中学3年生の筒二と孝司は過疎の村の末っ子として野山をのびのびと駆け回りじゃれ合い過ごしている。高校受験を控える2人は周囲の人々が踏み出す一歩に背中を押されるように、新しい道を選んでいく…
過疎化が進んむ村で趣ある木造校舎に通う2人の生徒が主人公。お人好しで猪突猛進、チョロい筒二。冷静だけど少しボケてて若干あざとい孝司。
田舎で人の目が少ないのをいいことに手を繋いだらはしゃぎ回ったりする2人が、ymz先生のやわらかい筆致で描かれていきます。野山や枯葉、積もった雪も陽の光を受けてきらきらしているようでどのページも楽しい。
優しさを受けて育った2人は拗ねないでまっすぐ。自然体験に来た都会っ子小学生の恋愛相談にのるのも、村を出て進学した高校での人間関係に悩む先輩のために奔走するのも全力。そんな思いに応えるように、周囲の人は彼らから勇気をもらいつつ、人生の岐路に立とうとする2人にあたたかい言葉をかけていく。
変わらないものはないし、1人の人を思うことは難しいし、隔てられたら距離を超えるのは簡単なことじゃない。それを学びながら2人はそれぞれ決断を下すのです。
どこまでも優しさに満ちていて、2人の関係を妨害する人物もいなければ重く悲しい過去も葛藤もないけれど、中学生ならではの心にある進路に踏み切る前のもやもやが、どこまでも爽やかに綴られていきます。後からじんわりとあたたまるように。
ずっと一途に相手を思い続けること、変わっていくこと、進んでいくことを丁寧に、かつ軽やかに描いた素敵なお話でした。
最後に。ラスト数ページの筒二の笑顔と孝司の微笑みは反則!
幼馴染萌えの方はぜひ。
たまたま本誌を読んでいたのですが、3話はまるまる差し替え?描き直し?かな?収録分の葵先輩のエピソードも素敵ですね。
「雪の天使」
田舎の屋敷で静かに暮らすノエルの秘密は、元・宝石泥棒であること。当時自分を捕まえようとしていた捜査官のロバートへの想いを小説と年の暮れにかけるいたずら電話にぶつけて10年経ったある日、ロバートが訪れる。最近頻発している窃盗事件の犯人をノエルだと言ってきかないロバートの監視のもと、ノエルのクリスマスイブが始まる…
泥棒仕事や生い立ちのせいで付き合いには壁が必要、日常生活も気を抜けず、孤独を抱えた主人公ノエル。受け入れて、一生このままだと決まっているような諦め姿勢。切ないです。それでも、長年片思いし続ける相手への酔っ払い電話や過去への遠回しな謝罪も気遣いの方向が明後日でポンコツ加減や微妙な図々しさが可愛い。
昔ノエルとの捜査以上の駆け引きの末、逃走されたロバートは目的をはっきりさせないままノエルに容疑の目を向ける。なのに時折思わせぶりなものだから、ノエルは気持ちがぐらぐらしていて読んでいるうちに、はっきりしてあげて!と。(ただノエルも翻弄されてもしょうがないことやらかしてるからなあ…)
そんなロバートだけど、態度に見えるのは優しさや両親を亡くしたばかりの孤独。2人とも胸のうちを完全に明かすことはないけど、お互いに1人でクリスマスを過ごすことへの気まずさを持っているもの同士、言い合ったり振り回しあってでも一緒にいてくれることにどこかほっとするというか。
モノロマ文庫のラニヨンさん作品はミステリやアクション色が強い中、これは穏やか。こんなに静かなのに心の揺れ動きを描ける文章力にうっとりします。ノエルの寂しさに慣れつつも可哀想になりすぎない性格のさじ加減も素晴らしい!
「欠けた景色」
仕事先で運命のような出会いを果たした警察官グレンの失踪を聞きつけ、個人的に捜査に乗り出したFBI捜査官のナッシュ。彼らの逢瀬はたった1週間。それでも2人の間に生まれたものにすがるように探し求めるナッシュは初めて知るグレンの姿に彼への想いを強めていくが…
こちらもしっとりした短編です。
まず始まりの、もう会うことはないだろうが口惜しい…それだけでは言い切れないくらいに別れがたいけど引き留めたり呼び寄せたりもできないという空港での別れのシーンが、ラスト!?というくらい胸に迫ります。想っているのにままならない、という恋人たちの感情の描写、ラニヨンさん流石です。
大きくハラハラする展開はないけれど、自覚しているよりもずっと深いグレンへの思いに戸惑ったり吹っ切れたりで、はたから見れば暴走しているかのようなナッシュのグレンを求める気持ちにぐいぐい引き込まれます。
また、都会で地位を築いているナッシュの目で暴かれる地方の偏見や息苦しさも濃厚でした。
ラストには少し物申したい…けども、読後にも残る切迫した中での諦めきれない執着や増していく恋しさのひりつきが読み応えありました!
