ついに第十弾となった花降楼シリーズ。
私はこの作品が一番好きです。
攻めの諏訪も受けの藤野も完全に私のツボなキャラクターでした。
第九弾と関わりがかなり深くあるので、合わせて読むとより面白いです。
選挙で初当選したばかりの政治家、諏訪の元に花降楼の藤野と名乗る手紙が届きます。
なんだと思って訪れてみると、そこにいたのは昔良く遊んでやった眞琴。
諏訪はすぐに請け出し助けてやろうとしますが、眞琴ーー藤野はこの手紙はただの営業で諏訪に身請けされる気はない、あくまで客になってほしいだけだと言います。
そして大見世は色を売るだけではなく恋を売る場所でもある。
その中で、本当に惚れた方が負けの恋人ごっこゲームをしませんか、と持ち掛けるのです。
それから五年ほど経ち諏訪はすっかり馴染みになっていましたが、あと一年で藤野の年季が明けるということで二人の間に変化が…というお話です。
藤野は手紙をまるで色んな人に送ったかのようなふりをするのですが、実は諏訪にしか送っていません。
藤野は諏訪のことが、昔遊んでもらっていた時からずっと好きだったんです。
惚れた方が負けの~なんて言いましたが、最初から負けているんですね。
だから藤野は花降楼という場所や色子であることを利用して、諏訪と仮初めでもいいから恋がしたいのです。
藤野はまわりをよく見れているし、器用なんですよね。
政治家である諏訪に迷惑をかけないことを第一に考え、この恋人ごっこは年季が明けると同時にやめなければいけないことも分かっている。
恋人ごっこをしつつ、これはあくまで娼妓としての振る舞いだというのをちらつかせ、本当の気持ちをあくまで隠し通そうとします。
そして実際にうまく隠せてしまうのでした。
少しでも会いたいから花代をねだるふりをして誘い、何度も来てほしいから少しでも諏訪の金銭的な負担を軽くしようと気をまわしたり。
娼妓として外見を磨く時もずっと昔見た諏訪の彼女たちを思い浮かべ近づけるように努力していたり、すごく一途で健気で可愛いんですけど、そういうことも絶対に諏訪には気付かれないようにしていて。
諏訪も、藤野が惚れるのも納得のいい男でした。
軽い所はあるんですが不誠実ではないし、あたたかい家庭で仲の良い両親に育てられた人特有のおおらかさや優しさを持っています。
藤野の本当の気持ちが中々掴めないのですが、それも諏訪が鈍いというよりも藤野が隠すのがうまいだけといった感じ。
藤野があくまでも恋を廓の中だけで終わらせようとしているのは諏訪のためを思っているのもありますが、実は自分に自信がなくて、諏訪が自分を好きになるはずはないと思っているからというのもあるんです。
でもそんな藤野に、諏訪は正面から信じてくれと言うんですよ。
そこがすごく良かったです。
このお話を読んでから第九弾を読み返すと、そこに出てくる藤野と諏訪がどんな状況や考えでその台詞を言っているのかが分かって、また新たな楽しみがありました。
花降楼シリーズ第九弾、第二弾で蜻蛉を身請けしようとしたものの、すんでのところで逃げられてしまった岩崎がメインとして再びの登場です。
岩崎の過去、花降楼でどんなことがあったのか、また岩崎は若い頃どんな男だったのか、というのを知っていた方が話に入り込みやすいと思うので、こちらを読む前に、少なくともシリーズの第二弾は読んでおいたほうがより楽しめると思います。
第二弾が好きだけどこちらはまだ読んでいないという人は、綺蝶と蜻蛉のその後も出てくるのでぜひ読んでください。
少しだけの登場ですが、密度の高い数ページでした。
岩崎はあの事件以来、花降楼からは遠ざかっていました。
ですが友人に紹介を頼まれて久々に登楼したところ、蜻蛉に良く似た面立ちを持つ禿の椛を見つけます。
それから岩崎は椛が仕える傾城の藤野の客という体をとりながら実質まだ禿の椛の客として花降楼に通い始めます。
そして椛を甘やかしながら、傾城のあるべき姿と称して椛を蜻蛉のように育てようとするのです。
そんなことは何も知らない椛は、ただ優しくしてくれる岩崎に好意を寄せていきます。
