★作品発表★ 著者:銀色
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つい先日まで若頭の立場にあり、しかし今や裏切り者の烙印を押され破門されたタカアキは、配下だった組員によって薄暗い廃ビルに連れ込まれ、後ろ手に縛られ私刑を受けていた。
固く唇を結び、タカアキはあえて暴行を受け入れていた。肉が裂け、骨が軋む。
意識が遠のきかけたその時、組員達がふいに暴行の手を止め、現れた人物に揃って一礼した。
「――若頭」
「おまえたち、もういいよ。ここは俺が引き受けた」
そう言って、タカアキの代わりに若頭となった男――アツシはタカアキのもとへ歩み寄る。
「しかし……」
「いいと言っている。行け」
なおも食い下がろうとする組員達を帰し、タカアキとアツシは一対一で向き合う。
しばらくの沈黙ののち、タカアキはアツシを見下ろして言う。
「いい格好だな」
その言葉には応えず、タカアキは身を起こしてアツシを睨んだ。
「……ふうん。まだそんな目ができるんだ」
アツシが微笑んでタカアキの傍へ膝を折り、そして左手でタカアキの顎を捕らえる。
二人の視線がかみ合った。
あくまで何も言おうとしないタカアキに、アツシの嗜虐心が疼いたようだった。
「何故俺が人払いしたか分かるか?」
タカアキは絡みつくようなアツシの視線を真正面から受け止めた。
「バカだねあんたは、最後までそうやって黙っているつもりなのか?」
「……」
「いくらあんたが忠義をつくしたって、親父にとっちゃただの使い捨てライターと同じなのに」
アツシがにやりといやな笑いを向けた。
「そんなことを言うためにわざわざサシになったのか? ご苦労なこった。そのうえ次はお前が使い捨てライターになるってわけだ、めでてーじゃないか」
バシッ!
挑発するように言い放ったタカアキの頬を、いきなりアツシの左手が打ちすえた。
口の中にまた錆の味が広がっていく。
「俺はあんたと違って忠義心なんて持っちゃいない、若頭の地位がどうしても必要だから奪ったまでだ」
「奪った……だと」
タカアキの低い声ががらんとしたビルの中に響く。
「さすがに坂波の懐刀と言われたお人だ、ゾクッとくる。しかし残念だな、親父のつまらん私情の為にあんたが失脚するなんて」
「ふざけるな、親父は組の存続の為に俺が必要だと」
「そうじゃない。あんたは身に覚えのない薬の横流しってやつで手打ちにされるのさ」
「親父が薬に手をだすわけがないだろう、あれ程薬だけは」
タカアキの言葉を遮るように、アツシは顔を近づけてさらに絶望的な言葉を吐いた。
「そうだな、手をだしたのは親父じゃなくてバカ息子だからな」
「ボンが?」
タカアキは組長の息子であるリュウセイの名が出たことに戸惑った。
「敵対する鷹東組を名乗って質の悪い薬を売りさばいたうえに、その失態を親父に泣きつくことで丸投げしやがった。バカ息子の指一本を護るために全てをあんたになすりつけたのさ」
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『なによりも護りたいと思っていた存在が、俺の背中を護るのはお前なんだからへた打って怪我などするなよ。と豪快に笑ったあの人が……』
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タカアキはアツシを睨みつけていた視線を落とし、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「俺は……親父に拾われなければとっくに野たれ死んでいた、だから役に立てるならそれでいい」
「まったく、おめでたいのはあんただ」
覚悟を決めた姿に苛々したように、アツシがタカアキの胸ぐらを掴みあげ唇を押し付けてきた。
(なっ……)
間近で視線がぶつかり合う。
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「あんたの血は……甘いな」
唇が触れたままアツシは囁き、角度を変えてタカアキの口中に舌を差し入れた。
タカアキは両肩をゆすって離れようとしたが、アツシの舌からも脇腹を撫でるように触れてくる指からも逃れることができない。
