結婚から本格的に物語が動き出し、結婚式で締めるお話。熱烈求婚編と事件編の二部構成っぽいつくり。そこだけを読み返したくなる印象的なシーンが散りばめられていて、とても良かった。
イルネドの求愛・求婚は、真面目さが前面に出ていて応援したくなる。“他のΩを知らないから”と拒むセノの言い分に大いに同意したので、他のΩと付き合って確かめて、やっぱりセノが良いと説得力を持って告白するイルネドが良い。
堅物純情なだけでなく、策を弄したり、セノのためなら黒いこともやってしまいそうな顔を見せるところに萌える。
セノは男娼の中では高齢な点が落ちこぼれってタイトルにつながってるのかな。経験による強かさと根性があって、いきなり娼館の外に放り出されたとしても賢く生きていけそうな安心感がある。たまにイルネドの母ちゃんか?と思うことも。
どちらかというと、セノの方がイルネドに夢を見ていると感じた。
イルネドの父に反対された二人の結婚には、いくつかの逃げ道と時間的猶予がある。その条件全部を回収し、綺麗なハピエンへの流れはとても面白かった。
ただ、クルッチ家の弱みを握ると決めた時点で、クルッチ家がセノを攫ってイルネドが救出する流れじゃないよな……と思っていたらその通りに進んで残念だった。受け攫われ攻め救出、これ何回やるんだろう。
出てくるキャラは嫌な人かと思っても、すぐに協力的になったり味方になったりするので、全体的な雰囲気は明るめ。反対する父も話が通じるタイプなのでノーストレス。
結婚はゴールじゃないけど結婚式がゴール(作品のラスト)っていう構成も良かった。
特に好きだったのは、序盤のイルネドがセノを口説くシーンで、二人の間に沈黙が流れてからの描写。喧騒を際立たせ、漂う匂いまでもが感じられそうな中、セノの心理描写とイルネドのアルファの香りが混ざり合う。とても印象的なシーン。
気になるのは、タイトルがぴんとこないことと、微妙に修正したくなるあらすじ。作家買いしといて良かった。
面白いけど、心に余裕があるときに読んだ方が良い気がした。悪役の気持ち悪さに耐えなきゃいけない時間が結構長い。ファリドのコミカルな心象風景には、それを中和する役割もあったのかな。電子特典SSは癒やし100%だった。
ライリは最初は掴みづらかった。ライリ視点で健気な善い子っぽい心理描写が綴られているものの、感情の動きがよく分からず。ファリドにずけずけ言っているように聞こえるが、内面では怖がっているようで、どういうキャラ?っていう。
だがファリドとの交流が続くうちに、意思を持つ様子が見て取れるようになり、さらには重要な場面で動いてくれる姿が見れて、ぐっと好感度が上がった。こういう受けがとても好き。意思がある、しかもちゃんと仕事してる、貴重な受け。
ファリドは前王を討った男でありながら、恋愛になるとダメダメ。印象的だったのは、前王とライリのプレイを妄想するシーンの長さ。ファリドの想像はどこまでも続き、これに関しては前王は冤罪なので、怒るファリドに笑ってしまった。
悪役のゴバードは、出てくるたびに不快感を連れてくる。ファリドが穏便に事を進めようとするせいか、やり方がまどろっこしく、どんどん策を弄するゴバードの狙い通りの展開に。そして結局自業自得の自滅はあっけなかった。
作中でも“あっけない最期”と書かれてるので、分かったうえでこういう形にした雰囲気。ファリドの手を汚さず、処刑の二度手間もかけず、さくっと退場させた感じ。
全体的に悪役との戦い方には思うところがいろいろあるが、恋愛重視だとこれくらいが良いのかな。
ライリとファリドは、なんだかんだで気付けばばかっぷる一直線。裸のライリを放って部屋から逃げ出すファリドにはさすがにぽかーんとなったが、あっさり仲直りして、初めて同士でムズムズ微笑ましいことをやっていた。
心に猫を飼うファリドのギャップ萌えにハマれたら、とても楽しく読めそうな作品。
面白かった。下巻は裁判シーンが長めで上巻より地味に感じるが、物語の運びが創作のお手本のように綺麗で読みやすい。適度に続編ネタを残しつつ、大きな問題はしっかり解決。二人の甘々シーンも楽しめて、とても良かった。
始まりから志波がハルトを恋人と言っていて、ちょっとびっくり。あの上巻ラストからいつの間にこんなにラブラブに?クリスマスにペアリングを二人で選び、正月は伊豆の温泉へ旅行に。1章まるごと甘々だった。