でもそんな関係はうまく行くはずありません。
ついに椛はなぜ自分がこんなにも岩崎に目をかけられているのか、その理由を知ってしまいます。
ただ一心に岩崎を慕ってきたのに、岩崎はずっと椛の後ろに蜻蛉を見ていた。
椛はとてもショックを受け、さらに岩崎が椛の変化に気付いたのか強引な手に出てきてさらに傷付き…でもただくよくよするんじゃなく、ちゃんとやり返すんですよね。
しかも廓のルールに乗っ取ったやり方で。
そこがすごく良かったです。
椛まで失いかけた岩崎は、仕事で行った海外の空港で蜻蛉と綺蝶を見かけます。
幸せそうで、岩崎の知る頃とはずいぶん変わった蜻蛉。
そして何より蜻蛉を見ても椛のことばかり考えている自分に気付きます。
ここのシーンもすごく好きです。
シリーズを読んでいる人にとってはご褒美のようなシーンでありつつ、必要不可欠なものでもあって。
岩崎にとって蜻蛉は手に入れられなかったからこそ執着し思い出はどんどん美化されていたように思うんです。
なので蜻蛉との決別には、現在の蜻蛉を見ることが必要でした。
そして最後はもちろんハッピーエンド。
椛はシリーズとしては第一弾の蕗苳以来の、攻めしか知らぬままの受けになりました。
空港のシーンで綺蝶が蜻蛉を本名である尚と読んでいるのがすごく良かったです。
今までも二人のラブラブになってからの番外編はありましたが、どこか花降楼にとらわれているような所を感じていました。
あのシーンを見てやっと、ちゃんと前を向いて歩き出しているのだなと実感できて、ホッとするような気持ちになりました。
花降楼シリーズ第八弾は、第二弾の主人公、綺蝶と蜻蛉のお話。
第二弾では蜻蛉の水揚げが終わった所から綺蝶とお職争いをするようになった頃まで飛ぶのですが、そこの間に入るお話になります。
第二弾を読んでいること前提だと思うので、第二弾を読んでから読んだ方がいいと思います。
私はこの話を読んで、蜻蛉がさらに好きになりました。
蜻蛉は外見の麗しさが目立つけれど、内面も可愛さに客が気付いていたからこそお職を張れるほどになったのだ、というのはこれまでも語られてはきましたが、それが具体的なエピソードとして読むことができた気がします。
特に“理想の客”水梨とダメになった後、また“理想の客”を探してくれると言う鷹村に新たな条件を言うあたりは特に可愛いです。
前々から鷹村はなんだかんだ蜻蛉に甘いような気がしていましたが、そりゃ甘くもなるわ!と。
綺蝶についても新たな一面を見ることができました。
綺蝶はシリーズの他作品に登場する時も、アドバイスをしたり、けしかけてみたり、いつもうまく立ち回っているようですが、やっぱり綺蝶も色子で花降楼には多大な借りがある無力感というか、それをすごく感じて切なかったです。
同時収録はうってかわって、綺蝶が蜻蛉を連れ出してしばらく経った頃、第五弾の『溺愛』のさらに後の話。
蜻蛉の別れの宴を開くために二人は久々に花降楼を訪れます。
幸せそうな二人の話なんですが、少しだけ、特に綺蝶の方にほの暗いものを感じました。
ずっと蜻蛉を買う客に嫉妬して来た綺蝶が、ついに蜻蛉の隣で宴会をすることができるんです。
ずっと焦がれ続けた位置に座り、蜻蛉は自分のものだと堂々と振る舞うことができる。
ある意味ものすごく満たされてはいるんですが、そこにある気持ちは幸せとは言い切れないんじゃないかと思いました。
二人で過ごした夜具部屋を見に行くところは、やっと本当の意味での花降楼との決別という感じで、なんというかスッキリして好きです。
あと表題作に出てきた桐香と幸多郎についてもちゃんと決着が着いていて良かったです。
花降楼シリーズ第七弾になります。
時期としては玉芙蓉が身請けされて行ってから数年経ち、綺蝶が傾城として一本立ちした頃のお話です。
今回の主人公、撫菜は貧乏子沢山な家庭で産まれ、相手の手が上がると殴られるんじゃないかとビクビクする癖がついてしまうような家庭環境で育ちました。
そんな中で唯一褒めてもらえたのが身体だったんです。
