森永サンライトさんのマイページ

レビューした作品

女性森永サンライトさん

レビュー数2

ポイント数18

今年度723位

通算--位

  • 神2
  • 萌×20
  • 萌0
  • 中立0
  • しゅみじゃない0
  • 絞り込み
条件

指定なし

  • レビューした作品
  • 神作品
  • 萌×2作品
  • 萌作品
  • 中立作品
  • しゅみじゃない作品
  • 出版社別
  • レーベル別
  • 作品詳細
  • レビューした著者別
  • レビューした作画別
  • レビューしたイラスト別
  • レビューした原作別
  • レビューした声優別
媒体

指定なし

  • 指定なし
  • コミック
  • 小説
  • CD
  • DVD
  • ゲーム
  • 小冊子
  • GOODS
発売年月
月 ~
レビュー月
表示モード

いけーーーッ!!!!キスしろーーーッッ!!!!

いやしないんかい!!!!!!
↑読んでる時の感想です。

銀行を舞台にしたお仕事漫画、兼匂い系作品です。
天然人たらしハイスペ美人・加賀谷を中心に、男性同士の巨大感情の矢印が交差しまくっています。表紙の加賀谷次長のビジュアルに惹かれて無料公開分を読み、そのままあれよあれよと全巻購入してしまいました……

一応非BLレーベルのため、BLだったら絶対ここでキスする!!というシーンでとくに何も起こらず終わってしまうんですが、それがまた激しく妄想を掻き立てるといいますか……。意味深な表情やセリフや間を深読みして「え?好きなの?ねえ恋?ドキドキしてたんじゃないの?ねえ!!」などといちいち興奮させられます。
二次創作BLが好きとか、そうでなくても勝手に行間を読んで身悶えできるタイプのBL好きはめちゃくちゃ楽しめると思います。

一巻で登場する可愛い系大学生の陽斗、ガサツなワンコ系部下の設楽に加え、続刊ではミステリアスな加賀谷の過去を知る人物たちも続々登場していきます。
一体加賀谷は誰とくっつくのか?あるいは誰ともくっつかないのか!?時には「え!?そんな展開アリなの!?」と思いながら読み進めることになります。
自立したかっこいい女性たち(BL好きなキャラもいます)も脇役として出てくるので、彼女たちの今後も気になるところです。

現在8巻まで刊行されており、6巻以降は電子のみの発売とのことなので紙派の方はご注意ください。
巻数が増えても続きが気になる要素てんこ盛りなので、続刊も楽しみです。
あ〜いい匂い系に出会ったな〜。

オールタイムベストBLのうちの一冊

 この作品、本当に大好きで何度も読み返しています。人間関係の旨味がギュッと詰まった作品です。
 生きていくことは基本的につらくて苦しいことだと私は思っていますが、どうせ死ぬまで生きなきゃならないならいっきくんと唐木田さんみたいな関係を築ける人とたくさん出会いたいものだなぁ、とうっかり思ってしまいました。
 素晴らしい作品なので、関係性が丁寧に描かれた作品や余白を想像するのが好きなタイプの方はぜひ一度読んでみてください。

 いっきくんは、他人に対して性欲を抱かず、自慰行為も(ほとんど)しないノンセクシャルの青年です。職場の上司である唐木田さんに20代半ばにして生まれて初めての恋をします。
 いっきくんの5つ年上の上司・唐木田さんは、いっきくんと出会った当時は遠距離恋愛中の彼女がいる異性愛者。モテるし相手の好意を察するのが上手だけれど、来るもの拒まず、去るもの追わずな恋愛観の持ち主です。

 このふたり、もともと自分に対して「自分のここはきっと変わらないだろう」と思っていた部分があるんですね。
 いっきくんは、人に恋愛感情を抱かないことと、人と性的な行為ができないこと。
 唐木田さんは、来るもの拒まず去るもの追わずなところと、恋人にストレートに愛を伝えるのが不得意なこと。
 ですが、いっきくんが唐木田さんに恋をしてふたりの人生が交差し始めたことで、諦めに近いようなこれらの“自分に対する固定観念”が、物語の中でどんどん壊れていくんです。

