黄昏アウトフォーカスは、久しぶりにレビューを書きたいと思ったほど素晴らしい作品でした。あらすじは、男子校の寮で同室で同級生の二人は、片方がゲイ(大友寿)で、片方がストレート(土屋真央)。ふたりでお互いのプライバシーには踏み込まない約束を誓います。ところが、同室になって2年目にして、その状況が徐々に変化していた事実が、真央が所属する映画部のBL作品に寿が主役として出演することから浮き彫りになっていく・・・さて、約束は果たしてどれだけ二人の距離を縛るのか?という内容です。
この作品の素晴らしい点は、リアリティーです。大勢出てくるキャラクター一人一人が丁寧に描かれているところや、彼等の動き、台詞・・・読んでいるだけで、まるで男子校のノリや青春を覗いているかのような錯覚を覚えます。全てが途切れることなく流れていく時間と空間のテンポが、卓越して自然に描かれていて、まるで彼等と一緒にこの学園にいるかのような気持ちになって読み進めることができました。
次に、映画について。かなり勉強されたのではないでしょうか?真央のカメラの持ち方や、手紙が汚れた時のスペアの出し方、進行の進め方や、監督の悩み、全てがとてもリアルでした。
好きなのは、最初にふたりで動画を撮影した際、真央が戻ってきてカメラを止める時に、真央が慌てて戻ってきたので、ふたりで並んで座っていた椅子がくるくる回っているところです。こういう細かなリアリティーが、漫画の質をグンと上げています。
彼等が恋愛関係に踏み切るまでに、もう少し時間があっても面白く、良かったのではないかと感じないでもありませんでしたが、彼等が一緒に過ごしてきた時間の、ある意味寮での「同室」という特殊空間を前提としていることで、説得力はありました。1冊に、これほどの密度の濃さを演出できたことは、天才というほかありません。これからが大変楽しみな作家さんだと思いました。
最後に、担当に「イケメン・パラダイス」を希望されたという裏話が載っていましたが、私は個人的に、彼等が変なイケメンでなかったことが、この作品を「神」にしたと思います。この作品の素晴らしさは、イケメンに走らずとも、キャラクター個人個人の人間的魅力が溢れているから、男子校という閉鎖的な中で二人だけの世界が完成されたのだと思いますし、何よりもリアリティーが際立ったのは、彼等の周囲だけでなく、「先生」も決してイケメンではないところにあります。
これだけ丁寧に描かれる作家さんはとても神経を使っていらっしゃるとは思いますが、是非とも長編か、続編というか、同じ学園で起こる別のカップルなど、描いていただけたら嬉しいです!作家買いします。
ちるちるさんの作家インタビュー『801AUTHORS108』は、毎回試し読みもかねて非常に楽しく読ませてもらっていますが、この作品を買おうと思ったきっかけは、まさにこのコーナーでした。直感的に、これは読んでみるべし、と思ったのです。
【読む前の印象】:情報が少ない!
まずタイトル『既婚者ですけど、何か?』というところで、少し複雑な背景があるのかな、もしくは、女性関係が絡んでくるんだろうな、という印象を持ちました。帯にも「男には抗えない本能(リビドー)がある!?」で、またもや既婚者であることがやんわりと強調されています。
それにしては、絵柄がポップな感じ。桐乃まひろ先生の絵は、柔らかいか固いかと問われれば、固い方ですし、マイナー系に多いかポピュラー系に多いかと問われれば、ポピュラー系ですから、タイトルから受けた印象と少し違う内容をイメージしました。
帯をひっくり返しても、ラブシーンも無く、あまり想像力をかき立てられるようなフレーズもありません。ただ「政略結婚させられた ゲイで プレイボーイの 御門部長」「妄想を促す 超ピュアな新人・芹沢くんが入社してきて・・・!?」と、ありがちな「あらすじ」。しかし、「雑誌掲載時から大反響!!」は気になりました。
ついでにいえば、表紙の、男性二人の構図にも特にこれといった特徴はありません。
まさに、「情報が少な過ぎて、面白いかすらわからない」ような謎めく状況でした。
しかし・・・・・!!!
