私はかねてから加害者が守られる世の中に違和感を覚えています。
しかしこの作品ではいじめ問題が単なるネタになっていると感じました。
この作品に関して傷ついているのも救われるべきなのも奥くんだと私は思います。
仕事にも友情にも家族愛にも心を砕いてこなかった勝手な生き方をしてきた栄が、奥くんに一度も対峙せずに被害者面しているのが腹立たしい。
栄は祖母のことで奥くんに恩がある。奥くんが行動にでたことで罪悪感があるのなら、奥くんのために今度は栄自身がすべきことがあったんじゃないだろうか。
意思もなく始めた仕事など奥くんと共に辞めることもできたはず。辞めて奥くんへの償いと反省を胸に、彼と一緒に新たな仕事を始めることもできた。でも奥くんに会いにいくことさえせず、まるで自分が傷つけられた可哀想な人間みたいな弱りっぷり。
散々他人を踏みつけてきたくせに?
仕事にも対人関係にも、なんの意思も持たずに自分がただ快適な環境にいられることだけを優先してきたから、その結果「他人を助けたい」という感情さえ得られなかった人間なんだと思いました。
設楽も奥くんに対して「栄を傷つけたから許さない」と言います。奥くんに会いにいって支えていたようですが、結局これ。笑いました。
設楽と栄は奥くんの傷の救済をするでもなく友情めいた繋がりを保ちながらいちゃついている頭がお天気な外野にしか見えません。
才能に関してもこのシリーズは、というか一穂さんは薄っぺらい。
常に「最初からなんか知らないけど持っちゃってた」人ばかり。
一穂さん自身がスカウトされて「人生の思い出かな」と作家を始めた人だからでしょうか。
才能がないのを感じながらそれでもどうしても辞められない、続けたい、好きでしかたない、これしかない、と心臓から血を流してむきあっている人間は、恐らく書けないのではないでしょうか。
恋愛についてもいつも、ここで恋愛発生にしよう、と「計画的にくっつけた感」を覚えます。
才能を軸に恋愛を描くには、まるで説得力が足りません。
友情、愛情、才能、なにも心に感じませんでした。
ストライキに関する一連の流れも、テレビ局のお仕事を描くのがお好きなんだろうと思った程度で、なんの必要性を感じられず退屈でした。
奥くんが心から信頼し、支えあえる友人を得て、家族と共に幸せに生きていくことだけを願ってやみません。