長い物語なのでYouTubeに試聴がいくつかあがってます。なかなか太っ腹。
そこには、宅急便の仕事の合間に諦めきれない絵画の道にひたむきに向き合う若く素朴な男性と、画家一家に生まれながら才能に恵まれず画商の道を選んだ落ちついた歳上の男性の、美術を巡るほのぼのした会話が多いです。
しかしCDをすべて聴いたら分かる。物語と2人の恋の転機は試聴ではない場所にあって、イメージが一変します。
画家の味方は寄り添って育ててくれる画商、しかし画家の魂の1部の絵画を容赦なく売りさばく敵も画商。
そのうえ、ふだんは情景を描く画家が何枚も習作を描く人物画のモデルは美しき画商。つまりミューズ。
これで何も起きないはずがない。
一穂ミチ先生の優れた文章を「声の魔術師」野島健児さんが語り尽くす贅沢さ。
若き天才画家役の熊谷さんと画商役の野島健児さんのあうんの呼吸もぴったりで、それゆえに2人がすれ違う場面は聴いてて逆に指先が冷えてたまりませんでした。好きな場面は、画商 和楽の偽物の村で涙で目の前が見えなくなりながら歩く切なさ。
聴きどころは、2人が一線を越える場面。CD発売前に原作小説の感想を探したら「がっついてる」とあったけど、ほんとにがっついてた。まるで和楽と群のドキュメンタリーみたいに迫力があり、絡みつきもつれ合う声と声にどきどきしました。