つらい別れを経て再会した明渡と苑のその後は……? 「キス」続篇!!

ラブ~キス2~

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ラブ~キス2~
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神106
  • 萌×237
  • 萌16
  • 中立6
  • しゅみじゃない4

--

レビュー数
14
得点
732
評価数
169
平均
4.4 / 5
神率
62.7%
著者
一穂ミチ 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

イラスト
yoco 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
シリーズ
キス
発売日
価格
¥620(税抜)  
ISBN
9784403524790

あらすじ

再会してもうすぐ一年、
明渡(あきと)と曖昧な関係を続けていた苑(その)。

頻繁に食事を共にし、時折キスをする、けれどそれだけ。
明渡の真意がわからず、問い詰めることもできず、
心も身体もどこにも進めずにいた。

そんなときマンションでトラブルが起こり、
苑は明渡のもとに身を寄せることになる。

渋々だったがふたりの生活は単純に楽しかった。
けれど近所には
かつての自分を思い出させる少年が住んでいて……?

表題作ラブ~キス2~

雑賀明渡、起業家
蛇抜苑、マッサージ師

その他の収録作品

  • スプリング(あとがき代えて)

レビュー投稿数14

胸震える続編

「キス」の続編です。「キス」を読み終わっていてもたってもいられず、すぐこちらを読み始めー

もう、最後のプラネタリウムでの明渡の願い事に、涙が溢れて止まらなくなってしまい、しばらくページがめくれなかった。。

ハッピーエンドながらも、どこか常に切なさを感じさせられ、涙してしまう物語でした。

前作での辛すぎる別れと再会。続編のこちらは、上階の水漏れという偶然の出来事から明渡の部屋で一緒に暮らすことになったものの、キスだけはするという微妙な距離感のままの二人と、そこに昔の苑を彷彿とさせるような子供が現れー

と続くお話です。

この、”昔の自分を彷彿とさせられる”存在である実留(みのる)に対する苑の感情が、とてもリアルで痛々しくそして生々しく感じられ、胸が痛みました。
その「愛されたい」と願う心の内が、そして愛されたいからと甘えるその子供ながらの態度の全てがリアルに分かってしまう苑。
不快だと感じ、見たくない、手を貸したくないとそっぽを向こうとするも、実留が公園で捻挫をした時には放っておけず手当をしてあげる苑。

「自分がしたような経験は他の誰にもしてほしくないから」と言って手助けしようとするのが映画やドラマや物語のヒーローなのかもしれないけれど、苑は決してそうではないんですね。

そこがとても人間らしいと思ったし、今まで無感情になんでも受け入れているように見えて、実は「愛されること」を乞い願ってきた自分、というものに初めて気付き、見つめることができた。それは苑の再生にとって必要な過程だったんだ、ということが明渡の言葉を通して痛いほど伝わってきて、読んでいて胸の痛みが最大限になった箇所でした。

高校時代の、苑がまだ明渡に恋をしていなかった頃のランタンの思い出が呼び起こされる秀逸なラストには、感動の涙が止まらなくなりました。

0

正直、無くてもよかったです。

前作「キス」がとてもよくて、続編である本書を楽しみに読み始めました。
前作の終わり方に物足りなさを感じた方向けなのかな、という感想を持ちました。
前作「キス」の最後まで頑なだった苑が、本書では本当の意味で自分自身と向き合い、トラウマである親との過去や不遇だった少年時代を受け入れて、明渡への恋愛感情をも認め、前に向かって歩き出すまでが描かれています。
それだけに書かれている内容はひたすら自分との対話が中心のために重いですし、やはりあれほどの重石を背負ったところから一歩脱却するにはここまでの事がないとリアリティがないのかというほどに、エピソードが盛り盛りになっています。