そんな撫菜なので、花降楼に来たことをわりと前向きにとらえています。
客も仕事も嫌いではなく、家にいた頃よりもいい暮らしができている。
でも完全に開き直っているわけではなく、身売りをするのはいけないことのような気がするという意識は持ち続けていて。
でもそんな仕事に自分は向いているという自覚もあって。
なので攻めの氷瑞には色子だということを知られたくないんです。
でも自分の取り柄は身体しかないとも思っているから、氷瑞を慰めたり御礼をしたかったりすると簡単に誘ってしまったりもする、ちぐはぐさを持ち合わせていました。
ここまで書いた感じだと、なんだかとっても切ない感じですが、作品の雰囲気は暗くなりません。
それも撫菜のキャラクターゆえというか、簡単に言うと撫菜が結構なアホの子だからだと思います。
育ちは良くないけれど素直で可愛い、無自覚ビッチなアホの子受けといった感じ。
氷瑞のキャラクターや過去など暗く重い部分があるし、撫菜も色々悩んだり苦しんだりしているんですが、根が真っ直ぐなので沈まずに読んでいくことができました。
…ですが折檻シーンはもれなく苦手です。
他のトンデモ設定は楽しめるのですが、折檻だけはいつの時代よ!?な気分になってしまいます…
まあ、あれがあったからこそ氷瑞の最後の踏ん切りがついたのだとは思いますが。
同時収録は第二弾のメインカップル綺蝶と蜻蛉の小話です。
綺蝶が水揚げされたばかりで蜻蛉はまだ新造の頃、二人がまだ仲違いする前です
相変わらずの蜻蛉のやきもきした気持ちと綺蝶の独占欲が感じられて、ほのぼのと可愛いお話なんですが…この二人の今後を思うとどうしようもない切なさに襲われました。
花降楼シリーズ第六弾には、第二弾にも登場した玉芙蓉のお話。
こちらにも禿の頃の綺蝶と蜻蛉がちょこちょこ出てきます。
ですが、お話としてはシリーズの中でもわりと独立しているので、この一冊だけで読んでも大丈夫だとは思います。
第二弾で出てきた玉芙蓉は、蜻蛉を理不尽にいじめていてあまり好感が持てませんでした。
ですが今回のお話を読んで、かなり印象が変わりました。
玉芙蓉は花降楼でお職を張るような売れっ妓なんですが、ダメな男に入れ込み、貢ぎ、お金を貸したりもしてしまい借金が増えるばかり。
年季明けもあと1年と迫り、このままでは花降楼を出ても店を移して身売りを続けなければならないような状況です。
花降楼は吉原で男が身売りをする店としては最高級なので、店を移るとそのだけ環境は悪くなりますし、そもそも今の玉芙蓉では同じことを繰り返してボロボロになるのが目に見えているんですね。
そこで花降楼の顧問弁護士、上杉に呼び出されることになります。
この玉芙蓉がダメな男に入れ込んでしまう理由が、きちんと書かれているのが良かった。
玉芙蓉自身も相手のことが好きだからだと思い込んでいるのですが、本当はそうではなく、過去のトラウマが原因なんです。
それに上杉がいち早く気付き指摘するのですが、言葉だけでは納得せず、間夫と上杉を比べてみて初めて気持ちの違いに気付く、という流れもとても好きでした。
個人的には花降楼シリーズで一番色気のある二人のように思います。
単純に今までのメインカップルより年齢が高めだというのもあるのですが、玉芙蓉は華やかで色子らしく、まさに城が傾くと書いて傾城という呼び名がふさわしい感じですし、上杉も上杉で、実は玉芙蓉に一目惚れしたから花降楼の顧問弁護士を引き受け、虎視眈々と機会を伺っていた…という執着攻めっぽさが良かったです。
ぜひ、この二人のその後も見てみたいなと思いました。
上杉はシリーズの他の攻め達のように大金持ちではないので、他とはちょっと違ったその後になりそうで楽しそう。
花降楼シリーズ第五弾は、これまで登場したキャラクター達の後日談の短編集です。
どれも甘く幸せそうなお話。
最初の旺一郎と蕗苳のお話は、蕗苳が花降楼を出て二年半ほどたった頃。
なので一番花降楼感は薄く、蕗苳はすっかり男の格好をして働いているし旺一郎も医学生に戻っています。
