求められるのはなんだか嬉しくて、期待に応えたいなんて思ってしまって。毎夜のようにかかってくる痴漢さんからの電話を受け気持ち良くなるお手伝いをするうちにいつの間にかコユキと男はすっかり打ち解けてしまう。
けれど相手が求めているのは自分の「声」であって、地味で冴えない生身の自分は違う。そんなことを考えながら今宵も痴漢さんからの電話を受けたとき、今度は自分が痴漢さんから攻められる羽目に。痴漢さんの声を聞いてたまらなくなるコユキ。性的な気持ち良さと唯一自分を求めてくれる嬉しさでとろとろになりながら、コユキは自分が電話越しの男に心奪われていることを実感する。
こちらは続きものです。前半ですでに引き込まれていました。
コユキちゃんのとろ顔がいい。
出会いが猥褻な電話ってインパクトすごいですよね。
この後の展開も見ものです!痴漢さんもちゃんとお名前あるし、もちろん顔も出ます。そして一番エロがつまったお話です。一番好きです。
【酒と泪と男と男】
失恋の痛手を引きずるオネェのカマちゃん。行きつけのバー(ママもオネェ)で飲んでは自分を捨てた男を思って涙を流す日々。しかしある時、バーの下階の店で働く顔馴染みの従業員、ケン坊と一夜の関係を持ってしまった。しかしケン坊はあっけらかんとして、カマちゃんの語る元恋人の話を今日もニコニコ聞いている。元恋人に似たケン坊の大きな体。自分はあの夜、この背中に愛しい人の影を追っていたこともまた事実で……。
結局また元恋人を思い出して泣きじゃくるカマちゃん。泣きはらした目で店を出るとケン坊が待っていた。無遠慮に自分に触れてくるケン坊に嫌がる仕草を見せると、ケン坊は「やめない」と言い放ち、店の暗く狭い倉庫に引きずり込まれる。
ほんのりリリカルで温かいお話です。作者さん曰く裏テーマは昭和歌謡。
えっちの時カマちゃんの手をぎゅっと握るケン坊に萌えました。
【気になる花村】
高校生の尾見は最近、同じクラスの花村が気になっている。登校中に軽く触れて挨拶したらこの世の苦虫を掻き集め一気に噛み潰したような顔をされ走り去られた。その日から花村が気になって気になって仕方がない尾見。
てっきり嫌われてると思っていたのに、花村は気軽にCDも貸してくれたし、遠くから話かけたら笑顔で答えてくれた。この間はマスク越しにだが笑顔で挨拶もしてくれて、なんだこのギャップは、とき、めく……!!
もはや気になるの範疇を越えて花村のことで頭がいっぱいになる尾見。
でも再び近づいたらまたすんごい形相で逃げられる。
その日花村が保健室へ行ったので尾見が追いかけると花村に「来るな」と泣かれてしまう。仲良くなりたいのに、なんで。好かれたいのに、何が駄目なんだ。つられて涙を浮かべる尾見だが、花村には尾見に近づけない理由があった。
コミカルな要素が一番つまったお話でしょうか。尾見くんがひたすら花村くんにときめいて色々と必死です笑。そして尾見くんの家の犬がかわいいです。
この他にもちょぴり風変わりな【ウルトラミラクルハッピーエンド】や、甘い秋の匂いを思わせる【ピント】。ラッキースケベがお題の【ツイてる男】など。
正直全てのお話を紹介したいのですが、ぜひ読んでもらいたいのでこれくらいで。短編集ながらとっても読みごたえがあり、また、漫画的な表現なども面白いです。
絵柄ですが、受けの顔や体の線が丸っこくて、頬っぺたから耳まで真っ赤にしてかわいい。えっちの時に見える太ももやお尻がふくふくしてて柔らかそうで、揉みたいです。
笑いあり、エロあり、萌えありと、短編集で久々に堪能させていただきました。優しいボーイズラブ、どうぞお楽しみください。