★作品発表★ 著者:薬院ルル
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「北の領地にねずみが入り込んだらしいな」
軍事総司令官・アシュレは、自国に侵入したスパイを見下ろしながら脚を組み替えた。
「先日の吹雪に紛れて国境を越えてきたようです。昨日、宮殿に侵入しようとしていたところを捕まえました」
隣に控えていたロイが経緯を淡々と報告するのを、アシュレはどこかおもしろそうに聞いている。
若干20歳で総司令官となったアシュレは、見かけの可憐な美しさにはそぐわない残忍さで有名だ。さらに、かなりの切れ者としても名高く、他国との戦争も優れた戦術によってここ数年勝利をおさめている。
そのアシュレが唯一、傍に置くことを認めたロイもまた、彼に劣ることない手腕の持ち主である。
アシュレが幼い頃から彼の教育係としてすべてを教え込んだロイの献身ぶりを軍で知らない者はおらず、アシュレの夜の世話も彼が行っているというのは公然の秘密だ。
「総司令官、いかがいたしましょうか?」
ロイは、相変わらずの無表情で自分の主に指示を仰ぐ。アシュレは、新しい遊びを発見した子供のような顔をしながら答えた。
「どうせ最後は殺しちゃうんだから、少しは楽しませてほしいな」
「御意」
側近は立ち上がり、靴音を響かせながら侵入者に近づく。男の両手を頭上にひとまとめにすると、そのまま背後の壁からぶら下がる革の手錠に括りつけた。
そうすることが初めから決まっていたように、ロイは内ポケットから小瓶を取り出す。薄桃色の液体がランタンの灯りに妖しげに光った。
「せめていい声で啼け」
毒薬かと怯える口をこじ開け、残らず注ぐ。
男が飲みこんだのを見届けるなり、ロイはゆったりとした動作で腰の鞭を外した。上着で隠れるほど細いものだが、その分よく撓り、高い音が鳴る。アシュレがこれを殊の外気に入っているのを知っていて選んだ。
「あ……ぁ……」
「あぁ、効いてきたか」
侵入者は俄に苦しげに呻き出す。シャツの襟元を片手で引き上げると喉が締まるのか、男はさらに身悶えた。
「心配いらん。ただの催淫剤だ。……少しばかり強烈だがな」
涼やかな目元をスッと細め、シャツを掴んでいた手を力任せに引き下ろす。その衝撃でボタンが飛び散り、床に転がっていった。
男がそれを驚愕の眼差しで追った時だ。
「ぁう───っ!」
はだけた白い肌に鋭い鞭が食い込む。ピシリと空気さえも切り裂く勢いで一打目がふり下ろされ、男は若鮎のように身を逸らせた。
だが、それもじわじわと快楽に擦り変わるのが見て取れる。催淫剤の力は痛みさえも凌駕した。
「は、ぁ……あ…、ぅ……」
一打、また一打とロイが鞭を撓らせるたび、男の口から漏れるのは恍惚とした響きだ。顔は汗と涙にまみれ、胸からは真っ赤な血が噴き出している。それが白いシャツに染みて薔薇が咲いたように見えた。
「あ…ぁ──っ」
一際高い声を上げて男が天を仰ぐ。吐精したのだ。ガクガクと身体を震わせ、痛みだけを負って快感の極みに飛んだ様は、もはやスパイとしての矜恃もない。
ロイはアシュレをふり返った。
「つまらないショーをお見せしてしまいました」
「ふふ。まだこれで終わりじゃないよね」
アシュレは優雅に立ち上がり、軍事作戦用に設えられた円形テーブルの花瓶から薔薇を一本取る。繊細な指にも負けぬ細い茎は、貴婦人たちのために改良された特別品種だ。アシュレはゆっくりと深紅の花の香りを愛でると、目だけでロイに次策を命じた。
ロイは黙って侵入者の穿いていたものを取り去る。自ら放った精液でベトついた下肢の間、まだ衰えることのない幹が勃ち上がっていた。
「随分強いのを飲まされたもんだな」
間近で聞くアシュレの声に男がうっすら目を開く。
アシュレは意識を取り戻した男に極上の笑みを浮かべてみせた。だが次の瞬間、そして迷うことなく男のものに手を添えると、薔薇の茎を男の尿道に差しこんだ。
「い、……ぁあ、あ、ああ……っ」
「素敵なオブジェだ」
尿道を擦られる快感と射精を阻まれる苦痛で、侵入者はもはや生きる屍と化す。それを見ながらアシュレはうっとりとエメラルドの目を細め、そんな上官にロイもまた秋波を送った。
「ロイ。おまえの手際は見事だったよ」
「お楽しみいただけましたか」
「あぁ、とてもね」
そう言いながらアシュレは舌を出し、戯れのようにロイの唇を舐め辿る。
ロイはすぐにそれに応え、アシュレの細腰に手を回した。
「あのままどれだけ耐えられるか、試されるおつもりですか」
「見悶えるのを見るっていうのも楽しそうだろう」
クスクス笑いながらアシュレの手がロイの胸元を這い回る。ふたりの合図だ。気分はとうに高まっていた。
ロイはアシュレを背中から抱きこむと、上官のベルトを抜き、性急にズボンを下ろす。前は既に硬く昂ぶり、彼がサディスティックなショーを見て興奮していたことを報せていた。
「いやらしい身体だ……」
「おまえが仕込んだんだろう?」
「えぇ、とても素敵ですよ。淫靡で……残酷で」
右手でアシュレ自身を包みこめば、手のひらは先走りでたちまち濡れそぼる。それを後孔に塗りつけ両手で広げると、つい今朝方の余韻がまだそこに残っていた。
ロイは前を寛げ、自身を取り出す。アシュレの後ろに軽く押し当てただけで蕾が歓喜に震えるのがわかった。
テーブルに手を突かせ、視線の先に男が見えるようにしてやる。
「さぁ、今度はあなたが啼く番ですよ。あの男に聞かせておやりなさい」
「あ……ぁ───」
グッと自身を突き立てた途端、アシュレの嬌声が部屋に響いた。その声を耳にするたび、ロイはこの身がフランベのように燃えて溶けてしまうのではないかと思ってしまう。気を狂わせるほどの何かがアシュレにはあった。
アシュレの痴態を目の当たりにし、侵入者は達せない苦しみで狂気に墜ちる。ふたりの声が時に重なり、時に木霊のようにくり返す部屋の中で、ロイは倒錯した世界の頂きに駆け上って行く。
「───……っ」
アシュレと同時に果てを極め、やがて冷静になってゆく頭の中で、ロイは虜囚に対する次の責苦を考えニヤリと笑った。
死ぬまで終わらない永遠は、まだはじまったばかり───。
End.
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募集締め切り:2012年2月19日