精霊や白狼、騎士達といったファンタジー感ある設定、森の庵で慎ましく暮らす主人公など、雰囲気がとても良くファンタジーモノ特有のワクワク感や可愛らしさがあるお話でした!
そこにすれ違いの要素や三角関係のようなロマンスも加わり、話運びや心理描写も丁寧で、こういう要素が好きな人は楽しく読める作品だと思います。表紙のイラストがとっても美麗で、それだけでも得した気分でした。
ただ、主人公がリッカルドに惹かれた理由がやや弱いかな?と。白狼ということで苦しい思いをしてきた主人公のルディですが、家族にはとても愛されているので、リッカルドからの拒絶があっても悲壮感が抑えられてしまった印象。アルヴィンから主人公への想いももう少し盛っても良かったのではと思いました。
静かな空気の中で狼の姿でアルヴィンの気持ちを受け取る主人公、という終わり方はとても優しく幻想的で、個人的には好きな締め方なのですが、物語の山場がその直前だったこともあり、どうしても物足りなさも感じてしまいました。もう少し、主人公とアルヴィンの気持ちが確かなものになる過程を見てみたかったな、という気持ちも。
全体的にもうひと押し欲しい!という印象です。
新設のレーベルで新人の作家さんということもあり、もしかしたら字数など制限があってのことだったかもしれないですが、とはいえお話として纏まっており雰囲気も良い作品でした。レーベルさん、作家さんへのこれからの期待の意味も込めての萌2評価です!
バイオレンス色強めのBLかな、と思って少しの刺激欲しさに読み始めましたが、こんな生半可な覚悟で読むもんじゃなかったです。
以下、ネタバレ有りの感想です。
サンウとウジンは機能不全の家庭で育ち、様々なかたちで傷を植え付けられ、歪んだまま大人になってしまいます。そこは庇うどころか、なんなら同情や憐れみを向けずにはいられません。
けれど二人がしてしまったことだけを事実だけで考えるなら、間違いなく庇う余地なんてないんです。
それは終始一貫していて、最後の最後まで彼らは良くも悪くも人間らしく、その時の感情に支配されて選択を誤ったり感情の赴くまま言葉を吐いたりします。
読んでいて「報われて欲しい、でも報われちゃダメなことをしているし、でもあんな過去があったんだから、そういう過去があれば罪を犯していいのか?」という倫理観とか道徳心とかそこらへんへの問いかけが絶え間なく襲ってきます。
サンウとウジンが過ごした短い期間の中で、いつから、果たしてどのようなかたちで愛があったんだろうかと考えてしまいます。その愛とははたから見たとき綺麗に見えるのか、醜く見えるのか…。
少なくとも二人に必要だったのは、罪を重ねつつの共依存ではなかったんですよね。子どもらしく庇護を受けて育つとか、然るべきセラピーを受けて自己受容をするとか、もっと根本から歪みを直していく必要がある。
それでも二人は傷を抱えて歪んだまま大人になってしまった。偶然が重なって出会ってしまって、歪みがさらに歪みを呼んで、依存の道を行くしかなかったんです。
そこでおそらくこの作品を読む大多数の、二人から比べたらだいぶマシな境遇にいる読者の私たちが何を愛と見出すか、判断するのか……
これがこの作品を読むうえでいちばんの醍醐味だと個人的に思っています。
重厚なバイオレンスBLとして読んでも、ひとつのヒューマンドラマとして読んでも素晴らしい読み応えのある作品だと思います。迷っている人には是非読んで欲しい!
余談ですが、お話のボリュームにも圧倒されました。韓国BL系はどれも話のボリュームが多い。ボリュームがあればできること描写の仕方などだいぶ変わってくると思うので、どうにか日本でもそういう長編作品の受け皿のようなものがあれば…と思ったりもしました。