作家買い。
村崎さん作品はファンタジー色が強いものが多いなと思っていますが、今作品もそのイメージを損なうことのないファンタジー作品でした。
何しろ、タイトルにご注目。
「人生七周目の予言者」が主人公だからして。人生七周目、ってどゆこと?
と思いつつ読み始めました。
主人公は薬師のルカ。
薬師として村人たち薬を提供はするものの、彼は予言者として名を馳せている。
これから起こる事故や災害、そういったものをぴたりと言い当ててしまうのだ。ルカの美貌と相まって名が広まっていくが、ルカ自身は注目を集めることなくひっそりと生きていきたいと願っている。
ここでポイントになるのが、「なぜルカは未来を言い当てることができるのか」という部分。タイトルの「七周目」というところから推測できるように、彼は25歳の誕生日を迎える前に早逝。死んでは「同じルカ」として生まれ変わってきているのだ。しかも、地こそ違えど、同じ国に。だから…、と話は続きます。
25歳の誕生日を迎える直前に自分は死んでしまうということを思いだしたルカは、なんとか25歳の誕生日を迎えたいと願う。そして、7周目の今人生で、彼は自分が死に至る際に、王弟のウィルフレッドと関わりができる…、というところで己が死んでいたことを思い出す。ウィルフレッドに関わりを持たずに生きていこう。そう決心しているルカだったが…。
生まれ変わりとか、転生、というお話は多くあれど、「ルカ」の人生を、時を巻き戻すかのようにして何度も生まれ変わるという斬新な設定で、読み始めてすぐに一気にこの作品の持つ世界観に引きずり込まれてしまいました。
ルカはなぜ「ルカ」として生まれ変わるのか。
なぜ25歳の誕生日を迎えることができないのか。
ウィルフレッドと関わりを持つと(前の人生ではウィルフレッドに会ったことはない)死んでしまうのはなぜか―。
と、多くの謎を孕んだ作品です。
前世のルカの記憶、という部分を頼りに彼は先読みをしているわけですが、もちろんすべてを知っているわけではない。王族に絡んだ事項については、ルカは接点がないので知りようもない。
が、全くかけ離れていたと思われていたルカと王弟のウィルフレッドに、意外な接点があって…。
今作品の面白さは、ルカの転生、生まれ変わりの理由にあるかと思われます。
きちんと伏線が絡められていて無理がない展開になっていて非常に読みごたえがある。そこに、ウィルフレッドとルカの恋の行方が絡み、二転三転しながら進むストーリーでめちゃめちゃ面白かった。
そのストーリーに、小山田さんが挿絵をつけてくれているという眼福さよ。
ルカの中性的な美しさも、ウィルフレッドの硬派なカッコよさも、きちんと描き切っていて萌えが爆上がりしました。
キャラがまた等しく魅力的。
ウィルフレッド、ルカの二人はもちろんのこと、ウィルフレッドの兄で現国王でもあるエリス、エリスの娘のシャーロット、みんな温かく、そして優しい。ウィルフレッドに至っては王弟というハイスペック男子でありながら、ルカの一挙手一投足に翻弄される可愛さもある。
読み進めるごとに伏線が繋がっていく、そのストーリー展開の手腕に圧倒されました。あ、あれはこういう意味か―!と何度思ったことか。
非常に面白く、読みごたえのある一冊。
キャラ良し、ストーリー良し、挿絵良しの、文句なしの神作品でした。
待ちに待った『囀る~』の8巻目。
7巻は黒を基調にした百目鬼のイラストで、カッコよすぎて萌え禿げましたが、8巻はグレーを基調にした矢代さんのイラスト。色に意味があるのかなあ…。ヨネダ作品は伏線がとにかくすごいので、いろいろ深読みをしてしまいます。
ということで本誌のレビューを。
百目鬼を、堅気に戻してあげたかったのだと個人的には解釈していますが、手放した矢代さん。が、その思いとは裏腹に百目鬼は桜一家に属していた。4年という月日を経て、再び出会ってしまった二人。
偶然利害が一致して共に行動することが増えたけれど。
矢代を「お頭」と呼び一心に慕っていた百目鬼の姿はそこにはなく。
