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Mauric
思えば深夜放送でこの作品に出会ったことが、わたしのその後の人生を大きく変えたと言っても過言ではありません。
最盛期のヒュー・グラント(当時27歳)に惚れて、このひとに近付くにはどうしたらいいんだと一生懸命子供ながらに考えた結果、なぜか原作者のE.M.Forsterを研究するという結論に達した幼い日のわたし。
その結果、留学中の大学で撮影をしていたヒュー・グラントに会えたので結果オーライでしょうか。
自分語りは置いておいて。
同性愛がバレると禁固刑を課せられた時代のイギリスが舞台です。
女系一家に生まれて、家族の期待を一身に背負ったモーリスがケンブリッジの門を叩いたとき、出会ったのが先輩のクライヴでした。
人を惹きつける魅力に溢れたクライヴ(ヒュー・グラント)との友人とは言い難い距離感に戸惑いつつも、人目を避けてキスや抱擁を繰り返す2人。
そんな日々が続くかと思っていたけれど…。
あらすじではクライヴもモーリスに性愛を感じているように描かれていますが、映画を何度も観て、原作も研究し尽くしたわたしの見解では、クライヴのモーリスに対する気持ちは「恋愛」とは言い難いんです。
当時、同性愛は禁じられていたものの、ケンブリッジなどの令息たちが通う大学内ではそれに近い関係が流行っていました。
それというのも彼らが興味深く学んでいた学問の1つに「哲学」があったからです。
アリストテレスやソクラテスにプラトン。
そうした後世に名を残す哲学者たちは、同性愛者だったという説があります。
それゆえに「哲学者たちに倣った嗜み」としての同性愛の真似事というものを経験することがひとつのステイタスのような感じで捉えられていたんです。
Forster自身も大学時代に同性愛の世界に導かれたものの、多くの学生が卒業と共に「お遊び」をやめていく中、自分の性指向に気付いて…、という経緯があります。
さて、作品に戻りますが、映画の中でもヒュー演じるクライヴは、とても思わせぶりです。
休暇でモーリスの家を訪れた際、朝食の席で妹たちに囲まれながら、モーリスに思わせぶりな視線を送る。
自分からモーリスに手を出すのではなく、あくまでもモーリスの衝動を煽って、こちらに向かわせる。
そうやって煽りに煽られたモーリスが激情をぶつけてきたら、軽くいなす。
常に主導権を握って、ひとりの人間が恋に振り回されるのを見て楽しんでいる様子を、ヒューが見事に演じてます。
イギリス人特有の薄い唇で“Rubbish”というセリフを言うシーン、最高です。
ちなみにこの”Rubbish”(「ばかばかしい/くだらない」)は、モーリスの”...that I love you”という台詞への返答だったりします。
煽るだけ煽って、お遊びの時間が終わったときに、クライヴはあっさり女性と結婚します。
自分を引き入れておいて突き放すクライヴへの憎しみと、消せない熱で自堕落になっていくモーリスの前に現れたのが、クライヴの家で森番をするアレックです。
この2人の絡みシーンは、ディレクターズカット版では全裸でしっかりと見られますので、興味がある方はチェックしてみてください。
初めて体の中の熱を放出したモーリスと、上流階級の人間を堕として満足するアレックの気持ちのギャップがここから展開していくのですが、ヒューびいきのわたしは一気にラストシーンの解説に飛びたいと思います。
ラストが秀逸すぎるんです。
アレックと手を取り合って森の中へと歩を進めるモーリス。
その後ろ姿を邸宅の2階の窓から見つめるクライヴ。
うっすらと靄のかかった森へ消えていく2人が行く先は、その靄のごとく明るいものではないかもしれません。
でもひとりじゃない。手を取ってくれる人がいる。
暖かい部屋の中で、外に踏み出さずにいたクライヴは、自分も自分なりにモーリスを愛していたことに気付いたのではないか。
そんなシーンでした。
素晴らしいです。
人生が変わります。
そしてヒューはこの時期が最高に王子様です。
ぜひご覧ください。