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マスターレビューアー 「BLアワード検定」合格証 ソムリエ合格

女性みざきさん

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殺人一家のサイコパス7兄弟が贈る歪な恋2作目

昼間は大学教授。その裏の顔は…と、血で真っ赤に染まったダークヒーローのようなマルヴァニー一族の次男坊・オーガストに目をつけられてしまったのが、きっとルーカスにとっては不幸だった人生が幸運に変わる7日間の始まりだったのでしょう。

とある大富豪に引き取られた、人を殺めることになんのためらいもないサイコパス7兄弟の恋を描いたシリーズの2作目となる今作は、物理学者として大学で教鞭をとる次男が主人公。
血生臭さや、女性が被害者として絡む性犯罪関係の描写が苦手な方にはおすすめできませんが、破れ鍋に綴じ蓋・最高の出逢い・特殊性癖・リバあたりのワードに興味がある方にはもしかするかもしれません。
時系列的に1作目のその後となっていますので、まだの方は先にそちらを読んだほうがより楽しめるかと思います。

やや機械的なオーガストの独特な口調と思考の数々に、いったいどんなヤバい恋を繰り広げてくれるのか?とワクワクしながら読み進めると、期待以上のヤバい恋が待っているではありませんか。
人や物に触れると記憶が読み取れてしまう、いわゆるサイコメトリー能力を持つルーカスと、サイコパスであり自閉スペクトラム症でもあるオーガストの組み合わせはまさに運命的なものでした。

人を愛したことがないオーガストが抱く執着心と、不器用ながら必死にルーカスを求め守ろうとする一途さを見れば見るほど、だんだんかわいらしく思えてくるのだから本当に不思議。
突拍子もないむちゃくちゃな行動ばかりなのに、なんだか許せてしまうんですよね。
ルーカスと出逢って以来、まるでアンドロイドにはじめて血が通ったようというか…あまりの人間1年目っぷりに頭を抱えました。
良くも悪くも嘘がないストレートな言葉しか伝えられない彼は、思考が読めるルーカスにとってはこれ以上ないほど心安らげる人だったのかもしれませんね。
逆もまた然りで、戸惑いながらも自身のすべてを受け入れてくれたルーカスがオーガストにとって唯一無二の存在になっていく様子も読み応えがありました。
2人とも、孤独や生きづらさを知る理解者とやっと巡り逢えたのかな。

そして、フェティシズムがくすぐられる描写も必見です。
殺しを愛してやまないオーガストがベッドではマゾヒズムの傾向があるだなんて、設定作りが上手いなあと。
なんとなくルーカスが受けなのかと思いきやそうでもなく、この2人はおそらく上下はどちらでも良いのだろうなと個人的にはうれしいポイントのひとつでした。
1番新しいなと思ったのは、ルーカスが攻める側でも受ける側でも、サイコメトリー能力によってオーガストが感じている快感を同時に得てしまうというとんでもなくおいしい設定。
読んでいて非常に斬新で、抱きながら抱く…そうきたか〜!となりました。ぜひ。

ルーカス周辺に付きまとう事件関係もピリッとしたスパイスが効いていて、要所要所でヒリつかせてくれます。
ただ、もう少し短めにまとめられたのではないかなと思うところも。
ですが、1作目同様に悪をバッサリぶった斬る思い切りの良さはある意味爽快だったので、こちらの評価になりました。
他兄弟とのやり取りも楽しかったですし、次はどのマルヴァニーの恋が描かれるのかが今から楽しみです。

おまけが充実した新装版

強くてかっこいい男前な攻めが、受けの言葉ひとつで赤面してしまう姿ってすごくおいしいなと思います。
190cmをポンと飛び越えたガタイの良さと、優しさMAXの性格を持ったトラウマ持ちのα・鉄司の誠実さ。
そして、飾り気のない言葉で鉄司に好意を伝え続ける金田くんの一途さ。
かっこよくてかわいい2人の人柄の良さが妙にツボにハマった作品でした。

