前作『ロストワールドエンドロール:ビアンシャンテ』の世界観を引き継ぐスピンオフ作品。
ビアンシャンテを未読でも楽しめるが、読んでいるともっと楽しめると思う。
ただ今作のは設定があまり重要視されてないかな?それよりもキャラクター性が優先な印象でした。
個人的にはビアンシャンテより今作のほうが読みやすかった。
他の方も言っているように白いヴェノムの絵は漫画部分だとわかりづらい…
でもビアンシャンテの時のようにお話のキーがヴェノムにあるわけじゃないから
このくらいの主張のなさのほうがほかに集中できて私はよかったと思う。
(あと少し集合体恐怖症なのでビアンシャンテの黒いヴェノムは見るとゾッとしてしまうので今回は逆に助かった…)
ルカの抱えている過去や特異体質とは裏腹に彼の性格が明るくて表情豊かでひとから好かれる様子なのがすごく切ない。
カレーズの他の仲間たちから愛されている様子をみるとほっこりするし、どうにかして幸せになってほしいと祈ってしまう。
オリヴァーは完璧そうで完璧じゃないところがすごくかわいげがあってよかった。
(ビアンシャンテのラルフもそうだが、久松先生の描く攻めキャラはカッコ可愛い!)
恋愛部分も私はこのくらいの塩梅がちょうどいいと思いながら読んだ。
魂で惹かれ合ってるように巡りあって、何につけても相性が良くて一目で恋に落ちて、
どこで愛に変わったのかではなく最初から愛だったのではないかというくらい、
言葉で説明できないような瞬間の感情のやり取りで二人は結ばれたんだと思って読んだ。
だからむしろ詳細に描いていないことで運命感が強まっている気がする。
一緒にいるのが実に自然で、出会ってしまってからは離れることなんて考えられない二人が描かれていた。
この二人の先の続編がすごく読みたい気持ちになるような、代償のことを考えると切なくて見たくないような…!
今作はスピンオフとなっているが第二弾のほうが合っている気がする。
第一弾であるビアンシャンテとは全然違うストーリーだし、この先第三弾、第四弾と重ねていったときにロストワールドエンドロールの大きなパズルが完成しそうだ。
第三弾が待ち遠しい!!
あとカバー下本当に可愛い、二人が幸せそうでこっちまで嬉しくなる書き下ろしでした。
余談だけど、虎の穴の書店特典にあった裏話が本編に欲しかったなあ…
個人的には衝撃の裏話でした。それも踏まえてビアンシャンテから読み直すと、確かに…!となってしまう。
ビアンシャンテ、ブルレスカ、ハロー・グレイ・ナイトシェードの3作どれも全然違う作品になっていて、
久松先生のスタンダードがどれなのかつい追いかけてしまう作家さんです!
作家買いです。.Bloomの雑誌掲載中から追いかけていた作品がやっとコミックスにまとまって楽しみにしていた一冊!
コミックスの内容については他の方がすごく丁寧に書いてるのでそれ以外の事を紹介したい。
他の方も書かれているように掲載順とコミックスの収録順が変わっていて
でも掲載時を知らなくてもコミックスを読んでじゅうぶんに収録順のギミックを楽しめると思う。
これは久松先生の意図なのか編集部側の提案なのか…どっちだったとしても素晴らしい!
この読み順が実に効果的で本当に感心して唸ってしまうほど!
(前作のロストワールドエンドロール:ビアンシャンテの書き下ろしでのギミックも考えると久松先生の意図かも…!)
実を言うと最初は久松先生の絵柄にそんなに興味がなかった。普段だったらたぶん手に取らないかも…
あえてそれを書かせてもらうのは、やっぱり同じ感覚の人がいたら絶対勧めたいから。
読んでみて欲しい、前作の時もそう思ったけど、いつの間にかすごく惹き込まれてる作品を描かれる先生だから。
久松先生の作品に登場するモノローグとかセリフって、いちいち口に出したり
文字に書きたくなるような見出しにしたい美しいものばかりで読んでいて気持ちがいい。
帯に書かれてる「かわいい嘉一、お前をどうやって壊してやろう」もそうだけど
「かわいい」「かわいそう」を「可愛い・可哀想」で書かないところとか
細かいとこだけどあえてその表記を選んでるんだろうなっていうところがすごく多い気がする。
(たすけて、が助けてじゃないところも)
作品や語り手になるキャラクターに寄ってモノローグの文体に変化があるおかげで
読んでいてすんなりとキャラクターの印象を受け取ることができる。
他にもキャラクターの表情とか切り取り方でどんな意味にも解釈できそうな表情が魅力的だと思う。
1度目読んでそれが意図的に仕組まれてたんだって気付いて、2度目に読んで再確認する感じ!
だから1回目に読んだ本の感想と、2回目の感想が変わってくる。何度も読み返して毎回その罠にはまりたくなる。
久松先生の独特さとか魅力って、そういった小さい罠がいっぱい張り巡らされてるところだと思う。
あと久松先生の作品を読んでいて感じるのは、まるで映画でも見てるような感覚。
読んでるっていうより観てる気分になる。(私だけかな?)
前作の時もそうだけど、久松先生は音もセリフもない部分の漫画が凄く綺麗で、
セリフがないのに声が聞こえてきそうだったり、音がないはずなのに音がしそうだったり…
無音なのに印象的で濃密で、これがあるから読み応え抜群なのかも。
これだけ濃い作品が短編集だってことが驚き。
とにかく読んでみて欲しい一冊。
私は雑誌のほうも追っているので、.Bloomのほうの次回作のコミックスがすごく待ち遠しい!
(今作での書き下ろしもやっぱり次へと繋がりそうなギミックだった!)
ロストワールドエンドロール:ブルレスカも今から楽しみにしてるし、本当に目が離せない作家さんです。