すれ違い、交わることのない二人の姿に胸が痛む。
自分の身体を武器に多くの男たちを手玉に取ってきた矢代さんですが、百目鬼と再会して変化を見せはじめた、気がしました。前巻で網川さんに「人は変われるのか」という問いを受けたとき、矢代さんは「変わるもの」と返しました。
それが今巻に繋がっているのかな。
ちなみに前巻で描かれていた仁姫誘拐事件。
それが、今巻に繋がっています。ヨネダさんは一体どこまで見通して作品を書いているのかと、いっそ感心します。
そして、矢代さんと百目鬼の関係も。
「あの」矢代さんが百目鬼との距離を測りかねている姿に切なさがグーッと湧き上がってきました。『囀る~』って、個人的にあまり好きじゃないキャラってそう多くはないのですが、その数多くないヤな奴キャラの一人・井波。ホントあいつ嫌いだわー。天罰が下ればいいのに。
子どものころから母親の夫にレイプされ続け、それ以降は男に抱かれないと快楽を感じないようになり。そして今。井波のせいで、また矢代さんは。
でも、矢代さんが壊れたトリガーを引いたのは、百目鬼なんじゃないかな。
もちろん彼が悪い、ということではなくて。
リンゴを齧ったイラストがあります。
知らなければ、ずっと知らずにいられた。
けれど百目鬼と出会い、彼に愛され、矢代さんは「愛」というものを知ってしまった。自分の欲しいものが何なのか、分かってしまった。
リンゴを齧った後のように、矢代さんは、知らなかった時には戻れない。
だから、百目鬼との距離感も測りかねているし、インポになっちゃったんじゃないかな。自分が本当に触れて欲しい人は誰なのかを、矢代さんは感覚として理解してしまったのだと。
そんな風に思いました。
で、ですよ。
百目鬼―!
「彼女」はなんなん。あんなにおぼこくて、頭しか知らなかった君が、あんなにスマートに服を脱がし身体に触れる。そのしぐさ一つで、矢代さんも女性の存在に気付いた。
BLにおける女性の存在って嫌いではないですが、んー、あの描写は哀しかったな。不穏な空気は間違いなく漂っているので。ただ、百目鬼に限って…、とは思うんですよね。
矢代さんが、百目鬼にとって「お頭」ではなくなって以降、百目鬼の矢代さんに対する仕草がグッときます。最後のシーンなんか、もうもう…!百目鬼の怒りを、矢代さんが感じる五感で読者に魅せる。さすがです、ヨネダさん。矢代さんが他の男と性的な接触をすることを良しとしないのは、理由は一つしかないと思うので。
すれ違う二人にモダモダしつつ、でも矢代さんを幸せにしてくれるのは百目鬼しかいないので、そろそろ幸せになって欲しい!
と思いつつ、次巻を待ちたいと思います。
アニメイトさんで、『「高嶺の花は、乱されたい(2)」 アニメイト限定セット』を購入するとついてくる特典小冊子です。有償特典なので、本代とは別に363円(税込み)は必要ではあるのですが、本誌で描かれている出来事の裏側を描いた内容になっていて、これはもうぜひ読んでいただきたい!と思ったのでレビューを書こうと思います。
本誌の内容にも触れたレビューなので、注意されてください。
16Pの小冊子ですが、中身は漫画です。
時系列は本誌でハナちゃんがスターニャックスの本社で社員登用研修を受けるタイミングでヒートを起こしてしまったとき。
連雀さん以外のアルファを拒絶していたハナちゃん、を助けに来てくれた連雀さん。というカッコいいシーンを、連雀さん視点で描いたお話です。
ハナちゃんの上司の吉野さんから、ハナちゃんがヒートを起こしたことを聞いた連雀さんは…。
という内容なのですが。
漫画のタイトルが「高嶺の花に誰?って言われるまで」。
そのタイトルから推測できるように、本誌101Pに続くところまでが描かれています。
連雀さんの、ハナちゃんに向ける愛情がこれでもかとたっぷり詰まっている内容で、めちゃめちゃ萌えました。ハナちゃん、愛されてるね。
このエピソードが本誌に収録されていないのはもったいない!
