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あともう少し何かがほしい

絵の感じと、ちるちるでのインタビューも気になったので購入。
本のデザインがとても丁寧にされています。

ストーリーを簡単に説明すると、
沖縄あたりの離島の下宿で暮らす主人公は、結婚破棄をしたのをきっかけにゲイであることが家族にばれて家族ともめた過去があります。
その主人公がある時海辺にいる美少年をナンパ(まがいのこと)をして、その少年と知り合いになります。
やがてその少年とは引越しのために離ればなれになるのですが、
数年後に少年と再会すると主人公は少年にいきなり告白されます。
多分好きだけど付き合えないみたいな状態が続いている中に、
主人公の元婚約者(もちろん女の子)が現れてすったもんだし、
なんだかんだで2人はうまくまとまって、
最後には主人公が決裂した自分の家族に会うために、少年と2人で島を出るところまでの話になっています。
物語に大きな山場があるわけではないのですが、
日常の中で育まれていく恋愛を丁寧に描いた作品になっています。

この話の軸は、社会から疎外された孤独な人々の逃げ場所=ユートピアとして、
この本の舞台である島が設定されていることです。
主人公も家族から断絶されていますし(そしてゲイ)、少年は親を亡くして天涯孤独の身です。
この一般的な社会や家族のコミュニティーから疎外された人々を迎え入れる場として、島が存在しています。
島はユートピアであるが故に、現実の時間から隔絶された時の流れがあります。
現実世界の義務だとかあれやこれやが免除されている状態です。
例えばどんな感じかと言うと、旅行に行った時とかに、普段と違う時間が流れているような感覚を覚えたことがあるかと思いますが、
あんな感じです。
しかしこのユートピアの中では時間は停止したままなのです。
これ以上新しいこと=未来が到来しないということです。
従って、前に進もうと思ったら島を出るということになります。
だから最後に主人公と少年は島を離れるのであり、島を離れてまた現実の時間を生きていくというのが物語の構成としてあったのではないかと、ここから考察できます。(主人公の他にも、レズビアンカップルが島を出る描写もあるのですが、ここにも同じことが言えると思います)
このように、理由付けをされながら極めて
彼らがBLである理由として、ユートピア的時間の創造と、社会的な時間からの疎外という面を含んでいるところも、
物語の構成に大きく関わっており、非常にうまくできています。

さらにこの作品の特徴としては、とにかく絵が綺麗で丁寧です。
島の自然(海・山・建物など)に一切手が抜かれていません。
顔にできる影を仔細に描くやり方は、南国の陽の強さを表すことに加えて、まるで映画のように見せる効果を生み出しています。
背景をコマの途中で引きの角度でうまく入れたりしているので、情感を引き出す効果を存分に発揮しています。
何より南の島=自然=ユートピア的空間の啓示による世界観の構成が重要なところだと思いますから、
ここの描写に手を抜いていないところは極めて重要です。

しかし、ここまで構成が出来ているにもかかわらず、絶賛はし難いのが現実です。
一つは、物語としての盛り上がりがいまひとつであること。
例えば、なぜ彼らがお互いを好きになったのか?というところが明確でない。
もちろん、明確なきっかけなどをわかりやすく設ける必要はないのですが、そのためにはどうするか。
絵で見せればいいんです。
ただ、そこが絵で見せきれていない。
例えばコマ割のテンポが単調なのも、物語の見せ場を失っている原因の一つです。(ほとんど同じコマ構成で話が進む、大きなコマとかが出てこない)
その結果、全てが単調で同質に見えてしまうので、
肝心なところがするっと流されてしまうような感じがします。
読んでいるとあれ?いつの間にこんなことになったんだっけ?と思うことがしばしばありました。
その結果物語の構成があれだけできているにも関わらず読了してから残っているものが少ないので、
もっとこの話には何かあったんじゃないかなあ…と
非常に勿体無い気持ちになります。
作者にあれだけの画力があるのですから、もっとなんとかならなかったのか、とお節介にも思ってしまいます。