ハルトのチート級能力は相変わらずで、パティシエとしても一流になりすませるらしい。なんでもアリで、ここまでくるとただ楽しい。
志波は仕事相手であっても嫉妬したりと恋愛脳になっていて、登場時の冷徹な様子を思い出しながら今の姿を見ると面白い。変わりっぷりがすごくて。
上巻からずっと謎だったハルトの正体と、志波のトラウマ源といえる出来事。この二つの重要な点に関わる案件が、今回の見どころ。
裁判準備の過程では、ハルトの素性が明らかになる。幼少期の描写は少ないながらも結構キツい。悪役が過剰なほどに悪役ムーブをかますので、明らかに敵だと認識しやすく、激しい嫌悪感を誘う。そんな相手に二人で力を合わせて立ち向かう構図は、読んでいるこちらの気持ちも高揚する。
そして戦うのは志波の因縁の相手。一度負けて再戦にて大勝利、はセオリー通り。ここに二人の関係の危機が絡まってきて、ストーリーもBLも盛り上がっていくのが良い。戦いながら絆が深まっていくのも良かった。
ラストのハルトの進路は、せっかく万能なのに一つに絞るのはもったいないと思わんこともない。でも志波とバディで在り続ける唯一の道であるからには、それがハルトの希望になっていくんだろう。公私ともに相性の良さを見せつけてくれるカップルだと思った。
各エピソードや全体の流れが王道なので、全てが予想通りに進んで終わった印象。それでもキャラクターの魅力と、BLレーベルの作品では読めないしっかりと調べられた裁判の書き込みの読み応えで、とても惹きつけられる。
ちらっと志波と父の話で続編を作れそうな雰囲気を感じたけど、気のせいかな。この二人の話をぜひまた読みたい。続いて欲しいな。
広義の意味でのミステリー。殺人事件は起こっても、刑事とのやりとりがゆるふわで、シリアスな印象はない。試し読みでは見えないが、購入すると2ページ目の口絵でいきなりネタバレ。
謎そのものよりも、二人で謎を解いていく経緯を楽しむ作品かな。
歩夢はそれなりに苦労の見える生い立ちながら、用心深さはなく、素直で前向き。こんなに騙されやすそうなのに、一人で生きていけるのかと心配にはなるものの、好感度は高い。
政宗は常に落ち着き払っており、安心感が半端ない。警察の捜査がどういう方向に進んでも、政宗ならどうにでもできそうなオーラがすごい。何よりBLの攻め、受けのためならどんなチートを発揮しても驚かない。
二人で進めていく事件の謎解きは、何でもアリだな……となる禁じ手のような方法。会話やお互いの反応がとても楽しくて、うっかり殺人事件であることを忘れてしまいそうな明るさ。
歩夢の性格もあってか、全体的に軽快な雰囲気で、くすっと笑える要素も散りばめられている。魅力的に感じるキャラ二人のやりとりがとても好き。
ただしすごく面白いシーンがあっても、人が殺されている話である点が頭を過ると、笑うことに後ろめたさを感じてしまう。笑って良いのかな、と迷いが生じるせいで、気兼ねなく楽しめなかった。
キャラはとても好みだし、こういう形の謎解きも面白い。特に歩夢の素直さのおかげで読みやすくなっていたと思う。事件の内容が違っていたら神だったかも。
審美眼を持つオークショニアのお話、ではあるが、主に描かれていたのは一対一の美術品取引を仲介するお仕事。BLは三角関係から変化する際に、当て馬の後押しありきのカップル成立になっている。
お仕事面も恋愛面も、微妙にモヤモヤが残ってしまう読後感だった。
主人公の瑞生は、幼少期から美術界で名を馳せた父に厳しい教育を受けた影響で、美術品への思いが複雑。それでも審美眼は本物で、加えて自身の努力もあり、若くしてそれなりの地位に就いてるキャラ。
元々持っていた瑞生の考えは、オークショニアとしてはむしろ良いものだったと思う。それがとある貴重な美術品を持つ老人に否定され、精神論の話になっていく。
老人の望む答えを導き出せた瑞生は救済され、父の呪縛から解放されたかもしれない。でもこれは顔の見える相手と取引をする、美術品の仲介人の心得。オークションとは方向性の違う考えで、タイトルでもあるオークショニアとしてはどうなのか?と、モヤモヤした。オークションの性質批判にあたることも言ってたし。
BLは老人の孫の年下ワンコ誉也と。初対面からストライクゾーンど真ん中で呻きそうになる瑞生。真面目な描写が続いていたのに、いきなりこんなシーンに移って笑った。もっさり君が実はイケメンってやつ。
