まずはこれまでのユキムラさんらしくない表紙にがつっと持っていかれました。すごくいい。もともと味わい深い作品を書かれる方だと思ってましたが、こういう表情はイメージじゃなくて、でもすごくいい。それだけでずいぶん評価アップだった上に、内容もとてもよかったです。
表題作は言葉にするなら切ない恋のお話なのですが、これを言葉なんかで説明してしまうともったいない気がします。心の機微が作品の雰囲気を作り出していて、これが奥深くていいのです。しばらく雰囲気に浸って切なさをかみしめられます。
ほかの作品も短編なのですが、どれもよい。短編だから当然短いのだけれど、その短さの中で世界が出来上がっているというか、しっかり表現されているので読みごたえがあります。たとえるなら、言葉の数は少なくすぐに読み終えられるのに、小説を読んだように満足感がある詩のような。ポエムっぽいのとは違います。
私はこれ、Stingの曲が似合う気がしました。主張は強くないのに聞けばちゃんとそれとわかる、少し掠れていながら艶も伸びもある、さりげない表現力がすごい。軽やかなのに土台はしっかりしている。そういう複雑な味わいがあるところが共通していると思います。
そこが大人向けだと思った理由です。
ヨネダコウさんの「どうしてもふれたくない」から甘さをぐっと控えたようなイメージ。
これはじわじわ来ると思います。
好きなシリーズだったのですが、今回は無理でした。
龍聖のキャラに違和感しか感じなくて、どの辺に需要があるのかわかりませんでした。
天真爛漫、破天荒というのをはき違えている、もしくは悪用しているとしか思えなかったです。弱みに付け込んでやりたい放題なのを、全力でよい方向に理解しようとするシーフォンの皆様が不憫ですし、そんな龍聖のわがままを聞きまくっている龍王にも???です。きっと、心を通わせる部分がほぼないまま、というのもあるんでしょう。これまでと変えるために頑張ったのはわかりますが、ほのぼの感と設定は良かったけど、読ませる、とか実力を感じる、といったタイプの作家さんではなかっただけに、今回のこれは「もう読むのよそうかな」と思わせる結果になってしまったと思います。こういう「いいところあるんだけど神評価にはあとちょっと」な作家さんは、編集さんももっとしっかり育ててあげてほしいです。ただでさえおもしろいBL小説貴重なのだから。きっと本当に面白い本をあまり読んできてないんだろうな。作家の才能に全力依存しないで、一緒に作品を作っていけるような編集さんに出会ってほしいです。
次回作に期待しています。
宮緒葵先生の文章なのは感じられるのですが、このところ見受けられる犬どこ行った?感はますます強くなっていました。
実力のある作家さんなのでまだ読めるのですが、内容としては定番で今のところ目新しい要素は見当たりません。この作家さんの良さは「そうくるか!」という驚きの部分だと私は思っているので、下巻を楽しみにしていますが、この上巻ではその気配すら感じ取れません。最近の時代物でも伏線があからさますぎてあまり驚きはなかったので、今回の定番さ加減は下巻でのどんでん返しのための準備なのではないかと期待しています。
ふたなりと無理やり設定は特に気になりませんでしたが、地雷な方は要注意ですね。
あとは、狼、女神という部分とその扱いに六青みつみ作品ぽさを感じてしまいました。しかし宮緒葵がそんなことにするわけがないと信じての評価です。
これ、木原作品の中で一番好きです。趣味悪いかもしれないけど。
木原作品って一貫してどうしようもない人が救済される話を書いている人だと思いますが、秋沢はその中でも一、二を争うクズ野郎(現時点)。登場人物のクズ度合いは年々更新されて行っているのでそのうち「あいつはまだ甘かった」と思う日も来るのかもしれませんが、まぁクズです。
本当にどうしようもない奴なのですが、ただ木原作品を読んでいると、周りから見て、まともな人から見てどんなにダメな人でも人間なんだよね、ということを考えずにはいられません。フィクションですから本当に秋沢がいるわけではないので、秋沢が救われなくても別に問題はないのですよ。わざわざそんな作品書かなくても、と思うのもわかる。
だけど、現実に秋沢と同じくらい不器用に生きている人がいたとして、それを馬鹿だからしょうがない、で済ませてしまうことに居心地の悪さを感じてしまう私としては、そういう人にも救いがあってほしいと思ってしまうのです。そういうどうしようもない人を切り捨てられない情の厄介さと、救ってあげられなかった何かに対する後悔のようなものも秋沢と一緒に救済してくれるからこそ読みたくなってしまうのかなと思います。
