いやー、ここまで本来のカプではなく、当て馬君を応援したくなったのは初めてですね。丸木さんお得意ネタのドロドロした人間関係、執着もので、それは安定のクオリティで非常に萌えました。
特に、和義が久保を殺すしかないと決心し、睡眠薬で眠らせようとするところに、和義の今までの壮絶な苦しみがありありと表れていて、読んでて心が震えました。
今回は、攻めである久保の視点から物語が進んでいく場面が多かったので、久保が和義への憎しみからだんだん愛情へと気持ちがシフトしていく様子はよく伝わり、そこは矛盾なく展開していったように感じます。
ですが、受けである和義の心の動きは、いまいち見えてきません。前半で、自分が同性愛者である苦しみから、不幸を抱え生きてきた、そんな中、当て馬である勇一郎と交際することで初めて幸せを見つけられた、そんな不憫なキャラ設定は萌えます。
ですが、そんな愛する恋人の勇一郎と別れるハメになるわ、愛する妹も傷つけてまで復讐をしかけてくるわで、自分を散々陥れてきた久保にたいし、終盤でいきなり和義を庇ってナイフで刺されたくらいで、憎しみから好意に気持ちが切り替わるところが、理解も同意もできないし、萌えも感じません。
和義は今まで同性愛者であることを隠して生きてきたけど、そんな風に生きてきても、人生は好転しないって気付かされたくらいしか、和義にとって久保というキャラの利点はないです。
そのことに気づかされたっていう点で和義が久保に感謝の気持ちを感じるのは分かります。ですが、そこから恋愛感情に発展するのは、無理がある気がします。(まあ、人が人に恋愛感情を持つのに理由なんてないと言われればぐうの音も出ませんが)
それなら、まだ、和義が同性愛者であることを開き直って、久保に脅迫材料が無くなったから、晴れて堂々と元彼勇一郎とヨリを戻すほうが、自然な感じがします。
というか、和義って最後、久保に惹かれてたんでしょうか??和義がほんのり頬を染めた描写で、久保のことを好きになったと私が早合点している可能性もあります。
いろいろと最後で失速した様に感じたので、神評価は出来ませんが、途中の久保の憎しみ→愛情の変化と、和義の、久保に対する殺意を感じるまでの苦しみの描写にすごく萌えたので、高評価になりました。
丸木さんの作品(現代ものに限り)は、いつも主人公の独白がリアルでいいですね。現代っ子の思考回路ってこんな感じなんだろうな、って思わせられます。この作品も、内容はヘビーで真剣に読んでたら完全に食傷していたかも知れませんが、語り口が軽妙なので、いい塩梅に中和されていて気持ちよく読み進められました。
BL小説であるにもかかわらず、主人公が短期間ながら付き合う彼女に対し、主人公が心惹かれていく描写も現実味があって、物語に引き込まれます。結局、この彼女のおかげで、受けである主人公の湊の普通さが強調され、そして攻めである悠馬の異常性が際立ち、いい対比を産んでいたと感じました。
できれば湊には、今後この関係から自力で這い上がって脱出して欲しいような、このままズブズブと悠馬の愛欲の沼に沈められていて欲しいような、、、こんな不思議な読後感を覚えたのは初めての経験でした。