設定がめちゃくちゃツボだった。突然猫になって好きな人に拾われる。ネコ視点で見る片思い相手や、猫らしい仕草での感情表現がとても良い。実弥央が人に戻ってからの二人のやりとりをもう少し見たかったな。
序盤は普通に人間同士でどきどきソワソワのやりとり。両片思いっぽい雰囲気を甘酸っぱく感じつつ、いつ猫になるんだろう?とわくわく。
ファンタジーな流れで猫になってからは、龍崎のデレデレがたっぷり。いろんな理由で過剰に反応する実弥央の様子は怯えているようにしか見えなくて、龍崎が不憫に。でも凹みながら必死に猫を世話する定番のギャップはやっぱり萌える。
実弥央はごはんに文句つけたり猫パンチしたりと、好き勝手やってる。それが猫ってだけで仕方ないと思えるし、可愛く見えたりするからちょっとズルイ。まあそんな性格だから深刻な空気にはならず、楽しく読めて良かった。
途中、酔っていきなりエロに突入したのは驚いた。こんな警察官で大丈夫か……。展開的に強引に入れた感じで、エロノルマでもあったのかと思った。不自然に浮いてる気がして、ここだけちょっとマイナス。
めでたく収束し、くっついた二人。今まで猫に対する龍崎ばかり見ていたので、実弥央に対し嫉妬深い彼氏になってたのはちょっと意外。
実弥央は猫として龍崎の素の状態もいろいろ見てきたわけだが、龍崎は実弥央の内面をこれから知っていく状態なんじゃないかな、と思うと安心材料が足りない。そういう意味で、最後はもう少し人間同士の二人を見せて欲しかった。
この作家さん、新刊出たらぜひ読みたい。
とにかく子供が可愛すぎて、翔悟が幸せになってくれたらそれで良いと思いながら読んでいた。心に刺さる健気さが半端なく、涙腺にクる。翔悟視点でも100%安心できる終わり方であって欲しかったな。
明らかに相性の悪い、一見ちゃらんぽらんなオヤジの夜崎とキャリア組であった暁がコンビを組むところから始まるお話。暁は夜崎とつるむことで、職場の同僚とのコミュニケーションが円滑になるのが良い。とても読みやすくなった。
二人で預かることになった翔悟は、「へいき」が口癖で、何が起きても自分のせいだと思って謝りながら、怒られる覚悟を決めている。約束は守られないのが当然で、自分を置いて行った親との想い出を大切に守っている。悪くもないのに、「嫌わないで」と泣く姿に心が痛くなった。
いい加減そうに見えていた夜崎は、意外にもよく気が付き、子の扱いにも慣れていて、暁の中で頼れる存在になっていく。
生活を共にし、協力し合って子の面倒を見る日々が、絆を強めていくのは分かる。でも尊敬や信頼する相棒を超えて恋に発展したのは、アクシデントで体の関係ができてしまったことも影響しているのかな。
初めての子育てと事件で精神に余裕がない中で恋心が育つのは、吊り橋効果的なものを感じてしまう。とはいえ、そうした下地が出来上がったうえで命を懸けて守られたら、落ちるのも納得。なんだかんだで夜崎頑張ったな、と思う。
欲を言えば、刑事受けが単独行動して媚薬を盛られるいつもの展開以外で進むお話が読みたかった。これ入れなきゃいけないノルマか何か?と言いたくなるほど警察BLの定番になってる。オリジナリティとは。
二度も事件現場に居合わせた翔悟は、今後成長して事態を理解したときにどうなるかが心配ではあるが、そのときには夜崎と暁がそばにいるのかな。
刑事二人で子供との約束を守り続ける生活が可能なのかとか、手続きに関するところが曖昧なまま終わった点で不安は残る。
BL的には不安なくカップル成立でハピエンだった。
お見合いに代理人として現れた者同士がくっつく話でもあるし、同性愛者の息子を受け入れられない親と子の争いでもある話。理解できない親は悪、ゲイは可哀想、とゲイにだけ過度に寄り添う安定のBLだった。
景と聖哉の出会いは見合いの場。景は代理で出席し、別人だと騙す役割。対して聖哉は最初から謝罪している。相手がそう出たから自分もバラしただけの景に惚れるなんて、聖哉はよほど出会いがないのかと思ってしまう。
会話は探り探りで回り道しまくりなのに、聖哉の距離の詰め方は明らかに友人以上で積極的。ただ、“対等”と言いながら、食事全奢りや受け攻めが相談なしに決まっている等、所々引っかかった。何度も言わなきゃ気にならなかったのに。
