異世界ダンジョン、良い意味で「なろうで人気になって書籍化されたファンタジーもの」という印象の作品。ゲームは殆どしないのでこういう雰囲気は小説で楽しんでるけど、戦いや装備や出自のチートな感じ・展開がそう思った理由かもしれない。例えBLがなくても面白い要素がたくさんあって、尚且つBLなのでそれとしての楽しみもあって、おいしい。1冊としてもよくまとまっている。展開は先が読める人には読めるだろうけど、私は何も考えずに読んで色々と驚いた。
最近よくある後書き以降の短編も良かった。BL要素が抜けてもおもしろく感じるし、でも『──本当にいかないかな?』って独白はBLならではだなと笑ってしまう。
独身主義を装いクールぶる主人公の中身が、実は不器用で悩みがちなかわいい人…というのがこの作品の最大の魅力。無料サンプルは、思い切ってゲイ向けの恋活パーティーに参加した所主人公に欠片も興味を抱いていなさそうだった男とカップルが成立して…という辺りまでだけれど、この男の事情が明らかになった時に主人公大丈夫かなと心配してしまうのは、行動し始めた彼のひたむきさに、読み手として心動かされているからだと思う。
主人公が自分の趣味のロマンス小説を貸す事になった時、ジョージェット・ヘイヤー『フレデリカの初恋』を手渡したのもしみじみと良い(この作品が好きなあまり作中に出てくる本も買って読んだ)。好きな相手の家族や環境も愛したい/愛されたい人物像が垣間見える、夢みがちそうな彼の理想がなかなか堅実だと伝わる小道具…。だけど、秘密が暴かれひどいやり取りが起こる展開は、作中にもう1作出てきていたオースティン『自負と偏見』みたいなすれ違いとも言えるかも。終始ドキドキしっ放しで非常におもしろかった。