背景がとても丁寧に書き込まれていて、ただページをペラペラめくっているだけで外国の絵本を見ているような気持ちにさせてくれます。
表題作のステラリウムでは、人工で作った星から人が生まれるのですが、それを大げさに驚くこともなく、こんなこともあるんだなと受け入れられる世界観が作品の空気感になっていたように思います。どこか静かでセンシティブで優しい空気感の作品でした。
ステラリウム 夜明け前
愛する女性を喪い、その女性を忘れることができずにその人を思って彼女が苦手な真っ暗な夜を照らしてくれる星を作る研究に没頭するカナタ。研究に集中していて彼女と一緒の時間を過ごせず、重い病を抱えていたことに気付けないまま別れがやってきたことで自分を責めてずっと苦しんでいた人です。そんなカナタに彼女からのメッセージを託されていたのが星から生まれたアルでした。
カナタの苦しみ、アルのじんわり優しい想いが、青井先生のどこか懐かしさを感じる絵柄で素敵に描かれていました。
ステラリウム 埋み火
カナタが務める研究施設の同僚、キケとレオシュのお話。夜明け前編より恋愛色が少し濃いめでした。
それでも恋だけじゃない人の感情の動きが、静かな世界観のなかで繊細に描かれていて、突然激しく動き出したりジリジリ少しずつ変化していきます。そんなキケとレオシュの感情に夢中になって読み進めていました。
真空庭園
はるかと透はお互いがお互いを生かすために必要な二人。そこに恋愛という感情を挟み込んでしまう自分は汚いと苦しむ透。この二人も特殊な体質をもったファンタジーな世界観の中で描かれていて、とても素敵でした~!!ファンタジー大好きな私はキュンキュンしっぱなしでした。すれ違いから寝たきりで目を覚まさなくなる透にキレイな存在だな~と思いつつ、透が再び目を開いたときに見たはるかにこの作品中で1番ときめいたかもしれません。こういう展開大好きなんだー!!
王道的なストーリー展開ではありますがどれも世界観がファンタジーになっているぶん新鮮でキレイでより楽しめるものになっていました。語りすぎないところがいい塩梅なのかもしれません。
これがデビュー作とは思えないほど、絵柄がしっかりしていてストーリーも楽しめる作品でした。
身体の線がキレイだったり、いろんなアングルからの表情もバランスが崩れることなく描かれていて、大ゴマも見ごたえがありメリハリのある画面になってます。
今作では3カップルの恋愛が描かれているのですがどの作品でも泣く男子が見られます。受けでも攻めでも涙を流す男子が可愛くてキュンキュンしまくりでした。
「恋とはバカであることだ」
30代童貞処女の真木が大学生の彼氏を前にカッコつけようとして決まりきらないお話でした~真木の一生懸命さとか年上としてのプライドとかが可愛かったです!
佐山くんはワンコ系だけど押すところは押して、言うところはしっかり言う頼りがいのありそうな攻めで、これから二人の関係を引っ張っていくのは佐山くんになりそうだな~真木さん頑張れ☆とニヤニヤが止まりませんでした。
「外面だけは王子様」
潤也くんの独占欲の強さが素敵!でもそれで秋から愛されると思ってるならいろいろ問題だな。というところが面白いお話でした~
「俺以外には嫌われろ」なんて言える若さが微笑ましい。ここでもやっぱりニヤニヤが止まりません。
お肉いっぱいのカレーを作ってもらえて良かったね。ふふふ。
「泣けないうそつき」
好きな人に一途で健気でツンデレな瀬川がおもしろ可愛かったです!嘘つきは嫌いと頑なだった真中が瀬川の一生懸命さに気持ちが動き、本当の瀬川を受け入れどんどん好きになっていくところに、ニヤニヤが再び!
どのお話もキャラがしっかり作られていて個性的で涙が可愛くてたくさんニヤニヤさせてもらいました。
佐山くんの同級生のお話が雑誌のほうで続いているので次回作も楽しみです!
