まず一言。読了後の満足感と興奮がおさまらない神作。突如事故で当たり前を奪われた「晴人」と一途に愛し献身的な「晃」。二人の心情がリアルで言葉、表情、景色の一つ一つに胸がギュッと押しつぶされる思いでした。私は何も不自由のない体で今生きていて、晃の晴人を支えたい気持ちを理解できるからこそ、晴人の晃の行動に対する感じ方にどうしようもできない焦燥を抱きました。ここまで物語にのめり込んで感情移入した作品は他にないです。自分がしてあげたいことと相手が本当に望んでいることはもちろん違うし、困難を相手から無くすのではなく、分け合うことが共に生きることなのだと再認識させられました。
ネタバレ↓
日本語で楽に死ぬ方法を検索したら、相談サイトばかりでてきたり、出張を断る場面で入籍してないと話を取り合ってもらえなかったり、キャラクターだけではなく環境の描き方がとてもリアルでした。ラストでは、二人の目標を一緒に叶えたんだろうと思わせる表現が素敵でした。自死は良くないとやめて新たな人生を歩むありきたりな美談ではなくて、それも一つの生き方として前向きにエンディングを迎えるのが印象深くて、今の制度や価値観に訴えかけるものがあるなと思いました。
特別ではないある恋人同士の紛れもなく幸せな人生をそばで見つめているような、晴人のエッセイの読者として語りかけられているような、終始不思議な感覚で読んでいました。自分自身が物語を読む中で存在を見失いそうに(様々な人物に感情移入しすぎて何視点で見てるのか分からなく)なったのは初めてでワクワクしました。
事故があって体が不自由になったこの事実は変えられないし、未練や罪悪感は完全に消せない。考え方もすぐには変わらない。しかし、困難も辛い気持ちも無くさずに受け入れて一緒にいることを選ぶことができた2人の考え方や行動は少しずつ変化していくんだろうなと思いました。特に旅行出発前に、以前のように晴人の荷物を全て持つのではなくて、やれることは任せて、困る分だけ少し分けてもらっていた晃の行動からそう感じました。