★作品発表★ 著者:今井茶環
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大財閥・菱島(ひしじま)家の当主である父を亡くしたコウキ。
政財界から多く弔問客の訪れた盛大な葬儀を無事済ませた後、コウキは地位も権力も、父の持っていたものをすべて手中に入れるべく、あらゆる手を使い力ずくで奪った。
結果、多少強引な事をしたものの、望んだものはすべてコウキのものとなった。
……ただ一人を除いて。
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「コウキ様、お呼びですか」
菱島家に仕える執事・カツキがコウキの部屋の扉を叩くと、コウキはただひと言「入れ」とだけ返した。
「失礼いたします」
静かに扉を開け、閉めてカツキは扉近くに控える。
部屋の奥の机に座っていたコウキはその様子をしばらく眺めた後、カツキのもとへとゆっくりと歩いていった。
「お前さ……いつまで経っても、俺の事を以前と変わらない呼び方で呼ぶんだな」
「……」
「俺はお前の『ご主人様』だろ?」
カツキは、目を伏せたまま、何も答えなかった。
「俺は親父の持っていたものを全て手に入れた。手に入れることを納得させた。……お前だけだ、俺を認めていないのは」
カツキの前まで来て立ち止まったコウキは、カツキのネクタイをぐいと引っ張る。
ようやく二人の目が合った。
「……親父はもういない。お前は、俺のものだ」
コウキの言葉は、まるで自分自身に言い聞かせている呪文のように、カツキには聞こえた。
「そうですね。菱島家の当主が亡くなられた今、私の主は全てを手にされたコウキ様と言う事になりますね」
「なりますね、じゃなくて、なるんだよ!」
なぜコウキを当主と認めないのか、その意味を、自分で考え導き出してほしいカツキは、声を荒げて自分をキッと睨みつけるコウキの目を真っ直ぐに見据えた。
「俺は、親父の地位も権力も、親父が持っていたもの全てを俺が手に入れれば、お前が親父に仕えていたようにお前が俺のものになると思った。だから、俺は姉貴から強引に当主の座を奪った。でも、お前だけは俺が当主になっても俺のものにはならないんだな……」
呟いたコウキの瞳は菱島家の若き主ではなく、ただの二十歳の大学生。恋する男子の瞳で、愛しい人を揺れるその瞳で見つめた。
「成人式を迎えられ、コウキ様も少しは大人になられたかと思いましたが、まだ子供ですね」
「どういう意味だよ!」
コウキに掴まれていたネクタイをさらにグイと引っ張られ、その勢いで互いの唇が触れそうな距離感にまで顔が近づいた。
「あ……」
顔を赤らめたコウキは、慌ててカツキのネクタイからパッと手を離した。
「なぜ私が怒っているのか、わかりませんか?」
「……怒ってるのか?」
「ええ。かなり怒っていますよ。その理由を御存知でないコウキ様に怒っています」
紅潮していたコウキの頬が一瞬にして青ざめ、不安げに瞳が揺れるそれを見たカツキは、重い口をようやく開いた。
「あなたは、私が挑発すれば怒り、突き放せば不安がすぐ表情に出る。私がどうして怒っているのか、本当にわかりませんか?」
コウキの身体が小刻みに震えているが、コウキに対して少なからずも怒りを感じているカツキは、さらに言葉を続けた。
「旦那様は、あなたの瞳が誰の姿を追い、見つめ、そして想っていらっしゃるのか、全て知っておられました。菱島財閥の当主の座に就くと言う事は、同時に結婚して子供を作り、世継ぎを誕生させなければならない義務があります」
「あ……」
ようやくその意味を理解したのか、コウキの瞳は宙を彷徨い、なぜ、遺言状に長男のコウキではなく、姉の名が当主の座に記されていたのか、父親の真意を知った。
「でも、俺が強引に姉さんから当主の座を奪った事で、どうしてお前が怒るのかがわからない。姉さんが好きならまだしも……あ、そ、そっか。お前は姉さんが好きだか……」
言いかけたコウキは、自分が口にした言葉に傷つき、カツキの目の前でふいに膝がガクッと折れた。
その瞬間、カツキがコウキの腕を掴み、身体をグイッと引き上げ抱きしめた。
「コウキ様。あなたは本当に子供ですね」
コウキの耳元で囁いたカツキは、コウキの身体を抱き上げた。
「な、なにするんだよ!」
「私が誰を好きと言いました? 自分の言葉に傷ついて、立っていられなくなるほど私が好きなくせに、勝手に勘違いして泣きそうにならないでください。まったく、泣きたいのは私の方ですよ」
部屋を大股で横切り、長椅子の上にコウキの身体を横たえたカツキは、蝶ネクタイを外し、ウィングカラーシャツのボタンを外していく。
「な、なんで服を脱ぐ必要なんか……」
「私は怒っているので、優しくはできませんよ」
コウキの言葉を途中で遮ったカツキは、コウキの唇を強引に奪った。
「んッ!」
息をつく暇も与えないほどの激しいキス。カツキの舌がコウキの上顎を擽り、唾液を絡ませながらコウキの舌を甘噛み、強く吸いつく。
「ぁ、ん……」
ふいに唇を離したカツキは、コウキの服を乱雑に脱がせると、コウキの両脚を持ち上げ、自分の両肩に乗せた。
「な、なに?」
「コウキ様のココに、私の想いの全てを伝えて差し上げます」
カツキは言うと、自分の中指に唾液をたっぷりと絡ませ、コウキの尻の蕾にツプッと指を挿入した。
「ア──ッ!」
「痛いですか?」
涙目のコウキは、無言でコクコクと頷いた。だが、カツキは容赦なくコウキの蕾の中を掻き回す。
「あっ! や、そこ、あ、あっ、ああ──ッ!」
コウキの前立腺を激しく擦ったカツキは、あっけなく射精したコウキの精液を自身のペニスに塗り込め、その先端を蕾の中にグイッと食い込ませた。
「ッ!」
背中を仰け反らせ、息をつめるコウキの頬を優しく撫でたカツキは、さらに腰を進めていく。
「力を抜いて。ゆっくり私を飲み込んでください。私が誰を見つめ、想い、その姿を瞳に映しているのか、目を開けてしっかり見てください」
コウキの目尻に光る涙をキスで拭ったカツキは、コウキを真っ直ぐに見つめると、優しい瞳で微笑んだ。
「私の瞳に映っているのは、誰の姿ですか?」
「お、俺が映ってる……」
「それが私の答えです。今後のことは、愛し合った行為の後に話し合いましょう。いいですね? 私の『ご主人様』……」
カツキは言うと、甘い笑みを浮かべ、コウキの身体の奥深くに愛を刻み込むように、腰を前後に揺らし始めた。
おわり