このよのはじまりこのよのおわり

konoyo no hajimari konoyo no owari

このよのはじまりこのよのおわり
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神16
  • 萌×218
  • 萌19
  • 中立1
  • しゅみじゃない3

--

レビュー数
17
得点
210
評価数
57
平均
3.8 / 5
神率
28.1%
著者
たうみまゆ 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

媒体
漫画(コミック)
出版社
竹書房
レーベル
バンブーコミックス 麗人セレクション
発売日
価格
¥619(税抜)  
ISBN
9784812481646

あらすじ

幼馴染みへの恋心を自覚した、あの日から早十年ーーー…
人気女形となった佐根市(さねいち)は、相も変わらず幼馴染み・善介(ぜんすけ)への想いを秘めたまま、 惚れた腫れたは芸の肥やしと数多の女たちと色恋を繰り返していた。
そんなある日、次の演目の役がどうしても掴めず、煮詰まった佐根市は善介の家を訪ねる。
しかし、そこで彼の縁談相手だという娘にばったり出くわしーー…!?
さまざまな時代の儚くも粋な恋模様を緻密に描いた待望の麗人ファーストコミックス!
佐根市と善介のその後がわかる描き下ろし番外編も収録!

表題作このよのはじまりこのよのおわり

佐根市 女形役者
善介 幼馴染で手習いの先生

同時収録作品硝子哀歌

清次郎 姉の婚約者
寧 姉の双子の弟

同時収録作品いずみの如く

同時収録作品カラスの名前

義明 大店の息子
役者 唐沢

同時収録作品カムバック・スイート・ホーム

テッちゃん 金持ちの息子
善ちゃん 売りをする幼馴染

その他の収録作品

  • 龍の引っ越し
  • おまえ百まで
  • あとがき

レビュー投稿数17

粋なセリフと駆け引きが秀逸です

待ちに待ったたうみまゆさんの新刊。
時代物ということでしたが、どのお話もまるで短編映画を見ているようで、その世界観に惹き込まれました。
とにかくセリフが素晴らしいです。きゅっと心臓を掴まれるような粋なセリフ回しが堪りません。

表題作「このよのはじまり」「このよのおわり」そして描き下ろし「おまえ百まで」。
主人公・佐根市は、役者(女形)を目指しているものの、色恋や艶もまだわからない16歳。
「このよのはじまり」では、幼馴染・善介に抱いていた想いが「恋心」なのだと初めて自覚します。
この様がなんともかわいらしい。
その10年後、「このよのおわり」では、その恋心を芸の肥やしに人気女形となった佐根市。
実らない想いを芸にかえ、この10年で「いじらしく慕う恋心・女心」を完璧に演じきれるようになっていた。
しかし、恋心を隠し通すことで芸を磨き、不仕合せであることが良い役者の条件だと思っていたけれど、そういうわけでもない。

「自分の心ととことん付き合う覚悟が足らねぇ。芸に逃げるな。」

とは、助六を演じる先輩役者・喜蔵さんのセリフ。
佐根市の演じる助六のお相手・揚巻は、今まで自分が演じてきたいじらしい娘とは違う。
助六のために自分の心も身体も投げ出せる覚悟を持った、肝の据わったいい女なのです。
その女の艶を演じきるには、自分の気持ちに向き合い、隠してきた想いを伝え、この10年を終わらせる。
清水の舞台から飛び降りる覚悟で、善介に気持ちを打ち明けようとする佐根市ですが、善介の方が一枚上手でした。
なぜなら、描き下ろしの「おまえ百まで」で善介が言ったセリフが佐根市の人となりを上手く表していて、

「遊ぶもとことん、惚れてもとことん、ゆえに芸もとことんだがね。」

だからこそ、佐根市は恋心もとことん芸に変換して、女形という自分を作り上げてきた。
そういう彼を近くで見てきた善介が、佐根市の想いに気付かないわけがないんです。
早くから佐根市の気持ちに気付いていた善介が、その想いを芸の肥やしにする佐根市にとことんつきあうと決めた覚悟。
愛する男のために、身も心も投げ出さん覚悟を持った善介の漢気は、まさに佐根市が思うところの揚巻そのものだったのです。
今風に言えば、佐根市はヘタレ攻めなのかもしれませんが、芸の道に生きるその姿は男らしいですよね。
そして善介は、清廉として初心に見えて、いい塩梅のわかる魔性の受けです。心は佐根市一筋ですが。
余談ですが、「おまえ百まで」に出てくる勘弥の艶話も読んでみたいなあと思いました。

