★作品発表★ 著者:あゆみん
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「ん……。こんなところ診ただけで原因が本当にわかるの?」
みのるは、胸のとがりを掠めるように撫で付ける冷たい指先に身を捩る。
「ほら、動かないで。診断中なんだから」
そう言うと白衣を着た男は、みのるの腰に手を回し真剣な顔月で平たい胸を凝視してきた。
……なんでそんなに胸ばかり見てるの? 恥ずかしいよ。
不審に思いながらも診察中という言葉に、みのるはおとなしく身体をあずけることにした。
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ここは太田病院の診療室。近所でおなじみの内科医院で、みのるも太田先生には子供の頃からお世話になっている。現在は、一年前に医学部を卒業した息子のまさとしも加わり、太田先生と交替で診察を行っていた。 まさとしは、一人っ子のみのるにとってお兄ちゃん的な存在だ。容姿端麗、頭脳明晰。現役で医大に合格し父親の跡を継ぐその姿は、どんなスーパーヒーローよりも頼もしく見える。
そんなまさとしに少しでも近づきたいみのるは、最近悩みがあった。
「ぼくも、まさとしさんみたく男らしくなりたいんだ。どうしたらもっと背が伸びるのかな。身体も薄っぺらだし」
病気で診察に来ている人と比べたら、なんてくだらないと言われそうだが、自分にとっては大きな悩みだ。みのるは、診療時間が終わったあと、まさとしに個別に相談をもちかけた。
「みのる君は今のままで十分だと思うけど、そんなに成長したいの?」
「うん! まさとしさんみたく大人の男になりたいんだ」
「うーん。大人か……そうか……うん」
まさとしは眉間に皺をよせて少し思案したあと、じゃあ診察するから脱いでと言ってきた。
素直なみのるは、嬉々としてシャツのボタンをはずして胸を張った。
「なんだかひょろっとしてて女の子みたいでしょ? もっと、こう、筋肉がむきむきした……」
まだ話している途中なのに、まさとしはゆっくりと手を伸ばしみのるの胸に触れてきた。
聴診器の冷たい感触が胸の先端にじわりと押しつけられる。
「みのる君は、学校を卒業したらどうするの?」
「う~ん……まさとしさんみたいに医療系の仕事に就きたいなぁ」
将来のことはあまり決めていなかった。
漠然と、まさとしみたいにかっこいい大人になりたいと思っているだけだ。
「医療っていってもいろいろあるよね」
何度も先端を弄られていると、突然、甘い痺れが身体のなかを駆けめぐった。
「や……まさとしさんっ……」
おもわず、まさとしの腕をつかんでしまう。
「どうしたんだい?」
みのるはハッとして、頬を赤く染めた。
「ううん、なんでもない……」
診察されているだけなのに、淫らな感覚が波のように押し寄せてくる。
下腹部までが熱くなり、とっさに前を両手で隠した。
「いいんだよ、恥ずかしがらなくて」
まさとしはくすくすと笑いながら、みのるの手をやんわりと除ける。
「前を開けてもらっていいかな?」
「だ、だめ……。今はだめ……」
身体が反応しているのを知られたら、いやらしい子だと思われ、嫌われてしまう。
「どうして?」
みのるは反論できず、自分で相談してしまった手前、言われるままにしぶしぶズボンを下着ごと膝まで下ろしていった。
椅子に座ったままのまさとしに、露わな部分を下から熱い視線で見つめられ、みのるはますます、感じてしまう。
ふだん意識はしていなかったが、彼の白衣の下からちらりと見える胸板を見て、胸が高鳴った。
あきらかに自分とは違う大人の男の色気と身体をまさとしは十分に持ち合わせていた。
みのるが今まで何も気づかなかっただけなのだ。
ふいに、下腹部が優しい手のひらに包まれた。
それは、あくまでも医療的な行為にすぎないのだろうけど、まさとしが身体に触れているというだけで、いきそうになってしまう。
中心がいつまでも満たされない欲望に震えているのを、拳を握りしめてじっと耐える。
敏感な部分に触れるたびに、身体がびくんと痙攣し、前に倒れそうになった。
まさとしが慌てて、椅子から立ち上がり身体を支えてくれる。
「なんか、身体が変になっちゃったよ……お願いっ! なんとかして!」
みのるは、まさとしにしがみついた。