旧版既読です。
レーベル移籍に伴って発売された新装版コミックス。
同レーベルで続編を描く予定があるとのことで、これからその後の彼らが読めるのかと思うとうれしいなあ。
旧版と同内容の本編に加えて、続編へと繋がる32Pの描き下ろし+旧版発売時の各書店特典とフェア小冊子に寄稿されていた作品がギュッと詰めこまれた1冊となっています。
描き下ろしやおまけが充実していますので、以前から気になっていたよという方にも、旧版を持っているけれど特典類は未読だよという方にもぴったりなのではないかな。
もう少し読んでみたい方には、描き下ろし部分のその後が掲載されているコミコミスタジオさんの有償小冊子付きをおすすめしたいです。
絵柄に関しては、鉄司の目が少し大きくなっていて以前よりもポップな印象を持ちました。かっこかわいい雰囲気です。

運命的な一目惚れから始まるオメガバース。
タイトルの通りハッピーではあるのですが、時折シリアスな面も…と、全編カラッと明るいラブコメディを想像するとちょっと違うと感じるかも。
お互いのことを何も知らない関係値がほぼ0状態の2人が少しずつ惹かれ合い、好意のメーターがぐんぐん上がっていく恋の芽生えと成長を追いかけて応援したくなる作品だなあと思います。

鉄司に恋をする金田くんのまっすぐさと天性の愛らしさはもちろん、過去のトラウマの影響によって金田くんからの好意を受け止めきれず、徐々に膨らむ恋心との間で葛藤する鉄司の姿は必見です。
こちらの2人。どちらも嘘のない好意が詰まった言葉をごく自然に贈り合える関係なのが本当に素敵なんですよね。
相手の口からぽろっと漏れ出たうれしい言葉が積み重なって「好き」が大きく育っていく様は読んでいてとても心地が良いもの。
くっついてからの金田くんにベタ甘な鉄司がこれまた良くって…!
この甘さの先が読めるのかと思うとわくわくしますね!

ジュリアン周辺のエピソードが唐突にカットインしサラッと描かれているのがもったいなく感じていたので、彼と鉄司のことも今後もう少し読めるといいななんて。
続編、楽しみにお待ちしております!

受けの変化が見どころ

眼鏡×眼鏡ものとでも言いましょうか。
どちらも眼鏡キャラクターというのは珍しいのでは?
眼鏡をきっかけに出逢った2人の両視点で綴られる、ころころと明るい雰囲気のラブコメディ作でした。
かみ合っていないのだけれど、ある意味かみ合っているようにも見えてくる綺麗な交わらなさと、誤解と思い込みと勘違い。
そして、そうくるか〜と思ってしまうほどの天然受けっぷりに切江先生らしさをひしひしと感じます。

逆を言えば、うーん…決して楽しくなかったわけではないのですが、以前もこういうテンションのお話を書かれていたかなあと既視感を覚えるところもありました。
個人的に、好きな作家さんであると同時に、最後までリズム良く全力で楽しめるかどうかが作品によってはっきりと分かれる作家さんでもあるかなと思っていて。
今作はなんだかなかなかページが進まず、スムーズに読めなかった1冊だったのです。

好きな作家さんのはずなのになぜなのかなと読み返しながら考えてみると、結構な頻度でイケメンやイケボなど、同じワードが短い間隔で何度も繰り返されているんですよね。
これは読んでいて少々くどく感じられました。
会話の合間に、各視点の脳内がワーッと喋り出すかのような心情やコミカルな小ネタが挟まれているのも楽しいのです。
ただ、今回はそれが多く感じられ、ちょっとお腹がいっぱいになってしまったのかも。文章が合いませんでした。

よく見ている動画の向こうの人が職場に現れる展開はそわそわするものでしたし、想い人にあれこれとアプローチを試みるも上手く伝わっていないかみ合わなさも、もどかしくも追っていて愉快なもの。
けれど、そこでそうなってしまうんかい!と、攻めの京の逃げ腰ヘタレっぷりがどうにも私のツボには刺さらず…
どちらかというと、中〜後半にかけての受けの一咲の方が好みでした。
自分が伝えたい気持ちと言葉をまっすぐに伝えようとする男前な一面はなんともよかったです。
やや合わない部分が多く残念でしたが、天然受けの印象がガラリと変化する展開は気持ちがスカッとしました。

おじさん構文、癖になっちゃうナ!

