一読するとBL色以上に成長ヒューマンドラマのテイストが強い印象ですが、芸術家は作品と人柄でニコイチになっていて切っても切り離せないと改めて実感し、「やっぱり当作品はまごうことなくボーイズラブなんだなぁ」と深く感じ入りました。
多かれ少なかれ創作をしていると、プロにならない自分には価値がないんじゃないか、愛されないんじゃないかと落ち込んだり、今つながってくれている人も創作しなくなったら離れていくんじゃないかと思ったりすることもあるかと思うんですが、
直樹と麻人もそういう恐怖と切っても切り離せない二人だったのかな、と邪推してます。
二人は芸術以外の世界では生きられなくて、「愛される」という感情に対して自分の生み出す作品と無関係ではいられない。それこそ大学時代(この場合『青の時代』というべきか)の二人は、美大に通っているのに作品を生み出さない周囲の人間を嫌悪していて、お互い惹かれ合った後も、心の奥底では無意識に「作品を作らなくなればつるむ価値がなくなる相手」と思っていたかもしれません。
その点麻人が、直樹が画家の夢を諦めたときに「裏切り」だと感じてショックを受けたのは、本当に直樹のことが好き過ぎて、愛しさ余って憎さ百倍ゆえの感情だったように思いました。
話が進んでいくうちに、二人は絵を通してお互いの人柄を究極的に突き詰めていく。最終的には絵を通じて「誰のために作りたいか」、「作品に対してどういう姿勢でいるか」と相手へ向ける感情の正体を深く知っていく。
恋愛としても、その先のパートナーとしても、直樹にとって愛して愛されるべき相手は「作品を作らなくなっても直樹は直樹だよ」という相手ではなく、麻人でなければならなかった知っていく。そうやって、なぜ相手のことが好きなのかが確固になっていくのがとてもいいなと思いました。
絵を描かないと自分の感情をうまく整理できない。とても愛い。
お互いのことを深く知ったことで、直樹がプロにならなくても麻人と結ばれた結末は個人的に嬉しかったです。
二人の悩める芸術家が唯一無二の相手を見つけるまでのボーイズラブを楽しませていただきました。