同じように「いずみの如く、」と「龍の引越」も、駆け引きと目線、セリフ回しが素晴らしい。
「いずみの如く、」では、惚れることで湧きあがる欲を、短い話に上手く織り込んで描き切っています。
舞台は吉原。惚れた腫れたはまやかし、真の言葉なんてものはない、この世の全てがなぁんでもいいと思っている見世の番頭。
その番頭に惚れた遊び人の若旦那の、ことばの裏に隠された本気とおおらかさが堪らないです。
「龍の引越」では、一度は生きることを諦めた男の再生を、火消しの仕事に絡めて描いています。

麗人さんのレーベルにしてはえろさが少ないですが、江戸・明治・大正・昭和と、バラエティに富んだ内容です。
現代モノでは味わえない粋な駆け引きと、セリフの端々に見え隠れしている本音の部分とのバランスを楽しんでいただきたいです。
あと、たうみさんのお話には、必ずといっていいほどイイ女が出てきます。
今回も素晴らしい女性陣に脱帽です。男前過ぎます!そちらも必見です。

個人的には、「硝子哀歌」「カラスの名前」「カムバック・スイート・ホーム」が泣けました。
私の泣きツボは人様と違う気がするので、あえてここでは書かないでおこうと思います。

8

「恋」に因む短編集

全部善かった、絵が綺麗。

ほくろや流し目など、歌舞伎の佐根市シリーズは、体の描写、全体のデッサンが正確で、演技の決ポーズが綺麗で楽しめます。
背景の描き込みは、ほぼ省略されていますけど、背景より人物の視線や仕草、さり気無い台詞に重点を置いたのだと思う。「カムバック・・」の東京タワーなんて、三分の一しか描かれてない。

他の短編も、筋書きが人情味豊かな内容で、胸が詰まります。
特に切なかったのは、死んだ兄の秘めた恋を描いた「カラスのなまえ」。
19才で亡くなった兄は、恋人がいることを弟にだけ少し話していた。
兄の葬儀に、舞台衣装のまま駆け付けた兄の恋人が訪れる。
弟が「小さなカラス」に気付いて短い挨拶を交わす。
その後どうなったか気になるけど、ここでオシマイだから、惹かれる。

次に印象深かったのは、「龍の引っ越し」
火消だった男の背中の入れ墨は、龍の姿にかぶさる火傷の跡がある。
火事で亡くした妻の最期の言葉が辛くて、火消の纏を持てなかった男が、生き直す話。

どれも綺麗すぎる展開で、遺される人が抱える悲しみが沁みて、泣けます。

思い切りよく余分を削り落とせる短編の良さを生かした構成で、結末を読んだ後の余韻が良いです。こういう造り込みを耽美風というのかな。
---
内容:*は、善介と佐根市の話。
このよのはじまり*
このよのおわり*
硝子哀歌
いずみの如く
カラスの名前
カムバック・スイート・ホーム
龍の引っ越し
おまえ百まで 書下ろし*

あとがき
--

0

寂しくて、でも暖かくて、美しい短編たち。

美しい表紙がなんとも魅惑的だった一冊。
表紙の二人の表題作は江戸の時代物ですが、
他に江戸〜昭和30年頃まで、様々な時代が舞台になった作品達が納められた短編集。
雰囲気に味があり、やるせない中にあたたかな光がさすような読み心地の一冊でした。

                  :

『このよのはじまり』『このよのおわり』、最後の『おまえ百まで』が表紙の二人の話。
簪を咥えている男は女形で、幼なじみの手習い塾の息子・善介に長い恋心を抱いている。
芸の肥やしと数多の女を抱けども、芝居に深みが出ないのは本気で惚れたことがないから、
大決心をして善介の元を訪れると……
この幼なじみがなかなか一筋縄ではいかない性格で、いい。
「よろしい、抱かれてしんぜよう」が、ツボ真ん中だった。
10年後も二人は一緒にいるが、尻にしかれているのもさにあらん。

大正時代の『硝子哀歌』の『イズミのごとく』と続いて、
『カラスの名前』の舞台は明治。
個人的にはこの雰囲気がとても好きでした。
若くして死んだ兄の、たった一度の恋を知った弟……