 私は“自分に対する固定観念”が壊れていくことが人と関わることの恐ろしくもあり素晴らしくもある部分だと思っています。この作品ではそれがすごく丁寧に誠実に描かれていました。それはつまりいっきくんの言葉を借りれば「世界がひっくり返る」ことであり、良い方向に「世界がひっくり返る」と、なんてことないはずの風景がすごくキラキラして特別にみえたりするんですね。

 去るもの追わずな恋愛スタイルだった唐木田さんは、いっきくんに別れを告げられたあと、一度はすんなりと受け入れたふりをしますが、数週間後に自らいっきくんの家に赴いて「別れたくない」と伝えます。それ以降は、今までの恋人にはしてこなかった「自分の言葉でまっすぐ愛を伝える」ことを、いっきくんにつっこまれたり赤面したりしながらも積極的にするようになります。恋愛に自信のないいっきくんを安心させてあげるために自分に何ができるのか、考えた末に自分の中のプライドと向き合う決断をしたのでしょう。
 いっきくんの方も、はじめは「ばけもの」に襲われるだけの恐ろしい時間だった唐木田さんとの性的接触が、自発的にフェラチオをしてみたことで「自分がしたことで好きな人が感じる姿はかわいい」と初めて気づくことができます。
 唐木田さんにのしかかられて青ざめていたいっきくんが、物語後半では唐木田さんのあごにキスをしながら「オレのこといかせようとしなきゃ…なにしてもいいよ」とまで言うようになるんです。これはきっと、いっきくん本人でさえも「なんか想像しなかったところまできたなぁ」という感じだと思うんですよね……(感動)
 ノンセクシャルの人は性的な行為の全てがダメなのだと私(非当事者)は思っていましたし、いっきくんも当初はそう考えていたと思いますが、「これは嫌だけど、ここまでは大丈夫」という範囲がある場合もあるんですね。(もちろん相手との関係性や気分によっても変動があるかと思いますが、それは性欲のある私たちも同じです)
 いっきくん自身にとってのその大丈夫な範囲は、相手が自分をいかせようとしないことや能動的に行為をしてあげることなんだ、と唐木田さんとトライアル&エラーを繰り返して発見していったのでしょう。
 唐木田さんとの関わりによって、いっきくんの世界から気持ち悪くて恐ろしいのモノが一つ減ったことが、本当に喜ばしいことだなぁと思いました。

 そして唐木田さんも、性欲のある私たちが持ちがちな「恋人ならば挿入を伴うセックスをすることが幸せなことである」という固定観念のかたちを、いっきくんのかたちに合うように少し変形させ、自分のためにエロいことをしてくれる女の子たちではなく、自分の意思でいっきくんと一緒にいることを選びました。
 “普通”の恋人たちのようにセックスができなくても、個展準備で忙しくしているいっきくんに1ヶ月塩対応されても、唐木田さんの目に映る世界は晴れやかできらめいています。“普通”は恋人にやらないとされている行為をされても、それがいっきくんの愛情を測るものさしにはならない、と心から納得できているからです。唐木田さんの世界も、いっきくんの登場によってひっくり返ってしまったんですね。
 “普通”から外れた人をおかしい、可哀想と言う人もいますが、世界がきらめいて見えるほど幸せなふたりの、いったいどこが可哀想でしょうか。人間関係は、同じ名前がついていても人が変わればその様態はまったく異なります。固定観念にとらわれずに「いっきくんと唐木田さん」という世界にひとつしかない関係性を作り上げたふたりは、本当にすごい。
 はっきりと描かれてはいませんが、きっと葛藤もあったはずです。悩んで苦しんで、それでも一緒にいる選択をした。そんなふたりを想像すると、また一段とこの作品が愛おしくなります。

 ここで描かれているふたりの物語は、世界にとっては非常にミクロな出来事でしかありません。しかし、彼ら自身の人生との付き合い方をガラリと変えてしまう、とてもかけがえのない出会いだったのだと思います。恋の始まりはありふれていてロマンチックなものではありませんでしたが、その先にはふたり自身も想像もしなかったような広がりがありました。
 いつかふたりが別れなければならない時が来たとしても、一緒に過ごした時間はお互いとってかけがえのない、忘れられないものになるはずです。