ホストでノンケのヤリチンが男同士の快楽を知って溺れていく話かと序盤では思いましたが、意外な純愛にストーリーが展開していったので新鮮でした。猫目でおバカで、でもホストの仕事に一生懸命向き合って順位を上げようと努力するタカヤが愛おしくて。BLにおけるホストキャラって大体顔がよくて元々売れているので、ホストの世界でも一番下から地道に頑張ろうとしているキャラは応援したくなりますね。
そして、そんなタカヤと最初から体の関係を持ってしまった斎藤ですが、安易にセフレをつくるようなタイプではなく、ちゃんとタカヤの人となりを気に入っているのが随所で分かりますし、いくらでも適当に返事ができるのにホストとして成長したがっているタカヤの力になってあげるところに、優しさや誠実さが滲み出ているなぁと思いました。過去を克服するというのは、忘れて思い出さなくなるということではありません。痛みや哀しみに折り合いをつけて、自分の一部として抱えながら、新しい出会いに目を向け、一歩一歩踏み出していく。タカヤとの出会いで斎藤もまた、大きく背中を押してもらったのだなと。人と人との出会いはどんな化学反応を生み出すか分からず、本当に面白いなと思いました。
どちらかが中年男性というカップルはさほど珍しくないですが、2人とも中年男性という作品はまだ貴重ですよね。タイトルから気になっていました。2人のビジュアルは好みだったのですが、出会い方や相手を可愛いと思った時の表現などに落ち着きがないというか、全体的にあまりミドルエイジな雰囲気を感じず、学生同士の恋愛と大差ないように感じてしまいました。もちろんいつまでも気持ちが若いことはいいことですし、お互いまともな恋愛経験がないという意味では初心者とも言えますから浮かれるのは全然構わないんですが、もう少し40年以上生きてきた人間ならではの愛情表現だったり、渋みだったりを味わいたかったなと思います。
2年半ぶりにこの2人をやりとりを読めて嬉しいです。ライバル関係と鳥飼の思わぬ純愛がとても魅力的なカップルだと思っています。2巻もけっして悪くはなかったのですが、続編としてはあるあるな展開で少し物足りなかったかなというのが正直な感想です。鳥飼も矢島のことを信じきれなかったけれど、矢島もまた、鳥飼が矢島を対等に見ていないわけではなく、ただただ好きだから怖かったのだという感情を思いやることができなかった。鳥飼のいつも真っ直ぐな瞳を見ていれば分かるはずです。仕事面の描写ももう少し欲しかったかな。鳥飼が怯むほど、なりふり構わず愛をぶつける矢島が見たいですね。
戦時中、そして戦後の空気を描いた作品としては上下巻合わせてとても満足度が高かったのですが、個人的に下巻で登場する2カップルには上巻のカップルほど引き込まれず、この評価に落ち着きました。濡れ場とそれ以外の場面の温度差も上巻よりさらに激しく、若干風邪を引きそうに。伴の誰に対しても変わらずへりくだるところのない態度、園の燃え上がった恋心を惜しみなく相手にぶつけるところには好感が持てました。一方で園のように振り切れない鳴子の気持ちもよく分かります。いろんなものが足りなくて、ひもじくて、常に死と隣合わせだったあの頃の方が生き生きしていて楽しかったという感情は、けっして逃避などではなくそれもまた1つの悲しい真実なのでしょう。戦争というのは人々に本当に多種多様な影響を与えるのだなとしみじみ思いました。
女性のいない戦場や訓練所では、いつの時代どこの国でも男性同士で慰め合う文化はあると思いますが、愛のない絡みから情の交わる絡みへ変化していく互いの心情が、ほぼ濡れ場ばかりの流れの中で上手く描き出されていました。相手を女性の代わりとして始める者もいれば、元々ゲイで男ばかりの空間を利用する者もいて。後者はやはり故郷では生きづらさを感じており、それは戦時中も今も大して変わらないのかもしれません。
特攻隊という、遠征すればほぼ死ぬことが確定している特殊な任務を担う若者たち。上官でありながら参加を躊躇してしまった八木は誰よりも普遍的な人間らしい男だったと思います。身体を重ねる温もり、生きている歓びを存分に味わって、後悔なく逝った者、そして、死にきれず後悔に苦しむ者。様々な分断を生んだ戦争を憎むと共に、極限の状況下でそれぞれ一生懸命他人との関係を築いた若者たちの生命力、胆力に感動しました。
ちょこちょこ嫉妬イベントや非日常的なことが起こる日もありますが、ほぼ1巻と変わらない穏やかな2人のペースで進んでいき、逆にリアルに感じました。お互いの家族に葛藤なく紹介できるのは、新しい時代の作品だなぁと。2人とも親にあまり嘘を吐かず、風通しのよい家庭で育ってきたんだなと嬉しく思いました。現実でもこれくらい楽にカミングアウトできる世の中に変わっていくといいですね。2人の世界だけで閉じずに相手の職場の同僚や友人とも新しく関係が築けているのも、いい恋愛の仕方だなと思います。年を重ねることにネガティヴにならず、大切な人と人生を共に歩むことを楽しんでほしいです。
生意気なノンケの男がゲイに後ろの快感を教えられて堕ちる、という話の流れはよくありますが、この作品はいろいろと他とは一線を画す要素が詰まっていたなぁと思います。まず、敦が本気でゲイを見下していたわけではなく、素直に反省できる性格の持ち主であったことが大きな魅力の1つでしょう。友達にゲイネタを振られることにもやもやしていた彼の気持ち。そういうネタに抵抗がない、一緒に面白がれる人ばかりではないということは、男女問わず肝に命じておきたいですね。そして、自分に非があると感じたら相手に直接謝れることは、特に若いうちはできないことです。客観的に自分を振り返ることのできる敦は、思わず見守りたくなるタイプの受けでした。
一方の日高、彼こそ本物のヤリチンなわけですが、彼なりにいくつか守るべき軸を持っていて、わざわざそれを声高に宣言することはないけれど、折に触れて彼のそんな堅いところが垣間見え、不思議な魅力のある攻めでした。敦に平手打ちを返した時は、今回ばかりは日高の方が悪かったんじゃ……と最初は思いましたが、確かに敦はまだ日高にしか謝っていなかったし、序盤も今も自らの意思で本来場違いな空間に踏み込んで空気を乱しているのだから制裁も覚悟しないといけないか、と思い直したり。日高も賭けに参加していると勘違いされたのはさすがに仕方ない気もしますが、その分これからたくさん甘やかしてフォローしてくれることを期待しています。お気に入りの枠を出ていないという台詞は、遊んでいた男だからこそ誠実に聞こえたのではないでしょうか。敦が日高の言葉を素直に受け取り、信じ続けていれば、日高が恋に落ちる日もそう遠くないだろうと思います。
久々に芹澤先生の作品を読みましたが、やはり絵が本当に綺麗ですね。大河も慧も好みの見た目でした。芸能人というだけで遊んでいそうな、一般人なんか目に入らなそうなイメージを持ってしまいますが、元は皆一般人だったわけですし、芸能界の闇に染まらない人もいるでしょう。撮影に緊張していた子供が純粋な気持ちを抱えたまま成長したのが大河という男。いつも真っ直ぐに慧をとらえる目線で、序盤から慧に対して本気なんだなぁと分からせてくれました。恋愛に後ろ向きだった慧にとって、あの頃からずっと変わらない大河ほど安心できる人は現れないでしょう。綺麗にまとまりすぎていて少し物足りなさも感じましたが、2人にはこれからも穏やかな愛を交わしてほしいと思います。