正直なところ、私は前作がとても気に入っており「神」評価だったのですが、本書は言ってしまえば蛇足というか、「キス」のままでよかったと思いました。
苑は本書により、やっと歩き出せたとは思います。明渡のこともきちんと好きだと素直に認めて本人にも告げて、わかりやすいラストシーンだとも思います。でも、苑には、無理にこうなってほしくなかった。
苑は自分と自分以外の間に壁を作って、ある意味拒絶して生きている。それは生い立ちや性格や、後天的な影響から成り立っています。前作「キス」においてはそのことが顕著で、だからこそ明渡や城戸や果菜子といった、苑に好意的な人に対して好意を無かったことにする、好意は存在しないと解釈する態度、対応は、仕方ない、ネガティブ思考の延長だと思えます。
それが本作「ラブ」になると、社会人になって自活していて人を愛する経験も知った苑は、前作の状態とは大きく異なる位置に居るわけです。前作のラストシーンには明らかに変化をしているので、「ラブ」のスタート地点と「キス」における苑ははじめから違う。
だから、前作と本作と同じ言葉を喋っても、同じ態度をとっても、もう前作のときのように苑を見ることができません。前作よりも少し前を歩いている苑だから、好意をあらわしている人に対して(具体的には明渡)こんな態度をとるのは、たちの悪い傲慢としか映らないし、媚びているようにも見えました。苑に対してがっかりしながら本作を読む苦痛。こういう苑なら見たくなかった。

当時の苑を思わせる五年生の実留とのエピソードについても、私にとっては今ひとつな掘り下げでした。虐待されている実留を登場させて苑と対峙させることに、拒否反応すらおぼえました。しかも解決が雑というか、本当のお父さんが現れて引き取られて、二人を見送る苑と明渡、という構図に、なんだったんだろうと思わざるを得なかったです。

0

2冊続けて読める幸せ

明渡と苑の間に起こった出来事は、全てが必要だったし何一つ無駄では無かったのだと「ラブ~キス2~」を読むことで思いました。

そして2冊続けて読めたことに感謝しています。2冊一気読みするべきですし、番外編も収録して一冊にして欲しいと思いました。


再会して明渡が東京に戻って来たものの、2人の仲はなかなか進展しません。

それでも明渡視点のお話や城戸の会話から、あの事故以前から明渡にとって苑は特別だし、誰も苑の代わりにはなれないということを知りました。

ようやくストンと納得出来ました。

実留を放っておけない明渡の理由も、目を背けたくなる苑の気持ちも理解出来たし、その後に実留に訪れた転機に良かったと涙が溢れました。
苑が自分に向き合って起こした小さな行動が報われて本当に良かったです。

そしてようやく苑が気持ちに正直になろうとした時の出来事に、まさかまさかとハラハラさせられて。苑の不安にこちらまで苦しくなりました。

でもそれがあったからこそ更に一歩踏み出せたし、自分を気にかけてくれる人達の小さな好意にも気が付けたんですよね。

まさに「ラブ」というタイトル通りのお話でした。

最後のプラネタリウムのランタンのシーン大好きです。

4

恋って簡単なものではない。

キスからの続編。
はっきり言って、前作は読んでいて浮き沈みが多く、結構辛かったので、今作を読むのに時間がかかりました。

苑への恋心を無くした明渡だが、幼き頃の事故の前から苑を気遣っていたし、それは相手が苑だから。また苑を好きになっていく明渡は、時間をかけて苑との距離を縮めている感じ。
そして、苑は手術後の明渡のことがあるため、受け入れて無くすことを怖がって進めずにいる。
二人の性格がしっかりと画一されているからか、周りがどう言おうと二人で解決しなきゃならないのがもどかしいのですが、それだけ時間をかけて得た関係を最後に見られて良かった。
明渡が苑に投げかけた問いかけを読んだとき、涙がでました。

1

No Title

出来の悪い小説ではなく一冊なら良くまとまってる作品だと思います。
でも前作の余韻を残したラストにこの作品は蛇足だと感じてしまいました。

かつての自分を彷彿させる少年を家に居させたくないと思う苑と、人助け当たり前じゃね?という感覚の雑賀はやっぱり根本から違うんだなと。

でも忘れたい過去を想い出させる人間を近くに置きたくないというのは当然の事なのでは?
ドラマ要素が薄いので雑賀の無神経さが余計気になりました。

4

「愛」という形のないものだからこそ

あまり積本てしない方なのですが、この作品は買ってすぐに読むことができませんでした。

前作『キス』は好みが分かれそうな作品。なぜなら、二人の恋がハピエンで終わっていないから。でも、だからこそ、個人的に余韻があってすごく心に残った作品でした。

今作品はその『キス』の続編で、タイトルが『ラブ』。

甘々の、ふんわりしたストーリーだったらどうしようかな、と思ったら何となく読めなくなった。

が。

さすが一穂さん。
素晴らしかった…。

キャラの心情の動きが、繊細で緻密な文章で描かれている。
「人を愛する」って、優しいだけではない。
痛みも、苦しみも、哀しみも同時に連れてくる。
そこを乗り越えて、初めて心の奥深くにまで染み渡ってくるものなんだと。

