chill chill ちるちる
 
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【第9回】

「ラブシーンに挑戦」
<前回までのあらすじ>
ひょんなことから、「BL荘」に迷い込んでしまったBL小説家志望のナルヨちゃん。
そこで、黒いマントをかぶったナゾの管理人と出会う。
BLの真髄が詰まっている6つの部屋にある鍵をすべて集めれば、今をトキメクBL小説家になるのも夢ではないと、管理人から聞いたナルヨは大奮闘!
ちゃくちゃくと鍵を集め、BL小説家としての技術を身につけていくのであった。



「この部屋では、BL小説になくてはならないラブシーンについて細かく学んでいくぞ」
「待ってました!」
「まず、ラブシーンには何が必要だと思うかな?」
「う~ん、いつも夢中で読んでいるから、ラブシーンに必要なことなんてちゃんと考えたことがないけど……」
「ラブシーンには、BL小説特有のさまざまな要素が含まれている。BL小説には必須となるラブシーン。とても重要な場面を自分らしく表現できるように、いくつかの点に注目してマスターしていこう」


ラブシーンには、恋人が相手になる場合と、恋人以外が相手になる場合がある。ここでは恋人になる相手との濡れ場を「ラブシーン」、それ以外の濡れ場を「エッチシーン」として説明していくとこにする。

■ラブシーン・エッチシーンを入れる箇所
→必ずここに必要というようなルールはない。作品の内容や流れに合った箇所に入れよう。

「私が考えている作品だと、クライマックスで2人が結ばれる流れだから、そこで入れたいです!」
「うむ。ラストに入るのが一番自然な流れだろう。しかし作品によっては、冒頭ですぐにラブシーンやエッチシーンを入れる場合もある。つまり、『起』や『承』の部分だ。この場合、その後、相手の裏切りや本人の戸惑いなど、気持ちの反転が起こったりして、最初の肉体関係を引きずりつつ物語が展開していくことになる」
「必ずしも『結』に入れなくてもいいんだ。最後に入る物語を考えた私って、平凡かも……」
「そんなことはない。奇をてらおうとして無理やり冒頭に持っていっても、ストーリーが不自然になってしまう場合もある。自分の書きたい作品に一番合う箇所に、効果的に入れることが大切なのだ」


■ラブシーン・エッチシーンの回数
→BL作品であれば、最低1回はほしい。また、回数制限はなく、何回入れてもかまわない。逆に、作品によってはそういったシーンがないこともある。

「『入れる箇所』と合わせて、作品内にどれだけラブシーンやエッチシーンを入れるかを考えておこう」
「わたしの考えている作品だと、当初はクライマックスだけだったから……1回ってことになるけど」
「それでもよい。極端に言えば、1度もなくてもかまわないのだ。物語に必要でないなら、無理に入れることはない。また、クライマックスの1回だけだとしても、それまでの物語の盛り上がりをじゅうぶんに表現することも可能なのだ」
「そうか。じゃあ、あえてラブシーンやエッチシーンを入れないで書くのも新しいかな?」
「ただ、BL読者は少なからずそういったシーンを期待して読んでいるはず。特に新人賞ではラブシーンやエッチシーンがどのくらい描けるかも審査基準の対象になるので、最低1回は入れたほうが好ましい」
「なるほど。じゃあ、ラストのラブシーンだけだとさみしいから、キスシーンとかを中盤に入れたりしようかな」
「そうだな、そういった『ラブシーン・エッチシーンの程度』など細かいことまですべて、あらかじめプロットに書いておくといいだろう」


■エッチシーンに必要な描写
→体と心の変化を描写する。以下の3つが合わさり表現されている。

・体の描写……体の特徴・変化・触れている場所・体位など
・心の描写……体の変化に合わせた気持ちの動き
・セリフ………愛の言葉や言葉攻めなど

「ラブシーンを具体的に書くときには、作品全体と同じように受視点で表現することが多い」
「受がどう感じるかを書くってことよね? 攻にああされて、こうされて……」
「肉体的にどうされていくかを描くのは必須だが、同時にキャラクターたちがどんな気持ちになっていくか、どんな想いを抱えているかも、ラブシーンで表すことによってより強調されるはずだ」
「気持ちの表現って、攻への想いが高まっていくってこと?」
「それもあるが、これまでの物語の流れを生かした心の動きが、ラブシーンの体の高まりと共に描ければベストだな」
「かなり高度な文章技術が必要な気がします……」
「さっきまでの萌えへの勢いはどうした? キャラクターの気持ちになり、順を追って2人のラブシーンを丁寧に描いていけばよい。揺れ動くキャラクターの心情を、ラブシーンを通して描く重要な部分だ。慎重に構成し、勢いのある文章を心がけよう」

<体を表現する言葉>
「ラブシーンで使用される表現には、独特のものがある」
「たとえば?」
「愛撫、嬲る、下肢、啼く、弄る、捩る、嬌声、煽る、扱く、舐る、咥える、窄まる、抉る……きりがないぞ」
「『淫猥な筆下ろしで翻弄されて』とか?」
「……使い方が間違ってるぞ。よく理解していない言葉を安易に使うと、意味を間違えたりして稚拙な作品にしてしまう。言葉の誤用や誤字は、読者が作品世界に醒めてしまっても仕方ないほどのミスだ」
「だって、意味がわからないけど使ってみたい言葉がたくさんあるから……」
「それは絶対にやってはいけない。まだ身についていない言葉を無理して使うより、知っている言葉を上手に使うほうが、素直で気持ちの伝わる文章になるはずだ。これはラブシーンに限ったことではないぞ」
「でも、それだと同じ言葉を何度も使ってしまいそう」
「そういうときこそ、新たな言葉を自分のものにするチャンスと考えて、辞書などを見ながらひとつひとつ覚えていくのだ。体のパーツの名称や、そこに関わる表現を勉強することも重要だ」
「間違えて使わないように、ちゃんと意味を理解して覚えるのが大事なのね……がんばります!」



ナルヨ、新しい体位を考える 画:赤根 晴





「はぁ~。なんだか今までで一番疲れた……」
「BL作品の最重要ポイントでつまずいてどうする?」
「いろんなことがやりたくなって混乱してきちゃった。ラブシーンを何回入れようかなー、あそこで告白してー……ぶつぶつ」
「やりたいことを考えすぎて疲れたわけか……まあいい、今回もマスターできたということだな」
「今回のレクチャーを盛り込んで、プロットも完璧です!!」
「では、これまでのすべてを生かし、いよいよ作品を書くのだ」
「よし、じゃあ最後の鍵をください! すぐに書いて新人賞作家デビューよ!」
管理人はため息をつきながら、5つめの鍵をナルヨに渡した。
「やれやれ、その前に、新人賞へ応募するための最低限のマナーはちゃんと理解できているのだろうな?」
「マ、マナー?」
「それを知らない者に、応募する資格はない。次の扉の『いよいよ完成! それから』が、本当の最後だ。そこで必要なことをレクチャーしよう」
ナルヨはデビューへの期待を込めて5つの鍵を見つめた。


次回は、いよいよ作品の応募についてです。
作品が書きあがっただけですぐに応募では、新人賞をゲットできない!?
より、審査員に好まれる応募方法をこっそり教えちゃいますよ!

あなたもナルヨちゃんといっしょにBL小説家目指して、B-PRINCE文庫新人大賞にレッツチャレンジ!

次回更新予定日:8月13日

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