もう一つは、出てくる女の子の扱い方が不憫だったこと。
この女の子主役カップルをくっつけるために駆り出されただけじゃん!!と思いました。
例えば元婚約者の女の子は、ゲイの主人公のことを好きだったのに結婚ドタキャンされて主人公から何のフォローももらえてないという可哀想なくらいの子です。
このように物語内での扱いも可哀想なのですが、
非常に雑に女の子が使われているのが何よりも不憫です。
元婚約者や先述したレズビアンのカップルも含めて、
女の子は基本的に主役カップルを成立させるためにいる程度のものなので、
これってどうなんだろうな…と思ってしまいました。
その結果元婚約者のキャラクターが「背中を押してくれるけど主人公が好きであるが故に意味のわからないヒステリーを起こすよくわかんない子」になってしまったのが残念でした。
私はみんな幸せでいいじゃん!というハッピー至上主義なおめでたい頭なので、
それが受け入れ難かったですね。

しかし、完成度が高いことに変わりはありませんし、
構成の軸がしっかりできているところを考えると評価したいという気持ちがあります。
今後の作品が気になるところです。

あっさりさらっとCD

原作未読
時代物で切ない感じの話かなと期待して購入しました。

野島さんは終始ツンとした声質で、催眠術がかかるとやや高めになり可愛らしく、幼くなる感じ。ツンツン声:かわいい声=8:2くらいの登場具合なのですが、ツンツンした声質は真面目な感じが強すぎて萌えとはあまり言い難いような…
殆どのモノローグを担当していた興津さんは、三木さんが話す時のような間を取る言い回しが多く、聞き始めてすぐの段階では、催眠術をかけるからわざわざゆっくり間を取って喋っているのかと思ったのですが、終始その言い回しなのでそれが耳に引っかかる感じでした。
一条さんはかなりエロくて妖しい声を出されていて、さすがだと思いました。

全体的に演技は問題ないですし、演出やSEにも気になるところはないのですが…
話が全く印象に残らず、すぐ過ぎ去ってしまう感じです。
例えばトラック1とトラック2は同じ日の話なのにあまり同じ日の話に思えないような繋がり方をしていてあまり実感が持てないのは何故なんだろうと思いますし、トラック内でも時間の経過や場面の転換がぶつ切りで急に時間が飛ばされてしまう感じです。
感情の揺れ動きが表現される間も足りない感じがして、2人の関係は急速に展開している割に、周がツンツンしすぎるせいで現実には仲は進展しない、でも龍彦の切なさが伝わってくる時間の余裕がないので、誰にも共感しにくくストーリーにも乗り切れないという消化不良な感じがずっと続いてしまいます。
盛り上がりになる部分であろうエロも全て短くほとんどがフェードアウト。
戦争によって離れ離れになるところも急すぎてしまい、切なさの余韻がない。
ラストもあっけなく着地してしまって終わり。
このCDの見せ場みたいなものがはっきりせず、CD全体が淡々としてしまう出来になってしまった感があります。

それから物語自体にも疑問が出てきてしまうところも多くありました。
時代物の話ですが、時代物の要素を詰め込んだという感じで…(身分、暮らし、戦争など)時代物ならとことんその時代を追及してもらうか(例えば『憂鬱な朝』のような)、ストーリーの勢いで時代を突き通す感じか(例えば和泉桂さんの清澗寺家シリーズのような)だろうなと思うのですが、どれにもなりきれていないように思います。
それからストーリー展開もはっきりしていないところも気になりました。催眠術をかけることが2人が関係を持つきっかけになるのですが、最後まで聞いていくうちに、催眠術って必要だったのかな?と思えてしまいましたし、シリアスな話なのかと言えばそうでもなく、ハッピーエンドにしてはすっきりせず…
ありきたりなBL要素を詰め込みましたという話でした。
シリアスで深みがある話を求める方、時代物を求める方には物足りないのではないように思います。

シリアスで切ない話を求めて購入したので、私には少し合わなかった作品でした。
エロも全くどぎつくないので、BL初心者の方が手軽に聞くのにいいかもしれません。

巻末フリートークと特典フリートークCDは、野島さん興津さんお2人とも楽しく話されていて、楽しく聞けるCDでした。お2人のやりとりが軽快でおもしろいです。自転車話と下ネタはほとんどありませんよ。

良作を探している方は聞くべき

アニメイト先着予約特典付きのものを買いました。1か月前ぐらいに予約しようとしたらまだ予約表がありませんでした。アニメイトで予約表が出てくるのっていつからなのでしょうかね?