『カンバック・スイート・ホーム』は東京タワーを建設中、
戦後を抜けて時代が高度成長に向かう頃。
幼馴染みの二人のけなげであたたかな話。(これも善さんなのは何かあるのかな?)
ベタなんだけれど、最後に男を見せたテッちゃんにグッとくる。

『龍の引っ越し』は辛い過去を持ち、その記憶とともに背に大きな傷を負った火消しの話。
いつ死んでもいいと思うが故に、火消しとしてカリスマ的な男が
一人の男と巡り会って、新しい生き方を見つけるまで。
刺青の使い方が格好いいかな。

良質の短編集。
どれも強いインパクトはないけれど、うまくまとまっているし
読んでいて読後感も悪くなく好き。出てくる女性もまたいい。
ただ個人的には、以下の点で☆ひとつマイナス。
作品によって新鮮みに差があること、そして
願わくば、もうひとつ重さや暗さがあった方がよりこういう世界は生きるかな〜と。


8

あざとい程で丁度好い

平成の空気が一切漂わぬ短編集です。
巻末によれば一番新しい空気でも(昭和の)第二次大戦直後
辺りですとか。
それならば評価が綺麗に分かれるのも無理はないでしょう。
短く見積もっても都合百年程度の感覚を行ったり来たりしないと
収録作総ての気持ちを追えない訳ですから。

ただ一つ、その中でも一本ピシッと通った筋はございます。
それは『演じる』という一点です。
受けも攻めも素直に恋の手練手管に溺れていれば良いものを
そこに幾許かの演じる心なんぞ入れるものですから、
在って視える筈の誠が不意と見えなくなって途方に暮れ、
堂々巡りをした挙句に舞台から降りた瞬間にやっとこさ
惚れた腫れたに気付く。

そう言う不器用なお若いのがうろちょろしてるのが
この一冊でございます。

8

時代物

まいど、この作家さんの描かれる雰囲気が好きで衝動買いしてしまうのですが
今回は時代物でしたね
表紙を最初にみたときから楽しみにしていたんですが
なんで時代物BLって少ないんだろ。。と思うくらい良かった
髷が折り重なっている様はなんだか無性にときめきましたヽ(・∀・)ノ
え?そこじゃないって?

表題作、「このよのはじまり~」な表紙のカップル。
女遊び上等の役者な攻。女はよく知っているけれども色気は皆無
女形であるものの、本当の色恋を知らない。
そんな攻が~なお話ですね。
本当に好きな相手は怪我したくない、いつまでも綺麗なママで大事
なんだかそういうのが可愛いなと思うのでした。
また、その受に教わる、芝居のヒントとのリンクがわかりやすくて
読み手としても気持ちよく読めたのが好印象。
嫁さんのが強いっていうのはやっぱりオイシイですな。

>いずみのごとく
娼館で使用人を水揚げwww
設定はともかく、最後の「まいりました」に思わずグッときた
気持ちの動く瞬間が好き

>カムバック スイートホーム
最後の言葉にガツンときました。
ストレートな言葉と裏腹の赤く染まった耳たぶ
それが相まって思わず可愛いと男らしいと妙な感覚がマル

ほか短編。
最後の火消しの話。言葉にするのが難しいので省きますが
好きです。なんだかんだで最終的にケンカップルな雰囲気が良かった。
なんだか吹っ切れた。それがイイ

5

江戸・明治・大正・昭和(戦後すぐ位)とバラエティ豊か

江戸・明治・大正・昭和(戦後すぐ位)という時代背景ばかりのBL短編集でバラエティに富んでます。
江戸物はちゃんと粋に感じられるところがあり、時代物を読んでいるという満足感が得られました。

特に気に入ったのは以下。
表題作【このよのはじまり/このよのおわり】
人気女形と手習い小屋の先生、幼馴染同士の話。
幼馴染への気持ちが恋心だと気づいて以来、10年間その思いを全て芸へと変えて人気女形へと成長した左根市だけど、この幼馴染のほうが役者として一枚上手じゃないかと思うほどでした。
一切そんなそぶりを見せず心に秘めていたのは役者の左根市に惚れ込んでいたからであって、その肝の座りようがすごい。
最後の【おまえ百まで】は彼らの10年後を描いています。名女形が尻に敷かれている様子が描かれていて、やはり幼馴染の先生のほうが一枚も二枚も上手だと実感。