前作で頭部の手術後に苑への愛情をなくしてしまった明渡。
そもそも、苑への愛情は、血腫から引き起こされた「勘違い」だった。

という、残酷なストーリーでした。

明渡のことを本当に愛しているから、自分への愛情を無くした明渡を手放してあげたい。

そんな苑の一途な想いに心打たれ、そして彼が悪いわけではないものの、自分勝手ともとれる明渡に憤りを感じた腐姐さま方も多かったのではないでしょうか。

今作品でも、明渡の自分勝手ともとれる行動は健在。
恋愛感情はないけれど、でも苑を放っておけない。だから、そばにいる。

お前、いい加減にせえよ!

と、明渡に対して思いつつ、けれど明渡は苑を愛していないわけではない。

「愛」というものの形の難しさを、一穂さんは見事に描き切っています。

親子。
恋人。
夫婦。
友人。

愛と一言で言っても様々ありますが、今作品は明渡視点での描写を入れることによって無理なくその部分を著しています。

子どものころからの親からの虐待により自己肯定感が極度に低い苑にとって、「自分を欲してくれる人」の存在は理解しがたい。自分が愛される存在だということを信じていない。

その彼のネガティブさを取り除く因子として登場するのが、実留という少年。
実留も親からの虐待を受けている少年ですが、彼の存在が今作品のキーポイントだったと思います。

実留が彼の親から虐待を受けていることは、自身の経験からすぐに見抜いた苑。
けれど、実留に救いの手を伸ばすのは、苑ではなく明渡なんです。

かつて、明渡によって精神的にも肉体的にも救われた苑。
自分にとって太陽のような存在だった明渡。

けれど、明渡が優しいのは、自分にだけではない。誰に対しても等しく優しい。
放置子に手を差し伸べることの難しさと、自身の自身の無さ、明渡への想いと嫉妬心。

それを、実留という少年を登場させることで難なく表現して見せる一穂さんの手腕に圧倒されました。

実留を救ったことで、苑は自分自身にかけた呪縛が解き放たれたのだと。
実留が救われたことにも、そしてそのことによって苑も救われたことにも、心の底からほっとしました。

苑は、ずっと独りぼっちだと思っていたけれど、実はそうではなかった。
いつも、彼に手を差し伸べてくれる心優しき人たちはいた。
そのことに気づけたのも、実留、そして明渡の深い愛情あってのことで、涙が止まらなかった。

前作が素晴らしかっただけに、続編である今作品を読むのがちょっと怖かったのですが、めっちゃ良かった…。『キス』、そして『ラブ~キス2~』の2作を読んで、初めて完結する作品で、もっと早く読めばよかったと後悔しきり。

苑の上司であり、よき理解者でもある城戸さんの存在も非常に良し。
彼メインのスピンオフが読んでみたいな。

そして、特筆すべきはyocoさんの挿絵。

何となく切なく、哀しく、でも明るい未来も感じさせるyocoさんのイラストが、この作品に合っていて非常に良かったです。

形のない「愛情」を求めるからこそ、すれ違いながら遠回りしながらも、それでも相手を愛し、必要とし、もがき苦しんだ彼らに、これからずっと幸せでいてほしと願ってやみません。

10

誰にも必要とされずに育った子供が人や自分を大事に思えるようになるまで

『キス』の続編

前作で、明渡は幼馴染の苑に対して突然生まれた多幸感溢れるキラキラとした恋愛感情が頭の手術をした後、急にその想いが消え去り執着心がなくなってしまったことから想いに違和感を持ってしまったということから二人の関係が終わったのでした。

