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恋という表現では生ぬるい

初読みです。読み終えて10日ほど経ちましたがいまだにこの世界から抜け出せず、次読もうと買っておいた本にまだ手を付けられていません……。BL小説の枠を超えた物語だと感じました。単純な萌えとかときめく恋模様とかでは片付けられなくて、なんて言うんでしょう、恋と呼ぶのでは生ぬるい。2人が恋に落ちた、という表現では陳腐で言い表せない。もっと深く、本能的に相手を求めているというか、心の奥深くに相手を想う気持ちがあるというか、無償の献身というか……なんとも私の文章力では言い表せません。時代や状況的にも、「好きだ」とか「恋人になってくれ」とかの告白の文言も一切ないのですが、でも、身も心も相手に捧げ、身を引き裂かれるような心地になりながらもまっすぐ相手を想い焦がれる男二人の切実な感情を浴びることが出来ます。そういうの大好きです……!
戦闘シーンや機体の整備、整備士や搭乗員の暮らしやちょっとしたエピソードまで戦時中のリアルが溢れています。風景の描写や心理描写も巧みで、文章もストレスなくするすると読むことが出来ました。
ざっくり言うと、戦果を挙げるため諸刃の剣のような戦い方をする零戦搭乗員の塁と、そんな塁の戦い方を辞めさせようと何度も阻む整備士の三上のお話です。だいぶ悲惨な過去があり、警戒心が強く他人との交流が乏しい塁が、反発を繰り返しながらも次第に三上に心を開いていくさまにじんわりと胸が熱くなります。家の汚名を雪ぐため、戦果を挙げ栄誉の死を望み向こう見ずな戦いをする塁ですが、次第にその無茶な戦いをする理由が変わっていくのが……なんともせつなくやるせなく、胸が締め付けられます。
太平洋戦争中の前線地ラバウルが舞台となっており少し重めのお話となっておりますが、是非とも読んでいただきたいです。尾上先生の書き下ろし短編と牧先生の描き下ろしイラストが収録されているので、絶版本を持っていらっしゃる方にもおすすめです。どちらも素晴らしく、あたたかいのにせつなくて情緒が乱されます。