【読んだ後の印象】:ギャグが面白かった!笑った。心が動いた。続きが読みたい!
あらすじ:
内容を要約させて頂くと、純度99.9%のゲイである御門は、大企業の社長である恐父の命令に逆らえず、天然なお嬢様と政略結婚させられて、性欲の損失に直面し、存在感0のまさに「カラッポ」な抜け殻人間になっていた。ところが、そこに新入社員として入ってきた爽やか体育会系青年、芹沢が登場。とあるきっかけから、彼によって生気(精気?)を取り戻した御門は、芹沢が天然で何も気付かないことをいいことにお近づきのしるし(セクハラ)で猛攻撃。
感想:
これだけ読んでも、どれだけ御門が独りよがりかが分かって頂けるかと思いますが、その「独りよがりっぷり」が、読んでいく中でチャーミングさに変わってきます。普段はキラキラしている彼ですが、芹沢の前では感情の起伏が激しく、その激しさ故に、かえって甘えている姿がとても愛しく思えてくるのです。御門は「受」であると、私は思います!!←ここ大事(笑)
途中からセクハラを受け続けてきた、天然芹沢に変化が起き、芹沢中心の話へと移行します。そこからふたりの関係も変わってゆきます。
妄想と現実を行き来するため、今私が読んでるのは妄想か?現実か?と思うような場面もありますが、それも作者の狙い通りなのだと、ラストの展開で納得するでしょう。ラストは果たして妄想なのか、現実なのか・・・。最後の「ユニフォームを着てみました」で、ようやく、妄想ではなかったのだろう・・・な?という期待が持てます。
全体的に、主人公を含め、下手な個人的感情の解説は一切無く、自身の欲望の「心の声」のみが響き渡っていて、とてもコミカルな展開は、非常にさわやかです。絵が、そこまで神というわけではありませんが、ギャグシーンの絵は、まさに神でした!笑 もう、本当に面白かったです笑 そのお陰で、御門のことは、読み終わる前には大好きになっていました。そして、いつのまにか、彼の幸せを願わずにはいられなくなるのです。
コミカルで、ギャグ的要素が大半を占めている分、キュンとするリアルでドラマチックなワンシーンに目を奪われます。(まぁ、そこで私の中の御門=受が決定したわけですが笑)そして、大切なストーリーやオリジナリティについても、エンターテイメント性があり、ユニークなストーリー展開に、作者のこの作品への思い入れが感じられ、非常に好感をもちました。ちなみに、その天然っぷりで完全に路線をはずれた舞台で活躍した小鳥遊嬢は、ぜひ花屋の彼と結ばれて欲しいな、と(勝手に)願います。
以上の理由で、神をつけさせて頂きました。次作も楽しみです!が、是非とも、このふたりの続きものを読みたいです。(御門の呪縛霊バージョンをもう一度観たいので?笑)
ズバリ、私は個人的に「ひなこ」さんの中で、今まで読んだどれよりも、今作が一番好きになりました。というのも今作は今までの中で一番、キャラクターの完成度が高いように感じたのです。また、変な言い方をしてしまえば、作家さんのテンポが良くて、作品に入っていきやすかったのです。
ーーーー簡単な内容紹介ですが、ちょっとネタバレもあるかも?!ご注意を!ーーーー