それを聞かされた苑にしてみたら、まるで今までの想いは嘘だった、勘違いだったと言われたようなもの、ショックでした。
というのが前作のお話でした。

それからの再会で感情が元に戻ったわけではないけれどもう一度今の二人から始めてみようというところで終わったけれど、面倒くさい苑が「なんでそんなに好きだと思ってたのかわからない」と言われたことをなかったことにはできないし、その一瞬で苑の想いも冷めてしまったのだからやり直しも再出発も簡単にはできないと思っていたのですが、きっと押しの強い明渡の性格で何とかするんだろうなと想像してました。その『なんとか』の過程が今作なのだと思います。

苑と似たような境遇の虐待されている少年との出会いと触れ合いが苑の中で大きな転換だったと思います。
愛されたがったり構ってほしがる惨めさがわかるからこそ、それを見せつけられる辛さや嫌悪する醜さに押しつぶされそうになる苑でした。

誰も自分と同じ不幸な目に合わせたくないとか、好きな人のためなら自分は身を引いて遠くにいても幸せを祈り自分もしっかり生きる、という綺麗事のようなことは考えられないという苑の気持ちがとてもよくわかりました。
そして、明渡に対していつでも逃げられるように構えていたり、真正面から向き合わないまま流されるように暮らす苑がいつか来る終わりばかりを見つめているようで苦しくなる展開でした。

明渡が虐待される子供を厭う苑の状態について、やっと子供の頃の思いが吐き出せるようになれたと気付いてあげた場面にホッとしました。

ただ明渡には、身内のためとはいえ危ない目にあったり連絡が取れない状態で苑を不安にさせるようなことは慎んでほしいとは思います。
苑がこれからもぐるぐる迷子になったり後ろ向きになることは少なくなさそうなので、見放さず見守ってほしいものです。

3

苦くて複雑な味

萌の上位としての神評価ではないです。萌えとは違うのだけれども、間違いなく心に響いてしまうので、現行の表示では神としか表現できないんです。

大好きな作家さんの大好きなBL小説なのに自分の思い通りの展開には行かないところに引き込まれます。いい意味で作品に振り回される感じ。はっきり言って苦いです。タイトルの甘々さがまた内容とコントラストがあって印象に残ってしまいます。甘くてハッピーなものを求めている方にはお勧めしませんが、この複雑な味わいは他の作品では代用できません。読者のテンションとか環境とか色々なものに左右されて読後にその人の中で完成する作品ではないかと思います。

内容自体は魔法も大金も出てこないし普通っていえば普通なんですけどね。その裏には常に普通ってなんだろう、っていう道徳観が着きまといます。展開よりも思考を味わいたい方におすすめです。

作品内のテンションの上がり下がりが微細ですので、作品の温度が変わるところを見逃さないよう一気に読むのがおすすめです。

とりあえず、私は読後クレープを作って食べました。

15

暗い…

ちゃんとハッピーエンドにはなりますが、一穂さんの作品の中では暗くて可哀想なお話です。読みながらおぼろげに思い出してきたけどシリーズ前編の方がもっと残酷でしたね。両思いになった途端に打ち砕かれる、みたいな。

BL作家ってドSじゃないと書けないと思います。序盤で受けをいかに肉体的または精神的に痛めつけるかっていうのが結構重要で、苦労した部分が多くないと最後の幸せを強調し、感動させられないですから。

ただ今回の場合、受けの育った環境が酷く、幼少期から辛い思いをしてきて大人になってからも、不幸のデパートみたいに受けの周りには不幸や不幸な人が寄ってくる、みたいな展開が鬱になりました。自分の過去と同じ境遇の子に出会って、同族嫌悪になり、乗り越えたはずの過去がフラッシュバックする所が辛かったです。

最近のイエスかノーか…の番外編でもいじめ問題を扱ったり、今回の話では児童虐待が扱われていたり、ニュースで見ない日はないくらい重い社会的問題ではありますが、BLでまでそれを目にする度合いが多くなるとちょっと萎えるというか、心を動かされる箇所がBL部分以外っていうのが複雑です。

3

変わったもの、変わらないもの

一穂先生の作品の中でも印象的な2人のお話です。
やっと幸せになろうと前を向いてくれてよかったー!!の一言に尽きます。

ただわたし自身が(苑のような境遇では到底ありませんが)あまり真っ直ぐに育って来なかったので、どうしても苑と実瑠の間の感情に移入しすぎて読むのが辛かったです。あと苑も怒っていましたが雑賀家の明渡への対応もモヤっとして…
(もちろんこれは個人で感じ方は違うと思います。)