高校への進学が決まった中学3年の冬。
高熱を出したことがきっかけで難聴を患い、こっち側からあっち側の人に変わった航平くん。
健常者と障害者の違い。周りの人の変化。それらを感じ、航平くんは自分への自信を失い、何かを期待することをあきらめるように日々を過ごすようになります。
そうやって人と距離を置いていた航平くんの前に、突然落ちてきた(言葉通り)のが航平くんにとっての奇跡の人、太一でした。
五体満足で生まれてきて、それまで当たり前に聞こえていた音が聞こえなくなる変化。そのことにより変わる周りの対応。戸惑うことは当然に思えました。急に自分がこっち側からあっち側へ変わる。こっち側とあっち側と区別されることすら悔しい思いに悩んで、自分の気持ちはだれにもわかってもらえないものだと自分のうちにこもっていく航平くんに共感していました。自分の性格だと、絶対警戒心むき出しで人を信じられなくなるような気がします。
そんな日々が太一に出逢うことで変わっていくことに、読んでいてじんわり幸せが滲み出していくことを感じました。誰もわかってくれないと思っていたのに、自分を見て考えてくれる人があらわれる奇跡。ずっと否定していたぶん喜びも大きくなりますよね!
閉じていた蕾が開いていくように、心が開いていく航平くん。それでも自分に自信はなかなか持てなくて。そんなところにもどかしさを感じながら応援しながら読んでいました。
BLとしては、まだ恋のはじまり?というストーリーでしたが読んでいてほっこりした気持ちになれる、素敵なお話でした。
表紙絵の綺麗さと艶っぽさに惹かれて初購入してみた作家さんです。
内容も絵柄もとても好みで面白かったです~!
私は、行き過ぎた執着でのラブラブものが大好きです。普通にみたら重すぎて怖いと言われるくらいの執着で相手を思い追いかけてしまう受け。そんな矢嶋さんが可愛くてしょうがなかったです。大好き!!
矢嶋さんは自分より年上のおじさんが好みの人。恋した相手への強い執着やその好みは過去に理由があるようです。
そんな矢嶋さんの好みからは外れている若い年下の渡部くんとは、行きずりの関係で出会いますが身体の相性が良かったことで矢嶋さんがヤりたいと思った時に連絡を取ってヤる関係から始まります。
身体だけの関係と思っていたのにいつの間にか気持ちも相手に向かっていて、ゴタゴタを乗り越えて2人は付き合うことに。
渡部君は矢嶋さんからの執着にどんどんはまっていって、いつの間にかその執着に心地よさと可愛さを感じるようになっていくのです。最初は仕方ないな~付き合ってあげよう、面倒見てあげようみたいな立場なのですが矢嶋さんはしっかりもので仕事も手堅く稼いでいるし、家事もしっかりこなせる主夫!頼りないのは実は渡部くんで矢嶋さんなしじゃいられなくなっているのも渡部くんのほうなんじゃ!という展開が萌えをたぎらせてくれます。まだ続編が続いているようなので、今後の2人の関係がどうなっていくのかも期待です。
全体的に、絡みが多めで渡部くんの乳首攻めがたくさん見られます。どれだけヤっても足りないと相手を求め合うところなどニヤニヤしながら楽しませてもらいました。矢嶋さんの性欲を満たすには実は若い相手じゃないとついていけないんじゃ?ってくらい矢嶋さんはエロエロで可愛いです☆
ケダモノ彼氏!!!
前作を読んでいなくても何となく2人の関係性が見えてきて楽しめました~江波くんが多田くんを好きすぎて、愛されてると実感できると嬉しくて仕方ないんだねと微笑ましくなりました。ツンデレ彼氏!これからいろんなことがあっても取りあえず、江波くんが多田くんを離さないんだろうなと思えるところに萌えました。可愛かった~!
