セーラー服のドエスから攻めちゃうオカマまで
紹介者 久江羽
いつも行く本屋さんの書棚の、丁度目の高さのところに「窓辺の君」はこっちを向いていらっしゃいました。
私は基本的に、単行本化されてから読む派なので、それまで雲田はるこさんの存在そのものを知らなかったのですが、淡いピンクの薔薇に囲まれた乙女チックな二人(表題作の主人公です)が、私に“読んで読んで”と訴えてきたのです。もうこれは買うしかありません。
カバーイラストの雰囲気からすると、かの大島弓子氏を思わせるようなほんわかとしたお話を描く方なのかなぁと思っていたのですが、表紙をめくって驚きました。口絵では、上半身ハダカでレディースのようなプリーツスカートを履いた男の子が、極悪な顔をしてクギパイプを担いでいるではありませんか。
『どうしたんだ? 私、買わないほうが良かったのか?』と、ちょっと後ろ向きになっちゃったのですが、さらに次のページ、目次においては、各作品のひとコマを配したようなおしゃれな仕様になっているのです。『どれだけ隠し球を持っているんだ?』こうなると、読む前から期待が高まるのは当たり前です。そしてその期待は裏切られることなく、様々な色合いのお話を読むことができたのです。
表題作「窓辺の君」では大学助手・柴田の乙女チックな片思いと薔薇の品種改良が、カバーイラストのほんわかとした甘い期待を一身に受けてはいるものの、当の窓辺の君(年下攻めの竹宮くん)がそれを打ち崩してしまうほど傍若無人で、乙女チックのはずがセクハラものになる始末。それがちょっとしたエピソードでキュンとくるハッピーエンドになってしまうのだから、かないません。
このコミックス自体、アンソロ本収録作品を集めた作品集なので、様々なテーマのお話が描かれているわけですが、どれも“よくある話”からちょっとズレていて、『そっちから切り込んでくるんですね?』という感じのストーリーになっています。
「グッバイ、ハニー!」では関西弁で新喜劇的ノリだし、かと思えば次の「おやすみ、サリー」はバッドエンドもので、露悪的退廃美を感じさせてくれるサリーさんと、ダメな男につくしてしまうマネージャーの哀愁漂ううなじから背中が魅力的です。
中でも「はじめて弾く恋のうた」はテーマが“はじめて”らしいのですが、はじめてピアノを習う人にボクサーを配置したうえ、ただ彼を救済するだけに留まらずピアノ教師が抱える問題も解決していくという心温まるお話が、たった24ページの中にきちんとわかりやすく凝縮されているのに大変感心いたしました。
その直後に「悪童セヴンティーン」という画期的な作品を持ってきたのは、緩急つけるためでしょうか? 作者もむかつく男に認定したいらしい高校教師と問答無用のドエス高校生(口絵のスカート少年です)のドタバタコメディなのです。実は私、これが一番好きなのです……。SMヘンタイ好きでごめんなさい。
そして最後を文学的にも思えるシリーズ、2作品が飾っています。写真家の黒木がお話の中心人物なのですが、彼はあくまで揺らがない主軸を担い、元カレの青二や今カレの野々瀬がストーリーに厚みをもたらしてくれています。
雲田さんは、シリアスからコメディまで様々なシチュエーションのちょっとひねったお話を、しなやかなペンタッチで読ませてくれる作家さんだと思います。先日「cab」創刊号に載った作品は、オカマちゃんが主人公でした。また新しい分野のお話が読めて、この人の引き出しをもっと開けて欲しくなりました。
「毎日雲助」というブログを読ませていただいたら、オカマとドエスがお好きな栃木県民ということも分りました。どうやら今度は念願の長編ものらしいです。それも、さらに新しい分野みたいなので楽しみにしたいと思います。