あれは数年前、GUSH本誌を何気なく読んでいた時でした。
誌面に彗星のごとく現れ、私の脳にドカンと強烈な印象を残していった短編漫画のおぢさん。
それがヒメにいでした。

なーくんこと七央へ宛てた、重すぎるほどの愛があふれる文面とベッドでの口調はどう考えてもモブおじさんだというのに、パッと顔を見れば100点のルックスを持つとっても残念な男前。
あれ以来、どうしても彼のことが忘れられない病を患っていたのですが…
数年経ち、まさかのコミックス発売に思わずガッツポーズをすると同時に、自分はこんなにヒメにいに会いたかったのかと非常に驚いています。すごいやヒメにい…
アンケートはがき、送ってみてよかった…!

上記の短編として掲載されていた作品が第1話となり、ヒメにいと七央のその後が続編として描かれている今作。
久しぶりに読んでもなかなかにパンチが効いた「なーくん」のことが大好きなヒメにいの変態的な言動と様子のおかしさの数々に、そう!これこれ!と、いろんな意味でゾクゾクしながら全力で楽しんで読みました。
いやあ、読んでいて本当に楽しいんですよね!
絶妙なクスッと笑える気持ちの悪さと共に、謎の多幸感と満足感に包まれて読み終えられ、なぜか元気も出る稀有な作品です。
これはもうこの評価しかないと、自然と指が神評価を押して今に至ります。

裏垢男子・なーくんが、自分宛てにいわゆるおじさん構文絵文字のカーニバルのような暑苦しいDMを送り付けてくる「ヒメにい」に興味本位で会ってしまったところから始まる物語。
普通にしていれば、顔よし・地位よしの物腰穏やかで爽やかなお兄さん。
ただ、ポロッとリミッターが外れると途端にぼろぼろと34歳の若さとは思えないおじさん感を見せつけてくるヒメにいの変態的な言動に、気が付けばなーくんと共に読み手までどハマりしていく摩訶不思議な現象が起こるのです。

こちらの作品。なんといっても、なーくんを蕩けさせてやまない濃厚な濡れ場と、ヒメにいの隠し切れない濃厚なおじさん力のマリアージュは必見でしょう。
真夏のセミよりも騒がしい無意識下の脳直言葉責めの数々に笑い、久しぶりの挿入からの「ただいま」に、そこがマイホームなんや…と爆笑してしまいました。
咄嗟に口から出てくるおじさん語彙力検定がもしあるのならば、ヒメにいは確実に上級でしょう。

やはりどうしてもヒメにいの純度の高い気持ちの悪さに目がいってしまいがちですが、その発言の数々もなーくんを心から溺愛しているがゆえですし、合間に描かれるちょっぴり不器用な愛嬌のある一面もすごく良い味を出してくれるのです。
そう、読めば読むほどかなりの溺愛攻めなことが分かるんですよ。ここが気持ち良い。
寂しがり屋のなーくんが、当初は興味本位からのパパ活感覚の付き合いだったはずなのに、次第にどんどんヒメにいにほだされのめり込んでいく姿を見ては、癖になるよね…わかるよ…と頷くばかりでした。
しつこいほどに溺愛されるくらいがなーくんには合っていそうですし、毎日かわいいと大好きを全身で伝えてくれそうなヒメにいとの相性はぴったりなのかも?
彼らの今後も覗いてみたいなあ。

なんだか好きすぎて長くなってしまいました。
愉快な破れ鍋に綴じ蓋CPの奇妙で楽しい恋が読めてうれしかったです!
ヒメにいというでかい波に全力で乗り切れるかどうかでハマれるかが分かれる作品かと思いますが、ハマる人にはハマるスルメのような1冊です。
おもしろいアプローチの作品をお求めでしたら、ぜひ先っぽだけでも試してみてほしいナ!

誠実な褐色攻めって体に良い

褐色肌にタトゥーが映える黒髪の美丈夫というだけでもうご馳走なのですが、そこに落ち着いた人柄と愛情深さが加わるとこうも魅力的になるのかと、誠実攻めの良さを改めて噛み締めました。
端正な顔立ちをした包容力がある攻めが、受けの言動・挙動ひとつで太めの眉をぎゅっと寄せてなにかを耐える顔ってたまらなく良い景色だなあと感じます。
山本先生が描く攻めの色気をたっぷり浴びられる1冊です。