一から十まで気遣う聖哉の振る舞いは、相手を子ども扱いしているように見えた。
見合いの種明かしは、親が景を騙したという話で、親子の話し合いは胸糞。どちらも相手を理解しないで、自分が理解してもらえないことで頭がいっぱい。親の願いが古い価値観であっても、歩み寄ろうとする母に呆れる景に不快になる。
異なる価値観を認めないのは親も子も同じで、どちらも自己中。景が一方的に正しいように描かれるのは、違和感しかない。相違でなく正誤の意識が前提にあるのが透けて見える。
まあ見合いのセッティングは親に問題ありとは思う。相手に失礼。
対等や多様性といった単語を都合よく使うってこういうことかと思った。そんな聞こえの良い言葉で飾らず、自己弁護や正当化も抜きにして、むき出しで話し合ってくれたら心に刺さったんじゃないかな。悪者になる覚悟の一つでも持ってからやり合って欲しい。あれなら話さず縁切る展開の方がまだマシ。
とはいえ、多くのBL支持者の価値観には合うんだろうと思う。よく見る描き方なので。
同棲を始めたカップルが元妻の子を預かるお話。子供が小学生女子で、最初は逮捕を心配しながら読んでしまったが、全体的にほのぼのした雰囲気だった。スーパーの女子高生とのエピソードがほっこりできて好き。
医師と薬剤師のカプで、バツイチノンケとゲイの組み合わせ。枯れたおじさんと明るい若者って印象。指向や金銭についてなど、お互い思うところはありながら、関係は上手くいってるっぽい。
ちょっとびっくりしたのが、子供に初潮がくるシーンがあったこと。子育て系はあまり読まないせいか、BLで初めて出会った。ここも友成の内側を刺激する一つの材料だったのかな。
男女の性に何かしら思うところのあったらしい友成だけど、春夏視点でさらっと推測されるだけなので、もう少し突っ込んで読んでみたかった。そこが描きたくて入れたエピソードってわけでもなかったのかな。
月夜堂さんの作品は妙な生活感と生々しさがあり、キャラの思考がリアルゆえに他人に踏み込む感覚になってしまって、考えるのはなんとなく気まずい。なのでできれば作者の文章で友成の内面を知りたいと思った。
二部構成で、一部目は学生と教授で関係が始まるお話、二部目は付き合う二人に別れの危機が訪れるお話。久遠がとにかくあほのこで、なんとも気の抜ける終わり方。とはいえ最後まで引き込まれる面白さで、キャラも魅力的だった。
序盤の久遠は、甘やかされて育ったお坊ちゃん感丸出しで、イライラさせてくるタイプ。でも根は素直で単純なので、一つ気付けば更生(?)し、宇佐の手のひらの上で転がされても気付かず懐いて可愛らしい。
宇佐は一見真面目で堅物に思えるが、腹の中では久遠をイイ男に育てて手に入れる策を練っている。大人の経験値で久遠を泳がせるシーンは読んでて楽しい。負けない強さを身につけていく久遠を見るのも楽しい。
が、二部目の久遠はあほのこに逆戻り。宇佐の出張中、ぼーっとしてたら婚約してた、状況的に破棄は無理、で、本人は病んでるって何してんだか……。
第三者の暴露で結果的にどうにかなったけど、久遠は何も動いていないので、もし放っておけばそのまま結婚の流れになっていた。そんな状況で戻ってきた久遠を笑って受け入れる宇佐に、それで良いのかと問いたくなった。
めでたしめでたしのお話ではあるし、とても面白かったけど、最後に少しくらいお仕置きや話し合い等、何かしらあって欲しかった気がする。このカップルは、主に久遠は、大丈夫なのかと心配が残ってしまった。
性格極悪俺様主人公の変わりっぷりに驚いた作品。感想はこれに尽きる。
序盤の北嶋は、自信過剰で驕りたかぶるサマがヤバすぎる。心の中で毒づくだけならまだしも、思ったことを全部口に出しているからまあ酷い。
こんな相手に高齢者向けマンションの設計依頼なんて、どうなるかは火を見るよりも明らかで、北嶋は当然の結果を得る。
その後の北嶋の行動は、最初はイタさに目を覆いたくなる気がしてたけど、ここまで誰の目も気にせず突き進める、ある種の鈍感さと純粋さには感心せざるを得ない……という気分になっていた。
