地味な表紙と、編集部と営業部という地味な仕事をする男達が登場し、仕事をこなしていく地味な話ですが名作です。
サラリーマンの男たちが主人公です。営業で1日歩き回り、帰宅する途中にコンビニによって、売れ残りのおにぎりを買って帰るいたって普通のサラリーマン、花島光也。
30過ぎの花島が、出版の経験もないのに経験有りといつわって潜り込んだ出版社。そこには、よれよれの上着に、はきつぶした靴、営業でつかれている様子の営業部の的場がいました。
厳しい指摘を飛ばし第一印象は最悪だったうえ、彼の格好はよれよれで、好きになれないと思ったのに。
彼はできる男なのです。同僚にも、営業先にも信頼され成果をあげられる大人のできる男なのです。
醜いアヒルの子が、実は白鳥だったように、くたびれたオヤジが話がすすむにつれ、砂漠のプリンスや大富豪の御曹司よりも、ずっと魅力的な人物に見えてくるんだから不思議です!
榎田マジックといえる、彼のできる男っぷり。的場から目が離せなくて、ついつい好きになってしまう花島に同調していつしか、読者も的場のことが気になる存在となります。
口はだすけど手は出さず、できるかどうかひそかに見守ってくれて、うまくいけば心から喜んでくれるすばらしい上司。
部下をのばそうと忙しい中でも、目をくばてくれて・・。日頃理不尽な思いを抱いている勤労腐女子のみなさんにこそ、的場が魅力的にうつり、花島だけでなくもうめろめろになります。
そして、慣れない仕事を一生懸命に覚えようと仕事熱心で、友達思い、綺麗な顔立ちだけど、愛嬌もある花島のことを、的場も気になりながら、自分のなかの「普通」という枠からどうしてもはずれることができず、花島が慕ってくれる思いに答えることができません。
「普通」ということばが、決断から逃げるための口実であるとゲイの友人に指摘されます。そして、男同士の絡みを目の当たりにして自分の中のこだわりをやっと取り払うことができました。
普通という枠組みをもうけて自分が何にこだわっているのか、欲望に忠実になろうと決心した的場も前には、「普通」という枠組みは、いかにもばかばかしくうつり、はじめて花島のことを心から愛おしいと思うことができます。
普通にこだわった男が、やっと一歩を踏み出した物語。くすんだサラリーマンの男達が、後半妙に色っぽくて初々しくみえてくるから不思議です。