とにかくきらきらしていて、2人とも可愛くて愛おしい、そんな感情が溢れてしまうような下巻でした。こんなにシンプルな描き方だからこそ、刺さるのかもしれません。2人の表情や感情だけにフォーカスできるから。死ねとか殺すとか、きつい言葉をかけ合うのもリアルな男子高校生像ですし、相手が何気なく吐いた言葉に感じたことをちゃんと言葉にして返すところも幼馴染ならではで、そういうラフに見えるけれど実はとても丁寧にキャラクターを動かしているところが素敵だなと。
佐山の母は息子の相手が同性だからいろいろ確認したわけではなく、たとえ異性であっても互いの感情がすれ違っていないか、大事な息子が傷付かないか、同じようによその家庭で大事に育てられた相手が傷付けられないか考えただろうと思います。とても思いやりのある母親だと思う。それに対して堂々と、覚悟なんかしなくてもいい、安心して自分を好きでいたらいいと返せる真山の、おちゃらけているようで実は誰よりもまっすぐ世界に向き合っている真摯さに、佐山はきっとこれから何度も救われ、愛情を深めていくだろうと思いました。
初めて読んだ作家さんでしたが、タッチもラフで可愛いし、台詞もちょっと気怠い空気が常に漂っているのがリアルな男子高校生感があって、こういう雰囲気好きだなぁと思いました。親友以上恋人未満からじわじわ恋人へなっていく過程の上巻。2人ともなんとなく流されて関係性が進む、みたいなところがまったくなくて、どんな時も自分の気持ちを正直に言い合えるところが本当の幼馴染らしくてよかったです。ムカついた時にムカつくと言えるのって健全ですよね。キスも最初からディープキスに至らないところがちゃんと初めてらしくて可愛い。本気で好きだからこそ、最初はこんなものだと思う。そういう描き方が好きです。
萌2に近い萌評価です。『つかの間の恋人』に登場した奏音は完全な当て馬役で、彼の背景を想像させるような描き方ではなかったので、彼のスピンオフで出ていることに驚きました。こんなに哀しい過去がありながら働いていたんですね。店長で彼の義兄である拓真も、当時23歳で方々に頭を下げ、風俗店経営の道に進む決断をするのって相当辛かっただろうと思います。兄として奏音に負担がかからないよう最短の道を選んだのだなぁと、若いのに他者をそこまで思いやれる人格と覚悟に頭が下がる思いです。今までずっと兄として振る舞ってきた拓真は、奏音の恋愛的好意を受け入れるのにはもっと時間がかかるんじゃないかというところだけ引っかかりましたが、2人がこれからも二人三脚で歩んでいけるという結末にはほっと安堵を覚えました。
読む前に知っておいてほしいのは、本作はBLに特化したレーベルから出ているわけではないということ。BL要素はありますが、全体的な雰囲気は一般漫画寄りです。大好きな佐岸先生の新作ということで期待大でしたが、明らかに今までのBL作品とは異なる雰囲気に最初はどう受け取ってよいか分からず、馴染むまで時間がかかりました。私は一般漫画の読者でもあるので、BL要素はなくても全然構わないのですが、BLがどうというより理屈っぽいキャラの長文の台詞がなかなかすんなり入ってこず。
現実には可児のように誰に対しても淡々と自分の考えを綺麗に言語化して吐き出せる人もいるだろうし、猪熊のように追い詰められた過去を押し殺して、日々なんとか社会の一員として足元がふらついたまま生きている人もいると思います。そういうキャラの描写はやはりお見事でした。猪熊のバイト先の店長はあまりにもクズで引きましたが、可児と猪熊の距離感のリアルさは心地よく、じんわり良さが分かってくるような関係性でした。きっとお互いに、灰色時代が長かった人生に色を戻してくれる相手だと分かっているような気がします。でも、まだこの2人に萌えられるほど引き込まれたわけではなく、長台詞にうんうんそうだよねと頷けるほど成熟してもいないので、この評価に落ち着きました。続くようなので徐々にハマっていけたら嬉しいですね。
3巻にして当て馬の登場でお約束な流れですが、2人とも相手を疑う気持ちは微塵もないので、その点に関しては心配いらず。ただただ相手に近づいてくる第三者への警戒心や威嚇が高まるばかりでした。当の本人のハヤタはドMなSubで、分かりやすく中性的な見た目とかではないものの、オトの話もマサの話も全然通じないのがちょっと怖かったです(笑)。自分の欲求に素直である意味清々しいですが、パートナーを大事にしたいと言っている相手に自分の欲を優先してしつこく言い寄る行動には苛々しました。おかげで人前でコマンドを言うオトと、従ってしまうマサを見れて美味しかったですが。マサも読者も念願のサブスペースは通常のプレイの流れでいつの間にかなっていてあっさりな描き方でしたね。でも、カップルとしてはこれがあるべき自然な姿なのだろうと思いました。
スイッチ性を持ったSub、見た目も性格も男らしく強いSubというのが魅力的なDomSub作品なので、続きが読めて嬉しいです。恋人になったからといってマサがすっかり甘えたになったりもせず、今までどおり芯の強い男のままで、Domであるオトを振り回すくらいのSubなのが楽しいですね。ただ、1巻でも感じましたが結構さらっと読めてしまうというか、濃い濡れ場があるかどうかということに関わらず、まだお互い探り探りなところがあるからかもしれませんが、2人のDomSubとしての強い繋がりを感じるまでには至りませんでした。なんというのかな、親友感がまだ抜けきらないというか、濡れ場よりもわちゃわちゃを楽しんでいる感じというか。設定の斬新さはそのままに、DomSubらしい関係性も拝みたいなと思います。
九条はなんとなく悪い人ではないだろうという予感をさせる男でしたが、まさかこういう繋がりになるとは予想していませんでした。彼の真の目的が分かり、真藤化学も一枚岩ではないことが分かりましたね。大きい組織になればなるほど、社員の意思統一は難しいし、当然善人も悪人もいる。自分の目でしっかり見極めることが必要です。情がないから必要以上に非道になったり向こう見ずな行動をとったりすることもあれば、情が湧いていざという時に正しい判断ができなくなったり自己犠牲的な行動をとったりすることもある。これから獅郎には後者の機会がさらに増えるでしょうけれど、一狼と一角、田口や莉音の手も借りて、なんとか苦境を乗り越えていってほしいです。