身体が自分ではどうにもできないほど、燃えくすぶっているのだ。
「困った子だな……でも、これ以上は保険の適用外だよ」
まさとしは、冗談っぽく笑い、聴診器をはずした。
そのまま抱きかかえられ、診察台に寝かされる。
「目を閉じて、みのる君が一番好きな人のことを思い浮かべてごらん」
「一番好きな人?」
目を閉じると、胸の鼓動が早鐘を打った。
いきなり、頭の中にまさとしの顔がよぎったからだった。
「誰の顔が浮かんだ?」
「まさとしさんの顔……だった」
「よかった……」
まさとしは微笑みながら、キスをしてくれた。
その唇の余韻にうっとりと酔いしれていると、ひんやりとした指が脚の付け根から身体の奥に入ってくる。
中を少しだけ探られては、すぐに抜かれてしまう。
あまりにももどかしい行為だった。
やめないで、もっとしてほしかった。
「きもち……い……い……そこ……」
もう、耐えられない……いっそ自分で。
そう思って、手のひらで中心を押さえたとき、まさとしの手が上から重ねられた。
そのまま、みのるのものを上下に扱きはじめると、あっという間にいってしまった。
まさとしは扱きながらも中心をほぐすように指を抜き差ししている。
気が狂いそうになる。もっと欲しい……。
「もっと……して、まさとしさん……」
恥ずかしいくらい貪欲に求めてしまう。
「そろそろ認定証を渡さなくっちゃな」
何のことかと頭を悩ませていると、まさとしは前をくつろげた。
みのるの両足は左右に拡げられ高く持ちあげられる。
一瞬目の前に火花が散った。
「あっ! まさとしさん……っ!」
中心を貫かれた痛みは尋常ではなかったが、そこから先はみのるが求めていたものだった。
緩やかに圧迫され、快楽と痛みを伴うものが奥まで入りこんでくる。
時間をかけてゆっくりと、まるで海の底にいるように静かに密やかにその行為は行われた。
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「はい、大人認定証」
まさとしは、クローゼットの奥から、ビニールに包まれた新品の白衣をみのるに差し出した。
「これって……?」
「みのる君との想いが叶ったら渡そうと思って買っておいたものだよ。いつか、ここで僕の助手として働いてくれるね?」
「ここで働いてもいいの?」
「いいも、なにも……僕はずっとそうなったらいいなって、子供の頃から思っていたんだけどな」
嬉しくて、泣きそうになった。
「まさとしさんは美人看護師さんを雇いたいんだって思っていたから、そんなこと言い出せなかった。それに、男を雇うんだったら、患者さんを運んであげたり、力仕事ができる奴じゃなきゃなって太田先生が言ってたもの。こんなもやしみたいな身体じゃ、雇ってくれないと思ってたよ」
小さな診療所なだけに、今までは家族総出でやっていけたものの、まさとしも医師として加わるようになって、まさとし目当ての若い女性患者も含め、患者数が増加していた。そろそろ人を雇わなくてはという状況になりつつある。
「なんだ、そんなこと気にしてたの? 僕が綺麗で可愛いと思っているのは、みのる君一人だよ。それに、僕はみのる君のマッチョな姿なんて想像できないよ。みのる君はみのる君だ。そのうちだんだん身体も大人になっていくし、心配することなんてないんだよ」
「ありがとう! まさとしさん」
どさくさにまぎれて、まさとしに抱きつき、自分からキスをした。
こんなキスは子供っぽいって笑われるだろうか?
どぎまぎして顔をすぐに離すと、意外にも少し驚いているようだった。
「どういたしまして」
すぐにいつもの落ち着き払ったまさとしに戻る。
「みのる君のキスは可愛いと思うし、僕は好きだけど、本当はこういうのが欲しいんだろう?」
優しく抱きしめられ、ゆっくりと唇が重ねられる。
まさとしが愛おしむように、熱く濡れた舌を口内で絡ませると、それに応えるように、未熟な舌も懸命にそれを追いかける。
みのるは喘ぎながら、両腕をまさとしの首にまわし、おもいきり抱きしめる。
少しだけ、まさとしに近づけた気がする。
学校を卒業したら、看護師の資格を取ろう。
一歩一歩だけど、確実に……、そして、いつかきっと。
みのるは、その日まで白衣を大切に取っておくことにした。
まさとしの隣でそれを着た未来の自分を想像しながら……。
おわり