『それでもやさしい恋をする』の原作がそのまま丸々収録。『どうしても触れたくない』にも入っていた部分は録り直して収録してあります。

出口役の野島さんは軽いお兄さん声。シリアスなシーンや恋してる時の心情が語られる時に声のトーンをがらりと変えられて、その度にストーリーにぐっと引き寄せられます。外で見せている表情と内面の感情とがくるくると変わる様子がしっかりと演じられています。普段の話しぶりも、誘う時の声も、泣きそうな時も、怒っている時も、とにかく出口がかわいいです。小野田が出口をかわいいと言うのにも納得。野島さんどうかなと思ったんですが心配無用でした。
小野田役の森川さんの声がどうしても野島さんの年上に聞こえてしまう感じの声なので、小野田が出口よりも年下で驚くというシーンが?となってしまうところがありますが、演技やストーリーの調子などを掴んでいらっしゃるところはさすがだと思いましたので、全体的に不満なところはないです。
嶋役の野島健児さんと外川役の石川さんの出番の量は原作そのままですので、石川さんは本当にセリフが少なくて残念です。野島健児さんの嶋はとてもかわいい。『どうしても触れたくない』に出演されていた方は脇の方も含めてそのまま引き継いで同じ役を演じられています。新しく出演されてる方もいらっしゃいますが、皆さん演技が安定されているので、演技に関して気になるところは特にありません。

台本は、原作の無言のシーンにセリフが追加してあります。例えば最初の方で、小野田が彼女と居る所を電車の中から出口が見かけるシーンがありますが、追加されたセリフと出口のモノローグのバランスが非常によく配置されていました。漫画では全く無言のシーンだったのでどうするんだろうと気になっていましたが、心配することはなかったです。その他の無言のシーンにもセリフが上手く追加されていて、どれも原作の雰囲気をしっかり伝えています。

録り直しの部分は前作では端折っていたところをしっかり入れ込んであります。小野田が出口の携帯灰皿に吸い殻がたくさん入っていることに気付くシーンが追加されていますが、ここで小野田が出口のことを気になっていくきっかけのシーンだと思っているので、追加されていてよかったです。演技も、前後の話を踏まえて演技してらっしゃるのがよくわかります。野島さんも森川さんも、前作で軽めに話して演技していたところを変えられたりしているので、前作よりもずっとすばらしくなっています。台本と演出と演技でここまで変わるものなのだなと驚かされました。

モブの話声やモノローグと会話との声のボリュームの差をつける具合、セリフとセリフの間の取られ方、どれも情感を残して演出されています。BGMやSEも、繊細なストーリーを壊さずに押さえたボリュームで聞きやすいです。さすがの演出でとても満足しています。

原作ファンはもちろん、キャスト目当ての人にも納得の出来です。全てにおいて納得の出来です。何か良作のCDを聞きたいと思っている方にもお薦めできるCDだと思います。ただ、エロ目当ての人は原作と忠実な量ですので…と一言付け加えておきます。

本編にフリートークはなく、先着予約特典のディスクにフリートークが入っています。フリートークは森川さんと野島さんの2人で12分ほどです。野島さんのいつもの(?)自転車トークはほとんどありません。和やかにテーマトークを話されている感じでした。フリートークのディスクにも小野田&出口の本編イラストが印刷されていて結構しっかりした出来だなと思いました。

愛する関係と恋する関係がもっと見たかった

通常のBL小説は文庫サイズだと思うのですが、この本はペーパーブックのような仕様で、400ページ近くあります。書店やアニメショップなどのBLコーナーで探すのに結構苦戦しました。