「So This is Christmas 」
クローク&ダガー書店を経営するアドリアンは、忙しない家族とのロンドン旅行を終えても従業員と義妹の色恋沙汰や、家族との距離に苦しむ恋人ジェイクへの心配などで悩みは尽きない。そんなとき、三年前に巻き込まれた事件関係者ケヴィンから恋人の行方不明について相談されるが、探偵業を営むジェイクにも同じ人物の捜索依頼が舞い込んでいて…
小説家兼本屋さんと刑事が送る「アドリアン・イングリッシュ」シリーズ、本編完結後の外伝です。
未読でも一応〜大丈夫だけも、読んでるとキレッキレの皮肉、人物の関係だとかが楽しい(知らないとやけに深刻な2人だな?ってなるでしょう…)
重い持病のせいで自立心の強いお人好しアドリアンと、やっとくっついたジェイクが小言や喧嘩をしつつもやれやれベイビーと言うこのパターンに涙しそうになりました。2人がここまで!ここまで、来たのか〜…!
ジェイクもアドリアンもお互いに対して少しビクビクしている。並んで歩けることが夢のようで神経質になったり卑屈になったり、それでも譲れないこだわりではガンガン言い合う。読んでいてヒヤヒヤハラハラは相変わらずだけど、離れまいとする深い思いが根底にあるのを感じます。
思い合っていても、完璧に全ての気持ちが伝わるわけではないし、愛していても分かちがたい感情が横たわっている。いつか幸せは壊れるかもしれない。それらへの寂しさは拭えない。けれど少しずつ許し歩み寄り寂しさをこえていくアドリアンとジェイクにはシリーズが終わってからもやっぱり胸が締め付けられるような切なさと希望を感じます。
店舗拡張で繁盛の書店に舞い込むサイン会開催の依頼者にもニヤリ。1人は3作目のキーマン、もう1人はラニヨンさんの「Holmes&Moriarit's」シリーズの主人公、の片割れ(まだ翻訳されていませんが、3作目deでサイン会が開催されているとのこと)。アドリアンの強烈な母親リサや元恋人ガイの登場、リサ譲り?のアドリアンの家族への想いの強さも面白い、ラニヨンさんの作品への愛を感じる素敵な一編でした!
が!一応苦手な人もいるかな…ってシーンがあるのでシリーズ愛読者の方は読むときには心の準備を!!
『YONG BAD EDUCATION』の続編です。
お互いにストーカー気味スパダリ気質年下×おろおろ不憫系年上の日常ものです。
なれそめを描いた前作で既に、「同性であること」「教師と生徒の攻防(?)」「恋する非日常感」は描かれています。
今作のメイン要素は「両思いとその先の不安」ですかね。
片想いの相手に好きと言われてずっとうろたえる高津先生のおろおろ具合がたまりません。年上受けのえろさや大人っぽい余裕はほとんどないんですが、可愛いんです!
大人なぶん見えるようになる周囲と自分達の差や心配事に悩んだり恋人への引け目や両思いになったことへの昂揚感に振り回されています。水沢君、もっといじめちゃえと思いつつ幸せそうな顔も素敵なんです。水沢君のハイスペックさとバランスがちょうど良いです。
攻めの水沢君は基本的にスパダリなんですが、子どもっぽい表情が年相応でたまりません。優位に立っているのに、先生の福美のない言葉にも年の差を感じてむくれたり、受験の喜びでだばだば涙をこぼしたり。誰に対しても大人びてすん、とした態度の水沢君が好きを見せるのが先生の前だけだという関係性がもう!もう!
問題が起こる前から頭を悩ませる高津先生のフォローをするときにストーカー発動したり怒ったりするシーンが好きです。
いつ読んでも幸せに頬がゆるむようなお話が詰まっていて、そのどれにも必ず年の差カップルの萌えが存在していて最高です。
また、編集部の方々やtwitterでも話題でしたが、最終話、特に終わりの3ページは素晴らしくて気がついたら泣いてしまいました。
ふいに、ああ、この二人はすごく幸せでこれからもいざこざや壁を見つけては言い合ったり乗り越えたりするんだな、という未来を感じて胸がいっぱいになって……。読み終えてしみじみと、素敵な作品だった…!とじんわり思える良作です!!