うーたんとふみは幼馴染でいつも一緒の仲良しさんです。
ふみはうーたんと出会って、うーたんの体質で1か月に1度やってくるうさ耳とシッポが生えてくるその姿を初めて見た時からずっとうーたんに片思いをしていました。
うーたんがいつでも自分のところに遊びに、泊りに来れるように実家から近くに部屋を借りてうーたんと2人っきりの時間を楽しむこと、それで満足しつつ自分の思いはばれない様にと隠しながらの日々でした。
うーたんはうさ耳が生えるとふみのそばにいないと眠れなくなってしまうので、うさ耳が生えるたびにふみの家に泊まりにいっていました。
ふみ宛に部屋の契約更新の通知が届くと、ふみは遠くに引っ越してもういつでもふみに会えなくなるんじゃないかと不安になってよけいに眠れなくなったり、恋愛感情を自覚していなくてもふみが大好きなところがすごく可愛かったです。
ふみが引っ越してしまう不安をうーたんが一緒にやっているバンドのメンバーに相談して一緒に住んだら?とアドバイスをもらい、うーたんはふみに一緒に住まないか?と誘いをかけます。
そうして2人は同居を始めることに。これまでふみはうーたんに自分の思いがばれないようにと精一杯の理性でうーたんのうさ耳しっぽ姿を前に耐えてきました。それが引っ越し祝いで飲んだお酒の力でゆるんでしまいうーたんに自分の思いがばれてしまうのです。
うーたんのシッポはパンツの中に納まりきらないので、生えている間はパンツとズボンをずり下げてシッポを出しているのです。ふみの家に来て眠る時には、Tシャツにパンツ姿で寝るうーたんなのでおしりの割れ目が見えそうなところまでパンツが下りている頼りなさ!そんな姿を前に耐え続けていたふみは頑張ったな~と思います!筋肉質でムチっとした体格だけどおしりはぷりっと柔らかそうなうーたんのオシリアングルを何度も楽しませてもらいました~!福眼でした☆
表紙を見てイメージするほどエロシーンは多くなかったのですが、エロ以外でもうーたんはセクシーショットがたくさんあってそこでうーたんのエロさを楽しませてもらいました。うさ耳が生える時なんてイク時のような声をあげて頬は赤らんでいて。うーたんは男前だけど天然エロスな存在でした。
出てくるみんなが優しくて良い人なのでほのぼのラブを安心して読める作品だと思います。可愛い作品でほっこりしたい時におススメです!
今回の主役は前回「同人に夢みて」に出てきた俳優の名波純くんと、元世界を股にかけるトップモデルで現在同人作家の香瀬雄大さん。
芸能人2人が主役だからなのか最近の猫野先生の絵柄が変わってきているからなのか画面はこれまでの同人シリーズと比べて2割増し?3割増し?とにかくキラキラしたものになっています。なので、純くんがときめいてドキドキしているシーンや香瀬さんの匂い立つ男の色気などが綺麗でキラキラに描かれています~見ていて迫力がありとてもニヤニヤしました。
ストーリーは溺愛されたい欲求が強い?純くんの思いがこれから叶いそうなのかな、と思わせるところで終わっています。
香瀬さんは、元々誰かを愛すると自分のすべてを注ぎ込んで壊れるまで愛したいという溺愛タイプの人のようです。ただ今回のストーリーの中ではその片鱗を見せるくらいで純くんを束縛したり、愛を注ぎ込みまくっているようではありませんでした。この辺は今後続編が描かれたときに、香瀬さんの過去がより詳しく明かされて語られるところなのかな~なんて期待してしまいます。
元世界を股にかけて活躍するトップモデルだった香瀬さんが日本で同人作家をしている理由は、日本のコミケに連れて行ってもらいそこで同人と運命的な出会いをしてしまったからなのと、日本に行くことで自分を捉えて離さない出会いが待っている予感があったからだったのです。