二人が本来の姿に戻り頑張っているという安心感のあるお話ですが、私が花降楼シリーズに求めているものからは少し外れてしまっているというか…
すみません、正直なところ、このお話はあまり印象に残っていません…
続いては、時期的には忍が身請けされてから半年以上が過ぎた頃、すっかり新婚で専業主夫な忍のもとに、忍の後しばらくして御門に身請けされた椿が家出をしてくるお話。
私はこの忍と椿の関係がとても好きなので、このお話はとても嬉しいです。
第三弾と第四弾の両方で話題に上がっていた卵焼きの一件とかも含め、椿は忍のことがとても好きなんですよね。
卵焼きの件も、椿はただ忍に意地悪したりツンツンしていたわけではなく、椿なりに忍のプライドを傷つけないように考えての言動のだったような気が、私にはします。
ただ、忍は自分自身のプライドをあまり大事にしていないし、鈍いところもあるので全然伝わっていないですが。
そんなすれ違いも相変わらずながら、忍が蘇武に愛されて自信を付けたことで以前よりうまく付き合えるようになっていきそうなので、この二人にはこれからも交流を続けていってほしいなと思いました。
椿の家出の原因は御門のことが好きだからゆえのものだし、同時進行で忍たちにも少しだけ波乱?が起きていますが、こちらも愛を確かめ合うためのようなものでした。
最後は綺蝶と蜻蛉。
綺蝶が花降楼から蜻蛉をさらって一緒に暮らし始めて半月が過ぎた頃です。
髪の短い綺蝶に慣れない蜻蛉がなんとも可愛いく、蜻蛉が慣れてくれないからとまた髪を伸ばそうとしている綺蝶は、つくづく蜻蛉中心に物事を考えているなぁと思いました。
蜻蛉はまさしく囲われ者という感じで、現時点ではなにもしていません。
でも、実は蜻蛉がなにもしていないのではなく、綺蝶がなにもさせていない。
そこに綺蝶のかなり根深い独占欲がかいま見えます。
綺蝶も蜻蛉も、ずっと相手を買う客に嫉妬してきたんですよね。
なので二人で三三九度をするシーンは感慨深いものがありました。
三三九度を始めるのが蜻蛉、というのもまたいいですよね。
リバが未遂で終わってしまったのは、個人的にとても残念でした。
いつかやってほしいな~
最後まで致せなくても、もうちょっと蜻蛉に頑張ってみてほしいです。
後日談なので、今までのお話を読んでいないと分からないとは思いますが、ここまで読んできた人にとってはサービスいっぱいの楽しい一冊だと思います。
花降楼シリーズ第四弾です。
こちらは、第三弾とほとんど同じ時系列で起きているお話になります。
メインカップルのキャラクターも対照的で、あえて対比させるような書き方をしている部分もあるので、ぜひ二冊まとめて読んでください。
今回の主人公は、勝ち気なツンデレの椿とやくざの御門。
椿は父親がやくざにもなれないようなチンピラで、苦労した末に花降楼に売られて来ました。
でも椿のいいところは、そこでウジウジせずに上を目指そうと頑張っているところ。
お金を貯めて、外に出て母親と一緒に暮そうと考えています。
そのためには客に嘘の身の上話をして同情を引いてみたりもしていて、その辺りのことはちょっとコミカルな感じで面白かったです。
御門はやくざで、しかもただのやくざではなく椿を売った張本人。
なので椿には憎むべき相手なんですね。
なので椿は御門を困らせようと色々するんですが、それを余裕たっぷりに受け止めて逆に楽しんでいるような感じです。
私は受けを甘やかす攻めがすごく好きなので、この御門は結構ツボなキャラでした。
あと、この作品で印象に残るのは、とにかくお金の使い方が豪快だということ。
御門はやくざで金離れがいいし、椿も派手好きなタイプなんですね。
で、御門はそんな椿を甘やかそうとしていて、椿は自分を売った御門から金を搾り取ってやろうと思っている。
どこにもストッパーがありません。
なので色々と派手なお話です。
でも、その中で起こっているラブストーリーについては、実はとても繊細なのかもしれないとも思います。
椿が売られて来た時に、椿の知らなかった所で起こっていたこと。
