ずいぶん昔にWeb上で拝見していた漫画でした。
ファンタジーおじさんと合わせて、大好きな作品でしたが、
商業作品として購入できるとは。
一言でいえば、やさしいファンタジーにあたるとは思いますが、
登場人物たちの心情を痛いところまで深く掘り下げたり、
世界観が詳細までしっかり構築されているので、
読んだ後、意外とカロリーを消費しますし、
満足度が非常に高いです。
あらすじ(ネタバレ)*************************
迷い人として世界に紛れ込んだ榊は、
迷い人として、また雨を降らせる力のため、
世話人のコルや周りの人々に歓待され、元の世界にない充足感を得る。
しかし、それは榊個人への好意ではなく、「迷い人」への好意であることに虚しさも感じてしまう。
コルは、虚しさに悪酔いした榊にキスをされ、世話人ならだれにでもキスをするのだろうかと、
迷い人ではなく榊個人への好意を自覚する。
コルが「世話人」のシステムを越えた、榊個人への好意を伝えて迫るも、榊は理屈をこねて納得しない。
榊は、求められるまま世界各地で降雨の力を発揮しつつ、
さらに、この世界に個人として向き合うため、世界の言葉や文化、仕組みを学んでいく。
そして、とうとう神の木の種が埋まる砂漠に召喚される。
榊が役割(神の木の種に雨を降らす)を果たして元の世界に戻ることを恐れるコルは、砂漠行きを反対する。
しかし、コルと想いを通わせた榊は、
君と出会わせてくれた君の神が必要とするならと、砂漠行きを決意する。
そして砂漠に数千年ぶりの雨が降る。
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私が好きなのは、異世界に迷い込んだ「迷い人」と「世話人」という、
神に定められた役割・関係を越えて、
「榊」と「コル」として惹かれ合う過程を、心情を掘り下げつつ丁寧に描いているところです。
この世界では、迷い人と世話人がその役割故に好意(恋愛でなく)を持ち合うことは、
システムとして設定されています。
そのシステムを認識したうえで、互いに個人に辿り着くのです。
おじさんな榊が非常に理屈っぽくて、二度も結婚に失敗するのもわかる感じに拗らせているのですが、
コルが一つ一つ丁寧に(執拗にw)情熱と屁理屈でときほぐすのです。
そのセリフがひとつひとつ、深い。
引用したいのですが、長いのでぜひ実際によんでください。
また、榊がお客様としてではなく、この世界で役割を持って生きようと努力する姿も好きです。
それを踏まえたラストの締め方が、
世界観としてもストーリーとしても、納得のできる素晴らしい纏め方でした。
あと、いもあんさんはシンプルな絵柄ですが
ちょっとだけあるえっちぃシーンが非常にえっちぃです。
下半身は映してないし、うなじを噛んで抑えつけるくらいですが、
濃厚な空気の描き方がすばらしいです。
ちなみに、同じ世界観でほかにも作品があり、
雨降らしの森 →狂い森の町→囚人の島
の順で読むのをお勧めします。
それぞれ、異なる方向性でまとまっていますが、
各々理屈が通っていて、読了後は深い満足を得られます。
久しぶりのオネエ攻め。
序盤のお互い惹かれあう描写は丁寧でとてもよかったです。
また、遼太郎がノンケ特有の無神経さを出す部分も、個人的にはよかったです。
ノーマルで29年生きてきて、周りにもゲイがいなかったら当然他人事で、いくら響が魅力的でも葛藤があってしかるべき。
でも、だからこそ後半の囲い込みが強引すぎて、
遼太郎本人の納得の上とはいえ、いつか破綻しそうに思えます。
駆け引きで恋愛関係にころばせることは悪くないけど、
恋の勢いのまま仕事までも囲い込むと
今は二人の関係を重視して気にとめない細かいことに
いつか気がついてすれ違いが起きそう。。
よくあるノンケに振られてトラウマ持ちの攻めになっちゃいそう。。。
29歳という年齢もリアル。まだ恋愛だけでも動ける年齢。
はたして、五年後の二人も一緒にいるのか?
親が出てきて、子どもを意識して、ゲイコミュニティを近くに意識して。恋人の庇護下で仕事して。
うーむ。
遼太郎の仕事ぶりがまじめで実直で、
個人事務所に不向きそうなのも気になる。
結局は、響が「ほしいから」強引に引き抜いたようにしか見えないのが引っかかるポイントか。
でも、恩師以外で初めて純粋な評価をしてくれた人を逃がしたくないよね。
押せば落ちそうな手応えもあるし。
周りが見えてない様子が、いつか落とし穴に落ちそうでちょっと怖かったです。
でも案外、愛で包んでいつまでも遼太郎を丸め込んじゃえるのかな。
前半丁寧でとても面白かった分、
後半の勢いについていけず残念でした。
表題作が大好きすぎてレビューします。
人はなぜ働かなければならないのか
このお話の魅力はなんといっても門倉さんの健気可愛い腹黒さです。
口うるさいドエスな部下を演じてきたのに、
二人きりの残業中にむかーし貰ったカップラーメンを大事にとっておいたことがばれて。
そこからの流れがスムーズすぎて感動します。さすができる男。
一切照れも赤面も動揺もせず、クールに「捨て忘れただけですよ」
彼女関係を探られるも顔色を変えずに受け答えし、
さりげなく席を立って、さりげなく隣に座って、
からの顎クイ。
コマ割も表情もツボすぎます。
そして一回だけと懇願して乗っかっちゃうし。
でも初めてだから失敗しちゃうし。
普段の言動は甘味のないドエスなのに、行動はすべて健気可愛い。
そしてたまに見せるデレがたまらなくかわいい!