アツシはさらにアバラのあたりをグイっと掴んできた。
「うっ……」
一瞬息が止まるような痛みが全身を包む。
その様子を見ていたアツシは静かに口をひらいた。
「あいつらはあんたが組を裏切ったと思いたくないようだな。自分たちを己よりも大事にしてくれたあんたを信じたい。だからその想いが手加減になって漏れちまうんだなぁ、本気を出せばこれじゃ済まない」
ツツっと脇腹に指が這う。
「アバラ二本ってとこか、これがあいつらの心の声ってやつだ」
「……」
タカアキは体をくの字に曲げたまま聞いていた。
「あいつらに任せてたんじゃ、あんた朝になっても楽になれないぜ。とんだネコパンチだな」
まるで自嘲するかのように薄く笑うアツシをタカアキは見上げた。
「……お前から引導を渡されるのなら……本望だ」
「……」
強い力で弾かれたようにアツシはタカアキを強く抱きしめ唇をふさぐ。
執拗に口内を蹂躙しながら、アツシの右手はタカアキの下着の中に滑り込んできた。
「やめ……」
深くなる口付けと脇腹の痛み、そして下腹部からダイレクトに伝わる痺れにタカアキはついていくことができない。
固く目を閉じても、アツシの舌が、指が、タカアキの理性を奪っていく。
「動物は、自分の命が危なくなると生殖本能が働くってのは本当らしいな」
タカアキの唇を舐めながら、ねっとりした熱い息でアツシは囁き、勃ち上がりかけているものに指を絡ませ柔らかく擦り上げた。
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アツシはタカアキの腕の拘束を外し、背後から抱きしめる形で股間をなぶり続けた。
タカアキは何度も深呼吸をして大きな波がくるのをやり過ごそうとしたが、追い上げるようなアツシの指は的確にタカアキを限界に導く。
「くっ…」
タカアキは小刻みに体を震わせながらアツシの手を白濁で汚した。
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アツシは首筋に唇を押しつけながら、タカアキの放ったものを後ろの窄まりに塗りつけた。
タカアキは体を捩って抵抗したが、構わず指をねじ込んでくる。
逃れようとするタカアキを押さえつけ、増やした指を中でうごめかすのがわかる。
「や、やめろ」
もがくタカアキをアツシは後ろからさらに強く抱きしめると壁に押し付けた。
抜かれた指にほっとする間もなく、タカアキの窄まりにあてがわれた楔がゆっくりと体を引き裂く。
声も出ないタカアキの前をしつこく弄りながら、アツシはさらにグイっと腰を進めてきた。
「ぐあっ…」
ぐったりと力が抜けたタカアキを支え、アツシは自分の熱い欲望を深く沈め静かに律動を始めた。
「……」
痛みで意識を取り戻したタカアキに気付かないのか、アツシは徐々に動きを速めた。
タカアキの体もがくがくと上下に揺さぶられる。
『俺は、こいつに喰われて死ぬのか』
タカアキはぼんやりとそんなことを考えていた。
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タカアキが気を失っていると思っているのだろう。
アツシが絞り出すような声で語りはじめた。
「あなたが大切なんだ、刃物みたいだった俺をあなただけが受け入れてくれた、ひとつでいいから自分が大切だと思えるものを持て。そう言って笑ってくれた。恩よりもあなたの命の方が重いと知った。だから若頭の座に目が眩んだふりをしたんだ」
ますます荒くなる動きと息遣いが、タカアキの体に伝わる。
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「あなたを助ける為なら何でもする。あなたを嵌めた親父からどんな手を使ってでも坂波組を手に入れる。そして誰もが三代目と認めるやり方であなたを組長にしてみせる。それまでは絶対に存在を悟らせたりしない。俺は忠義の若頭を演じて全てを欺いてみせる、あなたは俺のそばで生きるんだ、俺を憎んででも生きてくれ。俺が必ず護る。タカアキさん…あなたを必ず護る」
薄れゆく意識の中で、タカアキは恐ろしく甘い睦言をききながら意識を手放した。
おわり