今回も、「変わり者」が登場してきます。攻の、大杉善治は、学校では変わり者(バイセクシャルで「軽い」)でダブっていることでも有名な人物。そんな彼が、サボるために保健室に来たら、まさに「何かいいの見つけた」と、思わず拉致をしてしまったのが、根が真面目で優しい転入生、室襠小春だった。ちょっとした思いつきで連れてきたら、思っていたよりも可愛い。そうなれば、本気で嫌がれるまで、触れてみよう、と、そう思ったに違いない。善治は、大胆に攻めていく。一方小春は、襲われている状況にも関わらず、「先輩に逆らってはまずいのでは」等と色々なことを頭の中で巡らせている内に、もはや引き返すことができないところまできてしまう。しかし、元々適応力があるせいだろうか、本能的なものだろうか、与えられる快感には素直な反応をみせ、嫌だと思いながらも、思わず彼を受け入れてしまう。それから善治にしつこく付き纏われるようになるが、気のいい小春は邪険にできず、次第に気になる存在へと発展していき・・・
なんというか、基本的に、本気で抵抗すればできたけれど、で、抵抗したら善治はきっと引いていたと思うけれど、小春がなんだかんだで抵抗しなかったのは、善治から「怖いオーラ」を感じなかったから、と、ま、運命の相手に対する本能的なもの(笑)があったからなんじゃないかな・・・なんて、思ってしまいます。善治は、意外に常識家的な匂いのする男なのです。彼はきっと将来大物になると思います!(勝手に断言)笑
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という、ザ・BL!とてもシンプルなストーリーです。拉致されているのに、襲われているのに、なぜかコミカルで明るい、そのテンポが、最後までずっと続くのです。普通ならば、(準備なしで挿入だけでもあり得ないのに)、そんな始まり方、あり得ないと仰る方もいるでしょうが、だからこそ「コメディ」なのでしょう。この作家さんの手にかかってしまえば、非常に爽やかで、可愛らしいラブストーリーと早変わりしてしまいます。
この作家さんの絵は、元々そこまで個性的とは言えません。けれども、とても丁寧で、どこか甘い香りのするキャラクターを描く特徴があると思います。一方で今までの作品は、攻が、腹黒かったり、受が純粋過ぎたりと、少し極端だったのと、受のキャラクターの恋心への感情変化が少しベールに包まれているようなところがありました。また、読み終わった後、少し何か物足りなかったような、1冊に納まりきれていないような感じがありました。
今回の作品は、受の感情がコミカルタッチでありながらも、非常に表現、表情豊かに表現されていて、主人公、小春と一緒になって攻のマイペースさに翻弄されるような、読者も楽しい気持ちになれる作品になっています。作家さんの、ラブシーンに対するこだわりも見えて、ーーー例えば体育着を着たまま、膝下を抱き上げられて触れられてしまうシーンなどーーー今までに無い、オリジナリティのあるラブシーンに、ドキドキさせられて、あれから何度も読み返してします(基本的に私は、開発型の受が凄く好きなので、今作品は基本点が高いのかもしれません)笑
つまり、甘い香りのする絵に、コミカルでテンポの良いストーリーを乗っけたら、ビスケットの上に甘くて美味しいふわふわのレモンムースがのせてある、白くて可愛いケーキのような、今回のような作品に仕上がったのではないかと思うのです。エロエロなのに、甘酸っぱくて、そしてエロエロなのに、読み応えのある、本当にいい作品が描ける作家さんだということを知り、これからは作家さん買いをすることに決めました。
またこういう、読みながら、気持ちがぱーっと明るくなって、きゅーんとなるような作品も楽しみにしています!
で、近藤くんは、門地先生(作家さんとして)!
と思わず重ねていまうほどに、今まで以上に、私、焦らされていますっ!!!