若く精悍な一国の王子様と、決して恵まれているとは言えない環境で懸命に生きていた妹想いのベータの青年が、ある日突然オメガに変異してしまい運命的な出逢いをする物語。
オメガバース設定に身代わり花嫁もの要素をプラスした王道シンデレラストーリーといったところでしょうか。
病弱な妹・いじわるな親戚・偏った思想の王・一筋縄ではいかないハレムの面々…と、2人の周囲を取り巻く人々に関しても王道めかなと。
受けのラザルのバース性が変異することを除けば特殊な設定もなく、1冊の中でまとまっているスタンダードなお話を楽しみたい時や、褐色の包容力攻め×健気受けが読みたい!なんて時にはぴったりかもしれません。

蓋を開けてみれば、あまり家庭環境に恵まれなかった者同士が少しずつ愛を持ち寄って家族になっていく。
そんなお話だったように思います。
アルファとオメガのいわゆる運命の番に引き寄せられてスタートした2人ですから、初めから大恋愛というわけではなく、ビビッときた直感を徐々に育て上げて恋愛関係になる姿を見守る形になりますね。
突然変異でオメガになった実感もないままに、儀式で妃に選ばれてしまったラザルの人生はジェットコースターのようですが、周囲でさまざまなことがあれど、攻めのエイジャスが一貫して愛情深い人なので安心して読めました。

…と、全体的に読みやすかったのですけれど、自身の身体が変化してしまったというのに、ラザルの中であまり葛藤が見られなかったことが気になりました。
そして、2人の恋愛感情が育つまでが…うーん…ちょっと運命に引っ張られたスピード感のあるものだったかなと感じる部分も。
綺麗にまとまってはいるのですが、終盤の駆け足さは否めず星3.5寄りのこちらの評価になりました。
受けが愛らしくて仕方がない攻めの様子はとても良かったです。
余裕がありそうに見えて、実のところそうでもなさそうなエイジャスが好き。

大きな羽根が美しい体格差もの

まず、絵が本当に綺麗です。
人物はもちろん、鳥ならではの美しい羽根のフォルムが見事でした。
動きのあるシーンの大型種の羽根の美しさったら!
これは魅入ってしまいますね。

鳥人たちが生きる世界のお話とのことで、小型〜大型種の体格差はもちろん、捕食する側である大型種の猛獣化…など、鳥社会ならではの特徴が盛り込まれていて、オリジナリティのある設定で楽しめました。
幼い頃に出逢っていた2人の再会ものなのですが、攻めのアルトの目に見えない健気な一途さがすごく良かったなあ。
本当にコトリのことが大切だからこそな葛藤と、不器用すぎる彼の愛情深さが好ましかったです。
お礼を言われるだけで照れてしまったり、一生懸命に不慣れな料理にチャレンジしてみたり…時折漏れ出てしまうかわいらしい一面もこれまた良くて。
そして、辛い過去を持つアルトに大きな影響を与えたコトリ。
小型種のオオルリという小さな体ではあるけれど、包容力はきっと大型種のアルトよりも大きいのではないかな。
蓋を開けてみれば、一途な2人の両想い再会ものでしたね。
相思相愛になったあとの2人は読んでいて微笑ましくなるくらい甘くてかわいらしかったです。

アルトが大きな羽根でコトリを包み込んで眠る姿や、毛繕いならぬ羽繕いをし合う2人のほのぼのとしたエピソードがとっても良かったので…
欲を言えば、両想いからすぐにベッドシーンに入る前にワンクッション甘いエピソードがあればうれしかったかなあと思うところも。
とはいえ、想い想われ・救い救われな2人の愛情深さは非常に好みでした。
鳥人・大きい×小さい・健気一途な攻めと受けあたりのワードにピンとくるものがある方にはもしかするかもしれません。

おもしろくないわけではないのだけれど

安西先生がセンチネルバース?と、いったいどんなお話を書かれるのだろうかとわくわくしながら手に取りました。
結果、おもしろかったかおもしろくなかったかでいうと、決しておもしろくないわけではない。
ただ、物語に没頭するほど惹き込まれたか?と考えると否でしたし、残念ながら萌えたか萌えなかったかでいうと、私はあまり萌えられなかったかなとこちらの評価になりました。

