同期ライバルで対照的な二人が、体の関係から始まって、やがて心を通わせ……という王道リーマンもの。
早瀬の誕生日のエピソードが好きでした。
性格も境遇も正反対のようでいて、どこか似たような寂しさを抱えていて、それをささやかなコンビニケーキが満たしてくれる。早瀬が小さなろうそくをそっと持ち帰るのもよかったです。
ただ、時藤・早瀬ともに丁寧に心情を描かれているわりに、そんなに心に深く刺さる感じではなかったです。
何でだろう?と考えて……ひとつには、早瀬のキャラがブレて見えたからかも。
最初のパーティーからして得意先の社長が来るような場で泥酔するのがありえないし、時藤に対して序盤からいとも簡単に弱いところや可愛いところを見せすぎだし……普段の言動(オフィシャルでもプライベートでも)を見る限り、「甘え下手」「ひとりで抱え込む」「頑張りすぎる」というタイプに見えない。ちょっと意地っ張りなツンデレぐらいとしか。
そしてもうひとつ、これは個人的な好みの問題なんだけど、心情を文章で語りすぎるところが苦手。
心に抱えている傷、好きになっていく過程、すれ違ってからの葛藤まで、会話やモノローグで1から10まで説明されてしまって……余白とか行間から感じ取りたい性分の私には今ひとつ相性が合わなかったです。
重要な場面で粗さが目についてしまったのも残念。
大切なもの(しかも折れやすいもの)を後ろポケットに入れて持ち歩くという発想が全くなかったもので、見た瞬間、えっあの日からポケットに入れっぱなし?と思ってしまいました。すごくいい場面だったのに……
時藤のキャラは共感できました。時藤が誕生日に早瀬にかけた言葉を、最後のほうで早瀬が時藤に返すところが素敵です。
今巻もまたしんどい展開。
ただ前巻では、ここまで詳細な描写が必要なのか、そもそもここまで重い設定が必要なのか、という疑念がチラついてしかたなかったのと比べると、まともに読めました。
辛く苦しい流れの中に、ミカの想い、エルヴァの想いがしっかり感じ取れました。
兄貴分なのに、エルヴァより幼い姿のミカが哀しい。
8年間、アルトと過ごしてきたエルヴァと、孤独だったミカの差。
けど最後は、エルヴァの心を受け止めてミカが笑ってくれた。そしてミカの尊厳を守るために、いちばん辛いことを遂げたエルヴァの強さに、心打たれました。
けどその後さらに追い討ちをかける残虐行為があったのは、どうにも……前巻と同様、そこまで描く必要あるの?と思わずにいられない。
後半、二人の絆とエルヴァの強さに感動する場面にも、うっすらとモヤモヤが付き纏ってしまう。
100日とか時間の長さの問題じゃなくてね、ただ私の心がついていけなくて。
あー、ここでそういうことになるかー、と何ともいえない気持ちで眺めていました。
良かった部分はほんとうにすごく良かったので萌2をつけたけど、ちょっと割り切れない評価です。
島の外のことが明かされた3巻からだいぶ焦らされて、ようやく外へ! 出口が全く見えずに辛いことばかり続く展開はもうここが底で、少しは未来が開けることを期待しています。
羊でもふってるエルヴァと、最後の手紙は可愛かったな〜
何はともあれ、二人が元に戻って良かった。ここに至るまで、何だかなーと思う部分はそこそこあったけど、全部吹っ飛ばしてもいいぐらいにとにかく嬉しい。恋を自覚したかしないかぐらいの時期のあの雰囲気が帰ってきて、ああやっぱりこれだよ、としみじみ浸りました。いい歳したデカイ男二人、人目も憚らずにキャッキャウフフしてるのが好きだよ。空の下で一緒に踊っているのがいいよ。
ダンスの方はニーノのお出ましで、さらに話が凄いことになってきた。なんかもう鈴木がダンスで世界征服しそうな勢い。アキや房ちゃんも含め、トップダンサーたる者みな超能力者で当たり前、みたいになってるし。
残念ながら、話が壮大になればなるほど私の心は離れていってしまいます。
ただこの先もまだ読み続けたいと思うのは、帝王を自分が潰してやる、楽にしてやる、という鈴木の決意の行く末を見届けたいから。不撓不屈の孤独な魂が、ちゃんと安らかに成仏するのを見届けたい。それだけは、願っています。
私はこのシリーズが6巻まで刊行されていた時点で読み始めたので、1〜6巻は夢中で一気読みしたわけだけど、次が出るまで少し間があいてしまったせいもあるのか、この7巻はちょっと自分の熱が停滞してしまった感があります。
もちろん、二人の信也の関係も完全に停滞中だからというのもあるけど……それ以外に、何だか方向性の違いを感じ始めたというか。
ノーマンとの関係については、私はそんなに嫌悪感はなかったです。お互い逃げ道にしている、というのは自覚もしているし。むしろなんで唐突に瞬を巻き込んできたのかが謎すぎて、瞬が気の毒すぎる、という程度。
ただ、ダンスの方が……5巻でもちょっと感じていたけど、鈴木がやたらと人間離れした存在になっていくのに付いていけない。「集団トランス」に「廃人」に、断頭台と鉤十字まで出てきましたけど???