押しかけクレーマーからの初恋ストーカーなんて、もう笑うしかないので。
それにしてもここまでくるっと態度が変わってしまうのは面白い。さすが初恋って感じの猪突猛進。相手の迷惑を一切考えない押しにくらっとくる牧田は、元クレーム担当ゆえにどこかが麻痺してるのかと思ってしまった。
北嶋の本性を知ったうえでさらっと誘いをかけるなんて、牧田の内側はどうなっているんだろう。
牧田は最後まで表面上は人間デキてるキャラ。とはいえ北嶋のような見えてる地雷に手を出す時点で、普通の相手じゃ満足できない性質があったのかと思う。親切心の裏に調教を楽しんでいる様子が見え隠れしていて、そこがもっと見たかった。
付き合ってからの後半のお話は、牧田の方にわずかな呆れや諦めの感情が見える気がして、不安になってしまった。北嶋の性根は変わってないし、牧田に保護者感が出てきてしまったような。まあこの調子で添い遂げるのが二人らしいのかな。
タイトルがめちゃくちゃ好きな作品。本文中での回収や意味付け等はピンとこなかったが、シンプルに文字列に惹かれる。なんか好き。
くっつくまでの本編後半と、その後の二人が描かれた外伝が収録された一冊。
自分を曲げず、どこまでいっても合わないまま付き合い続ける二人が、愛とか恋とかそういったもので全てを乗り越える姿を見せられた気がする。いつまでも終わらないで欲しい作品だった。
本編の方は、とにかくジェヨンに頑張った!と言いたくなる。悪いこともしてないのにここまで苦しめられるなんて、とは思うが、かといってサンウに悪気があるわけでもない。ただ本当に理解できないというだけで、それがとてももどかしい。
たぶんサンウも、自分基準ではとても頑張っていたんだと思う。でもどうしてもジェヨンの譲歩する範囲があまりに広すぎるように見え、ジェヨンに肩入れして読んでしまう。
最終的なジェヨンの習得スキル:百折不撓Lv.5は笑った、確かに。サンウの易地思之Lv.1はどうだろう。難攻不落Lv.がちょっと下がったくらいじゃないかな。
外伝は1話でいきなり不穏な空気が。サンウの頑固なこだわりがきっかけで、ジェヨンがうんざりしているのが分かる。サンウのようなキャラは視点主が本気で苦痛を感じていたら見ていられない。本当にそこ次第だと改めて思った。
他はプロポーズのお話(外伝2)や、サンウが職場の同僚に狙われる?お話(外伝4)、本編でちらっと出て来たジェヨンの双子の弟が絡んできたり(外伝5)など。
特に好きだったのが、二人でサンウの実家に挨拶に行くお話(外伝3)。
父親の苦労がよく分かるけど、それはサンウの性質をよく理解しているからで、常識人ぶりに安心する。そんな父親相手に自分の方が今のサンウを知っているとばかりにマウントを取るジェヨンに笑う。
母親とサンウは、似た者同士の会話で盛り上がっていて面白すぎた。
それにしても、いつの間にサンウの中でジェヨンは純真キャラになっていたんだろう。あのサンウが恋に溺れて盲目になっているなんて。
二人とも出会ってから大きく成長して変わったと思う。最後まで見守れて感無量。読後に寂しさを感じるほど夢中になれた作品だった。
いつの間にか引き込まれている作品だった。感情が振り回されてついていけないんだけど、それがなぜかクセになるみたいな。特にジェヨン視点で見るサンウの宇宙人ぶりが面白くて好きだった。
サンウは軽い強迫症がある大学生で、かなり個性的。強すぎるこだわりで、円滑な人間関係を築くのが難しいタイプなのが見て取れる。それでも本人の中では理屈の通ったことを言っていて、周りとのズレに気付けない。
ジェヨンはイケメンでデザインの才能があってスケボーも上手くて云々、とにかく何でもできるモテ先輩。サンウとは違う世界で生きていそうなタイプだが、思いがけず一緒にゲーム作りをすることに。
出会い方が良くなかったこともあり、最初はぶつかってばかりの二人。あまりに理不尽に責められて気の毒になっても、次の瞬間には反撃と強メンタルに同情心が吹っ飛んでいる。お互いがそんな感じにやり合っているので、気付けば一歩引いて見ている。
この自分と作品との距離感を覚えたあたりで読むのを止められなくなった。