内容としては、友人が恋した男と友人と、友人の恋した男と愛し合う男の三角関係の話になっています。三角関係でありながらも、お決まりのようなドロドロ展開や罵り合いもなく、友人の恋と自分の恋の間での揺れ動きと、友人関係の変化が中心となっています。何も変わることなく、しかしこれからどう続いていくのかわからないような寄りかかり合った友人関係が、突然現れた非日常的な人物によって恋愛がもたらされたことで少しずつ新しい形になっていきます。静かな雰囲気の中で繰り広げられる心情描写が、これからこの3人はどうなっていくのだろうという期待を生んで、分厚いページがどんどん進んでしまいました。

BL小説の中ではかなり毛色の違った作品だと思いました。内容が、ということもありますが、それよりも文章の書き方が、という点です。
一般的な大衆小説のような書き方で、登場人物の服装、持ち物、部屋などの他にも、周囲の人々に至るまで非常に細かく書かれています。
描写の深さが感じられます。BLの登場人物達というのはどれだけ描写を丁寧にしてもあまりリアリティーがない感じ(フィクション性が高いという意味ですが)の人が多いのですが、この登場人物達はごく当たり前の現実に存在している人物のように感じられます。人物達の日常の些細な出来事や過去の話など、ストーリーの本筋にはあまり大きな影響がないのではと思われるような部分にもかなりページを割いた描写がされています。これが、人物達が存在しているリアルさを生み出していて、一般的なBL小説が主要人物とその恋愛の強調をするのに対して異なっているように感じさせるのだろうなと思いました。

ただその一方で、あまりにも描写や説明が長いと感じさせることがあり、言葉が通り過ぎてしまうことはあったと思います。この小説の中には、帯にも記載されていた言葉なのですが「一方恋をして一方を愛した」というように印象的で、いいフレーズの言葉があるのですが、本の中だとそれらが埋没してしまって魅力が生きてこないところが残念でした。話も内容というよりは展開が印象に残ってしまうような感じで、読み終わった後で「結局別々に暮らすことになったけど、どんな変化があって、どういうやりとりがあって、どういう風に書かれていたんだっけ?」と思い出せないことが屡々ありました。話の展開という、起こった出来事は思い出せるけれどもあれだけ書いてあった心情の部分が思い出せないというのは、非常にもったいない気がしました。

それから、この小説は恋愛以上に2人の友情関係が重要だったと思うのですが、この2人の友情関係は何かが違えばきっと恋愛関係になっていたのかもしれないような関係性を持っていたのではないかと思うのですが、外からやって来た恋愛の力に押されて、うやむやに友情に落ち着いてしまったという感じがしてしまいました。男同士の友情というのは分かり難いし描きにくいとは思うのですが、もっとそこの揺れ動きや変化を見たかったというのが本音です。そうであったので、この小説のラストが恋愛に終始して終わるところにあまり納得を見出せなかったのかもしれません。

長くいろいろと書いてしまいましたが、描写の力によって作品をしっかり成立させているところはボリュームに見合った納得の出来だと思いますので、ドラマチックすぎない日常の恋愛話をたくさんの活字で読みたい方には勧められるかなと思いました。
読んでから自分自身いろいろと考えることもできたのでよかったかなと思います。

伸ばされた手が幸せをつかむことを信じて

前作『イベリコ豚と恋と椿。』既読。
前作がギャグにまみれた作品とややシリアスめな作品の組み合わせでしたが、今回は前作でシリアスな部分を担当していたカップリングがメインになっています。
前作のメインカップリングは完全に脇役・ギャグ要員しての登場となり、エピソードは一切収録してありません。合間合間のコマに登場するのでラブラブ楽しそうな姿を見ることはできます。

この作品は視点が源路から吉宗に移ると、ガラリと物語のペースが変わるのに引きつけられます。源路視点ではギャグを織り交ぜながら恋愛に振り回される感情を中心にしながら、吉宗の心が見えない寂しさが切なさを掻き立てますが、吉宗視点になると、恋愛なのかわかっていながらもその中にうまく入っていけないという言い切れない感情が切なさを生み出しています。この二つの感情がモノローグのコマをほとんど使用することなく、かつシンプルな表現方法で上手く描かれていて、そこはやはりさすがだと思いました。
エロシーンになると台詞が極端に少なくなるのも、ゴチャっとした日常シーンから一変させる見せ方になっていて、エロさはもちろんなのですが、その中に切なさをしっかり作り出しています。
この辺りの、空気をぐっとつかんで引き寄せる力があるところが、この作品でハマるところなのではないでしょうか。