この巻の中でいちばん素直に感動できたのは、リアナの「一人で立てるわ」だったかもしれない。
前巻の終わりでもう完全に決別、かと思ったら、そうかダンスのレッスンはちゃんとするのね。以前ちょっと気まずくて駄々こねてたときよりも、むしろ粛々と。
そして以前のような歓びはなくとも、二人で踊ることだけはやめられない。一筋の細い糸……切ない。
マックスが現れて、ダンス界の事情を知り尽くした強かさを発揮する帝王がカッコいい。それを目の当たりにして、遠慮なく享受すると決める鈴木も。
恋愛面では行き詰まっていても、こういうところで骨太な信頼関係を見せてくれるのがアツいです。
マーサと踊りたい帝王が少年のようで可愛かった。
佐市さんを牽制しまくるのも、いつもの杉木節全開で好き。
そうして、ほぼ丸1冊をかけてジリジリと近づいてくる別れの時。
最後のダンスは圧巻の美しさでした。背景の描き込みも素晴らしい。
杉木教室は銀座であの公園は数寄屋橋あたりらしいけど、そこから丸の内を抜けて東京駅へ。始発前の人がいない時間に東京駅前のあの場所で踊るの、最高に気持ちよさそう。
二人の心の内とのコントラストがなんとも切ない、名場面でした。
鈴木の大躍進からの、すれ違いで会えず……からの、あの公園で!という幸福度マックスのところから、急降下。落差がすごくてかなりショッキングでした。
この二人はつまり男同士云々というよりも、自分が主導権握らなきゃ恋愛なんてできないってことですか……? 話し合うとか歩み寄るとかの余地も一切なしに? それで大切な人を手離してでも?
そこまで強烈な自我なんてものを持ち合わせない私にはイマイチ解せない。帝王はまあ納得かも。鈴木はキューバの男性優位主義育ちだから?
