紹介者 うえおさん
BLを読み始めた頃は、内容がどこか不自然でもとにかく濃い関係が読みたい、そうじゃないと読んだ気がしないぐらいの事を思っていたのですが、数年前からでしょうか、じっくりと心理描写を書いている作品も良いなと思うようになり、だんだんとストーリー性も重要な要素として意識しながら読むようになりました。
私の中でそれが顕著に表れたのが『ディアプラス文庫』で、比較的心理描写を重視している作品が多いことから、以前はほとんど手にする事はなかったのですが、ここ数年ではお気に入り作品をいくつも見出しており、毎月発売される新刊に注目していました。
そんな時『ディアプラス文庫』から、一穂ミチさんのデビュー作「雪よ林檎の香のごとく」が発売されました。デビュー作ということでしたので、読む前は正直それ程期待せずにいたところもあったのですが、そんな気持ちは読み始めると同時に消え去り、デビュー作(新人)とは思えないクオリティーの高さにまず驚かされました。
当たり前の事なのかもしれませんが、まず読んでいて文章に引っかかる点がないというだけでも好感が持てました。どんなにストーリーが良く出来ていても、文章で引っかかりを感じてしまうと集中し切れず、読後残念な気持ちになってしまう事もめずらしくないのですが、そういう点での心配は一切感じることはありませんでした。
それどころか、文章に関しては“問題ない”というレベルを遥かに超えていて、むしろ作品の楽しみとして味わえる要素の一つになっていたと思います。
現在デビュー作の「雪よ林檎の香のごとく」と「オールトの雲」(ともにディアプラス文庫)が出版されていますが、二冊とも文章のクオリティーが高いことはもちろん、内容自体も胸にグッと来るような、大変読み応えのある良い作品だったと思います。
どちらも派手な設定や展開はありませんが、主人公の二人の距離が自然に縮まっていく過程をじっくりと読ませてくれますし、恋愛だけではなくそれぞれが抱える問題を乗り越えていく成長も絡ませることで、ストーリーに厚みが感じられました。また周りの家族・友人などとのエピソードもとても丁寧に書かれていて、感動させられるシーンがいくつもありました。
文章は淡々としつつもどこか繊細なイメージを彷彿とさせ、ストーリーやキャラが持つ繊細さや温かさとシンクロしているような印象があり、いくつもの要素が重なる事でより一層完成度が増している様な気がしました。
なまじ文章が整っている事で一見隙が無いように見えてしまうのですが、適度にセリフが砕けていたりとあまり堅苦しさを感じさせないことで、読み難い(取つき難い)という印象もありませんでした。
タイトルにも使用されている短歌や星座(宇宙)の引用にしても、取って付けたようではなく、とても自然にストーリーの中に組み込まれていているのも良かったです。
今後も素敵な作品を書いていってくれることと思いますが、今のままの雰囲気でもっと切ない設定の話だったり、ちょっとファンタジーな話だったりを読んでみたい気もしますし、逆に「あれ!?」と思わず驚かされてしまうような、今までのイメージとは異なる話が読めることを実は期待しているところもあります。
どういう方向で話を書くにしても、文章力の高さ、繊細さや温かさを表現できるセンス、小さなエピソードなど隅々にまで気を遣える丁寧さを武器に、色々なお題(!?)に挑戦しつつ、どんどん活躍していって欲しいと期待しています。