亮介はしのぶがいなければ何もできない存在なら,しのぶは亮介がいなければ何かをできない
存在,そんな感じがする……行動の理由に「亮ちゃん」がいないとダメみたいというか.
お互いに,相手を依存させているつもりで相手に依存してる感じ.
伊吹が自覚してたかどうかわからないけど彼の決めたルールって,時間が経てば経つほど彼のことを追い詰めていくと思うんだよね.
だって,この状況で排除されない側であり続けるのは至難の業だし.
結局のところ,彼はある意味自分で自分をあの状況に追い詰めたんだよ.
あと,伊吹って勝手に周囲の人間を自分の味方だって判断したり,自分は選ばれた人間なんだって思ったりと,結構自惚れの強い男なんじゃないかな.
伊吹が亮介に薬屋で言ったセリフや,田村の「ノアの箱舟」発言への彼の反応からそんな印象を持った.
WELLの終わり辺りに出てくる田村のセリフから考えると,どっちかというと田村の意識は死ぬことに傾いてて,伊吹の意識は生きることに直結してた.
表に出てる態度で分かりづらいけど,あの中で最も刹那的だったのは田村だったんだろうね。
独りで「綺麗に」死ぬことを目指すんじゃなくて,ある意味駅地下の皆と一緒に死のうとしてた
(皆のためって言い訳つきでね)のは,なんだか心中みたい.
でも,そんな田村が生き残って伊吹がしぬんだから,随分と不条理だよな.
しのぶが,田村に言った片倉を殺した理由って,前に亮介が言ったこととよく似てるよね.
多分,亮ちゃんがそう言ってたからみたいな感じに彼の中では行動が正当化されてたんだと思うよ.
体調を崩した宙彦の行動を志朗は嫌がっていたけど,正直いってどうして他人への態度と
個人的な身体の管理が結びつくのか分からなかった
これって,コインの裏表みたいに結び付けられるものなのか……?
単に,自分が関わった相手からネガティヴな反応をされるのが許せないだけなんじゃ,と勘繰りたくなる
そして宙彦は警戒心が無さ過ぎるな,みっともない姿を見られるのが恥ずかしいという気持ちは分からなくは無いけど
志朗みたいなタイプは宙彦とみたいなタイプとの愛称も悪くないのかな,そのまま宙彦の家に通うようになってるから
宙彦も志朗のおせっかいが嫌じゃないみたいで,なんだかんだいって彼の行動を黙認している
でも,自分が志朗に何を望んでいるのかを自覚することは難しいみたい
じゃあ志朗は自分の行動の理由が分かっているかというとそうでもなくて,自分の行動に疑問を持っんたりしてる
きっと,志朗の行動力が無かったら,この二人が一緒になることなんて無かっただろうな
それにしても,219ページのイラストが大変おかしなことになってるんだが……ま,どこがおかしいのか気になる人は志朗が来る前に焚き火がどうなったのか注意しながら読むといいかも
柴岡は何回も暗闇が怖いと言っている,有沢に嘘の将来設計を話すときに夜になっても太陽が沈まない場所(暗く無い場所)に行きたいと言ってしまう程なのだから本当に怖くてたまらないのだろう。河瀬に両目を塞がれたらおとなしくなったのも暗闇が怖いからだろうし,柴岡にとって心の闇は無いのではなくて存在してほしくないものなんじゃないだろうか。毎晩のように暗闇がやって来るのに,心の中にまで暗闇が出来てしまったら彼の世界は今以上の恐怖に満ちてしまうからね。そして暗闇=死だとしたら,死ぬ事は柴岡にとって凄く怖ろしい事なんじゃないだろうか。
柴岡が河瀬に真実を話したがらなかったのは自分は普通じゃないと思い続けていたからなのだろう。普通の人々が普通じゃない自分を理解したり受け入れたりするはずが無いと思っていたら,口が裂けても真実は話せないし助けなんて求められない,普通じゃないと見なした人に対して普通の人々は本当に冷たいからね。ひょっとすると,母親との関係が無かったら柴岡は河瀬とは違った形の平凡な人になっていたのではと思えてきた(根拠は無いが)。多分,柴岡には現状を恥じるだけの神経があり過ぎるぐらいあって,だからこそ彼は普通じゃない自分を巧妙に隠す事で,自分の事を守っていたのだろう。
柴岡は母親のために「あなた」になろうとしたが,それが不可能だと言う事を彼は十分に自覚していたのかもしれない。身分を証明できるものを持たずに死のうとしたのもその自覚からで,柴岡は自分を柴岡保弘と証明するもの,死んだ男が母親の愛した「あなた」では無く「代用品」であると示すものは,たとえどんなに些細なものであれ彼には耐えられなかったのだろう。
自分を普通じゃないと否定し続けてきた柴岡は,だからこそ何の根拠も無く自分を肯定できる河瀬にひかれたのかな。
柴岡の相手ができる河瀬は,彼ほどじゃないにしろ十分絶倫だと思うんだけどなあ。
後日P196の柴岡のセリフを読んで,(確か)強制的に電気ショックを回避できない状態にされた犬は,たとえ自力で回避できる状況になっても回避する事が著しく困難だった,というのを思い出した。