秋沢ほどでなくても誰しもやらかした記憶やどうしようもない部分はあるわけで、そういった部分を諭しながらも救い上げてくれるのです。そういう後ろめたさやコンプレックスと無縁の人には響かないかもしれないし、ただエンタメとしてのBLを求めているなら今一つだと思います。
なんか、説法みたいな構造なんですよね。こういうことしたらダメだよ、でも反省したら救いは必ずあるんだよ、っていう。こう書いてしまうと面白くなさそうに思えるかもしれないけど、登場人物のことを愛をもってとことん突き詰めて考えていくとこうならざるを得ないよね、と思います。突き詰めすぎてBLの枠をはみ出し気味なのですが、そこが面白い。読みごたえがあります。
また、シーンの切り取り方が映画的で美しかったです。
特にラストシーン、秋沢がひざまずくところで終わっています。正直、修復が終わるところまで読みたかったですが作品としてとても印象的なシーンなのでやむなし。同人誌でハッピーエンドまで書いてくれているのでどうしても気になる方はそちらがおすすめです。
ほかの方のレビューにある通り、ほぼ男性向けエロ本と同じ構造なんですが、受けが男子(ショタ)というのを省いても、ちゃんと一味変えてきているところを評価したいです。
アダルトカテゴリに入っている作品と構造はほぼ同じです(二回言いました)。だが、それだけではない。
女性が読んで嫌悪感がない範囲でぎりぎりまでエロを追及しながらも一定のクオリティを保っていると思うのです。
レディースコミックスや萌え系だとお花畑すぎて萎える。男性向け抜ける系はエロは濃いけどあくまで攻め側の見たい絵優先になっている。そしていくらなんでもレベルのお話空中分解がよく見受けられますが、この作品はそれらの問題がちゃんとクリアできていると思います。また、作画が崩壊しないのも素晴らしい。(男性向けはよくあります)
ちなみにBLでエロしかない作品にもこういった問題点は見られ、それがエロメインの作品全体の評価を下げているのではないかと思っております。原因はエロメインなんか描きたくて描いてるんじゃないもん、という作家側の意識、もしくは照れ、こんなのを大真面目に好きで書いてると思われたくない、という意識じゃないかと思ってますが、この作品はそれがないんですよね。
ありそうでなかなかないんじゃないでしょうか。すごくシンプルにエロだけにそぎ落とされてますが、ところどころに地力ありそうな匂いがちらほら。作者あとがきで「編集長よく商業掲載する気になった」と書いてますが、そういうところを買ったんじゃないかと思ってしまいました。
それに、言い訳でなく、BLとしてはこれだけじゃつまんないよね、ということをちゃんと自覚しておられるのできっともっと別の引き出しもあるはず。ほかの作品を読んでみたいと思える作家さんでした。
酷評なので閲覧注意。
なんでこんなに評価高いのかさっぱりわからないです。やらせ?としか。
話は薄っぺらいし、絵も特出したものはないし。
ええ、高評価に騙されて購入した私が悪いんです。これも新しい売り方なのか、それとも私の感性がおかしいのか非常に悩むところですが、ここまで世間の評価と自分の満足度が乖離するのも珍しいので、これから読もうとしている方に同じ間違いを犯さないでほしいのでレビューします。
まず、お互いにどこに惚れたのか謎。
次にお話がテンプレすぎて読みどころがない。王道とはそういうものではありますが、たいていどこかにひねりがあってぐっと心をつかまれるものなのに、そんな部分はありません。
ただひたすらデレと甘さを堪能、できるわけでもありません。なぜなら二人ともいつの間にか好きになっていて、その辺の心理描写が雑なんです。アクシデントが起こって突然「なにかと引き換えにしてもこの人を守る!だって好きだから!」状態に。そこまでの経緯は表現されてないのでぽかーん。
攻めのほうも受けのどこを好きになったのか、そして何故そこまで執着するのかが謎。いっそ、不遇な若手を見ると助けずにはいられない癖があって、受けのこともそうやって助けているうちに…というのならわかりますが、最初からいきなりなんですよ。だからそこでも( ゚д゚)ポカーン。
次に絵に魅力がない。
次にほかで見ても同じ作者だとわからなさそうな没個性。で、どう見ても俳優に見えない受け。攻めもオーラなし。なので、どのくらいの地位にいるのか見当つかず。そういうのって設定じゃなくて絵で表現するところじゃないの?