もう、多分、次巻まで、、、あと約2年も、待てないかも!(泪)
詳しい内容も、萌ポイントも、他のレビューアーさんが書いてくださっているので、ここは、先生とディアプラスさんに、応援とエールをこめて、「どうか8巻は、もう少し早くにお願いします!」と、この場をお借りしてお願い致します!笑
ーーーーーーちょっとだけ、雛森×近藤中心の個人的感想ーーーーーー
私は以前から、近藤君がとってもとっても好きです。なぜこんなに好きなのかはうまく説明ができませんが、多分皆さんの仰る「ビッチぶり」を結構早い段階で(こっそり)見抜いていたこともあると思います(笑)。ちなみに今回の近藤くんに関して言えば、雛森さんは台詞だけ読んでも、かなり押せ押せのところがあるので、近藤君の酷なまでの焦らしは、ある意味、良いバランスなのではないかと思います。(ふたりがそれぞれに試練を乗り越えての、甘いふたりなのです!( ̄‥ ̄)=3 )
ただ、雛森さんが、“自身の状態”に必死に耐えながら、あの笑顔で近藤くんを気遣う姿は、とても印象に残りました。まさに、ジェントルマン!雛森さんを初めて「素敵だ、いい男(に成長する)かもしれない」と思った、忘れられないシーンです。
今回の、「安定カップル」(知賀×国斉)のイチャイチャっぷりも、くすぐったくて幸せな気持ちになりましたが、青(性?)春真っ盛りの「すれ違いカップル」の雛森さんと近藤くんについては・・・これからどういう風に展開していくのかが、楽しみで、気になって、とにかく目が離せません!!
ーーーーーーーーー感想終わりーーーーーーーーー
やっぱり、2年弱後は、ちょっと遠いなぁ・・・せめて、1年半弱後に、お願い致しますっ!!笑
待ってました!はらだ先生の初コミックです!
その描写と表現の過激さを一言でいえば、りょーかさんと匿名さんの句を御借して:
18禁 基準が未だ 分からない
(家族に)見られたら 何かが終わる 『変愛』です(なので背後には充分注意して読みましょう笑)
「愛に寄り添うエロ」ではなく、「エロに寄り添う愛」を描いた作品集という感じでしょうか。その圧倒的な才能と勢いは、初期の赤星ジェイク先生などに少し通ずるものがあるかもしれません。赤星先生より、刺激的で過激なのに、何故かどの作品も、どこか優しい。特に、『止まり木』は、とっても好きな作品でした(理由はあえて説明しません。とにかくストーリーと絵とが、絶妙なのです!)。このような、性の暴走のような中に、不器用で優しい愛のカタチが見え隠れするのも、BLの醍醐味だと改めて感じさせてくれました。
ちなみに、とても明確なあらすじにある解説の作品は、下記のようになります。
イメクラプレイ好きな塾講師が元教え子とガッコに忍び込んで!? 『変愛』
クズ男が怪我をした天使を陵辱。それが治癒効果に…? 『止まり木』
俺の同級生が敏感すぎてやばい! 童貞同士のキケンな遊び 『俺の同級生が・・・』×3
伝説の舌を持つおしゃぶりのカリスマが廃業の危機! 『メシアの厄日』
ド鬼畜教師の愛が溢れた美し過ぎるSMプレイ! 『教室の歪み』×2
・・・というか、改めて読んでみると、名前が一切出てこないのには驚嘆!
最後に、
「はらださんのまんがが大好きです!」と推薦する、彩景でりこ先生曰く、
「ドスケベで愛があって 一筋縄じゃいかなくて とにかく面白い!!」
これからが楽しみな作家さんです!