やや自己犠牲的にも思える中条の内面の不安定さや、やっと自分と相性の良いガイドを見つけられた彼の喜びが伝わる心理描写はとても良かった。
まだ情緒が育ちきっていない危うい美人というか、吉積が好きな人になろうと掃除も食事も頑張る中条は健気で愛らしかったです。
そして、そんな彼を文字通り引っ張り上げる吉積のすっきりさっぱりとした性格も非常に好ましいものでした。
中条の苦手な食べ物をなんでもないことのように食べてあげたり、おおらかで何気なくしている行動のひとつひとつがやさしい人です。

ですが、肝心のセンチネルバース設定が少々ふわふわとしているように見えたことや、バディとなる彼らが挑む事件の数々が設定のわりにどれもそこまで派手なものではなかったのが惜しかったです。
中条の口からはぽつぽつとしか語られませんが、幼い頃からあれだけの環境の中で苦しい思いをしてきたというのに、人が多い場所にいても平気なのか?と単純に疑問がわきましたし、努力をして克服したのならどうやって慣れていったのかまで知りたかったなと。
1番残念だったのは2人の恋愛面。ここが大きかった。
中条はともかく、吉積のポリシーがあっさりと流されて覆ってしまい、庇護欲が恋愛感情に変化する図が唐突に思えて、一貫している考え方が好ましかったのにそりゃあないよとがっかり。
放火事件の終盤も盛り上がらず、本来であればもっと胸が切なくなりそうな中条が眠り続ける日々もあっさりと描かれていてすっきりしないまま読み終えて今にいたります。

現代ものなら安西先生!と、新刊が出れば思わず手に取りたくなるほどすごく好きな作家さんなのですが、今回は自分の好みとは異なりました。
時間にも恋愛面にも、もう少し奥行きが欲しかったです。

巧みな心理描写が光る1冊

旧版となる花丸版・プラチナ版ともに既読だったのですが、最後に読んでからかなりの年数が経っているのもあって、初読に近い感覚で読みました。
やはり、何年経っても名作は名作ですね。
本編を読み終えてため息をつき、同時収録されている2人のその後を描いた短編の数々を追っては、余韻に浸りながら胸がぽかぽかとあたたかくなる。
元々好みだったのだけれど、過去の短編が収録されたことによりさらに大好きな1冊になりました。

凪良先生って、日常の中でどことなく居心地の悪さや窮屈さを感じている、どこかにいそうな人の内面を描くのが本当に上手い作家さんだなと思います。
今作でも高校生の瀬名という、子供すぎず、かといって大人というにはまだ幼さが残る、ちょっと触れたら一瞬で壊れてしまいそうなくらい脆そうな少年の複雑な心情が丁寧に綴られています。

瀬名という少年は、我々大人から見ればどうしようもなくどこにでもいそうな子供なのです。
自分にはどうすることもできない世の中の理不尽に憤り、周囲に合わせて日々をなんとなく怠惰に過ごし、将来の夢もなければ、相手の気持ちを考える心の余裕もない。
いわゆる青い時代の真っ只中にいる彼の毎日はとにかく退屈で、家庭環境の影響もありとても不安定です。
そんな彼が、ひょんなことから今まで接点があまりなかった英語教師の阿南と強引に交流を深めていくことになり…
と、瀬名視点で語られる阿南と出逢ってからの日々を追いかければ追いかけるほど、今まで蓋をしていた年相応の未熟で幼い感情が次々にあふれ出してくるのが分かってたまらない気持ちになりました。

自分のことをわかってほしい。構ってほしい。
本当は甘えたいのに、大人に素直に甘えられない1人の少年のデリケートでやわらかい内面が、巧みな心理描写で暴力的なまでにむき出しになっていく様は読み応えがあります。
自身の中でどんどん大きく育つ、年上の阿南への気持ちを持て余して時に暴走してしまう、身体は育っていても幼さが残る彼のことがどうにも愛おしく思えて仕方がありませんでした。
それと同時に、阿南の大人であるがゆえの一見わかりづらい愛情深さが見え隠れするのもすごく良くて。
はっきりと口にはしないのだけれど、見逃してしまいそうなほどさり気ない所作から、瀬名のことを愛しく想っていることがしっかりと伝わってくるんです。
大人なりの不器用な愛し方が沁みました。

青くさくて未熟で未完成な少年はどんな大人になるのか?
まだ形が定まっていない不完全ななにかが、懸命にもがいて成長していく姿を一緒に歩きながら追いかけられる良作です。
再会後の阿南がなんだか妙にかわいらしく、大人同士になった2人のその後をもっと想像したくなりましたね。

己の価値を決めるのは誰か?