そして、純くんがモデルになった理由は香瀬さんがショーでランウェイを歩いている姿を見てそれに惹かれ、その香瀬さんと目があって心を打ち抜かれてしまったから。この瞬間に運命を感じたのは純くんだけではなく、香瀬さんもだったんじゃないかな。
モデルになって香瀬さんと会いたいという一心で頑張っていた純くんですが、香瀬さんのモデル引退を知りモデルから俳優に転身します。そして香瀬さんに似ていた壱都に片思いをして芳史に嫌がらせをして、そのお仕置きとして香瀬さんの元でモデルの特訓を受けてこいというお達しを壱都のマネージャー渡辺さんから受けるのです。ここで純くんはモデルの特訓をしてくれる相手が香瀬さんだとは知らずに訪ねて行きます。
モデルの特訓を受けるはずだったのに、同人作家をしている香瀬(ペンネームはわかめ香)の元に行ったら漫画を描くことの手伝いしかさせてもらえず、モデルに対するやる気も否定されて反発する純くんですがわかめ香が香瀬さんだったと知って少しずつ歩み寄っていきます。
香瀬さんは、純くんを最初はオモチャ扱いでモデルの指導なんか全然する気がない態度でしたが、自分が好きな女の子キャラのコスプレをさせたりその中でモデル指導をしてみたり、自分を思って成長していくダイヤモンドの原石である純くんに時間とともに惹かれていきます。
純くんはこれから香瀬さんのもとでもっと磨かれていって輝くダイヤモンドになっていくんだろうな~そうなった時に香瀬さんの愛情が爆発する、その時を香瀬さんは待ってるんじゃないかなとかってに思って続きを期待しています☆
そして、同人を愛してシリーズは渡辺さんがデレた!!?あの渡辺さんがぁぁあ!!!と興奮してしまいました。男を見せた尾崎さんの粘りが渡辺さんをデレさせたことにホクホクしました~渡辺さんの可愛さをこれからも引き出していって欲しいです!この2人にもまだまだ注目です。
沙野先生のお話は、いつもストーリーがとてもしっかり作られているのでエロが多いお話でもただエロいだけで終わらず、ちゃんと主人公たちの物語を楽しませてもらえるので安心して手に取ることができます。
今回のお話では主人公の緋角(赤鬼)と萱野(人間で建築士)のエロエロシーンがたっぷり楽しめますが、他にも双子の赤鬼兄弟、東雲と灰桜のシックスナインや真壁(萱野を担当する弁護士)とカガチ(白蛇の禍津日神)の異種間ラブと充実した内容になっています!
これだけエロシーンが入っているとストーリー部分が薄くなってしまいそうですが、そんなことはなく前作からの禍津日神との戦いに萱野と緋角も巻き込まれていき、人と神の関係、人間の業と向き合っていくことになります。
萱野は、緋角と初めて出会った500年前宮大工として神の牢獄を作っていました。その神の牢獄には禍津日神となった存在を封印して村への厄災を抑えていたのです。
そのため、禍津日神にとっては自分たちを封じ込める力のある神の牢獄をつくる萱野の存在は邪魔なものでした。
ただ、萱野の作る社は禍津日神だけを閉じ込めるものではなく、神霊や鬼でも閉じ込めることができるものだったため、萱野を利用して藍染(山神)たちを閉じ込める社を作らせようと白鳥たち禍津日神に萱野がさらわれてしまいます。
ここまでは、禍津日神たち、萱野の作った社に封印されていて白鳥たちによって封印から解き放たれら緋角(赤鬼たち)、禍津日神たちと敵対する藍染(山神)や依冶たちが三つ巴のように敵対していきます。
萱野はそれぞれに触れて、その考えや意見を聞き、自分はどうしたいのかを考えていきます。禍津日神である白鳥やその依代となって禍津日神たちを統べている寧近のやり方は間違っていても、その思いまでは否定できないところかもしれないと思いました。
前作では人間嫌いだった藍染が今では人との共存共栄を目指していたところに胸がほっこりしました。この2人の相変わらずのラブラブが見れて良かったです。どこか偉そうで子供っぽい藍染かわいかった~!