【カラスの名前】
明治時代。病で亡くなった兄を振り返る弟視点のお話。
「生まれ変わったらカラスになりたい」と言っていた兄は19歳の 若さでひっそりと生涯を閉じた。誰かと恋をしたらしいということ位しか兄のことを知らない弟の前に弔問客として現れた青年。
その青年とカラスが繋がるところが・・・涙、涙。

自らの死期を悟っていたお兄さんは自分の病んだ肉体が魂の牢獄のように感じていたのではないか、死んでようっやく自由になってカラスになって飛んでいけたのではないかと思うと泣けました。

作者さんがあとがきで「一昔前の王道お耽美BL」を描こうと思ったとあるように、決めどころがしっかりあって読み応えがあり、とくに江戸時代の話はどれも粋な決め方が上手だなと思いました。
ただ非常に残念なのが絵に艶やかさが感じられないこと。
明治、大正、昭和モノのお話だとストーリーと絵の違和感は感じないのですんなり読めるのだけど、江戸時代のお話は遊郭や女形など艶やかな題材を扱っているのに匂い立つような艶かしさや湿り具合といった含みが絵にないので、そこが勿体ないな、と。



1

言葉が胸に残る作品ばかり

時代物ばかりの短編集。
どの作品も言葉選びや使い方が素晴らしいです。

【このよのはじまり】【このよのおわり】 萌2
女形役者の佐根市と、幼馴染で手習い塾の先生をしている善介。
女性を演じるからには女性を知らなければならないと、さまざまな女性と睦み合っては、相手の感情を芸の肥やしにしてきた佐根市が、唯一、芸に変えられなかった心は…、という話で、何度も繰り返される「心を芸に変えてきた」というモノローグが、ものすごく効果的。
善介の10年の想いを体現した芝居、さぞかし素晴らしかったんだろうなあ。

【硝子哀歌】 萌2
清次郎と婚約者の敬子、それに敬子の双子の弟の寧(ねい)。
いくら隠しても、秘めても、お互いを見つめる視線に、言葉に、距離感に、滲み出てしまうのが恋。
表現がうっとりするほど素敵でした。

【いずみの如く、】 萌2
吉原で働く番頭の佐治(さじ)と、遊び慣れた「通人」の辻野屋。
「通人」を調べてみたら、流行りの着物に身を包み、教養に富んでいて、遊女たちを虜にする存在だったとか。単なる女好きの常連客とは全く格が違う人だったんですね。
恋だ愛だは信じない世界で添え物でしかない番頭に、女を知り尽くした辻野屋が惚れ込むという構図が良いです。
一歩踏み出す瞬間がすごく粋でした。

【カラスの名前】 神
19才で病床に臥したまま死んだ兄。
大声で泣き喚く兄の婚約者に、辛辣な言葉を投げかけた役者の唐沢は兄の恋人で…。
弟目線で語られる淡々とした寂しいモノローグと、回想シーンの楽しそうな兄と唐沢のコントラストが絶妙で、鳥肌が立ちました。
読み終わったあとに、しばらくページをめくれなくて、後からじわじわ泣けてきます。

【カムバック・スイートホーム】 萌2
幼馴染で、お互いに両親を亡くして天涯孤独。
お坊ちゃん育ちのテっちゃんと一緒に住み始めたものの、仕事が決まらないテっちゃんを養うべく、女装して立ちんぼで稼ぐ善。
切ない!!
こういう昭和枯れすすき的な、ダメなヒモ男に惚れちゃってる薄幸な子に弱い…。
途中、テっちゃん、どこまでだめなやつなんだ!!!っていう怒りが込み上げてくる一節があるので、文字から妄想の翼が広がる方はご注意を。ダメージ喰らいます。

【龍の引越し】 萌2
大火で妻を助けられず、背中に火傷を負った火消しの信。
それ以来、妻の月命日の14日に、毎月蔭間茶屋に来ては念者(年長者とあったけど、今で言う攻め?)を買うようになって…。
臥煙の青年が言う「死にたがり」に関する言葉が、信だけじゃなく、自分を置いて逝った兄にも言っているようで胸に刺さりました。深いです。

【おまえ百まで】 萌
表題作からさらに10年経った佐根市と善介。
痴話喧嘩も芸の肥やし?

全部の作品にそれぞれ1000字くらい書きたかった…。
それほどまでにどれも深くて、胸に残る作品ばかりでした。
未読の方はぜひ!