ラブ&エロ、そして最後のオチがまた良い。
ぜひとも多くの方に読んでいただきたいなあ、と思う素敵な内容でした。
作家買い。
小鉄子さん作品はファンタジー色が強いものも多いですが、今作品もどちらかというとファンタジーに分類されるのかな?
主人公は西園寺商事の社長の子息・誠。
彼は淡い恋心を抱いている人物がいる。西園寺商事で、入社2年目という若さでありながら有能で社長秘書を務めている東くんだ。一度社内ですれ違ったことがあり、その時に一目惚れしてしまった。
とはいえ、相手も自分も男。
自分の恋心の成就は求めていない。
が、本社に戻った誠に秘書としてあてがわれたのは、その東くんだった。あまりの嬉しさに双子の妹・真実にそのことを告げると、真実は兄の恋を応援しようとある「こと」をし始め―?
というお話。
あらすじにも書いてはあるのですが、激しいネタバレを含みますので少し下げます。お嫌な方はここでストップされてください。
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真実は誠に瓜二つのぬいぐるみ(「誠ちゃん」と命名)を作り、誠がネガティブな感情を抱いたときには、誠の意識が誠ちゃんの中に入り込んでしまうというまじないをかけたのだった。
バリバリファンタジーですが、そのファンタジーさをまるで本当に起こり得そうなことのように錯覚を抱かせ読ませる手腕はさすが小鉄子さんといったところか。
硬派な攻めさん×攻めさんが大好きで性格良しの可愛い受けちゃん、て小鉄子作品ではテッパンと言えるCPですが、今作品もそのイメージを損なうことのないCPのお話でした。
東くんはイケメンなうえに優しいし、素の性格は豪胆でカッコいい。
小鉄子作品のカッコよい攻めさんが大好きなのですが、今作品の東くんという攻めさんもドツボに突き刺さるイケメン(見た目も中身も)でした。
誠の方も社長令息というハイスペック男子ながら傲慢なところは一切なく素直で優しい男の子です。
さらに二人を取り巻く周囲の人たちも優しく温かいので、東くんと誠の恋の成就だけに焦点を当てて読むことができます。スーツでびしっと決めている東くんがぬいの誠ちゃんをポケットに入れている姿にギャップ萌えです。
どこをどう切り取っても、カワイさと温かさと優しさがみっちりと詰まった1冊。
小鉄子作品はほぼほぼ読んでいますが、その中でもとても好きな作品になりました。続きが今から待ち遠しいです。
『高嶺の花は、乱されたい』の2巻目。
『高嶺の花は、散らされたい』で恋人同士になり、『高嶺の花は、乱されたい』の1巻で登場したハナちゃんの両親のクソさに胸が痛くなり、そこから続くお話です。
母親から連雀さんとの付き合いを反対されメンタルボロボロのハナちゃんは連雀さんに首を噛んでほしいと切望するが―。
2巻では連雀さんのうちに秘めた想いが透けて見えてくるようになりました。連雀さんがハナちゃんの首を噛まない理由は?
まだその理由については描かれていません。
ちょいちょいと、連雀さんがオメガに対して複雑な思いを抱いているのだろうということは見えてきますが、まだまだ焦らしプレイ続行中であります。
ということで、2巻のメインは「当て馬くん、登場!」という部分でしょうか。
母親に、いわばだまし討ちのように連れて行かれた先で、ハナちゃんはお見合い相手と引き合わされてしまう。連雀さんラブのハナちゃんはきちんとお断りして帰ってくるが、その後意外な場所で、そのお見合い相手・鷹司さんと再会してしまいー?
と話は続きます。
えっとですね、この鷹司という男性がですね、
良い!
めっちゃ良い!