また、読んで気になった点としては、前作とかなり印象が変わったという感じです。
まずキャラクターですが、吉宗は相変わらずですが、源路が前作の寡黙なキャラから今作ではセルフツッコミを多用するかなりコミカルな感じのキャラに変わっています。寡黙で大人びた高校生が、一途な等身大の高校生に変わったという感じでしょうか。読む側としても、私自身は前作からかなりブランクがあったのであれ?と思う程度の感じでしたが、前作と今作を続けて読んだ方はもう少し違和感があるかもしれないです。
作品全体に入り込んでくるシュールなギャグやコミカルな落とし所を作っていくために、源路がこのキャラになったのだろうとは思うのですが、SHOOWA先生の作品によくあるありきたりな展開に落ち着いてしまった気もします。今回、前作でメインキャラであった椿と入江が完全にギャグキャラになっていたので、源路がギャグを小出しにしていくよりも、ギャグのパートは完全にこの二人に任せていたほうがよかったかもしれません。
それから描き方も変わったかなという感じです。描き込みがより小さく、小さなコマに瞬間的に書かれていくようになったかなと。アップの時の書き込みの感じも強くなった印象です。源路の顔がアップになったときに顔が少し違うかな?と思うコマもあります。ちょっと傾げる部分ではあるので、SHOOWA先生の作品が好きな方には少し気になる部分かもしれません。
以上のように、ちょっと前作と比べてみて引っかかる部分があったので評価は神ではありませんが、十分に読み応えがあり、SHOOWA先生のような異色なBL親しみがない方にも満足して読んでいただけると思います。

今作は手のコマのアップが一番のポイントだと思います。触るのも手をつなぐのも、まだ源路からだけで、吉宗はまだ手を伸ばすことができません。伸ばされた吉宗の手が、源路に触れることができずに下ろされたシーンが3コマに渡って描かれていたところに、今作一番の切なさを覚えた方が他にもいらっしゃったのではないでしょうか。吉宗が源路に手を伸ばせることができることを願いながら、時時間が出ることを祈ろうと思います。あとがきでは、まだこのカップリングを描き続けたいと書かれていましたので期待して待ち続けようと思います。

アニメイト特典はオリジナルのエピソードの入ったドラマCDで、源路と吉宗だけの登場。吉宗が引き取ってきた猫にセックスを邪魔される話と、観覧車で事に及ぼうとして失敗する話の2編とキャストフリートーク。モノローグはどちらも源路(前野智昭さん)です。吉宗(小野友樹さん)の喘ぎが軽く入っていますがキスのみでエロはほぼなしです。本編同様に源路はややテンション高めでツッコミが過多なキャラ、小野友樹さんは以前の吉宗そのままに演じてくださっています。小話ですが原作の雰囲気がそのままになっているので、SHOOWA先生の話や、このカップリングが何よりも大好きな方にはお勧めできると思います。BGMが安っぽい音ばかりなのがかなり残念。私は予約して購入しましたが、発売日を過ぎても平積みをされて売られていました。店舗限定特典となっていますが、手に入りやすいと思います。

ローカルでスローテンポなBL

イシノさんといえば、都会のお洒落な生活と恋愛を描くというイメージがありましたが、今作は、もういい歳の幼馴染同士のカップルが地方で家族との暮らしをしているという、ちょっといつもと傾向の違う作品。
ローカルで、地域のコミュニティーと一緒の暮らしを描いているというのは珍しく感じました。椿びよりも所帯のある生活を描いていましたけど、あれは家族3人だけの世界という感じでしたので、今作はもっとリアリティーのある生活が描かれています。
どうなるのかなと思いましたが、イシノさんのスローなテンポで丁寧に描かれる作風にとてもあっていると思いました。
今までの作品での濃すぎるぐらいの太めの線も、細く落ち着いてきた感じがあり、そのおかげなのか特徴的な白みの多いコマに描かれるものは強調されていい間を作っています。画法がypり生きてきた感じがあります。