頭の良い天然の葉純くんと、てきとー(に見える)根井と、二人を見守る先生のお話です。
葉純くん
木庭先生に憧れるあまり生物(先生の担当教科)だけ赤点をとって補習に来るという天然。
先生の前のきらきら〜と根井の前でのむっとした感じのギャップが最初はすごいんですが、可愛かったです。どこが、っていうと大分詰めが甘いんですね葉純くん。補習に来てるのにプリントさらさら解いたり、感情が表情に出過ぎたり。隙?というか頭は良いのに表情が可愛くて葉純くんがぐるぐるするほど微笑ましい気持ちになりました。
根井とのやりとりで人付き合いの難しさを少しずつクリアして歩み寄っていく姿が素敵です。「大丈夫だよ」のところでなんだかここまで来たかーと感慨深くなってしまった…
根井
ちゃ、ちゃら男だ〜!と思ったのですが、とっても良い子です!
最初はタイプの違う葉純くんと馬が合わず図星をぐさっとついてくるのですが、おすすめされたアニメを徹夜で見たり、花の世話ちゃんとやったり、生物苦手設定を忘れた葉純にツッコミを入れたり、人の感情を汲むのが上手だったり、素直さのなせる魅力がいっぱい詰まった子です。
先生の話を聞いた後から見せる悩んでる時の目線が明るい普段との対比でグッときました。
お菓子の新作をゲテモノと知ってもついつい買っちゃう高校生っぽいところも可愛いです。甘えがちな猫みたいでした。
木庭先生
生物の先生です。もっさりした感じ。
この先生、恋愛として話に絡んでこないところがすごくいいな、と思いました。助言はしますが、あくまで「先生」で「大人」なんです。葉純がわざと赤点をとっていることも、根井の気持ちも察していました。葉純と顔が似ている元恋人を思い出してもずっと一途です。(でも、恋人の好きだったラーメン屋を葉純くんに教えたのはどんな気持ちだったんでしょうか…)
書き下ろしで数年後が描かれていますが、先生にとっては葉純も根井もずっと教え子で子どもなんだなーと思いました。
先生が単なるスパイスではなく、主要人物だ、という感じがとても好きです。
全体的に画面が細かく美しく、場の空気感(友達と過ごす夜や先生の車に乗るちょっとした非日常感とか)が伝わってくるようでした。
主人公達にとっては人生でそこそこ印象的な出来事なんだろうけど、それが全てじゃなくて、色々あった中の1つ、みたいな感じもツボでした。
目の描写も印象的で、お話も静かなのに染み渡るような構成でこれからも応援したい作者さんです。
…先生と小林はどっちがどっち…もにょもにょ…
4巻はアクション?というかカーチェイスがシビれました。
矢代
シリーズ通して切れ者なのに変態、という感じでしたが、今回は頭を回転させて動くかっこいい一面が多かったです。木刀のシーン、顔が狂気じみてて最高です頭。
どんなに時が経ってもアパートで暮らしていた頃の記憶は矢代の中で根深いのだな、と時かけセリフで感じました。
百目鬼に気持ちを吐露するシーンからの引きは…ずるい…。
百目鬼
だんだん躊躇しなく(できなく)なってきたな!
興奮すると手がつけられなくなるタイプなんだな、と改めて思いました。登場人物の中だと若いなのが際立つというか。
いつも以上に矢代の中の影山をすごく意識しています。コンタクトケースとか、車の中とか。百目鬼が過去の苦い思い出を払拭してくれる日を待ってます!
その他
メイン以外の見せ場も多かったです。
七原は、回想で自意識過剰なところ、自分の信条を貫こうという姿などで矢代の覗きしてるだけじゃなかったのか!と。
その七原以上に矢代のことを理解してるのが竜崎でした。恋愛としての好意なのかわからないですが、誰もが矢代を狂ってるとかこの道に向いてるとか言う中で竜崎のような視点で矢代のことを見てくれている人がいたというのがよかったな、と思います。矢代には一生伝わらないだろうけど。
三角さんなんかは竜崎と同じことに気づいていて矢代を押し上げようとしているんでしょうか。今回も親バカっぷり炸裂。天羽さんが語ることで平田の歪み方もちょっと納得。
社会で揉まれて擦れてるのに子どもっぽい桜井さんと、無愛想な美大生の蓉一の話です。
桜井さん
雰囲気は大人です。過労でふらふらでも仕事を続ける姿は見てるこちらが心配になります。それなのに、蓉一と口喧嘩(というよりもう、あしらわれてるだけ?)すると子どもっぽいんです。自分から近づいたくせに蓉一の言動に苛立ったり、惹かれたり。しかし、大人でデキる男です。ずるい。
一巻は夜が舞台のシーンも多かったのですが、屋敷林のしーんとした空気や静かなやりとりの中で恋を自覚する場面は必見です。美しい…!!