で、やたらと入るエロ。必然性のないエロなのでほぼ飛ばし読みしてしまいました。全体のストーリーもアレな上に、だからなのかエロも唐突です。
全体的に「漫画の描き方」の教科書をさらっと読んで描いてみました~、絵にはちょっと自信あります~、ていう素人作家みたい。個性全くありません。そしてBLとか漫画に対する愛も感じられません。
久しぶりにがっつり背徳感のある作品が読めた気がします。
彩景さんのシリアスは本当に好き。エロじゃなくて淫靡をうまく描いてくれる稀有な作家さんだなぁと思いました。
実力のある作家さんなので何を読んでもそれなりに面白いのですが、こういう題材はまず好みなうえに、こんなにがっぷり書いてくれる作家さん&出版社が少なくて(ニーズが少ないのでしょうか?)不満だったところに、キタコレです。昭和レトロダーク系とでもいいますか、匂い立つような空気が感じられます。
「秘め事」という言葉をこれほど如実に表現している作品も珍しいのではないでしょうか。こういう題材を書こうとして構築しきれていない作品が多い中、これは読んで間違いないと思います。
こういうレトロでドロドロなお話が好きな方には必見じゃないかな。
久々神評価できる作品です。
詰め込みすぎた結果、それぞれが薄くなってしまい結果いまひとつ、という印象でした。
旭が大切にしてきたものと、夕來の自由との両方を手にするラストにしたかったのでしょうが、そんなたった数年で舞台に上がれるほど夕來が成長するものなのか?とか、そもそも全くお金も持ってない未成年二人でほんの数年で舞台公演するまでになれるかな?とか。納得いかない部分が満載。それまでの経緯にしても、夕來の父親、あそこまでステレオタイプな人は現実感がなさすぎる。そのほかのエピソードも状況説明に必要だから入ってるってだけで、うっすい。どうせならもっと端的にあっさり説明してしまうか、きちんと描くかどちらかに振ったほうが良かったのでは。演出としての薄さを成立させられていないため、中途半端な印象に。
ほかにも突っ込みたいところは多々あり、全体として消化不良感が半端ない残念な作品となってしまいました。
1作目からだんだん粗くなってる感はありながらも許容範囲でしたが、この作品はそれを超えてしまいました。きっと、もっとしっかり練ったらこれもいい作品になっただろうにと思われるだけに残念。次に期待します。
「兄の忠告」があまり好みじゃなかったのでナナメに見てたんですが、悔しいくらい面白かったです。ほかの方もレビューされているとおり、人間ドラマの部分が強く、そしてまた面白いんですよ…。残りページが少なくなるのがもったいなくて、もっと読んでいたい気分にさせられました。
まぁ一応読んでみるか、くらいで読んでいたのに本当にやられた。悔しい。負けた気分になってしまった。くそう。
ジャンク・無国籍な雰囲気と、現代のおとぎ話的人情とキャラ達。それを彩る怪しげな客とサーカスという舞台装置。それらがうまく融合されていて、「サーカス」というものの持つ独特な雰囲気に落ち着いている上に、人情話だから読後感までもよい。とても完成度の高い作品に仕上がっていると思います。
ただやはり、BLとしての萌えがあるかといわれると微妙なところ。BLじゃなくてもよかったんじゃないかな?と思わなくもない。なので星は4つ。
面白さはというと文句なく面白かったです。