見多ほむろ先生の作品、前作『キミの傍でやみくもな夢を見る』、表紙は見覚えがありましたが、果たして読んだかどうか・・・あらすじを読んでも思い出せません。でも、今回の作品は、ちゃんとこれからも覚えていると思います。
試し読みを読んだときに受けた、さわやかな印象を裏切りませんでした。少女漫画のような構成とタッチが特徴ともいえる作家さんです。ほぼ一冊表題でとても読み易い上、ストーリーも王道をいっているので、間違いなく初心者でも読めるBLです。
あらすじには、『夏休みに親戚の家に行くとそこには街中で「すごいゲイ」と噂のいとこの夏樹が待ち構えていた!夏樹はお勉強だけでなく、夜の遊びまで教えてやると言い出し…!?』とありますが、どちらかといえば、「夏休みに従兄弟の家に着くと、その妹に「お兄ちゃんは町で噂の男好きで色々とすごいらしい」と告げられる!夏樹は、怯える通春に「言うことを聞かないと犯すぞ」と脅し!?」の方が内容に近いと思います。
表題作についてですが、脅しはするけれど、通春を遊びに連れ出し、彼のコンプレックスを克服、尚且つ勉強も丁寧に教えてくれて着実に実力を伸ばす夏樹。そんな夏樹に通春は惹かれていくのです。そのコンプレックスの克服から通春との関係、そして勉強の教え方の上手さには、ちゃんと隠された理由があり、互いに惹かれ合う根拠があるので、共感が持てます。その後の、『みちはるドライブ』の浴衣エッチで☆を増やしました。特に鮮明な描写はないのですが、なかなかエロティックでした・・・が、欲を言えば、是非とも『その日通春は「声をこらえる」の技を身につけました』の内容を披露して欲しかったです笑 テンポ良く、コミカルな要素を加え、主人公の表情がコロコロと代わり、少女漫画のように攻の魅力・トキメキをクローズアップしたのはいいのですが、もうちょっと夏樹(攻)の感情/表情の変化もみせて欲しかったです。あと、当て馬君の言動と感情に少し不明瞭な点があったと思います。
短編は『つめたい指の向こうで笑って』ですが、これはネイリストを目指す(専門学校には珍しい)男子生徒2人のお話です。あらすじ:
姉の結婚式で助けてくれた高校生に憧れ、ネイリストを目指す秋山は、いまいちセンスがない成績最下位。ところが成績も性格も正反対の、無口な水沢とコンテストのペアを組まされることに!嫌そうな水沢に、なんとか近づきたいと思う秋山だが。。。
という感じでしょうか。ネイルアーティストという分野を当てはめてきたのは新鮮で良かったと思いますし、短編ながらも、なるほどという驚きの事実も発覚します。好きな人に後ろから寄りかかられるドキドキも、共感が持てました。うまくまとまっていたと思います。
見多ほむろ先生には、その少女漫画的な要素を活かした上で、ストーリーもラブシーンも少し長めに描いて、攻と受の両方の感情を丁寧に描いてみて頂きたいです。当て馬ストーリーやふたりの関係の障害も、(山田ユギ先生のような感じに)主人公達を、そして我々読者の心をウ〜ントと揺さぶっていって欲しいと思いました笑
橋本あおい先生の作品の特徴は、潤う程の美しい絵といえるでしょう。ストーリーも安定しており、安心して読むことができます。その絵といい、安定感といい、読む度に、さすがプロフェッショナルだ、と思います。
今迄の作品を振り返ると、受攻共に雄っぽさが少ないせいか、その美しい絵とキレイな絵に合った「乙女」「ライト」(初心者向け、気軽に読める)な内容・物語のものが多かったように思います。しかし最近になって、「ずばーーん!」と、大人・アダルトな世界を描かれるようになり、キャラクターや世界観、そしてストーリーにぐぐっと深みが増してきました。元々、キレイな絵と整ったキャラクター達だからこそ、毒・アダルト的な要素とのギャップが、なんともいえない萌えを生み出すのです。
最近は「エロエロ」にもバラエティや個性があり、面白い作品が登場している中で、見事なデビューを果たされたと思います(笑)。そのバラエティや個性の中には、絵以外の要素が必要不可欠なものもありますが、橋本あおい先生の場合は、その画力があってこそのエロさでもあり、つまり先生が描かれる淡い優しい絵で描かれる濃厚ラブシーンは、一枚の絵画のような、それだけで充分に見応えがあるといえるでしょう。
主なあらすじやみどころは、kaysさんのレビューに御任せして、私はエロ論に絞らせていただきます笑
エロエロな理由 その1 【繊細さ=リアル?】
先程から、再三美しい絵だのキレイな絵だの申しましたが、その要素の一つが、「繊細さ」であることは間違いありません。トーンとペンを巧みに使いこなし、筋肉のバランスから、シーツの皺、まつげ一本にいたるまで、複雑な表情や態勢などに説得力を持っています。そんな技術者が、アレやソレを描いたのですから、ラブシーンが、どれ程リアルかは容易に想像できると思います。読者は、うっとりしてよいやら、ドキドキしてよいやら、恥ずかしいやら・・・。絵が上手というのは罪なのですね。