蓉一
大きな屋敷(下宿)で親戚と暮らす美大生です。無愛想を通り越した塩対応で桜井さんをズバズバ斬ります。
表情の変化がなく、言葉にも遠慮と容赦がないし19歳という年には似つかわしくないんですが、なんとなく可愛い…気がします。桜井さんに絵を見られたときのセリフはときめきます。
黙っているだけで絵になる雰囲気のある人です。目の奥に感情が宿っているような日高先生の絵が映えます。
それにしても「また不法侵入」何回言ったんだろう…
下宿生活をする菖太とタケさん、蓉一の同級生の藤本、桜井さんの部下井上、それぞれに「役割」だけでない性格があるからこそメイン二人の輪郭がはっきりしています。
日常とか周りの人々も普通に生活する中で思いが育まれていくので、ゆっくりした印象ですが(一巻で既に出会いから数ヶ月経ってます)、その分読み応えもあってじわじわ染みこんできます。
どれも素晴らしい短編ばかりですが、特に好きなものの感想を…
「タッチ・ミー・アゲイン」
8ページとは思えないほど物語として美しくまとまった表題作です。
暴力男の遠田と優しい押切。
DVとかSMとかでなく、つい手が出てしまう、の延長みたいな男と慣れてるけど傷つく、という構図が友情と恋愛の境目があやふやなままきてしまった二人の関係性みたいだな、と思いました。
CDがだめ、ということではなく、漫画であるから成立するバランスみたいなものがあると思います。
「息をとめて、」
繊細で下品で可愛い天才の芥さんと、ずるい男の佐方さんの話。
応えない佐方さんずるいな〜!と思うのですが、その態度もわからなくもないといいますか。厚意を示されたからってきっぱり関係性を決められるわけ無いよな、と思います。
芥さんは一途で一途でずるいずるいと言いながらも佐方さんを思い続ける姿勢に、下品だとかいう感想も吹き飛びます…いや、でもちょっと露骨…。報われてほしい人です。
おまけで恒夫を交えてぎゃんぎゃんやってる三人が可愛いです。要約するとこんな感じの話、っていう。
この話がたまらなく好きです。
「スターズ・スピカ・スペクトル」
過去を悔いたままの木路と声のでない?幽霊の尾阪の話です。
もう戻れないからこその切なさが詰まってます。
漫画はモノクロなのですが、特にこの話はモノトーンな雰囲気で、ただ、ラストに声が通じるところはきらきらして見えました。
木路は沢山後悔して反省して、良い人に出会うなりなんなりしてほしいです。
ヤマシタ先生は何かのインタビューで決まったフレーズがあると作りやすい、という趣旨の話をなさってましたが、この本は特に印象深いフレーズがいっぱいあったな、と思います。
彼女持ち、ハーブ好きバスの運転手安城と、帰国子女で何気にロマンティックな翻訳家の峰の話。
峰
物静かな感じですが、結構勢い任せというか正直者?素直?
帰国子女ゆえの疎外感とか、封筒の標本を飾ったりだとか繊細に見えますが開き直ると強いです。キレるシーンは一瞬ビクッとします。
だんだん安城よりフリーダムなやつに見えてきます、なんだか。自分に向いている気持ちにも、自分の気持ちにもそこそこ鈍感そう…。
安城
人付き合いがうまそうでのらりくらりとしている割に、警戒心の強い人です。
ほぼモノローグがないのでこの人の本心がわかりづらいのですが。
あと、みちこちゃんのことはちゃんと好きだったと思います。
峰がバスに乗った日の夜が好きです。
みちこ
みちこちゃんは素敵な女性だと思います。
安城の彼女なのですが、二人を邪魔することも恨むこともない、嫌な人ではありません。
すごく強烈に話に絡んでくるわけではないし華やかでもないのですが彼女の存在なしにはこの話、成立しないと思います。
個人的には最高でした。こういうのが好みだったのか!と。新しい趣味をこじ開けられました。
ただ、合わない人には合わないと思います。構成がわかりづらいですし、言うほど日記ぽくもない。
(その日一番印象的だった出来事を切り取って混ぜた感じですかね)
オレガノ美味しかったです。
真澄
社交的、人当たりも良い。なのに興味本位で飛田くんと不思議な関係を結ぶような大学生です。
飛田くんの事を何考えてるかわからない、とずっと思っているけれど、真澄も大概何がしたいのか読み取りづらいです。飛田くんにペースを乱されてうろたえたり、寂しがったりするシーンはいつもの飄々とした雰囲気が崩れて、ぐっと好きになりました。
飛田
無愛想で交友関係も狭いのに、Mです。いじめられている時の顔はなんだか可愛いのですが、普通にしていても独特の雰囲気があります(隠れ?ファンもいるんです)。貴重な笑顔はときめきます。
何をするにしても大体煩わしそうなのですが、彼が珍しく本心を語るシーンは静かなのにすごく印象的です。
Mと、SじゃないけどS役をする人、という組み合わせの二人なので異文化交流みたいでした。ラストを読んで思っていることは言わないと伝わらないよな、と思います。
最後に裏表紙で真澄の目を見てから読み返すとまた味わい深いです。