0

短編小説のような・・・

ほぼエッチなしのたうみまゆ作品が麗人で!?というのが驚きだったのですが、
掲載された作品は、デビューコミック『隅田川心中』に収録されていた【赤菊のうた】そんな系統のお話で埋められていました。
あとがきにて”一昔前の王道お耽美BL”を目指したと書かれておりまして、収録作品は全て江戸時代~昭和までの、古典的背景とノルタルジーあふれる時代背景となっておりました。
たうみまゆさんの絵自体が、実は色気とはかけ離れた処にあるな、と漠然と印象をもっておりまして、実はこの作品を読んでも登場人物に色気は一切感じません。
しかしながら、マンガなのに文章の物語的描かれ方をしているように思えました。
色気とかけ離れているから、こうしたガッツリ典型的なベタ時代モノで見せられても媚びた感じを与えずに、潔さと、素直に言葉と背景と設定とストーリーが魅力を持つのかも。

【このよのはじまり】【このよのおわり】
女形の佐根市は、芸に艶がないと何度も言われる。
芸のこやしとして女と寝ても、全く身につかない。
幼馴染の善介への恋心を自覚して初めて身に付いた艶。
この善介への想いを通じて佐根市が役者として成長していく話と同時に思いが通じ合う展開も。

【硝子哀歌】
双子の姉の酔狂で女装させられて、弟は姉の婚約者とともに出た舞踏会。
本当はこの婚約者と弟は許されぬ仲なのです。
この二人が主人公のようでいて、実は姉の切ない思いが背景に。

【いずみの如く】
吉原へ来た大店の若旦那は花魁でなく、なんと若衆に一目ぼれ!
全てがどうでもいいと心を捨てた若衆が旦那にほだされる話。

【カラスの名前】
生まれ変わったらカラスになりたい、そう言って病に伏せった兄は逝ってしまった。
葬儀の席に現れたおかしな装束の男性。
兄の弟はその男性が気になり後を追い、兄が恋をしていたことを知り安堵する。

【カムバック・スイート・ホーム】
互いに親を亡くした為に、二人で住んでいるテッちゃんと善ちゃん。
金持ちの息子で生活力のない絵描きをしているテッちゃんの為に女装して本番ナシのショートの売りをしている善ちゃん。
本当は、テッちゃんが好きなのに、彼は女性と酒の匂いをさせて帰ってくるのに耐えられなくて告白するのだが、、、
テッちゃんが自分を改める話。

【龍の引っ越し】
火事で妻を亡くした火消しの信は、その時に負った火傷を背負い、死ぬために火事場に立つ。
そんな彼に陰間茶屋で出会った男と、酔狂で寝るのだが、彼もまた火消しであった。
生きる意味を亡くした信が彼によって、生きることを選択する話。

【おまえ百まで】
表題カプの、佐根市が善介にいいようにコントロールされている(尻に敷かれている?)バカップルになっているというその後の話。

非常に解りやすいです。
どの話も、どこかで見たような?な設定とストーリーではあるのですが、この本に限らず過去の単行本もそうですが、短編小説を読んだ感じのするマンガという点で、それも独特な作者さんの特徴で魅力なのかもしれません。

9

こう繋がるのかと納得

麗人の今月号にのっていた、コミックス発売記念ショート。
両親にカミングアウトする息子に、母親が見せた写真には、
曾祖母と弟、元公家の家系の青年の3人が写っていて…という話。

この3人の若き日の話は、大正時代の【硝子哀歌】
清次郎の婚約者・敬子は、戯れに双子の弟・寧に女装をさせ、
自分の代わりに舞踏会へ行かせる。
清次郎と寧の気持ちに、本人達より早く気付いたのは彼女だったのかもしれない。この敬子が曾祖母になり、麗人ショートの息子カプに繋がるのか~と思うと感慨深いです。


その他の収録作は、江戸時代~昭和くらいの時代を描いた短編。

◆【このよのはじまり】【このよのおわり】(江戸時代後半くらい)
女形の佐根市(攻め)と、幼なじみの善介(受け)の十年越しの想い。
人気役者の佐根市だが、想いを隠す演技に関しては善介の方が一枚上手だった…というのが興味深い。

◆【いずみの如く、】(江戸中期くらい)
舞台は吉原。
遊女ではなく、番頭さんを口説きにかかる、遊び人の若旦那。
惚れた腫れたを信じない番頭をどう落とすか?が見ものの粋な話。