「付き合うってどんなことするんだよ
俺になにしてほしいんだよ」
からの、不意打ち赤面が素晴らしいです。
健気と可愛いと腹黒は同時に成立するんだなあ。
そして、妄想でもリバしちゃう変態加減もすばらしい。こんな人初めてですよ。
何回も読み返しています。
続きが一生続けられない仕事(2)に収録されているので、
是非読んでみてください。
素敵な元奥さんも登場します。中津さんはこういう人に捕まる運命なのでしょう。
二人の中もちょっぴり進展します。
短さの割に内容も構成もセリフも非常に整って、胸に迫る作品です。
何度でも読み返したくなる。
出てくる人皆がいいひとで。
BLはファンタジー風味の現実味のないいい人ではなく、現実にありそうと思わせる描写はさすがです。
主人公の弟も、兄ちゃんも、彼氏も、彼女も、お祖母ちゃんも。
そして彼の母も、おそらくああ言ったのは母子家庭のコンプレックスの裏返しではないかなと思います。
夫と離婚して自分が稼ぐしかない状況で、親の介護も次男の世話も家事全般を中学生にさせるのは、親として心苦しくないはずがありません。
自分が片親で色々至らず、いろんなものを我慢させて負担をかけたせいで、
どこか歪ませてしまったのではないかと、自分を責める言葉があの形ででてしまったように思います。
(ゲイは歪みではありませんが、普通と違うことに負担が大きいことは事実です)
特に描写はありませんが、冷静になって非常に後悔したんじゃないかな。
あの兄弟を育てたお母さんですし。
弟くんだって言わなかっただけで葛藤はありましたしね。
介護についてもリアルだなぁと。
主担当者の気持ちをよく表している。
まずはほっとして、ほっとした自分に絶望して、悲しいのに嫌悪で悲しめなくて。
なんだか視点が年寄りのそれですが。。
センシティブなお話なので、読み手の年代や時期で感想が変わりそう。
6年前にこんなお話を描かれたこともびっくりです。
ほかにも規制強化への抗議作品(と言っていいのか)を描かれたり、広いアンテナとそれをアウトプットできる力を持つ池さんを尊敬します。
池さんのシュールおもしろ作品も大好きですが、
こんな真摯な作品ももっとひろまってほしい。
そして真摯なのにBLとしても非常に楽しめます。
ほのぼのエロ(リアル風味)を楽しめます。
絵柄もあるけど、それぞれの二人の言動がいちいちかわいい。
ストーリーも登場人物たちの行動も、全体的にリアルっぽくてよかったです。
お互いに向き合う様子を無理なくラブラブに描かれています。
そして、セリフも非常によいです。特にやさしいぼくら。
「俺だってちゃんと好きになってるもん
そんな簡単に離してあげない…」
「池くんに痛いことしたくない…こわい…!」(涙目の巨根攻)
いっしょにあそぼは、流れの中の絵とセリフがよいです。
ぜひ読んで確かめてください。
エロももちろんリアル風味です。
すこしむちっとした体もそうだし、
変にカマトトぶらず、恥ずかしがりながらもお互いエロに積極的な感じは男の子っぽい。
あと、ディテールが細かいのがよかったです。
ソロプレイでの被弾予定地にティッシュを用意したり、旅館でする際にはお布団にタオルを敷いて備えたり。
いつも気になってたんです。
「あんなにローションやらなにやらで布団濡らしてどうやって寝てるの?シーツ変える余裕ないでしょ?」とか、
「旅館でシーツ汚して怒られない?男二人で泊まることより、痕跡のあるシーツとか浴衣のが問題でしょ」とか。
BLはファンタジーといえばそうなんですが、
でもやっぱり気になるのでw
そして、普通のシーンでもディテールにこだわっていて面白い。
絵柄も背景もシンプルなのに、要所要所の背景にはこだわりがあります。
農家の玄関の謎の木の置物があったり、干し柿があっあり。田舎あるあるっぽい。
あと、学生宅の狭い玄関で靴が立てかけておいてあったり。
作者さんは、観察眼に優れた方なのだろうなあと思います。
皆さんが評価されている通り、DKのまぶしいまっすぐな恋愛が楽しめる作品。
初めての作家さんで、終盤までノーマルにDKらしいBLを楽しんでいたのですが、
ちょっと不穏な後書を読んで神評価に変えました。
それがなければ、萌×2でした。
ぜひぜひ、幾田さんの描く二人の10年後、20年後が見てみたいです。
続編でもいいし、別の話にして実は同一人物という話でも楽しそう。
BLはファンタジーではありますが、
簡単にオープンにして、周りの理解も簡単に得られて暖かく見守られる話は説得力が足りなくて、
幾田さんが考えるきらきらの儚さ、甘くない世の中を漫画で読んでみたい。
ラストページの、将来に対しての二人のずれも最高で、
知っているから臆病になる圭介くんと
知らない故に楽観的に考えている冬弥くん。
これはどんな形でもすれ違いが起きざるを得ない。
冬弥くんの、未来に対する根拠のない肯定感とか、
DKらしくてきゅんきゅんしますが、
二人が一緒に乗り越えても楽しいし、
気持ちのずれから離れてしまってもそれはそれで楽しい。
離れたとしても、きらきらして好きだった気持ちもなくなるわけでなく、
いつかいい思い出にできる二人だといいな。
不穏な読み方をしましたが、
きらきらきゅんきゅん、可愛らしいお話で満足でした。