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CRAZY ABOUT NARISE KONOHARA 木原音瀬にもう夢中! 癖になっちゃう痛気持ちイイ、木原ワールドの魅力をたっぷり紹介

木原音瀬デビュー作を語る

「眠る兎」木原音瀬

評者
はるさん
衝撃的な作品を紡ぎ続ける木原音瀬のデビュー作品。木原エッセンスを感じられるが、全体的にマイルドなテイストに仕上がっていて、読後感が非常によい。
ゲイ雑誌の文通募集で知り合うという設定は、時代を感じさせ、妙にほのぼのとする。2008年現在、手に入れることは難しいが、幸運にもめぐりあうことができたら、ぜひとも読んでほしい一作だ。

 どうしようもない男に翻弄され、涙しながらもそれでも愛することをやめられないという話をかかせたら抜群の木原先生のデビュー作です。
痛くて、切なくて、読後も胸に棘が残るような、それでいて、また先生の作品が出版されたら、読まずにはいられないという不思議な魅力をたたえた文章。その先生の原点とも言えるのが、この「眠る兎」です。「眠る兎」木原音瀬
優柔不断な主人公浩一、友人達の冗談にのってつい書いてしまったゲイ雑誌の文通募集の手紙に返事がきてしまいあわてる浩一。親友である常識家の柿崎にも相手は真剣なのだから人の気持ちをもてあそぶのはよくないと、そのまま会わないでおこうと決めたのに、奔放な女友達が興味半分で、待っているはずのゲイの男を見に行ってみようといいだし、屈託のない彼女を少し気に入っていた浩一は、彼女とデートができるかと気軽な気持ちで出かけてしまいます。
親友の柿崎に、そんなことをする物ではないと止められたのに、本当に優柔不断な主人公です。
そして、4時間も待ち続けている相手にいたたまれなくなり、少しならとあってしまいます。待たせた自分をなじることもなく、押しつけることのない優しさが心地よくて、はっきりつきあえないといえないまま、その後もずるずる会いに行ってしまいます。
柿崎からはそんなはっきりしない態度は相手を傷つけるだけだとなじられ、このままではいけないと自分でも思うのですが、自分をひたむきに思い、好意をむけてくる高橋の気持ちは心地よく、ひたむきな思いを向けてきてくれる高橋のことを、いじらしいと思うようになります。
ジェットコースターでいうところの頂点にむけて、ゆっくりと想いが登りつめていきますが、あとは、急降下あるのみです。走り出した恋心は、止めることができません。
社会人だと嘘をいっていることも、高橋が自分の高校の教員と知っていることも、今までの嘘の数々を包み隠さず話し許して欲しくなります。
今度は、浩一の気持ちに翻弄されるのは、高橋です。それでなくても臆病で、ゲイであることをひた隠しにして、いままで誰にも打ち明けられずにいた高橋が、そんな状況に耐えることができるはずもなく、逃げ出してしまいます。
浩一を避け、引っ越しをして、電話番号さえ変え、おびえて逃げる高橋は、兎そのもの。追いつめようにも逃げ回り、きちんと話さえさせてくれない臆病な男相手に、浩一もだんだん疲れてきます。
そんな二人を取り持ってくれるのは、やっっぱり親友柿崎です。二人を閉じこめ、話し合う切っ掛けをあたえてくれます。
優柔不断だった浩一が高橋を守れるぐらいの大人になろうと一生懸命成長しているさまが、ほほえましいですね。大人なのに、おびえ恋することを不安に思う兎のような高橋はかわいらしいし。
続編の「冬日」では、そんな高橋も成長します。親に浩一を紹介し、養子縁組したいと思うようになります。
愛することで人は成長し続けるんですね。高橋と浩一のお互いを思いやる気持ちが、読後、心に暖かな気持ちを残してくれます。

作品データ
作品名 眠る兎
イラスト 西崎祥 媒 体 小説
シリーズ ビーボーイノベルズ(コミック・ビブロス・リブレ出版) 出版社 ビブロス
ISBN 9784835213682 出版月 2002/09
価 格 ¥892(税込)        
紹介者プロフィール
はる
木原音瀬、榎田尤利の小説をこよなく愛するお年頃の主婦。運動不足解消を目指すべく犬の散歩にせっせと歩いているが、考えているのはBLの事。
精神的な痛みが伝わる描写に激しくもだえる“精神的”鬼畜な性格。バッドエンド、死別、カップルになれないまますれ違って終わる作品がもっとあってもいいじゃないか!とハッピーエンドオンリーのBL界に憂いを密かに抱く。六青みつみの自己犠牲の受け、真瀬もとの痛さも大好物。
ちなみにREIT(不動産投資信託)の配当でBL本を購入しようと思っていたのに、サブプライムローン問題炸裂で、もくろみがはずれる。



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