20年ぶりにコールドスリープから目覚めた主人公だなんて、導入から思わず興味を惹かれてしまう設定ですよね。
あまり見かけない題材だったものですから、真人が眠りから目覚めた20年後の世界を海野先生がどう描くのかなとわくわくしたのですが…
うーん、あらすじから想像していたお話とは少々異なった印象を持ちました。

暗いか明るいかでいうと、全体的に作中の雰囲気はやや暗く、空気も若干重たく感じます。
どっしり重たいのではなくて、ほんのり重たいというのかな。
けれど、展開的には明るいのです。未来も明るいです。
どことなく無気力で自身に価値を見出せないでいる人間が、決してそんなことはなかったのだと時間をかけて気が付いていく。
もやがかった薄暗さから徐々に光が刺す夜明けのような、とても味わい深い救済物語だったように思います。

真人視点で、真人と渡良瀬という人間の人生をじっくり追いかけられた1冊でした。
元生徒・渡良瀬の一途さと想いの強さにはグッとくるものがありましたし、真人の教師としての一面や、渡良瀬や周囲の人々によって彼の内面が少しずつ前向きになっていく姿は応援したくなるもの。
しかしながら、読んでいてちょっと疲れてしまった自分がいたのも事実かなと、今回はこちらの評価になりました。
設定や展開も、作中にちょこちょこ挟まれる雑学もおもしろく読めたのだけれど、何せ真人がなかなかの低空飛行な人だったもので、読み進めてもしばらくは気持ちがあまり上向かずどうしたものかと感じる面もあり…
それだけ心理描写が細やかだったということでもありますね。
海野先生の引き出しの多さに改めて驚いた1冊でもありました。

繰り返しになりますが、渡良瀬の一途さは見事の一言で本当に素晴らしかった。
ただ、ページ数が残り少なくなっても、2人の恋愛感情がどうしても渡良瀬>>>>>>>>>><<真人の図に見えてしまって、なんだか最後の最後で一気に恋愛面が進んでいった感覚に。
治験に参加した人々の戸籍関係に関しても、なんだかんだであっさりうまく収まっていてここは少し拍子抜けだったかも。
個人的にはもうちょっとだけ踏み込んでほしかったです。

ベッドの小ささと大好きっぷり

前作・今作収録の番外編ともに鳥飼から矢島への矢印のほうが特大だったように思えて、さあノンケの矢島はどうなんだい?と、彼の内面の変化が気になっていたのですが…

矢島、鳥飼のことを好きすぎません…?
いやいやこんなのもう、どこをどう見ても大好きで仕方がないじゃないですか。
時折垣間見えるデリカシーのなさと若干の子供っぽさはご愛嬌。
それを上回るほど、鳥飼への信頼と不器用な愛情表現があふれていて、なんとも憎めない魅力的なキャラクターへと成長していました。
今作で矢島の株がギュンと上がりましたね。

前作で晴れて恋人同士になった2人ですから、やはり続編といえば…なちょっとした試練はつきものでしょう。
といっても、読んでいてストレスがたまるようなものではなく、お互いがお互いのことをさらに高め合うために必要なエピソードだったかなと。
お仕事描写も好みだったので、もし恋愛面との比重がどちらかに傾きすぎていたら残念だなあと思っていたのですけれど、今作でもきちんと消防士としての成長も描かれていて、ちょうど良いバランスで気持ち良く読み切ることができました。
私生活でも仕事でも、自然と対等な関係性のままな2人が好きです。
叶うことなら、今後の2人も引き続き見守っていきたいなあ。

そして、今回も素晴らしく整った筋肉が…!
これこれ!と言いたくなるほど良い厚みなんですよ。
2人とも決して小柄な男性ではないのが分かる、個人的な最大の萌えポイントがひとつありまして。
矢島の力強さと勢い+2人のガタイが良いがゆえに、矢島のベッドで抱き合っている際に、鳥飼がベッドに頭を何度もぶつけてしまうという…これにはまいりました。
なんというのか、体格差のなさとベッドの小ささとでかい男たちの余裕のなさがどうにもツボにハマってしまって、頭の描写ひとつでとんでもなく良質な萌えを浴びせられた気持ちに。最高でした。