御門が椿を花降楼に売ったのはなぜなのか。
そこで見え隠れする御門の優しさと寂しさ。
ゴタゴタに対する決着の付け方は少々派手でしたが。
最後は寂しさを知る二人が寄り添って家族になろうという、温かなハッピーエンドでした。
花降楼シリーズ第三弾。
今回の受け、忍はこれぞ健気受け!といった感じのキャラクターです。
忍は四歳の頃に捨てられて以来、花降楼で育てられてきました。
なので吉原の外の世界をほとんど覚えておらず、それゆえの純粋さみたいなものを持っています。
ちょっと浮世離れするほど健気過ぎて、読んでいて時代設定が現代なのを忘れてしまいそうになるくらいです。
忍は育ててくれた花降楼への恩や、自分の居場所はここしかないという気持ちから一生懸命お仕事を頑張っているのですが、残念ながらあまり色子の仕事に向いているとは言えません。
もしかすると、もっと気楽に遊べるようなお店だったらもう少し売れていたのかも知れないのですが、花降楼という華やかで客も大金を使って遊ぶようなお店では、なんとも地味で目立たずに埋もれてしまっているのです。
そうするとさらに自信を失ってしまい、客がつかないとお金がないので栄養状態も悪く、自分磨きも出来ず…そんな中に現れたのが、蘇武。
蘇武は大金持ちの御曹司で遊び慣れているのですが、だからこそ若いのにもうすでに遊び疲れているような所があり、あまり人のことを信じられなくなっているんですね。
なので、そこに現れた一生懸命で不器用で裏表のない忍に惹かれていくのは、とても自然なことのように感じました。
あと、当て馬的に登場する原。
被虐趣味で、忍に投げつける言葉もひどいものなんですが、その奥にある忍への愛情とかがきちんと分かるように書かれているのが花降楼シリーズのいいところだなと思います。
忍は純粋すぎて相手の言葉の裏側とかをあまり想像できないタイプなので、原についても忍目線で見たときは「あれ?もしかして原も原なりに忍への愛情を持っているのかな?」と疑問に思う程度なのですが、あとで蘇武目線の話として、それに対する答えをちゃんと書いていてくれるんですよね。
なんというか、文章を読み慣れていない人にも親切な設計なのではと思います。
ちょこちょこ出てくる同僚の椿と忍のやり取りも、私は結構好きです。
上で書いたように忍はあまり言葉の裏側を察することが出来ないタイプで、逆に椿はツンデレで回りくどい言動をしてしまうタイプ。
そのすれ違い方がなんだか可愛くって面白いのです。
同時収録では第二弾のカップル、綺蝶と蜻蛉の小話が載っています。
まだ犬猿の仲と言われていた頃の二人ですが、どこかほのぼのとした空気の流れる短編でした。
花降楼シリーズ第二弾は、色子×色子のカップリングになります。
花降楼シリーズは第五弾と第八弾以外は一冊ごとに主役カップルが変わる独立した話ので、わりとどこから読んでも大丈夫だとは思うのですが、この第二弾の二人は10年以上花降楼に居た上になにかと目立つ存在でもあり、シリーズの他の話にもよく登場するので、花降楼シリーズを読むならばこの第二弾を押さえておいた方がスムーズに読み進められるのではと思います。
人気のある二人なので番外編も多いですしね。
ただ最初に書いた通り色子×色子なので、攻めである綺蝶も受けである蜻蛉も不特定多数の客を相手にしています。
それがどうしても受け付けない、という人は避けた方がいいのかもしれません。
綺蝶も客の相手ではもちろん受けなので、受けは受け攻めは攻めでいてほしい、という人にも楽しみづらいかも。
個人的には、蜻蛉は客にどんな風に責められたか、みたいな描写も少しはあるのですが、綺蝶についてはほとんどなく、客との会話とかからもあまり受けっぽさは感じられないように書いてある感じがするので、受けは受け攻めは攻めじゃないと絶対ダメ!というわけではなく、少し苦手…くらいならば読んでみてもいいのかもとは思います。
まあ、私はリバも平気なタイプなので、あまり参考にならないかもしれませんが…
話としては、10年間の両片思いものになるのでしょうか。