◆【カラスの名前】(明治)
病死した兄の葬儀に現れた黒ずくめの男と、弟との会話。
病床に臥し、生まれ変わったらカラスになりたい、という兄の台詞が、冒頭と終盤で効いてくる演出。

◆【カムバック・スイートホーム】(戦後すぐくらい)
女装してカフェ(風俗)で働く青年と、同居人の幼なじみ。
戦後ってことで、東京タワーが建設中!
それを見上げる二人に明るい未来を感じるお話でした。

◆【龍の引越】(江戸 中~後)
火消しの二人が茶屋で出会い、関係をもつ。
背中に火傷傷を負う者と、龍の刺青をもつ者。
「火傷彫の信」が、一緒に生きる決意を見せる背中のシーンが印象的。

◆【おまえ百まで(描き下ろし)】
表題作のその後。
佐根市にかわり、若い役者に「艶」を指南する善介。
善介の女王様?魔性?なキャラ全開のお話でした。


全体的に、大きな感動やインパクトには欠けるが、きれいにまとまっています。
人づてに聞いた昔話のような、感情移入するには少し遠い位置から読んでいる感覚でした。その遠さが、ある意味ノスタルジックな味わいを出している気がします。

Hシーン含め、よくも悪くもBL的な色気は薄め。メインカプの世界に終始せず、周囲の女性や家族がいい具合に二人に関わっていて、人情劇の趣があります。

7

時代物つめあわせ

表題作から他収録作に至るまで現代で繰り広げられるお話はひとつもなく、全てそれぞれの時代でのBLストーリーです。個人的に「硝子哀歌」が好みですが、それは追々。
いずれも世が世ですので、同性同士の…ということにあまり抵抗がない世界です。けれどもそれぞれが恋に苦しみ、悩み、悶々としていました。愛とか恋とか、「このよのおわり~」の佐根市が思うように「ただ『抜き挿し』」するだけではありませんし、悔やんだり羨んだり恋慕するのはいつの世も同じですね。

表題作【このよのはじまり】【このよのおわり】
今の世ですと16歳なんてまだまだ子供ですのに、江戸時代となると大人同様の扱いや振る舞いですね。佐根市が 恋 とは 愛 とは、そうしてそこから生まれる 艶 がなんであるかや 色目 なんて知らなくても当然なのだろうな。
なにも知らないように見せて、すべてをお見通しのままじっと、佐根市からの覚悟を待っていた善介の心意気は男前だと思いました。そうして【おまえ百まで】で書き下ろされているふたりのやりとり、善介は完全に佐根市の手綱、握っていますね(笑)

【硝子哀歌】
短いお話ですが個人的に一番好きです。許されない関係、双子の姉弟、許嫁、舞踏会!
敬子がはじめからその気であったというのが「灰かぶりよね?」で分かるのか…とじんわりキます。夜の12時きっかりに、魔法は溶けてしまうから。かぼちゃの馬車で王子と共に…。
ラストで、敬子が寧のハイヒールを履くシーンが特に好きです。こちらのお話では主役ふたりよりも、姉・敬子の気持ちが沁みました。

【いずみの如く、】
モノ好きな若旦那。吉原の世界で、こういうこともあったんでしょうか。

【カラスの名前】
死に至る病が山ほどあった頃。
恒夫には心を開いていたんでしょうね。そうでなければカラスの話をしようとは思わないから。心から愛する人と、永く添い遂げ墓に入ることが難しい時代だったと思うほど、切なくなります。

【カムバック・スウィートホーム】
なにもかもが進化する時代、急発展しはじめた街。だからこそ、テレビを買おう、家をつくろう、家族になろう、と語りかける姿が印象に残ります。

【龍の引っ越し】
纏い持ちの立ち姿がかっこいい…!
生きることがどうでもよくなってしまった信の、どこを捉えているのか分からない目が、藤助同様こわいと感じました。生に執着しないからこそ、死の訪れをも受け入れてしまいますよね。それじゃ、お龍がなんで生かしてくれたのかさえ分からなくなる。
立ち直ることができたのも、また纏を持って屋根に立つことができるのも、そうして龍を背負うのも、生きようと思えるから。藤助の男気にそりゃもう惚れてしまいます。

どこかノスタルジックな香りの漂う一冊でした。
胸の端をカリッと掠めるような侘しさもあって、不思議な感覚です。
短編集ですので、一作一作は短いですが、少しずつ様々な時代をつまみ食い出来ました。

7

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