左京作品なのでイケメンさんなのが当たり前なんですが、何やら腹黒ぽくて良い。
彼が何を考えてハナちゃんとのお見合いを受けたのか、その理由も気になります。
ストーリーとしてはややシリアス展開ですが、ハナちゃんがとにかく可愛くって堪りません。連雀さんへの想いが溢れてくるハナちゃんを見ているだけでこちらもほこほことした気持ちになります。所々で描かれる、ハナちゃんの連雀さんおパンツへの執着心が健在なのも良い。
そして連雀さんも。
口では辛辣なことを言いながら、常にハナちゃんファーストなのが読み取れる。それなのに、いや、だからこそか?なぜハナちゃんの項を噛まないのか、その謎がクローズアップされてくる感じ。彼の過去編が待たれます。
ハナちゃんの、連雀さんラブ、から見えるハナちゃんの執着心は可愛いし、連雀さんのえっぴ(ハナちゃん命名)なところも素敵すぎるし、どのページをめくっても萌えとラブしか詰まってない。
当て馬・鷹司さんとの今後、連雀さんのオメガへの想い、そして、二人の恋の行方。続きが早く読みたい!
あ、あとアニメイトさんのアニメイト限定セットについてくる小冊子。
あれ、本編に入れてほしかった。読める人と読めない人がいるのは残念な気がしました。
これから買われる方には、ぜひともアニメイト限定セットを買うことをお勧めしたいです。
西野さん×笠井さんという神タッグの今作品。
笠井画伯にしてはややマイルドな肌色率ですが、それでもはだけた着物の胸元にちゃっかり手を入れているイケメンさんに加え、口絵のイラストはほぼ着衣無しでの絡みなので、リアル書店で買われる腐姐さま方は注意が必要かもです。
さて。
表紙が三人、ということで、はい。西野さんらしい複数攻めのお話でした。笠井画伯のイケメンが3人も見れるのでコスパ良しともいえるかな?
ということでレビューを。
若者たちがどんどん村を出て行ってしまう過疎の村・常師栄(とこしえ)村が舞台。この村には古くからの言い伝えがあった。
身体の下半身(のどこか)に、特徴的な痣を持って生まれてくる赤子がいる。
その赤子を「月印の者」と呼ぶ。「月印の者」が生まれてくると村が栄えるという。が、「月印の者」は快楽に弱いという性質をもっており、その淫乱な性質を抑えるために「夜者」と呼ばれる男が選ばれる。
という、ファンタジーなバックボーンを持つお話です。
で、表紙の真ん中の黒髪の男の子が、今作品の主人公。
もちろん「月印の者」。絢都という名の男の子です。
そして脇を固める二人のイケメンさんたちが、「夜者」。黒髪の佳孝と、明るい髪色の諒賀。
「月印の者」が18歳になった時、村人たち(しかも男だけ)の衆目の集まる中で、夜者に抱かれなくてはならないという風習があり…、と、現代日本にあるまじき設定です。
この「とんでも設定」を上手に読ませるのはさすが西野さんといったところか。エロエロ、どころではなくエロエロ×100の内容でありながら、常師栄村の悪しき風習、家族との軋轢、村人たちとの微妙な関係、佳孝+諒賀×絢都たちの過去、すれ違う恋心、からの恋の成就とエロの中によくぞここまで、という部分まできちんと描かれています。
絢都という男の子はかなり危うい立ち位置にいる男の子で、そこから生まれてくる彼の葛藤や苦しみもきちんと描かれています。が、そんな彼はかなり淫乱でもある。それは「月印の者」であるからでして。エロとシリアスを上手にミックスさせる手腕はさすが。二転三転するストーリーも面白いです。
ちなみに絢都の月印の痣のある場所ですが、え、そこ?