想い合っているのに、色子という立場、意地の張り合い、タイミングの悪さ等々のためにすれ違って仲違いみたいなこともして、色々とこじれながらも想いあっていく…みたいなのが切なくって。
最終的にどんでん返しでハッピーエンドになって、本当に良かったねという感じでした。
キャラクターも、正反対なんですがバランスがいいです。
綺蝶は「俺と一緒に居ても、いい暮らしさせてやれない」って思っていて、蜻蛉は「綺蝶と一緒ならいい暮らしなんてできなくてもいい」と思っているところとか、お互いの育ってきた環境の違い、それによる価値観の違い、そして人を好きになる時の好きになり方の違いがよく出ていてとても好きなエピソード。
基本的に蜻蛉は鈍感で、綺蝶はよく気がつくタイプなんですが、恋については綺蝶も鈍感なところがある感じですよね。
この二人のすれ違いも、綺蝶が思っているよりも蜻蛉は綺蝶のことが好きだということに綺蝶が気づけていなかったというのも、こじれた原因のひとつな気もします。
まあこの二人については、すれ違っていたからこそ遊廓で働かなければならない状況に耐えられていたのかなとも思うので、なんとも言いがたいのですが…
あと、相手を想うあまり無理矢理…という展開は個人的には好きではないんですが「このまま他の男にやられてしまうんなら」という気持ちにはすごく納得がいって、遊廓ものとその展開は相性がいいなぁなんて思いました。
最後に、ここからはちょっと電子書籍についての話です。
この作品を私はebookjapanで購入しましたが、やたらと誤字脱字が多いんですよね。
花降楼シリーズの他の作品にも多少の誤字脱字はありましたが、この作品だけ明らかに多い。
数年前に紙書籍でも読んでいて、その時はそんなに気にならなかったんですが…
調べてみると、他の電子書籍サイトの購入済みマークが付いたレビューにも「誤字脱字が…」という書き込みがあったので、もしかすると出版社側が配布しているデータがおかしいのかも?とも思います。
問い合わせしてみるつもりですが対応してもらえるか分からないので、電子書籍での購入を考えている方はご注意ください。
花降楼シリーズ第一弾です。
ちなみに私はこの花降楼シリーズをすべて電子書籍サイトebookjapanで購入していますが、イラストは表紙のみで挿し絵はなく、あとがきも収録されていません。
他のサイトではどうなっているのか分かりませんが、電子書籍での購入を考えている方の少しでも参考になれば幸いです。
さて、この花降楼シリーズは遊廓ものなんですが時代設定は現代。売春禁止法が廃止され吉原が復活した、という世界観での話になります。
なので携帯電話も出てくるし、登場人物の話し言葉もわりとくだけた部分があります。
ですが、吉原や廓のしきたりとして現代的な感覚では考えられないようなことも平気で起こるので、あまり設定を突き詰めて考えずにシチュエーションやキャラクターに萌えつつ読みたいシリーズです。
個人的にはこういうトンデモ世界観はどんなキャラクターや展開が出てきてもどんと来いな気分になれるので結構好きですね。
なんだかんだでハッピーエンドになってくれるので、安心して楽しめるのもいいところだと思います。
そんなシリーズの第一作目となる本作は、遊廓に売られてしまった受けを幼なじみである攻めが助けに来るという遊廓ものとしてはかなりテンプレな展開。
第一作目ではあるものの、正直なところ花降楼シリーズの中ではちょっと印象の薄い作品かもしれません。
というのも受けである蕗苳は花降楼に二年しか居なかったので、この後続いていくシリーズの中で登場したり思い出話的に触れられることが少ないんですね。
キャラクター的にも旺一郎も蕗苳もあまり癖がないので、大きなインパクトなくさらりと読めてしまいます。
あと遊廓ものではありますが、蕗苳は他の客には最後までは致されず(途中まではありますが)旺一郎以外は知らないままなので、受けが攻め以外と関係を持つのが耐えられない人にもギリギリ読める作品かなとも思います。