萱野と緋角は強姦という形で始まり、緋角は萱野を責めながら前世でのことを思い出せと何度も無理やりな関係を結んできます。そして、禍津日神たちとの戦いに巻き込まれ、いろんなことが起こる中で前世の記憶の欠片を思い出しながら緋角への強い愛情を感じていくのです。
緋角はただずっと、萱野と一緒にいたかった、一途な思いでずっとずっと萱野を思い続けていたその深い愛情が物語のあちこちで感じられて、胸がジンジンしていました。その切実さや思いの強さが緋角をとても魅力的にみせていました。
ストーリーは、強姦から始まって禍津日神たちとの戦いがあったりとドキドキな展開が続きますが、その中で熱いラブストーリーもあってダブルでドキドキしながら楽しめました!また読みたいな
主人公のピヨと荒瀬先輩が一緒に暮らした777日間の思い出を、とても上手な構成で描かれた作品でした。始まりはピヨが荒瀬先輩と一緒に暮らしていた部屋から引っ越しをして出ていくところからだったので最終的に2人は別れましたってオチなの!?とビックリしつつ、今と過去とお互いの視点を混ぜながらのストーリーを夢中になって追いかけていました。
ピヨは憧れの教授の講義を受けたいからと、唯一の肉親であるお婆ちゃんの制止も聞かずに北海道から上京してきます。
お婆ちゃんの反対があったため、仕送りや援助はもらえず大学の学費は奨学金でやりくりしているピヨは住み込みのバイトで住む場所を確保していました。大人のおもちゃを扱うそのお店を面白そう~と住み込みバイトに入ったピヨは早々に店長に襲われそうになるという現実を見て住む場所をなくしてしまいます。そこで一緒に住もうと誘ってくれた荒瀬先輩との漫才のようなにぎやかな毎日が始まっていくのです。
ピヨは大切なお婆ちゃんの教え「ヒモはだめだ。人間のクズだ」という言葉をしっかり守って、荒瀬先輩との関係でもお金や恋愛の部分でしっかり線引きをしようとします。その線引きのズレッぷりがとにかく面白かったです。
身体はゆるしても、恋人のようなキスはだめ!と抵抗してみたりホモはヒモ以下の人間のクズと聞けば、荒瀬先輩に対して「禁ホモ運動」を始めて過剰なスキンシップを禁止してみたり。
好きだから触れたい、ピヨも自分を好きなんじゃないか、と期待すればするほど傷ついていく荒瀬先輩を見ているのは可哀そうな気持ち半分、おもしろすぎる気持ち半分で終始楽しかったです。
ピヨと出会ってホモに目覚める?脇役たちも味のあるメンバーばかりで素敵でした~!
自分の思いを隠しながら、相手の結婚まで笑顔で祝福し(その後すぐ離婚)15年も寄り添ってきた宗像さんと、鈍くて宗像の気持ちにまったく気づかなかったのに気持ちがわかって丸く収まった後には自分たちななるようにしてこうなったと自然と新しい関係を受け入れている鹿森さんには胸が暖かくなりました。
才原親子のお話も、長い時間の苦悩があったのかなと思うともっといろんなエピソードやその後の話が読みたかったです。
とにかくピヨの天然と、荒瀬先輩の不屈の精神に面白おかしく楽しませてもらいました~。キャラ作りがこれが恵庭さんらしさなんだろうなぁ~という感じで好きです。他とはちょっと違うキャラ達とストーリー展開でにぎやかに楽しめるのではないかと思います。
前作で魅力を光らせていたイイ男健児くんのお話です。
探偵業のような仕事から雑用係まで、いろんな仕事を請け負うなんでも屋「アノニム」で働く健児くん。
そこに、セフレとして付き合いのあるアノニム所長の義弟である和以からストーカー被害の相談がメールで届きます。
それまで、和以とは基本的に身体の関係だけでお互いの過去にはそんなに触れてこなかった健児ですが、ストーカー対策として24時間体制で警護するうちに和以のこれまでの環境や生い立ちなどを知ることになります。
ふだんは人を食ったような笑顔とふわふわした態度でその本心を素直に見せることのない和以でしたが、たまに感情をにじませて悲しい表情や諦観したような表情を見せることがあり、世話焼き体質の健児はそんな和以がどんどんほっとけなくなっていきます。
和以の過去は、普通と真逆の日々でした。たくさんの人を魅了して、たくさんの人の期待に応えて、和以を特別視する人だらけの中で過ごす日々。
そんな中で和以が求めたのは、変わらずある場所や普通の日常でした。
物語の中での和以は、健児に誘いをかけたりいろんな顔を見せてくれますがそんな健児の前で見せる表情と、これまで和以に誘いをかけてきた人たちに見せてきた表情は違うものなのかなと思いました。健児の気を引こうと色々している和以は艶っぽかったり、綺麗だったり、可愛かったりして愛おしいのですがそんな和以の無邪気だったりいろんな顔を見て、和以を好きになったひとはこれまでいなかったのかな?と。
それだけ、和以にとって健児は特別な存在だったというところに切なさといとおしさが生まれてきます。
健児は、來可とのことが胸の中にしこりのように残っていて和以とのことも素直に考えることが出来なかったり。目をそらそうとしているところに和以を大切に思う所長の創十郎やその息子の仁千佳から葉っぱをかけられ、苛立ったり。
そんな時に、來可が健児を訪ねてきて二人は再会します。來可と離れて約1年半の時間が経つ中であのころとは違った顔を見せる來可に健児のなかでのわだかまりも自然と溶けていきます。前作の終わりではまだちょっと不安定さの残る來可だったのでここで寛と過ごす中で、來可らしさや自分への自信みたいなものを取り戻している姿が見れてほんとうに良かったです。
面倒見が良くて、過保護、自分の内側に入れた人間には甘い健児は和以を甘やかしすぎないようにと自分の気持ちを抑えながらも、和以への愛情を膨らませていく姿が微笑ましかったです。
素直に好きだとは告げないけれど、ちゃんと大切にしているところはやっぱりカッコ良い、いい男でした!