理由 その2 【エロエロ≠萌え】
今回の作品は、まさに大人の駆引き、だからこそ主役のふたりの微妙な感情の変化や恋心とセックスとのバランスが上手に描かれている必要があります。今作品の主人公は、ふたりとも「感情が読めない人」という、キャラクター設定でした。それが故に、進展させるのが難しいと思いきや、見事にストーリーとしての矛盾はほとんど無く、描き切っています。一方で「ツンデレ」や「サドマゾ」等といった型に嵌った設定や要素はまったく無く、登場人物の個性や特徴には確実にオリジナリティ性があります。
敷いて言うならば、淫乱受なのでしょうが、そこには「健気さ」もあり、彼等が事に及ぶまでの経過と、その内容、そしてその後の発展と結末には、説得力があります。多少それぞれの過去に曖昧な点(そこを描いていたら、ページが足りなかったでしょう)があったにせよ、受の自身の感情に対する鈍さも、攻にみられる個性にも、不自然さを感じることはありませんでした。おそらく、作者本人が、そもそもとんでもないキャラクター設定ができないリアリストなのだと思います。
ストーリー性やキャラクター設定をしっかりと組み立てることのできる作者が描いた「エロエロ」だからこそ、神と評価できるのだと思います。「ただエロを描いた作品」では、「萌」にはならないのです。今回の作品の見所は、まさに、絶対に裏切らない美しい絵を裏切る、迫力のあるラブシーン!小冊子やR18の中で拝見することはあったのですが、やはりまるまる一冊になると、迫力満点です!
*ちなみにSPEC好きな人なら、気がつくかな!?というネタありです(笑)
橋本あおい先生には、是非今後とも迫力あるラブシーンに期待したいと思います♡
少しでも気になる方は、買ってみて、損はないと思います。
この小説を読んで、はじめに感じた印象は、「隙間」だった。登場する人物、それが主役級であっても、外見容姿、印象や性格に対する説明が、いわば「隙間」だらけだったのである。刑務所での生活、規則等についてはその都度説明があるが、必要以上の説明は無い。堂野以外の登場人物達の背景や想いも、描写されていない。このように余計な描写が無い分、我々読者は、想像力を働かせ、また人物達の動きに注意を払って、物語を読み進めることになる。しかし不思議なことに、それが却って彼等の感情面に、説得力をもたせた。
① 果たして、堂野にとって喜多川は「迷惑」でしかなかったのか。
喜多川の堂野への執着は、無論「尋常じゃない」といえば尋常ではないが、彼の生い立ちがその「尋常じゃない」にはっきりと理由付けをする。彼のような生い立ちを持つ人間は、この本に触れる確立は低い。故に、彼に共感しようとしても、大抵の読者は難しいと感じるに違いない。となると、読者はまず、堂野に共感しようとするだろう。だから数名のレビュアは、堂野を自分に置き換えて考えてみたときに、喜多川の執着を気味悪いと感じたのかもしれない。確かに堂野と喜多川の関係は、堂野が喜多川を拒否できない状況から出発している。しかし、喜多川が、まるで「犬」のように懐き、堂野が自覚する程の好意を寄せている状況からは、堂野にも充分「拒否する権利」は生じている(そして時にはその権利を行使した)、のにもかかわらず、ストレートな告白以降も、堂野は、エスカレートする喜多川の同性愛行為を赦している。自分に言い訳をしながらも、“赦している”という時点で大きく他とは異なるのだ。柿崎に迫られた際に出た悪寒のような「鳥肌」であったが、同じような表現は、喜多川との行為の時には使われていない。
そして何よりも、「芝」という存在が、大きい。彼はいわばリーダー的性格、兄貴肌であり、頭もキレ、鋭い観察力を持ち、そして空気を読むことができる頼れる男だった。そして芝は、堂野に対しても終始平等に接し、面倒をみ続けた。そんな「芝」が、夜中に狭い部屋で繰り広げられる喜多川の堂野への執拗な行為を、止めない筈がないのである −−− もし、堂野が本気で嫌がっているのだとしたら −−− 。つまり、彼は見抜いていたのだろうと思う。堂野が本気で嫌がっているわけではないことを。または、このふたりの間に流れる、独特の不可侵的空気を。揉め事を極力さける芝の「我関せず」が堂野と喜多川の関係の質を物語っているといっても過言ではない。
もうそれだけで充分なのである。それだけで充分、この問題、この関係は、喜多川と堂野の間の問題で、ふたりがどうしたいか、それだけにかかっていて、読者はそれを見守ることしかできない立場に置かれる。そこに堂野への感情移入も、喜多川への戒めも通用しないのだ。
② 喜多川は、なぜ「堂野」でなくはいけなかったのか?