なにかが変わってしまっても、結局のところ苑は明渡のことが好きで好きで、明渡も苑を死んでも離せないんですよね。
自分には愛される価値がない、愛を欲することが恥だと思う苑が、明渡と周囲の人の想いに触れて決意する姿にはじーんときました…

めでたしめでたし。という終わり方ではなく、(これからどうなるか分からないけど)これから大切な人を信じて生きていく、という2人の始まりを感じさせる終わり方だったのがまた良かったです。
いつかの2人があげたランタンが、今作のラストでも生きてくるのがもう…!涙
どうか、どうか、2人がこの先支え合って幸せに歩んでいってくれますように。

5

その苦さをこそ

 好きな作家さんのお気に入りの作品に続編が出る、っていうと、大概無条件に喜びいさんで発売日を指折り数えて待つものですが、今回だけはちょっと複雑でした。前作「キス」がそれだけ特別な作品だったから。つらい過去を持つ可哀そうな受けがスパダリな攻めにあふれるほどの愛を注がれていつまでも幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし…という、BL作品の王道、いわばお約束を根底から覆して見せてくれた。それは書き手としてとても勇気の要る決断であっただろうし、読み手としても読後の幸福感をあきらめる代わりに、じゃあ何が得られるのか、といえばそれは人それぞれで、賛否両論あるのもまた仕方ないけれど。

 わたし自身は、かねがね一穂作品の好き嫌いはほぼ受けの性格によって決まるみたいで、それもエッジが利いてれば利いてるほど愛してしまうという業の深さ。性格の善し悪し以前に、ほとんど自己主張をしない、呼吸すらひそめて生きてるような苑のようなタイプは本来好みじゃなかったはず。でも「キス」で、あのつらい別れを一人で決めた苑、恨み言ひとつ言うでなく、しゃんと背筋を伸ばし、毅然として去った苑には激しく魂を持ってかれた。

 人の心に永遠とか、絶対とかあり得ない。今誰かを狂おしいほどに憎み、あるいは恋い焦がれていても、時とともにそれは変容してゆく。明渡ほど極端な「きっかけ」でなくとも、何かの拍子にそれこそ憑き物が落ちるようにきれいさっぱり消え失せてしまうこともある。そもそもそんなもろく儚いものを、どうして人は生きるよすがにしてしまうのだろう。これなしじゃ到底生きてゆけない、くらいに思いつめたものを喪って、それでもどうにかしてその先の人生を続けていかなきゃならない。そんな時の人としてのありよう、一つのお手本を、前作で苑が身をもって示してくれたと思う。普段たくましさやずぶとさとは無縁に見える彼だから尚更、あのラストが私には余計特別で、尊かった。

 なので本作、悩みつつ、それでも一穂作品なので、読まないという選択肢はなく、結局手に取りました。曲折を経て二人のたどり着いた場所、苑の決断に異を唱えるつもりはありません。多分BL作品としてはこれが正しいお話の閉じ方だろうとも思います。ただ私の心にこの先も長く残り続けるのは、前作の方だろうとも。味気ない現実にいささか過剰なくらいの糖分補給をするだけがBL作品の能じゃない。

11

どこかにいそうな二人だからこそ

明渡や苑のような人はリアル世界でもどこかにいそうだな、と思いました。
マイペースで屈託がなくフットワークの軽い明渡は今どきの若者だし、虐待される子どものニュースを耳にすると、苑のように家族や周囲の人たちと愛情をやり取りする経験を積まずに大人になる人もいるのかもしれない、と感じます。
苑の「自分は誰かに好かれたり誰かを好きになる価値などない」という頑なな思考が、物語に暗い影を落としていて、楽しい気持ちで読むことはできませんでした。
でも、どこかにいそうだと思える二人だからこそ、じれったいほど変わらない苑に、そんなにすぐに変われないよね、と共感できたし、微妙な距離を保ちつつ苑の心が動くのを待つ明渡に好感を持ちました。等身大の二人がモヤモヤと足踏みしながら悩む姿が愛おしくて、心配で、祈るような気持ちで最後まで読みました。