最初の様子からは想像もできない展開を経て、二人はセックスパートナーに。一度ヤってからのジェヨンのでれでれぶりには笑ってしまう。にしても、付き合ってもいないのに女子に牽制したりアドレス帳を管理する束縛男ぶりは、相手がサンウだから笑って見ていられる感じ。
サンウの方は性欲や快感といった明らかな事実のみを受け入れていて、ジェヨンへの気持ちには思い至ってすらいないような。譲歩できるようになったり笑顔を見せるようになったりと、微笑ましい変化が見られたし、恋心にどうやって気付いていくのか楽しみ。
好きだったのは、ジェヨンがサンウのPC内に自分の名前の付いたフォルダを見つけたシーン。中身は弱点保存か告訴準備中の書類か、なんてサンウをどう認識してるのかが分かって面白すぎる。あとセックスを孤軍奮闘と言ってたのに笑った。
サンウへの気持ちを自覚しながら留学に向かっていくジェヨンと、恋が分からないマイペースなサンウはどうなっていくのか。純粋に可哀想な役回りだったジヘにも幸せになって欲しいし。次巻も楽しみ。
久々にここまで良くない読後感を味わった。最初は理不尽に思えた環境も、そうなるに至った経緯を知れば、どうなろうと礼の自業自得に思える。常に二択を間違える礼は、最後にエドを壊して終わっていく。残ったのは激しい不快感だけだった。
礼は誰に何度期待を裏切られても懲りずに相手に期待して、愛されたいと願っている。そうした性質は何年経っても変わらず、学習能力が無い。何か言われてもただボサっとしていて、自己主張もない。「なんのこと?」と訊いてばかりで思考すらできないところは、いつまで経っても成長しない。
エドを好きだと言いながら、エドが必死に懇願したことを拒み、話せば分かってくれると自分の気持ちを押し付ける気満々なのは傲慢。しかもエドの望みを拒否しておいて、いじめ加害者の言葉にはしっかり耳を傾ける意味が分からない。それが一度じゃないから、礼への不信感が増していく。
さらに表向きにはエドの男娼で良いと考えたところでドン引きした。あれだけ母親が娼婦扱いされることを悔しがっていたのに、自身がそんな立場になれば、母親の汚名なんて晴らせるわけがなくなるのに。親を忘れて男を取った盲目ぶり。
その後も礼の言動には卑屈なのに自意識過剰さが見えたり、なぜかエドに他の男といる言い訳を求めたり、エドの過去の失恋話を第三者に話したりと、余計なことしかしない爆弾のよう。しかも本人に悪気が無い自己中で、救いようがない。
そして最後はブチ切れたエドが礼を強姦するという。エド側から見たら、今まで人間扱いしていなかった相手で、家畜を犯す主人を見ている気分になる。それに喜ぶ礼の心理描写は、尊厳を積極的に放棄したいのかと思うほどに気持ち悪い。
いくら両片思いだろうと、表に出す愛情表現がこれでは人間同士だと思えない。理不尽なことが次々起こる話を、何も学ばない、まともにものを考えることもできない主人公視点で追うのは耐え難い。お花畑にも限度がある。
少しでも印象を良くして読み終わりたいが、次巻を読むのは礼が受け付けなくて無理っぽい。この終わり方が二人の最良ってことで良いかな。
すごい始まり方の作品。一般客もいる銭湯をハッテン場として使い、股間を握り合う主人公。お風呂にはしゃぐ子供に勃起を見せつける小児性愛者(性犯罪歴有り)。それらがなんでもない日常のように淡々と綴られ、リアルな感覚を伝えてくる。
この導入を除けば、主人公が不幸と忍耐の末にウソのような幸せを手に入れる良いお話。
中條は複雑な背景を持つ医師。犯罪被害者であり、加害者家族でもある。また、それとは関係なしに、ヨソ者という理由で村人たちから嫌がらせを受ける日々を送っている。閉鎖的な村の雰囲気がよく分かる陰湿さで辛い。
そして中條を取り巻く男たちは主に三人。恋愛はしない約束でセフレ関係を続ける加東、家庭に問題があり面倒を見ている近所の子供ジュキア、銭湯で出会った好みド真ん中のジャガイモ顔の相楽。
村人がどんなに酷くても、味方も多いのでそこまで嫌な気分ばかりでもないかな。
が、幕切れは唐突。最初から去る日のことを考えて過ごしていたのかと思わせる中條の手際の良さが切ない。
三年後の結末は笑ってしまった。心温まるほっこり感で良かった。