喜多川は、一途な男だ。その一途さは、たとえ彼の執拗な執着に眉をひそめる読者の心も動かす。なんの変哲も無い平凡な男である「堂野」を想い続け追いかける喜多川は、堂野と違い、整った顔と、若さと立派な身体を持っている。じゃあ、なぜそんなにまでして堂野でなくてはいけなかったのか。
世間知らずだった彼に、人の「情」を伝えようと"試みた"初めての男であること以外、堂野はこれといって何もない。
この作品の第二の大きな特徴、それは、喜多川と堂野の関係が、「依存」とはまったくの別物であることだ。「見返り」「利害関係」以外しか、人間関係の在り方を知らなかった、という喜多川の生い立ちとキャラクターの設定は、逆に彼と堂野の関係に「理性」と「冷静」という非常に重要な要素を与える。教師でも無ければ宗教家でもない堂野は、喜多川の「理屈」には刑務所を出る最後まで勝てなかった。「依存」とは異なる関係であること、それは、依存が、「見返り」や「利害関係」でしか人間関係を構築出来ない男の内には生じない現象であることから容易にみてとれる。「依存」でないふたりの関係は、つまりは「自然の流れ」と共にあることを、読者は常に感じていなければならない。
④ 愛情はどこから湧いてくる?
読者は多分、あの事件が起こらなかったら、堂野は喜多川を受け入れなかっただろう、と思うだろう。確かに、あの事件は、堂野も喜多川も関係の無いところで起こった事件で、まさに偶然だった。偶然のお陰で、露呈した事実をきっかけに、堂野は喜多川との人生を選んだ。釈然としない感情を、読者も、そして堂野も感じる。しかし一方で、堂野の麻理子への冷めようは凄かった。その熱の冷めるスピードと温度の低さには、驚く。そしてそこで堂野は自身に問うのだ。「確かに自分は、麻理子を愛していたはずだ」と。では、まったく同じような事件が、喜多川との間で起こったとしたら、堂野は同じようなスピードで熱を冷ましていくのだろうか、と読者はふたりに問うてみる。すると、多分、あのようには冷め切れないだろう、と確信がもてるのだ。そして、ああ、愛とは、そういうことか・・・、と妙に納得する。
様々な「愛」がこの世には存在している。だから、堂野と麻理子のような関係を、愛では無かったと結論づけることは、してはならない。しかし、堂野にとっての「愛」は、「喜多川の見せる愛」であった、というだけなのだ。自分の内側から沸き出るはずの愛ばかりを探して見失っていた人間が、誰かがぶつけてくる愛を、愛だと受け入れ、信じられたとき・・・堂野の愛は、喜多川の愛と交じり合うのだ。
三浦しをんさんは、こう書いている。
「本作は、愛によって人間が変化していくさま、真実の愛を知った人間が周囲の人間に影響を与えてくさまを、高い密度で表現している」(『解説』より抜粋)
・・・まさに、その通りだろう。