物語は、地元に住む同士の幼馴染のカップルが、これからどうしていくのか?という話です。
地元に勤めているから実家に住んでいて、恋人は近くに住んでいるし幼馴染で親もよく知っているからいつでも実家にやってこれる。だから同棲する必要もない。でもそれはつまり、子供の時とずっと同じままで何の区切りもないということ。でも長い付き合いになりすぎてるから今更別れるとかももうない。仲間内ではもう公認の間柄だけど、親に報告はできない。そんな、終わりはないけれどはっきりしないまま続いている関係性が軸になっています。
こういう話はシリアスになりすぎてしまうことが多いのですが、イシノさんの描き方ですと、緩やかで当たり前な日常を描きながらも突き当たる問題を日常にあった形で描いているので、ハラハラすることなく心穏やかに読むことができます。ですので、ささやかな出来事が大きな幸せに感じられます。みんなに祝福されることを匂わせて終わるのも、変に大団円にならなくてよかったと思います。それぞれの形にあった幸せの尺度があって、地元で暮らしている二人にとっての最上の幸せの形なのだろうと思って、涙が出そうでした。

イシノさんがまた新しいストーリーの方向に進んで行かれたように思いました。
これからもう少し、さらっとした話からもっと深いところまで踏み込んでいくようなものを描かれていくのかなと思い、期待したいと思いまして、評価は萌2です。

実は初めて読んだときにあまり話がピンとこなくて、しばらく読み返さずにそのままにしておいていたのですが、今読むと身に染みる思いがします。短い間ですが、歳を取ってきて、こういう話が自分になってくるようになってきたのかもしれないと思いました。
キュンとくるような話よりも、年齡に合った話が読みたい方に向いているのではないでしょうか。
それから、女性キャラが重要な場面で結構出てきますが、イシノさんの作品よくいらっしゃるさっぱりした等身大の女性ばかりですので、目に付く感じはありません。

繊細だけどゆるい、見事なバランス

表紙に目を奪われて購入。パステルな色合いでも輪郭線が強い描き方が印象的でした。

短編を集めたものになっているのですが、どれも恋愛未満だけれど友達とも言い切れない、そんな関係性が描かれています。関係性だけで言えば、BLとは言い難いと思われるかもしれませんが、これは恋愛ありきでないと考えられない関係性だと思いますので、確かにBLだと思います。
こういった関係性を描くとなると、話としては結末らしい終わり方ができないので、中途半端になりがちなものではありますが、話の余韻を残すことでうまくまとめていると思いました。
この余韻をうまく残している描き方が、吉田さんの特徴だと思います。

コマは書き込みがされていながらも、背景などはややデフォルメされたものになっています。人物描写も、髪の毛の一束一束や服の細かい皺までも繊細に描かれながらも、顔などは背景と同じようにデフォルメされた描き方になっています。また、セリフなく展開するコマ、モノローグのみのコマ、風景や後ろ姿だけの描かれた大きく取られた一コマなどの情報量の少ない表現方法がそれに加わり、トーンを使う部分も限られているので、コマもしくはページ全体が、余白が多くて白っぽい印象があると思います。
この、繊細だけど力の抑えられた画法が、作品全体に余白を残していて、結末をはっきりさせない関係性を描くストーリーにぴったり合っていて、ノスタルジックな雰囲気や切なさが余韻として読者に残るんだろうと思いました。
背景を大きく描いて人の姿を小さく描いたりしてるところも切なさを誘っているところだと思いますし、画法とストーリーのバランスがうまくマッチしているところが素晴らしく、
絵だけで魅せることのできる作家さんだなと思いました。
書き下ろしが一本入っているのですが、長編ストーリーに発展できるような兆しが見えていましたので、ぜひ長編を描いてほしいと思いました。