描き方によってはコミカルにもなりえるバックボーンですが、至極真面目にドシリアスです。最高です。
エロ描写は、西野さんらしく、あんなことやこんなことまで、二輪挿しあり、モブレありと人によっては地雷になりうる描写もあるので苦手な方は注意が必要かもです。
そしてそれらを笠井さんが描いてくださっているという。
眼福でした。
イケメンさんたちのカッコよさが、笠井さんのイラストによってより引き立ちます。複数攻めあるあるかと思いますが、タイプの異なる攻めさんたちなので、読み手のお好みの攻めさんがいらっしゃるんじゃないでしょうか。個人的にはどっちも良いです。二人のタイプの異なるカッコよさに終始翻弄されっぱなしでした。
受けちゃん大好きな溺愛攻めさん(しかも二人もいるという贅沢さ)に愛される薄幸受けさんという個人的に神CPのお話で、エロももちろん、彼らが築き上げていく絆と愛情に萌える、そんな1冊でした。
評価で悩みましたが、笠井画伯のイラストにKOされっぱなしだったので、ちょっぴりおまけして萌え×2で。
作家買い。
しかも草間さんが挿絵を描かれているということで発売日を心待ちにしていました。
尾上作品はほぼほぼ読んでいますが、毎回泣かされます。けれど、今作品ほど温かな涙が流れたのは初めてかも。切なく、けれど温かく優しいお話でした。
ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
主人公は駆け出しの画家・桂路。
実家は大企業を営む富豪だが、両親の敷いたレールに乗ることを拒否し画家を目指す青年。しかも母親にゲイバレし、以来実家とは距離を置いてバイトをしながら画家としての成功を夢見ている。
そんな桂路が唯一心を許していた家族は彼の兄の麒一郎だった。
画家を目指す桂路の夢を応援してくれていた優しい兄。が、その兄が病死。遺産相続争いをしたくない桂路は、麒一郎の優秀な秘書である緒川が差し出した書類に、ろくに目を通さずにサインと押印をするが、兄から「意外なもの」を相続することになってしまいー?
ごめんなさい、ちょっと激しいネタバレがあります。少し下げますので、お嫌な方はここでストップされてください。
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麒一郎が桂路に託したのは、彼の秘書見習いの慧という青年の存在だった。
いやいやいや。
どゆこと?
と、慧という青年の存在について疑問符が頭の中に一杯浮かんでしまいました。読み手のその謎を、桂路と共に解き明かしていく手腕で、いったいどうなっていくのかとページをめくる手が止められませんでした。
慧という青年は薄幸な子ども時代を過ごしています。気の毒に思った麒一郎が、慧を引き取り、衣食住を、そして名前さえも与え、そして育ててきた。が、己の死期を悟った麒一郎は、自分亡きあと、慧を桂路に託した。
のだと、そう思いつつ読み進めました。
が、さすが尾上先生です。そんな浅いお話ではありませんでした。
慧という男の子は、両親から虐待を受け続け、愛情も、満足な食事も、そして人としての尊厳すらも与えられてこなかった。そんな慧を不憫に思い、慧を一から育てたのは麒一郎。けれど、人間は、生きていくうえで困ることのない衣食住だけでは、人にはなりえないのだと。麒一郎は愛情を与え衣食住を与え、けれど出来上がったのは慧という青年の入れ物だったのかな。
その中に、何を満たしていくのか、何色をつけていくのか、という部分によって、初めて人は人たらしめるのだと。それを補うのに足りる人物として麒一郎が選んだのが、桂路だったのかな。
そんな風に思いました。
そして桂路の方も。
己の足で立ち、目標を見つけた彼が、けれど欠けていたもの。
桂路と慧は出会い、試行錯誤しながら、お互いにお互いを埋めるべき唯一無二の存在になっていったのだと。その過程がめちゃめちゃ温かくて良い。
慧は壮絶な過去持ちさんで、ドシリアスなバックボーンを孕んだ作品ではあるのですが、全体的なバランスとしてはコミカル寄りです。その大きな理由の一つとしてあげられるのは、慧という男の子の中身。過酷な過去故、彼はいい意味での「普通」を知らない。知らないからこそ引き起こされる出来事がめっちゃ可愛いし笑いを誘います。そこに慧を愚弄する意図は全くないので、ただただほっこりします。麒一郎さんが愛情を与え作った慧という入れ物に、カタチの違う愛情を注ぎ続け、麒一郎さんが埋めた芽を芽吹かせたのは桂路だったのだと。ナイスな兄弟たちが繋いだ愛情のバトンが、きちんと繋がっている。
慧に惹かれている想いを自覚した桂路の行動も可愛い。
彼は駆け出しの画家という設定ですが、それがきちんと生きているストーリー展開なので、話が上滑りせずに奥行きを与えている感じなのも良い。
慧は血縁者にこそ恵まれませんでしたが、麒一郎さん、そして桂路が彼を温かくサポートしていくので、そこも心が温かくありました。そして何より有能な秘書さんの緒川さん。
いやー、彼が最高過ぎるイケオジでした。
そうくるかー!