苑を見ていると、大人になり誰かを特別に愛したり、誰かからの愛を受け入れたりすることは、当たり前にできることじゃないのだと気づかされます。子どもの頃から友情や親愛の情を交わす経験を積んでこそできることなのですね。
本当は優しくされたかったけれど、どうにもできないことならば、自分の状況が大変であればあるほど、「大したことない」「仕方ない」と、深く考えないようにしていた苑の気持ちが少しわかるような気がします。
苑ほどではないけれど、昔、私も同じように感じていた時がありました。「大変ね」「心配ね」と声をかけられるのがかえって辛くて。「何でもない」と、そのことを考えないようにしていた方が楽でした。でも、不思議なもので、時がたった今は、その時自分に気持ちを傾けてくれていた人のことを心からありがたく思い出します。物語の終盤、苑が看護師の小山さんと再会して感じたことにとても似ていて、一穂さん、どうしてこんな気持ちが描けるのですか?と問いたくなりました。なんだか、昔の自分を見つけてもらったような気がして、嬉しくて、涙が出てしまいました。一穂さんの作品を読んでいると、自分でも忘れていた気持ちの断片や衝動を思い出させられて、それは甘かったり苦かったりするのですが、心揺さぶられることが不思議と心地よくて、毎作品を手に取ってしまいます。

人の心は複雑で、柔らかで、頑なで、傷つきやすくて、上手く気持ちをやり取りできないときもあるけれど、自分が思いもよらないところで誰かに何かを渡せたりするのかもしれません。明渡と苑が実留に何気なくしたことが実留に新しい道を開いたように。失敗する時もあるかもしれないけれど、人と関わっていくことで起きる変化を、それがささやかでも大切にしたいと思いました。

だから、明渡と苑の新しい関係を予感させるラストに、胸がいっぱいになりました。
苑が変わり始めたことが、本当に嬉しい。
「星空のランタン」に託した明渡の苑への言葉は、きっと苑がずっと欲しかったものですね。
二人の関係は『もう一回』だけれど、同じじゃなく感じるのは、苑が一歩踏み出し、明渡も前よりもっと苑に寄り添っているからなのでしょうね。

この「星空のランタン」、有楽町にある実在のプラネタリウムで見ることができるそうです。(PLANETARIA TOKYOの「流れ星のランタン」)。
今度行ってみようかな。明渡と苑をますます身近に感じてしまいそうです。

10

これで、ようやく

「キス」の続編です。
というよりも、「キス」とこの「ラブ~キス2」が揃っての一つのお話です。
前作「キス」では、何とも曖昧なまま放り出されたように終わった二人のお話でしたが、この「ラブ」でも二人の物語は、やっぱり曖昧なまま、切れそうで切れない関係が続ている所から始まります。
お互いに好き合っているのは、第三者から見ればバレバレだし、明渡自身も「もう、好きで良くね」なのですが、苑が自分で自分の存在価値を認められないという、苑の心の有り様の頑なさのために、二人の関係は曖昧なままです。
そんな時に、苑のアパートのトラブルから、明渡は強引に苑を自分の家に連れ帰り同居生活を始めるのですが、、、、。

虐待の過去と向き合う事で、ようやく進みだす二人の関係。
読んで色々辛いものもありますが、「キス」を読んでモヤモヤが残った方にこそ、ぜひこの結末を味わってほしいです。

9

二人の出した答えに涙がとまりませんでした

「キス」続編になります。
読み終えた時、涙が止まりませんでした。

彼等の愛の形は、分かりやすく、また理解しやすいものでは無いんですよね。
でも、それこそが、彼等の愛なんだと思う。
たとえ、あの事故が起こらなかったとしても、結局はここにたどり着いたんだろうなぁと。

私は前作を読んだ時、ものすごくショックを受けたんですよね。
「愛」とは一体何なのかー。
心なのか、それとも脳の錯覚なのか的に。

もちろん、人が恋に落ちる時の脳の仕組みは解明されてるんですけど、それだけでは無い、二人の間だけに通じる「何か」特別なものが欲しいと夢見てしまう。

で、今回、その「何か特別なもの」を感じさせてくれる、とても深い続編。
一穂先生ですので、読者の期待どおりには事を運んじゃくれないんですよ。
三歩進んだら二歩戻りだし、また、読んでいて、とても痛い部分はあるんですよ。
それでも、いや、だからこそ、二人がたどり着いた結論に、もう涙が止まりませんでした。