二人とも、ダンスで世界の頂点に立ちたい、観る者すべてを支配したいという闘争心と支配欲の持ち主だからこそ……ってことならば、なんという皮肉なのか。とにかく悲しい。
恋愛面ではそんな辛い展開の中、鈴木のダンスは本格始動。
お父さんを「裏切る」という決意は切ないけど、腹を括って自分を解放していく姿はカッコいいし気持ちいい。
でも、停電のあたりから何だか……鈴木がやたらと人間離れした存在になりすぎている気が。
鈴木が帝王をインスパイアした「神様」っていうところはすごく好きなんだけど、それは杉木個人の心の問題かと思っていた。ここまで超人的なものすごいダンサーなの??? ちょっと付いていききれない自分がいます……
このあたりから、不穏さが兆し始める二人の関係。
今まで散々(しかもかなり濃厚に)キスしまくってしておいて、それでもまだ男同士は無理って拒絶する?と思わないでもないけど、まああまりにイージーなのよりはいいのか。
そこへ登場するベーメル夫妻。この二人、好きです。
「アルベルト・ベーメル!!」叫びたくなるの、わかるな。小さいオッサン、カッコいい。ドリー姐さんの尻に敷かれてるところも可愛い。見た目はノーマルな男女カップルなのに、実は二人とも本来の性志向と違う相手と結婚したという、不思議な巡り合わせ。
アルに宣戦布告する鈴木のビッグマウスもカッコよくて、世界進出がここで一気に楽しみになりました。
鈴木がこれまで国内に留まっていた理由であるキューバの家族のこと、もう一人の「妹」アキのこと、いろいろ描かれたのも楽しめました。アキちゃん幸せになって欲しい。
ついでに悪い顔の房ちゃんも可愛い。
ちなみにこの巻から【特装版】が出始めて多くの読者から絶賛されてますが、私は【特装版】ではなく【通常版】を選びました。
レビューを読んで特典ストーリーの内容をだいたい把握した上で、一部のレビュアーが違和感を唱えているのを見て、自分はたぶんそっち側の人間だろうと判断したので。
読み比べたわけじゃないけど、この選択で正解だったと思います。
これだけ強烈に惹かれあって、でも男同士だからという葛藤があって……というもどかしい展開なのに、この時点でそういうのはまだ見たくないな、私は。
とりあえず、「牝猫」に笑い転げた!
帝王のキャラがどんどん好きになる。1巻を最初に読んだときは典型的な優等生キャラだと思ったのに、奥が深い……それでいて、桁外れの優等生であることも間違いない。とにかくすごい。
でもそんな帝王の暗い側面も知らされてしまうこの巻。
悪魔に魂を売り渡したみたいな……そんな自分の内面とも葛藤して闘って、外では自分をチャンピオンにさせないダンス界とも闘って、どちらも絶対に屈しない。ものすごく強いけど、これはしんどいよな。
鈴木の「俺が潰してやる」という想いに、ほんと、ほんと頼むよ!と縋りつきたい。
そのあとに微妙な空気で去って……からの、お互いに踵を返して電車に滑りこむ! 名場面でした。
二人の関係性に関しては、いろいろ拗れてくる前のこの辺りまでが好きだったなーと今にして思います。
この巻の、ブラックプールの帝王はずっと忘れられない。
ほんとにもう、なんで折れないんだ。なんで笑ってみせられるんだ。何と言う意志の強さ。
鈴木が恋に落ちる瞬間が、とにかくドラマティックで素晴らしいシーンでした。
そして、深夜の公園で初めて踊るシーンも大好き。
3巻以降、話がだんだんシリアスに、壮大になっていくけど、街中で自由に楽しく踊ってる二人がいちばん良かった。
ほかにも、帝王の天然で女王様気質なところとか、鈴木のハートまみれの英語とか、世話焼きオカンなところとか、二人のいろんな側面が見えてくるのも楽しかったです。
オナーダンスでパートナーチェンジする話と、競技会で男同士は無理だねという話を見て……いつか10ダンスで鈴木組と杉木組が1位と2位になったら、オナーダンスでW信也で踊って欲しい!なんて妄想してしまいました。
初めてこれを読み始めたときの第一印象。
“ああ、クールな優等生タイプと、セクシーなやんちゃタイプの組み合わせね……”と思ったのを覚えています。ダンスもスタンダードとラテン。失礼ながら、いかにもありそうなパターンだな〜と。
優等生とやんちゃなのは基本間違ってはなかったけど、この二人はそんな類型の中に収まるようなキャラクターじゃない……と思い知ったのは2巻以降を読んでから。
1巻はまだ序章も序章、ダンスの世界への導入の段階でした。
鈴木が初めて帝王のリードでワルツを踊るシーンが好きです。
あと、一緒に練習をしだしてから初めて離れ離れになったときの、何だかんだ言いながら嬉しそう〜に電話する二人。
この楽しそうで嬉しそうな空気感、これが原点だよなと、いま8巻まで読んだ時点で振り返るとしみじみ思います。