後書きで、今後はアノニムを舞台に続編が続くかも、とあったので今後も健児や和以のラブラブが見れることを楽しみにしていようと思います。
高校生の寮ものと言うと、橘紅緒先生の『私立櫻丘学園高等寮』シリーズが自分の中で印象的な作品ですが今回の杉原先生のお話も印象に残るとても素敵な作品でした。高校生の初々しさと、真っ直ぐさ。どこか清廉さを感じさせる空気感にドキドキしました。
進学校の男子寮。周りからは坂の上の囚人と言われるくらい外部から切り離され、携帯などを没収されてのアナログ生活。今の時代、高校生にアナログ生活ってそうとう厳しいな!そんな中だとどんな生活になるんんだろ!?と始めからワクワクするスタートでした。
そうした規則の中だからなのか、主人公たちは一昔前のような素直さや真っ直ぐさがある子たちが多かったように感じます。
そうした男子寮に入寮した主人公の遥は、中学時代に男子寮生活を挫折した過去がトラウマになり、人との距離感に怯え自分に自信の持てない子でした。先輩と2人1部屋の寮で同室になったのは、周りから王子と呼ばれる寮長の篠宮先輩でした。
寮長、副寮長と同室になった1年生は1年のリーダーに指名されるしきたりのため、静かな寮生活を始めたいと思っていた遥の思いとは裏腹に寮生みんなから注目を集めるなか1年のリーダーに抜擢されることに。
おとなしい性格で友達1人作るのにもドキドキしていた遥が、リーダー役なんて大丈夫なんだろうかと心配しながら物語を読み進めていたら篠宮先輩との寮生活を頑張るという約束と共に遥は本当に1つ1つを一生懸命頑張って乗り越えていきます。
そんな中、遥のことを丁寧に見守り、遥の負担にならない距離感を保ちながら甘いキャンディと優しさで遥をいつくしむ篠宮先輩はカッコ良かったです!
行事ごとの多い若葉寮での日々は、遥も篠宮先輩も少しずつ成長させていき、ふたりの関係も自然と深まっていくところが読んでいてとても楽しかったです。何気ない日々の中で、相手を見つめて惹かれていって好きがどんどん大きくなるところが恋の楽しいところだよね~と読んでる間、ずっと顔のニマニマが収まりませんでした。
篠宮先輩の過去を、先輩はサラッと遥に打ち明けますがその内容はそうとう重い話でした。幼いときからこうした境遇のなかで周りの人のために自分を作り上げること。その心の底にたまっていく本当の自分を見てもらえない、必要とされない寂しさや悲しみはどれほどだったのか。それを強く受け止めている篠宮先輩は高校生とは思えない強さと優しさがあることを少し切なく感じながらも、今は遥がいるから!とふたりが出会えたことが本当に嬉しくなりました。
ふたりが出会ってからの1年という時間が、とても丁寧に描かれているストーリーです。お互いが胸に抱える孤独やトラウマ、それがどうやってほぐされていくのか。読後はほんわりとした幸せに包まれてほっこりできますよ。
また、この寮でのお話が読みたいな~と思います。寮長として奮闘する遥の姿を見てみたいです。