当て馬の的場は、体の関係と引き換えに瑞生に情報を渡している。なので的場と誉也のどちらを選ぶかは、仕事と恋のどちらを選ぶかってことになる。瑞生が選んだのは仕事の方で、つまりは的場。
BL的にナシであっても、瑞生が決めたことだし、個人的にはそれも良いと思った。でも的場が身を引く形で体は求めず情報を渡すなんて都合の良い展開になり、さらに的場は誉也をプロデュースして後押しまで。
的場にお守りされなきゃ動けなかった二人ってどうなんだろう。せめて瑞生が自発的に的場と別れていれば印象は違っていたのにな。保護者付きの恋愛のようでなんとも……。
美術知識ゼロでも難しさはなく、さらっと読めた。萌えを見つけられず残念。
乗り物擬人化?もの。サクサク進む展開と客観的に見たときのシュールさで、妙にクセになりそうな雰囲気のある作品。バイクの化身だけでなく、車の化身まで現れたところで一番笑った。
バイクを売り払った碧のもとに、自称バイクの隼がやってくる。詐欺を疑いながらも、トンデモ設定で碧はわりと早い段階でバイクなことを受け入れる。このテンポの良さに笑ってしまう。
車に名前を付けると、その車(フィッツ)もまた人の姿になって碧のもとにやってくる。三人で賑やかにわちゃわちゃやってる会話内容が、どこか変で面白い。
隼は碧が大好きなワンコ。食事はサラダ油で、精液からはりんごとはちみつの香りが。なんでそんな設定なのか分からないけど、たぶん何も考えてはいけない。ちなみにフィッツの精液はオイスターソースとココアの香りらしい。なぜ。
碧は世話好きタイプなのかな。隼が子供っぽく拗ねても根気よく付き合っている。
バイクを必死に取り戻そうとする様子は、本人視点だと愛する人との再会を願う切なさいっぱいだが、客観的には売ったバイクを買い戻させろと粘る迷惑客で、読むテンションが難しかった。
乗り物の化身が出現するきっかけもちゃんとある、らしい。とはいえ、「あなたのバイク」「あなたのフィッツ(車)」なんて人が現れる世界観では些細なことのような気がしてくる。なんというか、細部を気にさせない力のある作品だと思った。
衝撃だったのは、最後に載っていた告知用の描き下ろし特別イラスト(電子書籍版のみ収録)。まじでバイクな隼!さすがにちょっと度肝を抜かれた……。
舞台役者と殺陣師のお話。主人公の憧れの人への想いや演技への想いが真っ直ぐで、BL部分を除けば熱血ものになりそうなストーリー。その熱さゆえに、恋愛部分が浮いているように感じた。
嵐士は蘇我との共演を目標に頑張ってきた役者。わりとメンタル強めで、アンチの嫌がらせにもめげない。
視点主にしては人間性に関する印象が薄く、終盤で我慢の限界を迎えた際に、こんなに性格の悪さ丸出しの言い回しをするキャラだったんだ、と驚いたりしていた。
蘇我も人間味が見えづらいキャラクター。演劇への真摯な姿勢や役者から殺陣師への転向、劇団の解散から再始動などワケ有りで、それぞれの場面で悩み決断してきたのは分かる。
ただその全てが綺麗に納まりすぎていて、無機質な創作上のロジックをただ見ている気分になる。
それぞれの所属やバックが明示され、設定がきっちりしているのは好印象だけど、キャラクターの内面描写より外側を整えることを優先しているように見えてしまった。
演技への熱さを見せる場面や、同じ舞台に立つ者としての嵐士と蘇我の関係性は好き。過保護な師匠とその弟子のような感じで、揶揄われてドキドキして、というとこまでは萌える。
だが描かれる嫌がらせがガチの胸クソ案件で、真剣に相談しているときに色ボケ描写を入れてくるのは冷める。BLするのは今じゃない感。
最初のエロシーンも無理矢理入れたような不自然さがあり、演劇に打ち込む中で恋する心理描写だけが取ってつけたように挟まれた感じがあった。別方向に熱いストーリーは恋愛部分に違和感を覚えるっていう、あるある。
ブロマンス寄りで読みたいストーリーな気がした。
獣たちの国が舞台のファンタジー。とにかく雪豹が可愛かった、これに尽きる。
初めて姿を現した雪豹は、必死になって大福を食べている。次に現れたときは、千歳のピンチを救いつつ、ご飯の催促を。このときのしっぽの描写がたまらなく可愛い。
人の姿を見せた後でも、千歳の機嫌を取るために雪豹姿になり、豪華な食事を用意するその行動が可愛かった。
千歳はいじめられたときの対応に慣れていて、それなりにトラブルを収めてきた雰囲気。ただ全てにおいてあれもこれも自分のせいだと考えるキャラで、卑屈さの度が過ぎている。この性格が最後まで変わらなかったのが残念。