内容としましては、「キス」続編で、再会してから一年後の二人になります。

頻繁に食事し、時折キスをする。
共にいても、曖昧なままの二人の関係。
そんな中、苑のマンションでのトラブルにより、一時的に明渡の部屋で二人は同居を始めます。
以前と同じ、明渡が当たり前に居る生活に、心の安らぎを覚える苑。
しかし、かつての自分を思い起こさせる少年が現れてー・・・と言う流れです。


(前作では)攻めである明渡に、もの申したい姐さんはたくさんおられると思うんですけど。
今回は続編と言う事で、その明渡の心情がクローズアップされています。
例の頭傷により目覚めた時の、苑への多幸感に溢れる愛しさ。
また、血腫を取り除いた後の、驚きの喪失感。
そして、その後の二年間ー。

これ、城戸との会話で、この時の心境を「魔法が解けた?」と聞かれるんですよね。
すると、明渡の答えが真逆なんですよ。
むしろ、「夢の中をさまよってる感じで苦しかった」なんですよね。
そう、明渡にとっては、血腫を取り除き正常に戻ってからの方が、混乱して苦しい毎日だった。

う~ん・・・。
何だかちっとも上手く言えないんですけど、この「出来事」と言うのは、二人にとっては必要な事だったのかなぁと思わせられるんですよ。
一旦、全てをリセットし、悩み苦しんだあとに、明渡の出した結論。
どうなろうと、結局は苑と一緒に居たいと言うのが素直な気持ちなんですよね。
じゃあ「もう、好きって事で良くね?」と。

苑はですね、自分に対する「好き」と言う感情自体が、錯覚だったと思ってるんですよね。
でも、実は、突発的な事故による錯覚の部分はあれど、元からちゃんと苑への「好き」と言う想いはあったんですよ。
スタートの時点があの事故では無く、もっと前から明渡の恋は始まっていたんだなぁと。
今回、このへんがしっかり語られ、なるほどねとニヤリとしちゃうんですけど。

で、共に暮らす事で、少しずつ少しずつ警戒を解いて行く苑。
しつこいですが一穂先生ですので、「明渡から真っ直ぐな思いを受け取り、苑が心を開いてハッピーエンド」とは行かないんですよ。

ここで現れるのが、近所に越してきたばかりの虐待を受けている少年。
明渡がその少年に心を配り、何かと面倒を見るんですよね。
すると、その少年に強い拒絶反応を見せる苑、と続きます。

これ、かなり辛いんですよ。
一見、苑の反応ってとても冷たく思えるんですよね。
でも読み進めるうちに、分かってくる苑の気持ちー。
誰だって、辛い過去を目の前に突き付けられて、平静でいられる人なんて居ないよなぁと。

またですね、ここで見せる明渡の反応に、苑を本当に大切に思ってるんだなぁとグッときちゃって。
今回、実は明渡のターンだと思うんですよ。
彼が、深く深く苑を思い、ひたすら真心を送り続けるんですよね。
隣で過ごしている時も、遠く離れた場所でも。
どうか、気持ちが届いて欲しいと願ってしまう・・・。

で、ここから怒涛のラスト。
明渡がトラブルに巻き込まれ、再び二人は離ればなれか!?と、続きます。
もう、明渡を無くすかも思った苑の出した結論に、涙が止まらないんですよ。
そして、二人で出した答えに、これまたボロボロ泣けてしまう。
ここにたどり着くために、これまでの全てはあったんじゃないかと。

私は前作のラスト、すごく一穂先生らしいと思ったんですよね。
あの終わり方こそが、余韻が残るとても素敵なものだと思ったんですよ。
そのままで完成していていいと思ってたんですよ。
でも、今作を読み終えた今は、この続刊を読めて本当に幸せだと思います。
魂が震えるって、こういう事だと思う。
こう言っちゃうと、とたんに薄っぺらくなっちゃうんですけど、でも「感動した」しか出て来ないです。

36

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