激しいストーリー展開はなく、穏やかに、些細に積み重なっていくストーリーですので、BLらしいBLとは毛色の違う話を読みたい方に向いていると思います。

いいところで終わってます

前巻から少し時間を置いての発売になっていましたので、続きが本当に待ち遠しかったです。帯が金色なのとカバーの色合がマッチしてなんだか和風っぽい感じもしました。東京心中の装丁はいつも手に取りたくなるデザインでいいですね。

前巻は映画好きな矢野・橘に対する宮坂という映画に続く伏線のようなものがメインになっており、恋愛要素・ストーリー展開ともに足踏み状態に思えていましたので、ここからどう続けていくのかなと期待半分危惧半分で読み始めました。しかし今巻からまたお仕事話中心になったので、楽しくワイワイとした雰囲気が戻ってきました。東京心中のおもしろさはやはりこの説明くさくないお仕事シーンですね。

今回は、宮坂にとっての恋愛と仕事の関係が変わっていく転換回のようになっています。宮坂は今まで恋愛の“おかげ”で仕事をしていましたが、これからは仕事の中での恋愛の位置付けが問題になってくるのですかね。こういう問題と問題にぶち当たった本人の成長とが丁寧に描れているのはお仕事描写がメイン故ですね。今回も丁寧に描かれていて楽しく読めました。番外編は宮坂と矢野さんの日常話になっているので、恋愛要素がここで補われている感じです。

宮坂は毎度の如くうざったくグルグルしていますが、矢野さんやユカさんのおかげでその度に立ち直ります。鬱々とした話がほんの1ページくらいで解消される見せ方はまさに爽快です。スピード感が一気に早まる感じも見事。このスッキリ感が東京心中らしさだなと思います。大胆なコマ使いも魅力の一つでしたがそれは今回も健在で、一ページの見開きコマもしっかりとしたインパクトを持たせています。特に夕日のシーンは圧巻。こうやってストーリーに挟み込んでくるあたり、作者さんの力量が伺えます。こういったコマ表現によるストーリー展開は前巻まで読まれていた方も満足な完成度なのではないでしょうか。

BLと言うよりはお仕事恋愛漫画の構成にBLが加わっている感じです。巻が進むに連れてよりそうなってきましたが、BL作品の文法にありがちなドタバタ感に疲れている方にも読みやすいと思います。エロはもうなんだか生活の一部のように日常化しているので、ボリューム多くなく話の見せ場にはなっていませんが、だからこそ安定した話として読めるようになっています。話が気になるところで終わっているので、続きにヤキモキする方はご注意を。次巻を楽しみにして待ちたいと思います。

特典ペーパーの漫画は夏の小ネタ4コマ、カバー裏の漫画も日常小ネタになっています。どちらもBL要素はなく、本編の前に読んでも問題ない内容です。

今後に期待

商業前から気になっていた作家さんでしたので読んでみました。

画力はもちろん申し分ないですし、キャラクターや設定は可愛らしさやツボを抑えたものに仕上がっていると思います。それから、エロいコマを作り出すのが上手で、最近の作家さんには珍しく肉感的に体を描いているのも画力の高さを伺わせていると思います。

ただ、全体的に猛スピードで話が過ぎ去ってしまう感じ。
表題作含めてほぼ出来上がってるカップルの話なので、会話が多すぎたりコマの展開が速すぎると騒々しくなってしまっている感が否めない。もう少し落ち着いて読みたかったです。
また、登場人物達が受け攻め関係なくよく涙を流すのが特徴的なのですが、話のスピードが速すぎるので何度も泣いてる顔ばかり見せられているようで見飽きた感が出てきてしまいます。せっかくの可愛らしい魅力が半減されてしまっているように感じました。
あとは人物中心のコマが多いのも、コマのボリューム感が多すぎて食傷気味になってしまっているのかなと思いました。

今回は初作品にも関わらず厳しい評価をつけていますが、新しく物語を作り出していく力のある作家さんだと思いますので、今後も期待していきたいと思います。
話のテンポや内容的に同人誌の延長という感じの話なので、手軽に可愛らしい話を読みたい方に向いていると思います。