最初は楼嵐の言葉も嘘だと決めつけていて、自信の無さからくる判断だとしても、行き過ぎた結果失礼になっているようで、読んでいて楽しいと思えなかった。
ストーリーはお決まりの流れ。千歳が危ない目に遭うと、すかさず楼嵐が助けに来る。とはいえ、地下牢に捕らわれた際、楼嵐が来てくれるかも……楼嵐の足音かも……楼嵐来た!と捻らない展開は逆に新鮮に感じてびっくりした。
手紙が来ない両親のオチは拍子抜け。初期から何度も書かれていたので、もっとなにか深刻な問題でも起きているのかと思った。伏線の描写量に回収内容の重さが見合っていない気がする。
最初の四行の詩に“自分の居場所は自分で勝ち取れ”とあったが、そんなのとは逆の主人公で、攻めに助けられて生きる受けの話だった。ただのよくあるBL。
もふもふ描写は萌えがいっぱいでとても良かった。
始まりは甘すぎる夢のような展開。推しが目の前に現れて、仲良くなろうとぐいぐいくる。が、それら全てがただの妄想だったと思わせるかのように、毎回母親が不快感とともに襲来する。この繰り返しで話が進み、最後に律が進むと決めた道は(私にとって)耐え難いものだった。
律は大人になった今では、親の言動がおかしいことを理解しており、内側には反発心も生まれている。だが何を言われてもすぐに謝ってしまうので、さらに相手が付け上がっていく。
毒親の気持ち悪さは言うまでもないが、律の対応も、倫太朗の対応も、良い感情で見ることはできない。
幼少期からの積み重ねを考えれば、律のような考えになるのも仕方ないんだろう。でもここまで生きてきて、母親が変わらないことを分かっていて、今後も背負っていく覚悟を倫太朗と共有したのはちょっと無理すぎる。
倫太朗が支えになり、律の精神的な開放は描かれたが、金銭面の援助は続けそうな描写。縁を切らないのなら、倫太朗に迷惑がかかる未来が容易に見えてくるのでは。
好きな相手に毒親を一緒に背負ってもらうような道に進む律が無理すぎた。毒親持ちとして、それだけは受け入れられない。
母親が強烈過ぎて、霞んでしまいそうな倫太朗。冷静に見ると、あまりに都合が良すぎる。律の全てを肯定し、言わなくても内面の深いところまでを理解してくれている。一昔前の空気を感じる。
弟の健児はとても好きだった。
不思議な設定のお話。信乃は人の形を取り、犬のような能力を持つ、作られた命。感情を持ち、主人に愛されることで幸せを得るが、扱いは「備品」。命なのに備品、見た目は人間で感情を持っていても、人として尊重される権利は持たない。
倫理観スルーなのはそこだけで、舞台はただの現代社会だし、起こる事件やその他の描写に倫理観が欠如しているわけじゃない。ただ信乃の存在だけが異質という、不思議と言っておくしかない世界観。
両視点で、メイン二人ともがあまり仕事以外の言葉を発しないため、心理描写でそれぞれを追っていく感じ。
信乃は犬を自称し、終始智重という主人に見捨てられた子供の悲しい気持ちを綴っている。純粋にただ一人の愛を求める姿はまさに飼い犬で、その切なさが複雑。主人への忠誠と無償の愛は人工物でも、信乃の存在意義なわけで、人か犬か人形かとぐるぐる。
智重は過去の辛い経験から病んでいるとしか……。自分が愛を向けた相手は死ぬ呪いにかかっている、なんて思い込みで信乃を虐げる。理由はあれど、人相手なら許されない行為で傷付けるのは読んでいてモヤる。
事件はいろいろ起こって面白かった。なぜそんなものを作ってしまったのかと問いたくなる点が信乃とリンクしてる、なんてことはないだろうけど、妙な文体で話に集中できず色々考えてしまった。
信乃の献身はちゃんと届いていて、信乃に命の危険が迫ってやっと素直な気持ちを吐露する智重。二人ともが救われる展開に大感動!が、その後はたと気付くのは、信乃の不幸は全て智重のせいだったこと。
智重は今まで与えてきた不幸以上の幸福を信乃に与えてくれと願った。
導入は説明不足で分かり辛い。文章は読み辛く、特に読点のクセがキツい。でも場面によって緩急を付けた文章になっている点は好き。語句の誤用と助詞の誤りくらいは校正して欲しかった。
信乃をどう捉えるかで最後まで困った作品。智重の心を開くには人でなければならなかった、けれども犬としての忠誠心と無償の愛が癒した結果でもある。人工的な存在であっても、智重にとっての唯一無二な信乃。
最後に幸せそうな二人が多めに描かれていたのが良かった。