亜米利加の801ちゃん作家
紹介者 葡萄瓜
筆者が“山田ぼたん”と言う名を知ったのは2006年のこと。アメリカで刊行された「Zowie! it's Yaoi!」と題されたBoy's Love小説アンソロジーの新しいカバー絵作者さんとしてでした。(刊行発表当時は現在流通のイメージとは全く方向性が違うカバー絵でした)
もっとも往時は差し替え予告の段階から最後まで“Botan Yamada”と言う名前の表記しか情報がなく、また色遣いの加減も本邦の作家さんと著しい差異が認められたため、「日本人名を名乗られている海外の作家さんであろう」と迂闊にも思い込んでいたのです。
そしてしばらく後、彼女は新たに立ち上がった18歳以上の読者を対象とするYaoi漫画出版レーベル・801media Inc.にイメージキャラクター作家として関わっています。
そのキャラクターこそが実は“801-chan”です。多分日本の“801ちゃん”とは何の繋がりも無いはずです。版元名からのネーミングがたまたま被ったのでしょう。そこで筆者は少し首を傾げ始める訳です。
801media Inc.の12月20日付ブログ記事に掲げられた直筆色紙には“山田ぼたん”と署名があり、12月22日付記事には801-chanとその相方Tomo-chanのキャラクター図が掲げられていたのですが、その色使いは「Zowie! it's Yaoi!」とはまったくかけ離れたもの。ここから筆者は遅まきながら情報を手繰り寄せようとした訳です。
そうしている内の2007年のこと。"Botan Yamada"を著者とする一冊の本が上梓されました。それはDigital Manga Publishing刊行の「Let's Draw Manga : Yaoi」。恐らく当方が確認する限り、海外における唯一のYAOIの描き方の教科書です。そして彼女は版元からの繋がりでグループ企業の日本観光ツアー会社・Pop Japan Travel社が主催した《Yaoi Bishonen and Boys Love Tour》のイメージ画を担当する様になりました。
801media Inc.の刊行物においても変わらずイメージキャラクターを描いておられました。その段階で筆者が掴み得た“山田ぼたん”さんの情報と言えば僅かに〈かつては遊戯王ジャンルで同人活動をしていたが、BL雑誌の挿絵を担当する様になってからサイトを畳んだらしい〉、と言う程度。
作品の画像も辛うじて同一人物では? と認識できる程度を確認し得たに過ぎませんでした。「Let's Draw Manga : Yaoi」はアメリカほか諸国でも品切れ。古書でも高騰状態。彼女の作品が日本の商業出版において正当に評価される機会はもう来ないのかといい加減諦めかけていた頃、2008年エンターブレインから「Ai Death GUN」が刊行されたのです。
……それは、本当に嬉しい出来事でした。世界に向かってYAOIの手解きをした人の功績がきちんと認識される機会がやっと訪れたのだと。そして本年の「秘め夜伽」刊行で嬉しさは更に増しました。
物語の紡ぎ手としての"山田ぼたん"を知ることができましたから。これから、また新たな世界が拡がることを一読者として期待します。
作品紹介と言うよりも彼女の知られざる業績紹介に多くを割いた稿となってしまいましたが、何かの一助となりましたら幸いです。