シリアスさをベースにしながらも、「自分」を見つけるために模索し、そして大切なものをつかみ取っていく、成長物語でもあり、何より人の温かさがじんわり染み入ってくる良作。
草間さんの麗しく温かな挿絵も素晴らしかったし、控えめに言って最高過ぎる、そんな1冊でした。
みずかねさんホイホイされてお買い上げ。
真宮さんの新刊は、タイトルからも推測できるようにオメガバもの。ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
主人公はベータの良英。
両親亡きあと孤児院で生活していた良英だったが、ボランティアで施設にやってきた国際的ピアニストの菱沼美都子に目をかけられ、彼女の家に引き取られることに。美都子の夫は大企業のCEOをしており、裕福な家庭だった。
菱沼家には賢人という良英よりも一つ年上のアルファの息子がいたが、賢人と同じように教育を与えられ、育てられた良英は常に感謝の思いを抱いていた。ベータではあるものの優秀で勤勉な彼は、賢人の希望もあり、若きCEOとなった賢人のバトラーとして働くように。恩人である菱沼家と、そして尊敬する賢人に尽くそうと決意を新たにする良英だったが…。
というお話。
ここまではあらすじにも書いてありますが、アルファでスパダリの賢人に愛されるベータの良英のお話、なんだろうなあ、と思いつつ読み始めました。
賢人は、ザ・スパダリです。
良家の御曹司で、アルファで、イケメンで企業家としても有能で。
ついでに、ベータやオメガに対する差別に果敢に立ち向かおうとする正義感に溢れた好青年。オメガバもののアルファの攻めさん、と言ったらスッと思い描けるような、完璧な男性です。
対して受けの良英。
オメガバの受けさんのテッパン、と言えば薄幸なオメガちゃん。
という予想を裏切り、彼の性はベータです。オメガバものでベータの受けさんは、皆無ではないもののそう多くはない。
アルファ×ベータの恋。
うんうん。どんなお話かな?
そう思いつつ読み進めました。
が、うーん。
なんて言うんですかね。
あらすじ以上の内容はほぼほぼ無いような気がしました。
良家の御曹司のスパダリ・賢人と、平々凡々のベータの良英。
身分違いの恋、といったところか。その壁を、二人でどう乗り越えていくのか―、というのが今作品の軸だと思われますが、ごめんなさい、良英のぐるぐる加減が少しくどい。賢人に抱くのは単なる憧れであり、感謝の念であり、完璧男子の賢人にふさわしいのは自分ではない。と、そこをずーっと繰り返している感がありました。モダモダジレジレの恋の行方は、決して嫌いではないですし、むしろ好きな展開ではありますが、ちょっとくどいっていうのかな。
反対に言うと痛い展開になることはほぼほぼないですし、傍から見ていて賢人の良英ラブは見ていて気持ちがいいほどの突き抜けっぷりです。良英の天然ちゃんぷりも可愛いんです。さらに受けがベータという設定は美味しくはある。が、もう少し二転三転するお話の方が好き、という完全に好みの問題なのですが、もう一声ほしかったな、というのが率直な感想です。面白くないわけでは決してないのですが、心に引っ掛かる部分が少ない。
あ、あともう一点。
ホイホイされたみずかねさんの挿絵が、作中一枚も書かれていないのが残念でした。電子で買いましたが、紙媒体なら挿絵があったんですかね?表紙の二人が麗しすぎて萌え滾ったので脳内捕捉しながら読みましたが、そこもがっかりポイントでした。
作家買い。
SHOOWAさんと言えば、コミカルなものからシリアスなものまで描かれる引き出しの多い作家さまですが、「SHOOWA」という作家さまの真髄、と言っていいんじゃないでしょうか。今作品はそのどれもが上手にミックスされたバランスの良い作品でした。
ソロモン王に封印された悪魔たちがいる。その数、72体。
そのうちの一人・68番目の悪魔のベリアルが封印を解き脱走。ベリアルを手助けしている、同じく封印されていたオセと共に。