よくも悪くもワンクールの連ドラを見ている感じ

親族経営の会社に勤めているため不自由な社会人生活を送っている攻め・須藤と、その上司でミステリアスな雰囲気のゲイの上司・真木との切ない恋愛を描いた物語です。会社や家系といった社会の圧力の中で出会った二人が、惹かれあったりすれ違ったり引き離されたりを繰り返していき、お互いにかけがえのない相手になっていくまでを描いています。

この作品の特徴は、テレビドラマのようなスピード感で小説ぐらいの情報量が詰め込まれていること、そして描写力に満ちた細密なコマにあります。2人が関係を持つところや別れるところなど、2人に関わるあらゆる出来事が次々と訪れてはその内容が語られ、それらがコマいっぱいに余すことなく表現されます。そういった描かれ方(顔などがアップになった時の画の細密さや、アップと俯瞰の移り方といったコマ内のアングル、コマ運びのやり方などといった技術的なことも含めて)によって、漫画を読んでいるよりはテレビの連ドラをワンクール見ているような感じがしました。そうして生み出されたスピード感と迫力が、このストーリーを圧巻なものに仕上げていて、ストーリーが情報量や展開が盛り沢山であったにも関わらず、読後感をスッキリさせるものにしていたと思います。この麻生さんの描き方はとても斬新だと思いますし、画期的な表現方法だと思いました。

ただその一方で、ストーリーが出来事に留まってしまって深まっていかなかったのも、このスピード感と情報量により生み出されてしまったことなのかと思ってしまいました。一例を挙げるとすると、物語序盤にいきなり須藤に関する噂話のメールがいきなり登場してきますが、このメールの存在がいまいちピンときません。そのせいか、読み進めていっても親族経営の会社の強大さというものが、話の上で情報として出てくる部分は分かりますが、実感を持って見えてこないので、須藤がなぜそんなに不自由しているのかよくわからず須藤にあまり共感できない。
また、起こる出来事が次々と目まぐるしいためか心情を語る部分がわからず、2人がなぜお互いをそんなに好きになっていったのかがよくわからない。真木の方は先に須藤が好きだったとしても、心情に見合ったコマが見られず、例え真木が須藤に急速に惹かれていったとしても、それは出来事の展開のスピードに負けてしまっていて、好きだという事実しか見えてこないため真木の切なさを共有できない。
さらには須藤と真木、どちらもどんな人物なのかはっきりわからないのも、2人がお互いのどこを好きなのかがわからないのですから、そう思うのは当然かもしれません。
さらには、そうしてストーリーの設定や構造が深いところまで根付かぬまま出来事は進んでいき、須藤と父親との対峙という最大のクライマックスシーンもあっけなくさらりと終わってしまったので、結局当事者同士の気持ちの問題でどうにかなる程度の事だったのか?と会社や家系など大きなものを相手にしていた今までのストーリーの進み方に対して肩透かしを食らった感がありました。
とにかく大変な話だったということは分かりましたが、描かれるはずの切なさがあまり見えてこないという感想です。まさに、人間同士の物語ではなく、ある人間同士を描いたドラマをテレビを隔てて見ていたという感じなのです。

とても画力があり、非常に創造性のある描き方をされていらっしゃる作家さんだと思いますので、ストーリーを立てることが出来なかったというところがとても残念だというのが本音です。小説のような情報量も魅力ですが、漫画は描くことでその情報をを表現できるものだと思いますので、もっと沈黙や間のテンポによる表現(今作は1コマ内・1コマ間のテンポがすごく速いので、コマを流し見るようになってしまっている)や、描かれるものによる暗喩(例えば会社のポスターの家族像がどんどん接近されて描かれていくところはどきりとさせられました)などが効果的に増やされていったらよりストーリーを引き立てられるのかもしれないとも思いました。

ストーリーの部分においては物足りなさを感じましたが、表現の創造性はとにかく独創的でおもしろいと思いましたので評価は中立です。
少し読み応えのある漫画を読みたい方にお勧めします。特殊プレイ等はありませんが濡れ場はやや多めですので、BL初心者でもそこまでエロに抵抗のない方ならば読みやすいお話になっているのでよいかもしれません。