私はファンタジーが苦手だ。
苦手といっても読んだ冊数はそこそこ多い。
質はともかく数だけは読んでいる。
私も10代のころはファンタジー大好き人間だったからだ。
ただ私は、剣と魔法の世界で竜にまたがりカッコイイ衣装に身を包んで活躍するイケメンたちの奇想天外なドラマよりも、今日の夕飯をスーパーの安売り惣菜のなかから選ぶくたびれきったリーマンオヤジたちのドラマのほうが心ときめく性癖へと変貌を遂げてしまった。
なんて不健全な性癖へと変化してしまったのだのだろう。
この変化は、悲しいかな老化現象のひとつだと思っている。
嗚呼、私も老いさらばえたもんだ…。
老いを嘆くのはこのへんにして、せっかくなので、無駄に読みたくわえたファンタジー作品を、腐女子目線で見直してみたいと思う。
読んだ当時は腐ってなかったので、はじめての試みなんだけど、そういう視点で改めて古今東西の古典的に有名なファンタジー作品を見直してみると……、海外のファンタジー作品には腐女子心を刺激されるものが少ない。
『指輪物語』『ナルニア国物語』『はてしない物語』……ダメだ、どれもこれも腐臭が足りない。女やらヘンテコな生き物やらがでしゃばりすぎている。
『ガリバー旅行記』『オズの魔法使い』……うーん、なんかチガウ。
じゃあ『千夜一夜物語』は……ダメだダメだ、まったくなってない。アラジンと魔神で、攻めや受けを妄想できるかっちゅーねん。
ひるがえって我らが母国日本の作品を見直してみると……、恐ろしいことに、腐女子心を刺激してくれる作品がたくさんある。
『古事記』、『源氏物語』に『とりかへばや物語』、『平家物語』、『南総里見八犬伝』に『東海道中膝栗毛』……うおー、男×男を妄想するための素材が、ゴロゴロ転がっているではないか。
なんという宝の山。
そんなアホなことをつらつら考えてると、ちるちるの掲示板のなかで、「なぜ日本でBLが発展したのか」を話し合うスレが立っていたのをふと思い出した。
そのスレでも色々書いたけど、私はやはり「日本」の土地柄が、BLというジャンルをすくすくと育てたんだろうと思う。しかも、『古事記』にまでさかのぼる遥か古代から、だ。(ヤマトタケルは総受けで決定、頼朝×義経は背徳の関係の悲劇オチで決定)
ヤマトタケルにしろ光源氏にしろ義経にしろ、日本のヒーローって線が細いのが多いんだよね。それもBLの発展に微妙に関係してるかもしれない。
信長だってリアルにバイだし。
『FF7』のクラウドが、海外の人に「ホモっぽい」と評されてるのをしょっちゅう見かけるもんで、ヒーロー像に対する日本と海外の感覚の違いについて、思わず考えてしまったほどだ。(クラウドがホモなら受けかしら。なら、攻めはセフィロスで…マイナス思考受けをいたぶる鬼畜攻め…なかなかいいかも)
そんな日本の古きよき作品を思い返すなかで、私が一番「コレダ!」と思ったのが、『南総里見八犬伝』だった。
みなさま、この古きよきジャパニーズファンタジーのストーリーはご存じでしょうか。
一言でこの物語を表現するなら、「少年ジャンプ的なストーリー」だ。
長大なこの作品はまず、伏姫という姫と八房という犬の、悲劇的な恋物語からはじまる。日本の民話によくある異種婚姻譚だが、結局この恋は、伏姫の死によって悲しい最期を迎える。そのとき、伏姫の持っていた数珠が、四方八方に飛び散る。
その珠は全国に散らばって、のちに「八犬士」と呼ばれる男たちが集結するための手掛かりとなる。
この八犬士集結にいたるまでの長い長ーい道のりが、かなり萌えるのだ。
なにせ、男が男を求めて、苦難の旅をするのだ。もうその設定だけで、手練れの腐女子じゃなくても簡単に胸のカラータイマーが作動しちゃう。
最初は自覚のなかった八犬士が、少しずつ自分の運命に目覚め、お互いをお互いの仲間だと認めあうようになると、さらに萌えタイマーが激しく作動、ピコーンピコーンとうるさいほど鳴り響き、M78星雲にマッハの速度で帰りたくなっちゃうこと間違いなし。その際は、ウルトラの星でティガ×タロウの行く末を見届けてから地球に帰還してください。(え、タロウ×ティガがいい? ダメダメ、タロウは総受けで決まりなの)
昔は腐ってる自覚のなかった私も、『南総~』の中盤あたりでは、完全にニオイ系の萌えを感じながら読んでいた。自覚はなかったが、腐れの才能は心の奥深くにひっそりと息づいていたのだ。
「義兄弟の契りを交わす男×男」「カラダに刻まれた同じアザを確認しあう、裸の男×男」「戦いのなかで友情が芽生え、命をかけてかばいあう男×男」「出会い、離ればなれになり、また出会い、苦境のなかで巡り会えた喜びにうち震える男×男」
『南総里見八犬伝』は、男×男の宝石箱やー♪♪
八犬士のなかで主役級の位置を与えられている犬塚信乃なんて、その名前にしても生い立ちにしても、もはや「受けとしての宿命」を背負っているとしか思えない。
なにせ犬塚信乃は、「母親の趣味で女名をつけられた上、ずっと女装して育てられた」という経歴を持つ美男子なのだ。
いまさらながら腐女子魂がメラメラと萌える。
しかも信乃には、ずっと彼の世話をしていた幼馴染みの男が存在する。彼も、八犬士の一人。幼馴染みなんて、BLじゃカップルになると相場が決まってるじゃないか。
幼馴染みの名前は犬塚荘助。
荘助と信乃は、固い固い信頼関係で結びついている。荘助は、信乃の世話役にして番犬のような存在なのだが、彼は信乃の家の使用人なので、いわゆる「身分違い」で……嗚呼、主従萌え。
二人はのちに義兄弟の契りを結ぶことになるんだけど、もうそのまま、ほかのことまで契っちゃってイイヨー。
荘助はとても面倒見のいい苦労人なので、いわゆる「執事系の攻め」にぴったりだ。
『南総~』は、BLにおいては邪魔でしかない女がほとんどでしゃばってこない物語だし。
物語の最後の最後でとってつけたようにバタバタと結婚するまで、八犬士はひたすら戦い、仲間との友情を育んでくれてるし。
か、完璧ではないか!
高校時代に原典で読んで以来、まったく振り返ることのなかったこの物語だけど、改めて読み返したくなってきてしまった。
そこで提案があります。
どなたか、『南総里見八犬伝』を題材に、長大なBL大河小説を創作してくださいませんでしょうか。
八犬士は偶数だし、ちょうどいいかと。
しょーもない女と結婚する結末なんてサクッと変えちゃって、是非とも八犬士総ホモ化のストーリーでよろしくお願いします。
カップル作成は読んだ方の裁量にお任せしますが、荘助×信乃カップルだけは譲れません。
ああ私は、日本の古きよき名作が、一つまた一つと、腐の毒牙にかかっていくのを、焦がれてやまない…!想像するだけでゾクゾク暗い歓喜がわいてくる。
かつて清らかな文学少女だった私ごと、完膚なきまでに汚してやってください。