ベリアルを再度封印すべく、ソロモンはマルコシアス(愛称はマル)と共に捕獲に挑むが―。
旧約聖書の、古代イスラエルの王・ソロモンの使役する72の悪魔を著した「ソロモン72柱」を軸に紡がれていくお話です。それぞれのお話に数字が振られていますが、その数字は、登場する悪魔を示しています。
ソロモン王、とか、封印された悪魔、とか。
ワードだけをとらえるとちびっとシリアス系のお話?と思いますが、SHOOWAさんらしいコミカルさを孕みながら進むストーリーで、どちらかというとコミカル寄りなお話に仕上がっています。
半分くらいまでは悪魔たちとのドタバタコメディを呈した展開ですが、後半半分は「Devil Life 35」。35番の悪魔はマル。ということで、マルとソロモンの二人のお話に移行していきます。
二人の過去の回想からスタートします。
ソロモンとマルの繋がり。過去。そして、二人の相手への想い。
前半のコミカルさはどこへ?といった感じ。でも、それが良い。SHOOWAさんさんの描くそこはかとなく漂うシリアスさがめっちゃツボなのでどんどん引き込まれてしまいました。
ソロモンの抱えるもの、マルのソロモンへの想い。
2人が出会い、だからこそ生まれた繋がりが切なくて、でも萌える。
ソロモンは悪魔を使役するうえでキスしたり身体の関係を持ったりしますが、マルとは身体の接触はありません。そこがいい。彼らは使役する人・される人、という繋がりですが、セックスをする関係ではないからこそ、彼らの関係や愛情の、その中身が見えてくる感じ。
SHOOWAさんらしいコミカルさも、切なさも、シリアスさも含み、さらにSHOOWが描くイケメンさんたちがとにかく眼福で満足度120%です。
甘くて、優しくほのぼのなお話が読みたいときは不向きかも。
けれど、甘々なだけではないストーリーだからこそ、二人の間の絆と信頼関係が見えてくる。
めっちゃ最高な1冊でした。
続編プリーズ。正座して、お待ちしております。
作家買い。
タイトルに「2」とついているところからもお分かりになると思いますが、『はかなげ。』の2巻目。1巻未読だと理解できません。未読の方はそちらから読まれることをお勧めします。
で。
しうこさん作品は時にドシリアスで痛い作品もありますが、今作品はもうもう…!っていうくらい甘々な作品でした。坊ちゃんが可愛くって美しすぎてヤバいです。過去にはとんでもないクソガキだったのに(いや失礼)、篠田の教育と愛情の賜物ですね、はい。
お互いの想いを隠さないようになった二人ですが、でも、周囲の人たちにカムアウトするか否かはまた別のお話でして、とくに坊ちゃんは極道の息子なわけで、篠田は坊ちゃんの教育係だったわけで、その辺りはどうすんの?というお話でした。
坊ちゃんの父親という人は割とクソ男として描かれていたので、坊ちゃんが傷つくことになったら嫌だなあ、と思いつつ読み進めました。結末はぜひとも手に取って確認していただきたいです。
『大本気。』の爽くん×迅の二人も登場していますが、こちらも安定の甘々っぷり。遊馬と上手に絡ませ登場させる展開の仕方はさすがしうこさんといったところか。二人のおっさんズたちが手玉に取られた感がめちゃんこ可愛くって微笑ましかった。
最後に『アブナゲ。』の大樹×赤石さんのお話も収録されています。
しうこ作品の「○○気。」シリーズが大好きなので、こうして時々彼らに会えるのは嬉しい限りですが、3CPともとにかく糖度の高いお話になっているので安心して読めました。坊ちゃんの身体を心配しつつ、暴走してしまう篠田さんが特にお気に入り。
あともう一人のツボキャラが、弁護士Jrの中条さん。彼にもぜひとも「○○気。」シリーズの仲間入りをしていただきたい…!
甘々に、さらにしうこさん×ジュネット、ということでエロもてんこ盛りです。美しすぎる絵柄に、甘々とエロエロがこれでもかと詰め込まれた1冊。とっても満足度の高い1冊でした。