オヤジと聞いて、コラムを投稿したくてたまらなくなった、ようです。ちるちるのマイページで、自分のレビューした萌え属性を見てみると、それほどオヤジ率が高いわけでははない……。だけど、実はとってもオヤジスキーです。オヤジが出てくる作品で、かつ好きな作品って、もうどうしようもなく好き過ぎちゃって、好物は後で食べる派の私は、レビューをためらっていました。なので、思い切ってコラムへ(笑)
そんな私のとっておきオヤジBLで、筆頭に挙げたいのが、今回ご紹介する水壬楓子「ストレイ・リング」。これ、名作だと思います! でも、ちるちるではまだ誰もレビューをしていない。もしかして、皆さん好き過ぎちゃってのためらい? それとも本当に隠れてしまっているのか?? この物語は、プロットだけなら特筆すべき点はありません。痛くもないし、ドロドロもないし、強烈なプレイもないです。なので、一度読んだだけだとあまり印象に残らないかもしれません。でも、心にじわぁ~っと来るとても良い作品なのです。
さて、主人公カップルは、妻子あるやり手の上司 右城操(43)×あまり出世欲のない部下 でゲイ 藤近徹(30)。上司の右城から部下の藤近を誘い二人の関係は始まります。右城は妻子ある身なので不倫。しかし、元々ゲイでもあった藤近はいつしか愛人を超えた想いを抱くようになります。
この流れ、まぁ、切ないと言えば切ない。元々ゲイの男が、ゲイでない年上の男を想う点では、有名な「窮鼠~」&「俎上の~」にも近いし、不倫関係というのはもし男女なら、それこそドロ沼。とっても痛い話にすることもできそうです。でも、この物語はそうはなりません。もちろん、多少スリリングだったり、胸がキューッとする切ないシーンもあるのですが、トーンはいつも落ち着いていて柔らか。恋愛の悲劇的な面より甘美な部分に照準が合っています。
それはひとえに、攻め・右城のなせる業! だと思います。彼が持つ、大人の男の包容力、冷静さ、フェロモン、セックス、などなど。これらは相まってなんとも絶妙なハーモニーを奏でます。私は夢見心地になりました。『あ~こんなオジサマ相手なら誰だってホダされる。不倫だってするさ……』と。
ところで、ここ最近、BLのオヤジというと、オヤジ“受け”に、中でも“ヘタレ”に、需要も供給も傾きがちかと思うのですが、この物語はオヤジが攻め。しかし、あくまでも普通の攻めです。というのも、オヤジが攻めとなると、今度はド鬼畜やド変態が多くなってしまうような気がしますが、そっちにも行かないのが、この物語の良さの一つです。ヘタレ受けでもなく、鬼畜攻めでもない(でもセックスは当たり前のように巧い)オヤジ。実はこれが一番オーソドックスな形で乙女の夢かもと思います。
大手商社の管理職である彼は、金も権力もあるイイ男です。元々ノンケなのですが、受けの藤近の猫っぽい可愛さにやられたのか、もしくは失うものがあり過ぎるだけに女性だと面倒になると恐れたのか、会社の“若い子”藤近に手を出します。だけどこの行動にも納得。なんでも手に入れてきて、これからも手に入れられるだろう右城も、藤近だからこそ恋愛回路が発動したんだろうなぁと思わされます。
受け・藤近の、どこか浮世離れしていてガツガツしていないところとか、押し付けがましさを一切感じさせない優しさだったりとか、そんなところに右城はメロメロになっていったと思います。そう、藤近の魅力は右城に比べて表現しずらいけれど、彼が彼女だったらこの魅力はなかっただろうというのは確か。弱さも強さも女性のそれとは一味も二味も違います。藤近はちゃんとした男性なんだけど、男性だからこそ、きっと右城も、強がったり我慢したりする様にたまらない気持ちだっただろな……。
この物語は、新種(?)のオヤジたちの台頭により最近忘れかけていた、本来あるべき王道の男性の魅力というのを味あわせてくれました。魅力的なオヤジを多く書かれている水壬先生の作品の中でも私は一番好きです。ちなみに、この「ストレイ・リング」は「晴れ男の憂鬱 雨男の悦楽」という作品の番外編ですので、興味を持たれましたら是非、両方読んでみてください。オヤジ好きにはたまりませんよ!!