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何かを「愛しい」と思うことの可能性を、信じたくなる一冊です。

挿絵を描いておられる草間さかえさんのファンになり、草間さんが携わられた作品に触れたいと思い、この「檻の外」を手に取りました。

木原さんの紡ぐ言葉も好き。
草間さんの描く景色も好き。
そして、両者が組み合わさったことによるこの作品の雰囲気が、切なくも愛しいです。


前作『箱の中』でおよそ「人間」とは思えなかった喜多川。
そんな彼が堂野の娘・穂花を想い涙する姿、
堂野に愛し愛された彼が、書き下ろしの「なつやすみ」に登場する尚(なお)に惜しみない愛を注ぐ姿を見て、
「誰かを愛し、誰かに愛されることで人は変われるんだ。素敵になれるんだ」
と思いました。


「檻の外」「夏の日」「なつやすみ」いずれも素敵な作品ですが、
個人的には「なつやすみ」が一番好きです。
思い出すだけで目頭が熱くなってきてしまいます。

堂野に愛し愛された喜多川が、とても人間臭い男になっていること、
(草間さんの挿絵に描かれた喜多川の満面の笑みには、
「あの喜多川が…!」とノックアウトされてしまいました)
そして堂野と喜多川に惜しみなく愛された尚の成長した姿は、
「人を好きになるっていいな、人を愛するっていいな」
と心から思わせてくれます。


「なつやすみ」最終盤の堂野・喜多川・尚の再会の場面は、
あのような形でしか再会が叶わなかったことが凄く悲しくて、とてもやり切れませんでした。
しかしその後の、過去に喜多川が尚に言った言葉が、尚の口から語られる場面で、
「悲しい」とは別の何かがこみ上げてきて、感動で胸がいっぱいになりました。

最後の場面の描かれ方は、まるで「なつやすみ」冒頭部にリンクするかのようです。
この場面は、堂野と喜多川が尚に与えた感動が、尚から次の世代に伝え、与えられて、
それがまた次の世代にどんどん伝えられていくことを感じさせてくれます。
とても感動的で、自分はこの場面大好きです。


喜多川と尚の交流の場面はまるで本当の父子のようで、
読んでいて胸が温かくなりました。
そして堂野と喜多川が尚に接する様子は、読んでいて
「結婚して家庭を持つことができたら、自分も堂野や喜多川のような親になりたいなぁ」
と思わせてくれました。

ずっと手元で大事にしていきたいし、、
前作「箱の中」と併せてたくさんの方に読んでいただきたい作品です。